2022年11月11日2022年11月10日税務
2022年(令和4年度)の税制改正大綱とは?内容やポイントを解説
税制度は、景気の動向や社会情勢に合わせて定期的に見直しされています。2022年4月1日には、税制改正法案の内容をとりまとめた税制改正大綱が公示されました。「どのような内容なのか」「自身に影響があるのか」と、税制改正大綱の内容が気になっている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、2022年度版税制改正大綱の内容を紹介します。税制改正の対象範囲は広いため、自身に関わりのあるポイントを押さえておくことが大切です。個人と法人における税制改正のチェックポイントと改正までのスケジュールも併せて解説します。ぜひ参考にしてみてください。
税制改正大綱とは
税制は、経済や時代の流れに合わせて、仕組みや内容について毎年見直しされています。税制改正後新しい制度に対してスムーズに対応するためには、事前に税制改正大綱を確認し、税制改正の内容や動向を把握しておくことが大切です。ここでは、まず税制改正大綱の概要や確認方法といった基本情報を紹介します。
税制改正大綱の概要
税制改正大綱とは、与党の税制調査会が主軸となり、各省庁の要望をとりまとめて翌年度以降における税制改正の方針を記載したものです。今後の税制改正に関する現段階のアイデアを書面化したもので、これをベースとした税制改正法律案を国会に提出し、可決されると実際に施行となります。
税制改正大綱が作成されるのは、毎年12月です。12月になり税制改正大綱が発表されれば、翌年度以降実生活でどのような影響があるか、大まかな流れを把握できます。
2022年度の税制改正日
2022年度の税制改正大綱が発表された日は2021年12月10日です。12月24日に令和4年度予算案が閣議決定し、2022年4月1日に税制改正が施行されました。基本的な流れは毎年大きく変わることはありません。12月中に税制改正大綱が発表されると、翌年1~2月に国会審議、3月に新しい法律が制定されて4月に施行されます。
なお、2022年度は、新しい資本主義を目指す岸田政権にとって初めての税制改正となりました。「成長と分配の好循環」に重きを置いた内容となっており、税制改正によって賃上げへの実効性を高めています。
税制改正大綱の確認方法
税制改正大綱の内容は、財務省のホームページで確認できます。膨大な情報量となっているため、まず、自身と関わりのあるカテゴリーを探してから内容を確認するとよいでしょう。令和4年度の税制改正大綱に記載のあるカテゴリーは、以下の7つです。
・個人所得課税
・資産課税
・法人課税
・消費課税
・国際課税
・納税環境整備
・関税
例えば、資産課税のカテゴリーには、「贈与税の非課税措置」や「固定資産税等の負担調整措置」といった内容が記載されています。詳しく知りたい方は、財務省のホームページをご確認ください。
(参考: 『財務省 令和4年度税制改正の大綱(目次)』/
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2022/04taikou_mokuji.htm)
税制改正までのスケジュール
税制改正は半年から1年の歳月をかけて、年に一度のペースで実施されています。施行までの流れとスケジュールは以下の通りです。
時期 | スケジュール |
---|---|
8月頃 | 各省庁が要望書を提出する |
10月頃 | 税制調査会が議論する |
12月頃 | 与党税制調査会が議論・発表する |
2月頃 | 税制改正法案を国会に提出する |
3月頃 | 国会で税制改正法案を審議し、可決・成立する |
4月頃 | 改正した税制を導入する |
最初は各省庁が要望書を提出します。国税に関する内容は財務省、地方税に関する内容は総務省が担当となっており、要望書の内容も財務省などのホームページから閲覧可能です。
その後、要望書の内容にそって税制調査会や与党税制調査会が議論を重ね、ようやく税制改正大綱が作成されます。ただし、まだ法律が制定されたわけではありません。要望書の提出から法案の制定を経て、税制改正が実際に施行されるまでには、おおよそ8か月ほどかかります。
2022年度税制改正大綱の内容
