「業績が伸びたため、期の途中で役員報酬を増額した」
「役員賞与を届出とは異なる日に支給した」
このような場合、役員報酬の一部または全部が損金不算入となる可能性があります。
役員報酬は会計上、費用に計上していても、税法上の要件を満たさなければ損金に算入できません。また、損金不算入となる金額や期間はケースによって異なるので注意が必要です。
この記事では、役員報酬が損金不算入となる5つのケースを取り上げます。ケースごとの計算方法に加え、法人・役員個人への影響や、判明した時点に応じた対応も解説します。
役員報酬は損金不算入になる?
役員報酬は、税法上の要件を満たせば損金に算入できます。ただし、定期同額給与などの要件を満たさない場合や、不相当に高額な部分がある場合は、一部または全部が損金不算入となります。
役員報酬とは、法人の取締役や監査役などの役員に対して支払われる給料や賞与のことです。一般の従業員に対する給与は原則として全額が経費(損金)になりますが、役員報酬は役員自身が金額を決定できる立場にあるため、会社の利益を恣意的に操作する(利益調整・租税回避)ことを防ぐ目的で、税法上、損金に算入するための厳格な要件が定められています。
これらの要件から外れた場合、支払った役員報酬の一部または全部が損金不算入となるため、まずは損金不算入が生じやすい主な5つのケースを確認します。
| 該当ケース | 損金不算入になる範囲 | 主な確認資料 |
| 期中増額 | 増額部分などが損金不算入となる場合がある | 株主総会議事録、給与台帳 |
| 期中減額 | 減額前後の差額などが損金不算入となる場合がある | 議事録、月次試算表、資金繰り表 |
| 役員賞与 | 届出内容と異なる場合、損金不算入となる場合がある | 届出書の控え、給与台帳、振込記録 |
| 過大役員給与 | 不相当に高額と認められる部分 | 職務内容資料、収益資料、従業員給与 |
| 定期同額給与等に該当しない給与 | 原則として対象となる給与の額 | 支給決議の資料、会計帳簿 |
役員給与を損金に算入するには、原則として「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに該当しなくてはなりません。
定期同額給与には、支給額や改定時期などの要件があります。事前確定届出給与は、所定の時期に確定額を支給する旨を定め、原則として期限までに税務署へ届け出なくてはなりません。業績連動給与にも、対象法人や算定方法などの要件があります。
登記上は役員でなくても、法人税法上の役員に該当する場合があります。肩書だけでなく、経営への関与など実態の確認が必要です。
役員報酬が損金不算入になる5つのケース
役員報酬が損金不算入となっても、年間の役員報酬全額が対象になるとは限りません。改定前後の金額や対象期間などを確認し、ケースごとに判定します。
- 期中増額
- 期中減額
- 役員賞与
- 過大役員給与
- 定期同額給与等に該当しない給与
ケース1. 期中増額
定期同額給与の要件を満たさない期中増額では、改定前の月額を上回って支給した部分が、原則として損金不算入の対象となります。
たとえば、月額50万円から70万円へ増額し、増額後の対象期間が2か月だった場合を考えます。増額部分は月20万円なので、損金不算入額は「20万円 × 2か月 = 40万円」です。
ただし、同じ事業年度に複数回の改定がある場合や役員の地位・職務の変更に伴う増額などは取扱いが異なる場合があります。議事録などから改定時期と理由を確認する必要があります。
ケース2. 期中減額
正当な改定理由に該当しない期中減額では、改定後も継続して支給する月額を上回る部分が、原則として損金不算入となります。増額とは計算対象となる期間が異なる点に注意が必要です。
たとえば、月額50万円から40万円へ減額し、減額前の対象期間が9か月だったとします。差額は月10万円のため、「10万円 × 9か月 = 90万円」が損金不算入額です。
経営状況の著しい悪化などによる減額は、要件を満たせば定期同額給与として認められる場合があります。
変更できる時期や手続きの詳細は、こちらをご覧ください。
ケース3. 役員賞与
役員賞与を損金に算入する方法の一つが、事前確定届出給与です。届出書に記載した支給時期や支給額と実際の支給内容が一致しているかを確認する必要があります。
事前確定届出給与は、届出書に記載した「支給日」と「支給額」の双方が完全に一致していることが損金算入の厳格な要件とされています。仮に業績悪化などを理由に支給額を減額した場合や資金繰りの都合で支給日をずらした場合、単に届出額との差額だけでなく、その回に支給した額の全額が損金不算入となる点に注意が必要です。
さらに、年2回支給など同一の職務執行期間に複数回の支給を定めているケースでは、1回の支給ミスが他の支給分の損金算入判定にも波及する可能性があるため、届出書と実際の支給実績を厳密に照合して検証する必要があります。
ケース4. 過大役員給与
役員給与のうち、不相当に高額と認められる部分は損金に算入できません。判定では、形式基準と実質基準の両方を確認します。
形式基準では、定款や株主総会などで定めた支給限度額を超えていないか、実質基準では、役員の職務内容や会社の収益、使用人への給与、同種・類似規模の法人における役員給与などを踏まえて判断します。
役員給与の適正額に一律の金額基準はありません。職務内容や報酬を決定した根拠を確認できる資料を残しておくことが重要です。
ケース5. 定期同額給与等に該当しない給与
定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれにも該当しない役員給与は、原則として損金に算入できません。
たとえば、事前確定届出給与の要件を満たさずに支給した役員賞与などが該当します。
