2022年5月18日2022年5月24日税務
【2021-2022年度】法人税関係税制改正のポイント
2021年12月10日(金)に令和4年度税制改正大綱が公表されました。例年行われる税制改正ですが、今回はどのような変化があったのか、かいつまんで知りたいという方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、2021(令和3年度)、2022(令和4年度)の法人税関係法令のポイントを解説します。令和4年度税制改正大綱は、賃上げ税制の拡充や中小企業に大きな影響を与える内容であるため、ぜひ参考にしてください。
目次
賃上げ税制(令和4年度見直し)
特に大きな変化があったものは「賃上げ税制」です。賃上げ税制とは、雇用者の給与引き上げや教育費の増加を行った企業に対して、一定の税額を控除するものです。ここでは、令和3年度における制度、令和4年度で見直された点について解説します。
令和3年度における制度
令和4年度の税制改正大綱では賃上げ税制の大幅な拡充があり、大企業で最大30%、中小企業で最大40%の法人税控除が受けられるようになりました。まずは、現行である令和3年度の制度から解説します。
【中小企業における所得拡大促進税制】
所得拡大促進税制とは、青色申告書を提出している中小企業が一定の要件を満たし、従業員の給与等支給額を増加した場合、その増加額の一部を法人税から控除できる制度のことです。
具体的には、雇用者の給与やボーナスが前年度と比べて1.5%以上増加できた場合、増加額の15%を法人税から控除できるようになります。また雇用者給与等支給額が2.5%以上を達成し、教育訓練費増加等の要件を満たせば、さらに10%控除(合計25%)できます。
【賃上げおよび投資の促進に係る税制】
新規雇用者の給与を2%以上増加させた企業に対し、新規雇用者給与等支給額の増加額から15%を税額控除する措置です。教育訓練費を増加させた企業は、税額控除率を5%上乗せできます。本制度は、企業の人材確保や人材育成の強化を促進するべく創立されました。
令和4年度の見直し概要【大企業・中堅企業】
賃上げ税制によって、大企業や中堅企業の法人税控除率は最大で30%となりました。適用されるのは青色申告書を提出している法人です。適用時期は、2022年度から2023年度末までに開始する事業年度となります。
大企業・中堅企業の控除率 | ||
---|---|---|
適用条件 | 控除率 | |
従業員給与の増加 | 前年度の3%以上 | 15% |
前年度の4%以上 | 25% | |
教育訓練費の増加 | 前年度の20%以上 | 5%上乗せ |
継続雇用の従業員に対し、給与・ボーナスの総額が前年度より3%以上増加した場合、その増加額の15%が法人税から差し引かれます。4%以上増えた場合は、控除率が25%まで拡大。
従業員の教育訓練費が20%以上増加した場合には、さらに5%上乗せされ、最大で30%の税額控除になります。しかし、控除上限は現行制度と変わらず、法人税額の20%と定められている点に注意が必要です。
また資本金10億円以上で、常時使用する従業員が1,000人以上の企業には適用条件が追加されます。具体的には、給与引き上げの方針や取引先との適切な関係構築の方針などをオンライン上で公表し、経済産業大臣に届け出なくてはいけません。
令和4年度の見直し概要【中小企業の場合】
中小企業の場合は、一定の要件を満たすことで最大40%の控除が適用されることになりました。同じく青色申告書を提出した法人が適用対象で、適用時期は2022年度から2023年度末までに開始する事業年度となります。
中小企業の控除率 | ||
---|---|---|
適用条件 | 控除率 | |
従業員給与の増加 | 前年度の1.5%以上 | 15% |
前年度の2.5%以上 | 30% | |
教育訓練費の増加 | 前年度の20%以上 | 10%上乗せ |
従業員給与の増加率が前年度2.5%以上の場合と、教育訓練費が増加した場合の控除率が大企業よりも優遇されていることが分かります。
オープンイノベーション促進税制(令和4年度見直し)
令和4年度の税制改正大綱で、オープンイノベーション促進税制が一部見直されました。オープンイノベーション促進税制とは、スタートアップ企業を支援する企業やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の株式取得価額にかかる税を一部控除する制度です。
令和4年度の見直しでは出資要件が緩和されたり、期限が延長されたりと、さらなる事業革新を推進するべく改正されています。ここでは、オープンイノベーション促進税制がどのような制度なのか、出資要件や見直された内容について紹介します。