今後の税制改正の予定を把握したいときは、税制改正大綱を確認しましょう。ここでは、2022年に発表された税制改正大綱の具体的な記載内容を、カテゴリーに分けて紹介します。ただし、税制改正大綱の情報量は膨大です。全ての政策内容を記載することは難しいため、記載内容の概要を簡略的に紹介します。
個人所得課税
個人所得課税とは、1月1日から12月31日までの1年間に個人が獲得した所得に対して課される税金です。個人所得税に分類される税金としては、所得税や住民税などがあります。2022年の税制改正大綱に記載された内容の概要は以下の通りです。
【税制改正大綱の内容】
・住宅ローン控除等の見直し
・子会社等からの配当に係る源泉所得税の廃止
・配当が総合課税とされる大口株主の範囲拡充
・上場株式等の配当所得割に係る課税方式の改正
・納税地の変更に関する届出書の見直し など
資産課税
資産課税は、資産を保有したり売却したり、譲渡を受けたりした際に発生する利益に課されます。代表的な税金は、不動産の固定資産税や他者から財産を譲り受けた際の贈与税、相続税などです。2022年の税制改正大綱には以下のような記載があります。
【税制改正大綱の内容】
・住宅取得等資金の贈与を受けた際の非課税措置
・土地に係る固定資産税等の負担調整措置
・相続税に係る死亡届の情報等の通知に関する見直し
・非上場株式等に係る納税猶予の特例制度
・財産債務調書制度等の見直し など
法人課税
法人課税とは、法人の事業活動において得た利益に対して課される税金です。益金から損金を差し引いた所得が課税の対象となります。普通法人における2022年現在の法人税率は、23.2%です。グローバル化の影響を受けて徐々に税率が引き下げられている中で、2022年の税制改正大綱には以下のような複数の要望が盛り込まれました。
【税制改正大綱の内容】
・人材確保等促進税制の見直し
・所得拡大促進税制の見直し
・税額控除制限措置の見直し
・みなし配当の計算方法の見直し
・少額資産の損金算入制度の貸付用資産を除外
・グループ通算制度の投資簿価修正の改正
・オープンイノベーション促進税制の拡充
・保険会社等の異常危険準備金制度の見直し
・環境負荷低減事業活動の促進措置
・グループ通算制度の投資簿価修正の改正
・事業税所得割の税率の見直し
・固定資産取得等に関する国庫補助金等の法令上明確化
・沖縄振興特別措置法の改正 など
消費課税
消費課税とは、物の売買やサービスのやり取りにかかる消費活動に課される税金です。酒税やたばこ税といった税金が該当します。また、消費税は間接税です。実際に税金を負担する人と、納税する人が異なるという特徴があります。
【税制改正大綱の内容】
・適格請求書等保存方式に係る見直し
・仕入明細書等による仕入税額控除の条件の見直し
・インボイス制度経過措置期間にかかる税率の調整
・沖縄振興特別措置法における石油石炭税の免税措置
・沖縄振興特別措置法における航空機燃料税の税率の特例措置
・外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し
・個人事業者における消費税の納税地に関する届出書の見直し
・仕入税額控除に関する適用要件の見直し
国際課税
国際課税とは、国際的な活動を営む企業や個人に課される税金を調整するための制度です。政府は、国と国との間で結んでいる租税条約の内容に合わせて、日本で納める税金の金額を見直しています。2022年の税制改正大綱では、以下のような提案がありました。
【税制改正大綱の内容】
・過大支払利子税制の見直し
・外国子会社合算税制の見直し
・租税回避を防止するための措置
・外国税額控除の見直し
・外国法人税額等の損金算入の対象となる範囲の明確化
納税環境整備
納税環境整備は、納税環境を整えるための制度です。例えば、書類のデジタル化を進めて紙の書類を削減したり書類への押印義務を撤廃したりと、納税にかかる手間を省くような行為が該当します。
【税制改正大綱の内容】
・税理士制度の見直し
・地方税務手続のデジタル化
・財産債務調書制度等の見直し
・電子帳簿保存法の電子取引の保存に関する制度の制定
・帳簿の提出がない場合の過少申告加算税等の加重措置
関税
