資産管理会社は、自分の財産を自分で管理するための会社です。個人で資産を保有するよりも税制面でメリットが大きいことから、資産家や投資家の間で税金対策として利用されています。数々のメリットを享受するために、資産管理会社の設立を検討中の方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、資産管理会社を設立する具体的なメリットを紹介します。設立の流れや設立時期を見極めるポイントも併せて解説するため、資産管理にお困りの方はぜひ参考にしてみてください。
資産管理会社とは?役割や概要を分かりやすく
資産管理会社とはどのような会社か詳しく分からない方もいるでしょう。資産管理会社設立に伴うメリットを最大限に享受するには、資産管理会社の基本情報を確認することが大切です。ここでは、資産管理会社の概要や設立に適したケースを紹介します。
資産管理会社の概要
資産管理会社とは、自分の資産を自分で管理することを目的として設立する会社です。他者を雇って営利活動を営むことはありません。ほとんど全てを自分で管理するため、プライベートカンパニーと呼ばれることもあります。
個人で資産管理するよりも税制面の優遇制度が多く、節税効果を期待できるのがメリットです。資産の多い方や投資家の間では、資産管理会社を設立し、税金対策をする方が増えています。
資産管理会社の設立に適したケース
資産管理会社を設立する利点は、法人の税制度を適用できるため、個人で資産管理するよりも納める税金が少なく済むことです。資産管理会社の設立に適しているケースは以下の通りです。
・副業や資産運用をしている会社員
・個人投資家
・相続税が発生する資産家
・経営者
資産管理会社を設立するのは、デメリット以上のメリットを期待できる多額の資産を持っている方がほとんどです。会社を設立するとさまざまな費用がかかりますが、「資産〇億円以上」といった厳密なルールはありません。そのため、副業や投資をしている会社員が設立するケースもあります。
【ケース別】資産管理会社を設立する12のメリット
資産管理会社を設立すると、さまざまな効果が期待できます。ここでは、「会社員」「投資家」「資産家」「経営者」の4つのケースに分けて12のメリットを詳しく紹介します。自身のケースではどのようなメリットが享受できるのか、確認しましょう。
【会社員】税負担が軽くなる
会社員で資産管理会社の設立を検討する事例には、副業や投資により財産の種類が複数に及ぶケースが考えられます。ただし、副業禁止の企業も多いため、現状は不動産投資事業を営む方がほとんどでしょう。不動産投資による所得は「不動産所得」に区分されるのが一般的で、総合課税として所得税が課されます。
所得税は所得が増えるほど税率も高くなる「超過累進課税」が採用されています。一方、法人の利益にかかる法人税は、所得の大小にかかわらず一律の税率です。そのため、所得が多い方は法人化したほうが、税負担が軽くなります。
【会社員】家族で所得を分散できる
資産管理会社から家族に役員報酬として給与を支払うことで、所得税を減らせるのもメリットのひとつです。家族で所得を分散すれば1人当たりの税率が低くなるため、世帯収入は変えずに税額だけ削減できます。
例えば、1人で2,000万円の所得がある場合、所得税額は520万4,000円です。一方、1人500万円ずつ家族4人に分散すれば、世帯全体の総所得税額は229万で、約291万円も節税できます。
【会社員】支出を経費に計上できる
事業を営む際は、対象となる費用の経費計上が可能です。個人でも経費計上は認められていますが、法人ほど自由度は高くありません。法人は個人に比べて経費にできる対象範囲が広く、法人が経費にできる支出の一例は以下の通りです。
・役員報酬
・退職金
・会社で加入した生命保険
・法人名義の社宅
・自身に支払う給与
経費が増えれば課税対象となる所得が減るため、所得税の節税効果が期待できます。特に不動産投資事業では、利益を得るために支払った費用のほぼ全てを経費として計上可能です。不動産投資のような初期費用のかかる事業を営む方は、資産管理会社の設立を検討するとよいでしょう。
【投資家】損益通算できる範囲が広がる
法人化することで、個人より損益通算できる範囲が広がるため、投資家や経営者にとって大きなメリットとなります。損益通算とは、黒字所得から赤字所得の金額を控除できる制度です。黒字所得が減ることで、所得税額を削減できます。
例えば、「Aの株式」で得た利益を150万円、「Bの株式」による損失を100万円と仮定しましょう。通常であれば、課税対象となるのはAの株式で得た150万円です。しかし、損益通算することで、利益を「150万円-100万円=50万円」に減額できます。
【投資家】減価償却を任意で決められる
減価償却とは、固定資産を取得する際にかかった費用を耐用年数に応じて分割し、その費用を経費に計上する会計方法です。資産管理会社を設立すれば、減価償却の制度を適用するかどうかを任意で決められます。減価償却を選択しないメリットは、5年以内に不動産を売却する際に譲渡税が安く済むことです。
