法人税は税制をうまく活用することで節税できます。多くの税額軽減制度は法人の資本金が一定の金額より少ない場合に適用でき、その境目は「1,000万円」「3,000万円」「1億円」の3つです。では、それぞれでどのような節税が可能なのか、深く知りたいという方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、それぞれの境目で利用できる税額軽減制度の代表例をまとめました。前半は資本金1,000万円以下のケースを、中半から後半は3,000万円以下、1億円以下のケースを紹介します。
資本金1,000万円から1億円まで法人税が変わる3つの境目
法人は資本金額に応じた税額軽減制度を適用でき、法人税などが変わります。資本金1,000万円、3,000万円、1億円の3つの境目において適用できる税額軽減制度の例は次の通りです。
(1)資本金1,000万円以下または1,000万円未満の法人
・法人住民税の均等割が安い(1,000万円以下)
・会社設立時の消費税免除(1,000万円未満)
(2)資本金3,000万円以下の法人
・機械等を購入時に、法人税の税額控除を受けられる
(3)資本金1億円以下の法人
・法人税に軽減税率を適用できる
・交際費を800万円まで損金にできる
・法人事業税の外形標準課税が免除
・法人住民税の均等割が安い
・30万円未満の少額減価償却資産が年間300万円まで損金にできる
・特定同族会社の留保金課税が免除
・欠損金の繰戻還付を受けられる
資本金1,000万円以下で法人住民税を節税できる
法人は、事業所の所在地にある地方自治体から行政サービスを享受しています。このために課される税金が法人住民税です。
資本金1,000万円以下の法人はこの法人住民税の「均等割」と呼ばれる税金が、資本金1,000万円を超える法人より少なくなっています。
法人住民税のしくみ
法人住民税は法人の事業所がある地方自治体に納める税金です。法人住民税は「均等割」と「法人税割」から構成されます。それぞれ都道府県に納める「都道府県民税」と、市町村に納める「市町村民税」とがあります。
「均等割」は法人の資本金や従業員数に応じて定められており、定額です。赤字であっても負担しなければなりません。
一方の「法人税割」は、法人税額に住民税率を乗じて算出されます。法人税を多く納めているほど(業績が良いほど)納税額も多くなるしくみです。赤字で法人税を納めていない事業年度は納税不要です。
法人住民税の均等割が安い
均等割額は地方自治体ごとに定められています。標準は下表の通りです。
資本金等の額 | 均等割額 | |
---|---|---|
事業所の従業者数 50人以下 | 事業所の従業者数 50人超 | |
1,000万円以下 | 7万円 | 14万円 |
1,000万円超1億円以下 | 18万円 | 20万円 |
1億円超10億円以下 | 29万円 | 53万円 |
10億円超50億円以下 | 95万円 | 229万円 |
50億円超 | 121万円 | 380万円 |
注) 金額は都道府県民税均等割と市町村民税均等割を合算しています
「資本金1,000万円以下の事業所」は「資本金1,000万円超1億円以下の事業所」より6~11万円安いことが分かります。
会社設立時に資本金1,000万円未満で消費税免除
法人は原則、前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超える場合、消費税を納税しなければなりません。新設法人は前々事業年度がないので資本金の額で判定することになっています。ここでは会社設立時に消費税が免除になる条件を解説します。
会社設立後1期目の消費税免税条件
会社設立時の資本金が1,000万円未満ならば最初の事業年度(1期目)の消費税は免除されます。
売上高より設立のために要した仕入高が多い場合、受け取った消費税より納めた消費税のほうが多くなることもあるでしょう。しかし、消費税を免除されていると消費税の還付を受けらません。
このような場合は、開始年度の末日までに「消費税課税事業者選択届出書」を所轄税務署に提出すれば、開始年度から課税事業者の扱いに変更できます。ただし、いったん課税事業者になると制約があるので注意が必要です。
会社設立後2期目の消費税免税条件
会社設立時の資本金が1,000万円未満ならば、以下のいずれかの条件を満たすことで2年目も引き続き消費税が免除されます。
・設立から6か月間の課税売上高が1,000万円以下
・設立から6か月間の従業員に支払った給与の合計が1,000万円以下
ただし、2期目の開始日における資本金が1,000万円以上ならば課税事業者になり、消費税の免税は受けられません。
資本金3,000万円以下で機械等を購入時に法人税の税額控除
資本金3,000万円以下の中小企業が特定の機械や装置などを取得して事業に使用した場合、「中小企業投資促進税制」による7%の税額控除を適用できます。
なお、資本金3,000万円超1億円以下の中小企業が上記の条件を満たした際には30%の特別償却が適用可能です。資本金3,000万円以下であれば、特別償却または税額控除のいずれかを選択できます。
資本金1億円以下で法人税を軽減できる制度や特例
資本金が1億円以下の中小企業は、軽減税率の適用や所得控除、免税などさまざまの制度や特例を受けられます。それぞれを把握して活用すれば税額軽減が可能です。ここでは資本金1億円以下の法人に適用できる制度や特例を7つ紹介します。
法人税に軽減税率を適用できる制度や特例