関税とは、商品を国外から輸入する際に発生する税金です。輸出国にとっては税収入を確保すること、輸入国にとっては商品を安く仕入れることによる国内産業の衰退を回避することを目的としています。関税は、輸入者が商品を購入する国に対して納めるのが一般的です。ただし、場合によっては輸出者に課されることもあります。
【税制改正大綱の内容】
・暫定税率等の適用期限の延長
・個別品目の関税率の見直し
・海外の事業者から仕入れる模倣品の水際取締りの強化
・貨物運送用容器に係る免税手続の簡素化措置
法人に関する税制改正のチェックポイント
2022年4月1日に施行された税制改正は「成長と分配の好循環」が目標とされており、税制改正大綱にも積極的な賃上げに伴う要望が随所に記載されているのが特徴です。今回の税制改正における法人への影響は、比較的大きいといえます。ただし、税制改正大綱の情報量は膨大です。内容を把握しきれていない方も多いでしょう。
ここでは、法人が押さえておきたいチェックポイントを紹介します。重要なポイントを確認し、税制改正に関する理解を深めましょう。
積極的な賃上げ等を促すための措置
2022年度の税制改正では、積極的な賃上げ促進に関するさまざまな措置が施行されました。賃上げ措置は、大企業向けと中小企業向けに分けられているのが特徴です。
大企業では、従前は新規雇用者が対象でしたが、改正によって対象が継続雇用者に変更になりました。雇用継続者の給与が3%以上増えれば、増加額の15%を税額控除に充てられます。
また、改正前の中小企業では雇用者給与等支給額を1.5%以上アップさせた場合に増加額の15%の控除を受けられましたが、2.5%以上アップさせた場合は30%上乗せされることになりました。教育訓練費が前年度より10%以上増加した場合はさらに10%上乗せされて、最大40%の控除が受けられるようになります。
オープンイノベーション促進税制の拡充
オープンイノベーション税制とは、スタートアップをする企業への投資を加速させるための制度です。事業会社やCVCが新規発行株式を一定額以上購入する際に、対象株式の25%を課税所得から所得控除できます。控除上限額と出資要件は以下の通りです。
【控除上限額】
・1件あたり25億円以下
・対象法人1社の1年度あたり125億円以下
【出資要件】
・取得株式を3年以上保有する予定があること(2022年3月31日までの出資については5年)
・2024年3月31日までに購入すること
・資本金増加を伴う現金出資や純投資以外の投資方法であること
・大企業は1億円、中小企業は1,000万円以下であること(スタートアップ企業が海外法人の場合は一律5億円以上)
2022年の税制改正により、出資企業の要件が一部緩和され、「設立後10年未満」から「15年未満」へ変更となりました。また、株式の保有期間も5年から3年に短縮されています。
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存
電子取引帳簿保存法とは、国税に関する帳簿や書類を電子データで保管する際の法律です。2021年に制定され、本来は2022年の1月1日から施行する予定でした。しかし、2022年の税制改正により2年間の猶予期間が設けられています。
2023年12月31日までの取引は、書面による帳簿・書類で保存しても問題ありません。ただし、この措置が認められるのは、やむを得ない事情がある場合のみです。いずれにせよ2024年1月1日には全ての事業者に対して電子データ保存の義務が発生するため、早めに対策を立てましょう。
個人に関する税制改正のチェックポイント
税制改正大綱には実生活に結びつくような税制改正案も記載されています。税制改正後に慌てないためには、事前に内容を確認し、自身における影響を把握しておくことが大切です。
しかし、個人が記載内容の全てに目を通し、正確に内容を把握するのは難しいでしょう。ここでは、2022年度税制改正大綱から個人の生活に関わりのある税制度をピックアップし、制度内容や改正点を詳しく紹介します。
住宅借入金等特別控除
住宅借入金等特別控除とは、住宅ローンを組んで住宅を購入・増改築をする際に利用できる特別控除のことです。年末の借入残高に応じた一定割合を税額控除できます。