個人の場合は強制的に減価償却となるため、売却した利益が大きくなり、さらに法人よりも高い税率がかかります。短期間での不動産投資を予定している方は、資産管理会社を通した運用が適しているでしょう。
【投資家】個人と法人両方で株主優待が受けられる
個人と法人の両方で株式を購入すれば、株主優待の特典を両方で受けられます。株主優待とは、企業の株式を保有することで得られる優遇制度です。具体的には以下のような特典があります。
・各種サービスの割引
・買い物時のキャッシュバック
・商品券贈呈
・食事優待券贈呈
・自社商品のプレゼント
個人で2,000株購入しても同じサービスは1度しか受けられません。一方、個人で1,000株、法人で1,000株と分散して購入した場合、個人と法人両方で株主優待を得られます。
【資産家】相続税の節税につながる
資産家にとっては、相続税の節税を期待できることがメリットです。資産管理会社を設立すれば、家族に給与として資産を渡せます。通常、年間110万円を越えた額を贈与すると贈与税が発生しますが、法人からの給与は原則贈与税の対象になりません。
また、生前に資産を家族に渡しておくことで相続財産を減らせるため、相続税対策にも有効です。相続税は、相続財産のうち基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を越えた額にかかります。相続財産が減れば、相続税の削減が可能です。
【資産家】遺産相続によるトラブルの種が減る
遺産相続によるトラブルの種を減らせるのもメリットのひとつです。特に相続財産に不動産が含まれる場合、分割が難しく相続争いの火種になりやすいといわれています。
不動産による資産が多い方は、資産管理会社に不動産の所有権を移しましょう。相続の際には資産管理会社の株式を分割するだけで済むため、分割割合に関する不公平感が減ります。また、不動産の分割による複雑な相続手続きがなくなり、簡略化できるのもメリットです。
【経営者】繰越控除できる年数が長くなる
繰越控除により、投資や事業で出た損失を翌年以降に繰越できます。繰越控除できる年数は個人が最長3年間、法人は最長10年間です。繰越控除できる期間が長くなると、控除を無駄にせずに使いきれるというメリットがあります。
例えば、今年度の赤字が1,000万円、翌年度以降の黒字が年間200万円のケースを例に挙げましょう。個人は3年間で600万円分しか控除できませんが、法人は1,000万円全てを控除できます。また、初期費用はかかるものの、将来的に大きな黒字が見込まれる分野においても繰越控除の期間が長いのはメリットです。
【経営者】スムーズに事業承継できる
相続税対策として自社株を親族に相続させると、場合によっては会社の経営に支障が出る恐れがあります。事業承継が難しくなる事例は以下の通りです。
・自社株を保有する親族同士で意見が対立する場合
・上場後、親族が他人に株式を売却した場合
・子どもの配偶者に自社株が渡ってしまう場合
資産管理会社であれば無議決権株式を発行できるため、このようなトラブルを回避できます。無議決権株式とは、株主総会における決議権を持たない株式です。後継者のみが普通株式を持ち、他の親族は無議決権株式を持つようにすれば、スムーズに事業承継できるでしょう。
【経営者】配当金にかかる税金を節税できる
配当金にかかる税金を節税できるのもメリットのひとつです。通常、上場株式の持ち株割合が3%以上になると、配当金の申告分離課税が選択できなくなり総合課税となります。総合課税の最高税率は約55%です。
一方、法人が配当金を受け取る場合、法人税率として約30%程度の税率しかかかりません。さらに株式の保有割合に応じた非課税制度を利用できるため、実際の税率はもっと低くなります。
【経営者】厚生年金に加入できる
資産管理会社を設立することで厚生年金に加入できるのは、個人事業主にとって大きなメリットです。国民年金は20歳から60歳までの全ての国民が加入する保険で、厚生労働省が令和元年度に実施した調査によると、平均受給額は月5万円程度です。
一方、厚生年金は国民年金の二階建て部分で、保険料を納めることで将来の年金受給額を増額できます。ただし、厚生年金は会社と本人が労使折半で保険料を支払うシステムであるため、会社負担分が増える点には注意しましょう。
(参考: 『令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況|厚生労働省』/https://www.mhlw.go.jp/content/000706195.pdf)
手順で解説!資産管理会社設立の流れ
資産管理会社の設立には多くのメリットがたくさんあります。会社設立について、前向きに検討している方も多いでしょう。
実際に会社設立をすることになった際は、事前に流れや手順を確認しておくことが大切です。設立方法や必要書類などを詳しくご紹介します。
基本情報を決める
まずは会社に関する基本的な情報を決めておきましょう。会社を設立するにあたり決めておく内容は、以下の通りです。
基本情報 | 内容や注意点 |
---|---|