制度の概要と対象法人・適用時期
オープンイノベーション促進税制とは、事業革新を推進する手段のひとつとして、スタートアップ企業を税制面から支援するべく創設された制度です。スタートアップ企業の新規発行株式を取得価額の25%控除する仕組みで、制度の対象となる法人や適用期間が定められています。
【制度の対象となる法人】
・青色申告書を提出する法人
・スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指している株式会社やその他類似する法人
・対象法人が主体となる(出資割合が過半数を有する)CVCなども対象
【適用期間】
令和2年4月1日~令和4年3月31日の間に行った出資
スタートアップ企業の要件
スタートアップ企業にもさまざまな要件が定められており、下記9つの条件を全て満たさなければいけません。
・株式会社
・設立10年未満
・未上場
・既に事業を開始している
・対象法人とのオープンイノベーションを行っている、または行う予定である
・ひとつの法人グループが株式の過半数を有していない
・法人以外の者(LPS、民法上の組合、個人等)が3分の1超の株式を有している
・風俗営業または性風俗関連特殊営業を営む会社でない
・暴力団員等が事業活動を支配する会社でない
国内法人だけでなく、外国法人も上記の条件を満たしていれば出資対象となります。
出資要件
オープンイノベーション促進税制の出資要件は、以下のように定められています。
・オープンイノベーションに向けた取り組みの⼀環で⾏われる出資
・資本金の増加を伴う現金での出資
・1件あたり1億円以上の出資(対象法人が中小企業である場合は1,000万円以上、スタートアップ企業が海外法人の場合は一律5億円以上)
・取得株式を5年以上保有することを予定している
・純出資等を目的とする出資ではない
なお、所得控除には上限額があり、1件あたり25億円です。1回の払込額のうち、100億円までは税制対象となります。
また1事業年度内では125億円までが控除対象で、同じ事業年度内の出資額の合計は500億円までです。1回の払込額が100億円を超える案件は100億円と見なして計算されます。
見直しの内容
令和4年度の税制改正大綱では、オープンイノベーション促進税制の拡充として以下のように見直されました。
・法人税控除の期間を2年間延長し、適用期限を令和6年3月31日までとする
・出資先企業の要件を一部緩和し、「設立後10年未満」から「15年未満」とする
・対象株式の保有期間を下限5年から3年に変更する
事業革新の拡充・向上を図るべく、条件が緩和にされたということです。
交際費の損金不算入制度(令和4年度の期限延長)
交際費等の損金不算入制度の適用期限は、2年間延長することとなりました。原則として、法人が支出する交際費は損金不算入とされていますが、以下2つの特例が設けられています。
1.中小法人が支出した交際費等のうち、定額控除限度額800万円まで損金算入ができる
2.資本金100億円以下の法人が支出した交際費のうち、接待飲食費の額の50%までを損金算入できる
なお上記2つの特例は選択適用となります。
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
地球温暖化や環境汚染が問題視され、世界各地で環境保全に対するさまざまな取り組みが行われています。日本でも民間企業による脱炭素化投資の加速を促すべく、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制が設立されました。以下で制度の概要や対象法人などを解説します。
制度の概要と対象法人・適用時期
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制は、設備投資に対して税額控除や特別償却といった措置が受けられる制度です。産業競争力強化法に定められている中長期環境適応計画に従って導入される以下の設備投資に対して税額控除(10%・5%)または特別償却(50%)が適用されます。
・脱炭素化を加速する製品の生産設備
・生産プロセスを大幅に省エネ化・脱炭素化するための設備
適用対象となる法人は、青色申告書を提出する認定エネルギー利用環境負荷低減事業適応事業者である法人です。令和6年3月31日までの間に上記適用対象設備を取得し、供した場合に適用されます。なお、税額控除や特別償却を受けるためには、確定申告書と共に明細書等を添付して申告しなくてはいけません。
認定要件と対象資産
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の税額控除および特別償却となるのは、以下の2つの設備です。