2021年時点の法人税率は23.2%です。ただし、資本金1億円以下の法人は軽減税率が適用されるので、年800万円以下の所得に対して15%の税率で計算します。
軽減税率を適用した「資本金1億円以下の法人」と、一律23.2%の「資本金1億円超の法人」を比べると、以下のように「資本金1億円以下の法人」が65万6,000円もお得です。
【資本金1億円以下の法人が所得1,000万円を得た場合の法人税】
・(800万円×15%)+(200万円×23.2%)=166万4,000円
【資本金1億円超の法人が所得1,000万円を得た場合の法人税】
・1,000万円×23.2%=232万円
【差額】
・232万円-166万4,000円=65万6,000円
交際費を800万円まで損金にできる
交際費は原則、損金不算入(税法上、費用として認められない)です。ただし、資本金1億円以下の法人は交際費800万円まで損金にできます。資本金別に交際費の扱いをまとめると次の通りです。
法人の資本金 | 交際費の扱い |
---|---|
1億円以下 | 次の1、2のいずれかを選択可 1.交際費800万円まで損金算入 2. 接待飲食費に限り50%まで損金算入 |
1億円超100億円以下 | 接待飲食費に限り50%まで損金算入 |
100億円超 | 交際費は全額損金不算入 |
法人事業税の外形標準課税が免除
資本金1億円以下の法人は外形標準課税の対象外です。外形標準課税とは資本金1億円超の法人を対象にした、従業員数、床面積などに応じて課税する法人事業税のことです。
外形標準課税適用法人の場合、法人事業税の2分の1を「所得割」で徴収し、残りを「付加価値割」「資本割」といった外形に基づき徴収します。資本金1億円以下の法人であれば「所得割」のみが課されます。
法人住民税の均等割が安い
資本金1億円超10億円以下の場合、法人住民税の均等割額は下表の通りです。
資本金等の額 | 事業所の従業者数/均等割額 | |
---|---|---|
50人以下 | 50人超 | |
1,000万円超1億円以下 | 18万円 | 20万円 |
1億円超10億円以下 | 29万円 | 53万円 |
1,000万円超1億円以下の法人は、1億円超より従業者50人以下の場合11万円、従業者50人超の場合33万円安くなっています。均等割は事業所ごとに納税する必要があるため、各地に事業所があれば納める負担も大きくなります。
30万円未満の少額減価償却資産を年間300万円まで損金にできる
以下の条件に当てはまる資本金1億円以下の法人が30万円未満の少額減価償却資産を取得した場合、300万円まで損金として計上できます。この制度は令和4年3月31日までに資産を取得して事業に使用した場合に適用されます。
・青色申告法人
・常時使用する従業員が500人以下
・連結法人ではないこと
・適用除外事業者(過去3年間の平均所得が15億円超の事業者)ではないこと
特定同族会社の留保金課税が免除
親族などが株式の過半数を所有する特定同族会社が、一定限度額を超えて所得を留保した場合に、通常の法人税に加えて課税留保金額に10~20%を乗じた税が課されます。これを留保金課税と呼んでいます。
しかし、特定同族会社の資本金が1億円以下の場合、留保金課税は免除されます(資本金5億円以上の100%子会社の場合を除く)。
欠損金の繰戻還付を受けられる
資本金1億円以下の中小企業は、欠損金の繰戻還付を活用できます。この制度は、当期が赤字の場合に、前期が黒字であれば「当期の赤字」と「前期の黒字」を相殺して前期に納めた法人税の還付を受けられるしくみです。
一方「欠損金の繰越控除」という制度があります。これは過去10年以内に発生した繰越欠損金を当期の所得から控除できるしくみです。つまり当期の法人税の軽減に活用できます。
ただし、資本金1億円以下の法人は当期所得の全額を控除可能ですが、資本金1億円を超える法人は当期所得の半分までしか控除を認められていません。
会社設立時の登録免許税も資本金により異なる
会社を設立するときには原則、登録免許税が必要です。登録免許税の額は株式会社の場合、資本金の0.7%と決められています。算出した額が15万円に満たないときは15万円です(合同会社は6万円)。
資本金が2,140万円を超えると15万円より高くなります。たとえば資本金1億円の会社を設立する場合の登録事業税は、1億円×0.7%=70万円です。
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法人経営をする上で法人税の節税は重要です。毎年度ごとに改正されている制度を活用することで税額を軽減できます。しかし、活用効果の予想や利用の手続きは難しいことが多く、手間もかかるため、税制に精通している税理士に任せるのもひとつの方法です。
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まとめ
資本金1億円以下の法人は、資本金が一定額より少ない場合に適用できる税制を活用することで法人税を節税できます。一定額とは「1,000万円」「3,000万円」「1億円」の3段階です。資本金がこれらの境目より少ない場合に適用可能な制度・特例を活用することで税額を軽減できるでしょう。
ただ、実務上の手続きは専門知識を要することもあります。法人税関連の節税や税制活用でお悩みの際は、ぜひネイチャーグループ(税理士法人ネイチャー、株式会社ネイチャーウェルスマネジメント)にご相談ください。
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