社名 | ・「株式会社」「合同会社」といった法人の種類と会社名 ・商標登録されている会社名や行政官庁、金融機関の名前は原則使用不可 |
本店所在地 | ・自宅を指定する方が多い ・法的な制限はないため、事業所の所在地でも可 |
出資者 | ・基本的には本人。家族から出資を募る場合、その方の名前も登録可能 ・ただし、家族に役員報酬を支払うケースでは、必ずしも家族を出資者に設定する必要はない |
資本金の額 | ・1円以上の金額で設定 ・営利活動を営む法人ではないため、一般的に多額の資本金は必要ない |
決算月 | ・自由に設定可能 ・ただし、税理士や公認会計士といった専門家への相談を考えている方は、繁忙期である1月~3月を避けるのが無難 |
必要書類を集める
基本情報が決定したら、会社設立の申請に向けて書類を集めます。会社設立に必要な書類は以下の通りです。
必要書類 | 内容や注意点 |
---|---|
印鑑 | ・代表者印・社印・銀行員の3種類 ・代表者印は会社の実印として法務局への登録が必要 |
定款 | ・会社の基本ルールを定めた定款を作成 ・不動産経営を予定している場合、その旨も記載 ・株式会社を設立した際は、公証役場で承認を得る必要がある |
法人設立届出書 | ・開業後2か月以内に提出 ・青色申告控除や繰越控除を利用する場合、「青色申告承認申請書」も提出 |
就任承諾書 | ・会社設立後、役員になることを承諾したと証明する書類 ・役員になる予定の方全員の承諾書が必要 ・役員を配置しないのであれば不要 |
資本金・設立費用 | ・資本金は法人用の銀行口座に預け入れ、通帳のコピーを取り、設立登記と一緒に法務局に提出 ・設立費用は20万円~25万円程度が一般的 |
登記書類 | ・法務局で登記申請をするときに使用する書類 ・法務局のサイトからダウンロード可能 |
他にも、使用する制度によっては別途書類が必要となる場合があります。ケースによって必要書類は異なるため、詳しくは国税庁のホームページをご確認ください。
(参考: 『商業・法人登記の申請書様式|法務局』/以下のリンクを挿入してください:https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html)
(参考: 『法人を設立したとき|国税庁』/https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/07_3.htm)
役所に提出する
必要書類がそろったら、各所に提出します。それぞれ管轄が異なるため、同じ場所に全ての書類をまとめて提出しないよう注意しましょう。届出先は以下の通りです。
提出先 | 書類 |
---|---|
法務局 | 設立登記 |
税務署 | 法人設立届出書、青色申告承認申請 |
都道府県税事務所・市区町村役場 | 法人設立届出書 |
資産管理会社設立時期の見極め方と注意点
資産管理会社の設立を検討する判断基準は、個人にかかる所得税率が法人税率を超えるときです。ここでは、タイミングの見極め方について詳しく解説します。自身の所得と比較しながら、最適なタイミングで法人化しましょう。
課税所得が900万円を超えたときがベスト
所得税は、所得が増えるにつれて税率も上がりますが、法人税率は一律です。所得金額が一定の額を超えると所得税より法人税のほうが安くなるため、資産管理会社を設立するタイミングに適しています。
税率が逆転するのは所得が900万円になり、税率が23%から33%になったときです。所得税率は課税所得金額が4,000万円まで上がり続け、最高税率は45%にも及びます。一方、法人税率は所得が4,000万円でも一律23.20%(実効税率は約33%)しかかかりません。
所得が900万円に満たない場合でも、所得の種類が多く相続が困難になりそうなケースや法人特有の優遇制度を使用したい方は、法人化するメリットがあります。所得金額はあくまで目安とし、個人のケースに合わせて法人化を検討しましょう。
会社を設立できないケースに注意
資産管理会社を設立したくてもできないケースがあります。法人化できないのは、期日までに税金を納付できない場合です。
資産管理会社を設立すると株式を売却することになりますが、この際、売却益に対して発生した税金の納付義務が生じます。納付期限は実行した年の翌年3月15日で、会社を設立したタイミングによっては納付期限までが短く、資金を用意するのが困難です。
資産管理会社を設立する際は事前にしっかりと資金計画を立てて、いざというときに資金繰りに困ることがないよう余剰資金にも余裕を持たせておきましょう。
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まとめ
資産管理会社は資本金が1円以上あれば誰でも設立可能です。上手に活用することで、節税効果や相続税対策といった大きなメリットを期待できます。ただし、会社設立や節税制度の事務手続きは複雑で、個人による管理に難しさを感じる方も少なくありません。
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