・大きな脱炭素化効果を持つ製品(需要開拓商品)を生産する設備
・生産プロセスを大幅に省エネ化・脱炭素化するための設備(生産工程効率化等設備)
需要開拓商品には、化合物パワー半導体や燃料電池、洋上⾵⼒発電設備の主要専⾨部品などが該当します。設備投資による効果以外にも、炭素生産性を3年以内に7%または10%以上向上する計画を作成し、認定を受けることで控除の対象となります。
優遇措置
需要開拓商品を生産するための設備投資に対し、設備投資額から50%相当額の特別償却、または10%の税額控除が受けられます。
生産工程効率化等設備においても、設備投資額から50%相当額の特別償却、または5%の税額控除が受けられます(炭素生産性を10%以上向上させる計画の場合は10%の控除)。
どちらも設備投資総額の上限は500億円までです。税額控除の上限は、DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制と合わせて、当期法人税額の20%と定められています。
デジタルトランスフォーメーション投資促進税制
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、IT技術を浸透させ、人々の生活をより良くしていく概念のことです。現在ではさまざまな業界や分野で、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みが推奨されています。ここでは、デジタルトランスフォーメーション投資促進税制がどのような制度なのかを解説します。
制度の概要と対象法人・適用時期
デジタルトランスフォーメーション投資促進税制とは、デジタル技術を活用した企業変革を進めるために創設された制度です。産業競争力強化法の事業適応計画に従って導入したソフトウェア等の投資について、税額控除または特別償却ができるようになります。
適用対象となる法人は、青色申告書を提出し、産業競争力強化法の認定事業適応事業者である法人です。適用期間である令和5年3月31日までの間に、対象設備の取得または製作をした日を含む事業年度に適用されます。
認定要件と対象資産
税額控除を受けるには、事業適応計画の認定要件を満たし、以下の要件について主務大臣から確認を受ける必要があります。
1.デジタル(D)要件
・他法人や事業者とのデータ連携、共有
・クラウド技術の活用
・情報処理推進機構が審査を行うDX認定の取得
2.企業変革(X)要件(ビジネスモデルの変革、アウトプット、全社戦略)
・製品の製造原価が8.8%以上削減される
・生産性向上や売上高の上昇の目標を定める
・投資総額が売上高比0.1%以上である
対象となる設備は以下の4つです。
・ソフトウェア
・繰延資産(クラウド技術を活用したシステムへの移行に係る初期費用)
・器具備品(ソフトウェアまたは繰延資産と連携して使用するもの)
・機械装置(上記に同じ)
優遇措置
対象設備を導入し、その取得価額に対しての優遇措置は以下の通りです。
・取得価額に対して3%(他社とのデータ連携に係るものは5%)
・取得価額に対して30%の特別償却
設備投資総額の上限は300億円、下限は売上高比0.1%です。税額控除の上限も定められており、カーボンニュートラルに向けた税制措置と合わせて当期法人税額の20%としています。
研究開発税制の見直しおよび延長
活発な研究開発を維持および支援する措置として、以下の2点が改正されます。
1.総額型および中小企業技術基盤強化税制の見直し
・研究開発投資を増加する企業について、2年間の時限措置と税額控除の上限が25%から最大30%まで引き上げる
・研究開発投資の増加インセンティブ強化のために、控除率カーブの見直しを行うとともに、控除率の下限を6%から2%に引き下げる
・令和3年4月1日〜令和5年3月31日までの期間に開始する各事業年度に適用
2.試験研究費の定義見直し
・研究開発税制の対象として、クラウド環境で提供するソフトウェアといった、自社利用ソフトウェアの製作に要した試験研究費が追加される
・令和3年4月1日以後に適用
中小企業支援
令和4年度の税制改正大綱では、中小企業への支援として各種改正がありました。法人税率の特例措置を2年延長、中小企業投資促進税制では指定事業の追加および延長、中小企業経営強化税制では適用対象資産の追加と延長などです。ここでは中小企業支援の税制改正について解説します。
中小企業者等の法人税率の軽減特例を2年延長
資本金1億円以下の中小法人で、年間800万円以下の所得に対して「軽減税率の特例15%」の適用期限が2年間延長されます。適用時期は、令和5年3月31日までに開始する事業年度です。
対象 | 本則税率 | 特例税率 | |