税額控除は、所得税を計算する際に求めた税額から直接差し引きできる控除です。例えば、所得税額が50万円で税額控除が5万円だった場合、「50万円-5万円=45万円」が最終的な税額となります。2022年の税制改正では、具体的に以下のような改正が実施されました。
・控除率を1%から0.7%に引き下げる
・適用期限を2025年まで4年延長する
・住宅の種類により借入限度額を変更する
・適用対象者の所得要件を3,000万円から2,000万円に引き下げる
・所得1,000万円以下の方は40㎡以上50㎡以下の住宅も控除可能にする
・住民税から控除する際の限度額を13.65万円から9.75万円に引き下げる
すでに住宅ローン控除を利用している方にとっては、大きな影響はありません。これから住宅の購入や増改築をする予定のある方にのみ、新しい制度が適用されます。
贈与税の非課税措置
贈与税とは、個人から1年の間に110万円を超える財産を受け取った際にかかる税金です。2022年の税制改正では住宅取得等資金にかかる贈与税に関する内容も見直しされました。変更点は以下の通りです。
・適用期限を2023年12月31日まで延長する
・受贈者の年齢要件を18歳以上に引き下げる
・非課税限度額を耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋は1,000万円、それ以外の住宅用家屋は500万円までとする
・既存住宅用家屋の要件に、築年数要件を廃止し新耐震基準に適合している住宅用家屋であることを加える
改正前は直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けると、最大1,500万円の控除を受けられましたが、改正後は最大1,000万円までに縮小されています。一方、中古住宅を購入する際における適用条件は廃止され、贈与を受けやすくなりました。
配当所得の課税方法
配当所得とは、株式の保有に伴う配当金や投資信託による分配金を得た際の所得に対して発生する税金です。今回の税制改正によって、2024年度以降の上場株式等の配当所得において、所得税と住民税の課税方式を統一することに決定しました。課税方法と税率は以下のように分類されています。
申告分離課税の場合 | 総合課税の場合 | |
---|---|---|
所得税 | 15% | 5~45% |
住民税 | 5% | 10% |
別々の課税方法を選択するメリットは、公的保険の保険料が軽減される点です。所得税を総合課税で申告し、住民税を申告不要の分離課税にすることで、税率の差を利用し公的保険の保険料が軽減できました。しかし、課税方法が統一されることで節税の恩恵を受けられなくなります。
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税制改正大綱に記載されている情報量は多く、専門用語が使用されているため読解に難しさを感じる方もいるかもしれません。しかし、内容が難しいからと確認しないでいると、自身に関係のある制度も見逃してしまう恐れがあります。
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まとめ
税制改正大綱は毎年12月に発表され、国会で可決されれば翌年4月頃に施行されます。新しい制度に対しスムーズに対応するためには、税制改正が実行されるまでに税制改正の内容を把握しておくことが大切です。税制改正大綱は財務省のホームページから確認できます。
また、税制改正大綱の内容把握に難しさを感じる方や、税務に関するお悩みをお持ちの方は税理士に直接相談するのも方法のひとつです。ネイチャーグループ(税理士法人ネイチャー、株式会社ネイチャーウェルスマネジメント)では、豊富な知識と経験を持つ税理士が、お客様のお悩みに合わせて最適なコンサルティングを実施いたします。
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また、Mastercard®️最上位クラスで、富裕層を多く抱えるクレジットカードLUXURY CARDの 「ラグジュアリーカード・オフィシャルアンバサダー」に就任。日米税理士ライセンス保有。東京大学EMP・英国国立オックスフォード大学ELP修了。紺綬褒章受章。
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