---|---|---|---|
資本金1億円以下の中小法人 | 年800万円超の所得金額 | 23.2% | – |
年800万円以下の所得金額 | 19% | 15% |
(参考:『令和3年度(2021年度)経済産業関係税制改正について』/経済産業省:
https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2021/zeisei_k/pdf/zeiseikaisei.pdf)
軽減税率の特例15%は期間が定められていますが、本則税率においては期間の定めはありません。
中小企業投資促進税制の見直しおよび延長
青色申告書を提出する中小事業者等が新品の機械および装置等を取得または製作し、国内の製造業や建設業など指定事業の用に供した場合に、30%の特別償却または7%の税額控除を認める制度です。本制度では以下のような改正があり、適用期限も令和5年3月31日までと2年間延長されました。
1.対象となる指定事業の追加
製造業・建設業・農業・小売業など多くの事業に加え、不動産や物品賃貸業、料亭・キャバレー・ナイトクラブなども追加
2.対象となる法人に商店街振興組合を追加
3.対象資産から、匿名組合契約等の目的である事業の用に供するものを除外
中小企業経営強化税制の見直しおよび延長
中小企業経営強化税制とは、新品の特定経営力向上設備等を取得した場合に、即時償却または10%(資本金3,000万円超1億円以下は7%)の税額控除ができる制度です。
対象となる法人は、青色申告書を提出する中小企業等経営強化法認定を受けた中小事業者等です。適用対象資産に経営資源集約化設備を追加し、適用期限も令和5年3月31日まで延長されます。
法人税対策はネイチャーグループへ
税率の計算は複雑である上に、税率改定も頻繁にあります。複雑な企業税務は、税理士のサポートを受けながら最新の情報を得ていくことが大切です。
ネイチャーグループ(税理士法人ネイチャー、株式会社ネイチャーウェルスマネジメント)は日本最大級のコンサルファームとして、国内外の実績年間2,000件、累計1万件を超える実績があります。
国際会計ネットワークグループTIAG(The International AccountingbGroup)に加盟しており、国際的な会計や税務サービスをご提供できます。英語をはじめとする外国語を身に付けたスタッフも在籍しているので、海外在住の方でも手厚くサポート可能です。各種申告書の作成・提出や節税のアドバイスなど、お困りのことがあれば何でもご相談ください。
まとめ
令和4年度の税制改正大綱では、法人税に関して各種税制改正が行われます。特に賃上げ税制の控除率は大幅に変化するため、注意しなくてはいけません。今回のように法人税の税制改正は頻繁にあり、税務処理で悩まれている方は多いのではないでしょうか。
ネイチャーグループ(税理士法人ネイチャー、株式会社ネイチャーウェルスマネジメント)では、国内外の税務・投資にまつわる相談・案件実績が豊富にあります。常に最新の情報をアップデートしながらノウハウを蓄積してきました。企業税務で悩まれている方は、お気軽にご相談ください。
ネイチャーグループは『富裕層の税金対策・資産運用相談』を
年間2,000件お答えしてる実績があります。
資産運用や税金対策は専門的な知識が必要で、「そもそも何をすればいいか分からない」方が多いと思います。
また、投資経験者の多くが不安や悩みを抱えているのも事実です。
そのような不安や悩みを解決するべく、経験豊富なコンサルタントがどんな相談内容にも丁寧にお答えします。
資産運用や税金対策についてお悩みなら、まず富裕層に熟知したネイチャーグループへご相談ください。
芦田ジェームズ 敏之
【代表プロフィール】
資産規模100億円を超えるクライアントの案件を数多く抱えてきた異彩を放つ経歴から、「富裕層を熟知した税理士」として多数メディアに取り上げられている。培った知識、経験、技量を活かし、富裕層のみならず幅広いお客様に税金対策・資産運用をご提案している。
また、Mastercard®️最上位クラスで、富裕層を多く抱えるクレジットカードLUXURY CARDの 「ラグジュアリーカード・オフィシャルアンバサダー」に就任。日米税理士ライセンス保有。東京大学EMP・英国国立オックスフォード大学ELP修了。紺綬褒章受章。
現在は代表税理士を務める傍ら、英国国立ウェールズ大学経営大学院に在学中(MBA取得予定)。
◇◆ネイチャーグループの強み◇◆
・〈富裕層〉×〈富裕層をめざす方〉向けの資産運用/税金対策専門ファーム
・日本最大規模の富裕層向けコンサルティング
・国際的な専門家ネットワークTIAG®を活用し国際案件も対応可能
・税理士法人ならではの中立な立場での資産運用