なお、法人が事実を隠蔽・仮装して経理することにより役員へ支給する給与も、損金に算入できません。3類型とは別の規定による損金不算入となるため、分けて確認する必要があります。
役員報酬の損金不算入による税負担
役員報酬が損金不算入になった場合、法人と役員個人では税負担への影響が異なります。法人税への影響と役員個人にかかる所得税・住民税や社会保険料について解説します。
| 区分 | 主な影響 |
| 法人側 | 損金不算入額を所得金額に加算し、法人税等が増える場合がある |
| 役員個人側 | 受け取った報酬は原則として給与所得の課税対象となり、社会保険料も別途判定される |
損金不算入額は課税所得へ加算する
役員報酬を会計上の費用にしていても、損金不算入となる金額は法人税の申告で所得金額に加算します。その結果、所得金額が増えれば、法人税等の負担も増える場合があるのです。
税額への影響を概算する場合は、「損金不算入額 × 実効税率」で考える方法があります。たとえば、損金不算入額が300万円、実効税率を仮に33%とすれば、影響額は約99万円です。
ただし、実際の税額は当期の所得や繰越欠損金、適用される税率などによって異なります。
役員個人の給与課税は原則残る
法人税の計算上、役員報酬が損金不算入として否認された場合であっても、役員個人が受領した給与である事実には変わりがないため、所得税・住民税の課税対象から除外されることはありません。また、社会保険料の標準報酬月額の算定にも原則として影響しません。
つまり、法人側では支給額を損金に算入できない一方、役員個人側では原則として給与所得として課税されるため、法人と個人を合わせた税負担が重くなります。
そのため、役員報酬の改定や支給の判断にあたっては、法人税の損金算入可否のみならず、役員個人の税負担を含めたトータルの手残り資金を試算しておくことが重要です。
役員報酬の損金不算入への時期別の対応
損金不算入となる可能性に気づいた時点によって、必要な対応は異なります。支給前、法人税申告前、申告後の3段階に分けて確認します。
- 支給前
- 申告前
- 申告後
支給前
役員報酬を変更する前なら、通常改定、臨時改定事由、業績悪化改定事由のいずれに該当するかを確認します。
通常改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行う改定です。役員の地位や職務内容の重大な変更などがあれば、臨時改定事由に該当する場合があります。
経営状況の著しい悪化などによる減額は、業績悪化改定事由への該当性を検討します。一時的な資金繰りの都合や単に業績目標に達しなかったことなどは、業績悪化改定事由には含まれません。
申告前
支給後、法人税申告前に判明した場合は、まず損金不算入額を確定します。会計上の役員報酬を取り消すのではなく、法人税申告書の別表四で税務調整を行うのが一般的です。
別表四の加算欄(社外流出)において「役員給与の損金不算入額」を計上し、会計上の利益に加算して課税所得を調整します。決算書上の費用仕訳を直接取り消す必要はありませんが、税務申告書上での確実な調整が求められます。
申告後
法人税申告後に判明した場合は、損金不算入額だけでなく、所得金額や繰越欠損金、すでに納付した税額を確認します。そのうえで、修正申告など必要な対応を確認します。
申告後に損金不算入の誤りが判明して修正申告を行う場合、本税の追納に加えて延滞税や過少申告加算税等の附帯税が発生するリスクがあるので注意が必要です。特に役員報酬の改定ミスが複数事業年度に及んでいるケースでは影響額が多額になる傾向があるため、速やかに影響額を試算し、実務対応を精査することが推奨されます。
役員報酬の損金不算入で必要な資料
役員報酬の損金算入を判断するには、支給額だけでなく、改定や支給の経緯を確認できる資料も必要です。該当するケースに応じて、次の資料を確認します。
| 判定するケース | 主な確認資料 | 確認する内容 |
| 期中変更 | 株主総会議事録、月次試算表、職務変更を確認できる資料 | 改定時期、理由、変更の経緯 |
| 役員賞与 | 届出書の控え、給与台帳、振込記録 | 届出上の支給日・金額と実績との差異 |
| 過大役員給与 | 職務内容、収益資料、従業員給与、同種の事業を営む類似規模法人の役員給与資料 | 支給額と職務内容、収益などとの関係 |
資料が不足していると、改定理由や支給内容を正確に確認できない場合があります。役員報酬を変更・支給した経緯を説明できる資料を整理しておきましょう。
法人の決算対策なら税理士法人ネイチャー
ここまで見てきたように、役員報酬には厳しい規定があり、損金不算入になってしまうと「法人側で損金にならず、個人では所得税の課税がされる」という非常に税負担の重い状況になります。
仮に損金不算入額に対応する法人税等30%、所得税等50%と仮定すれば、支給額に対して実質的に80%の税金が課されていることになってしまう計算です。
決算期末での役員報酬の増額などをお考えの場合、法人の決算対策を念頭に置かれている方も多いのではないかと考えております。(時期や状況にもよりますが)役員報酬を使った決算対策は非常にリスクがあるため、専門家としてはあまりオススメできません。
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まとめ:役員報酬の損金不算入額はケース別に計算しよう
役員報酬が損金不算入になる範囲は、期中増額、期中減額、役員賞与、過大役員給与など、該当するケースによって異なります。年間の役員報酬全額が損金不算入になるとは限らないため、対象額と対象期間の確認が必要です。
役員報酬は、法人の税負担だけでなく、役員個人の税負担や手取りにも影響します。決算前には、役員報酬を含めた損金の取扱いや税額への影響を確認しておくことが重要です。もし決算対策について専門家から他の選択肢をお聞きになりたい場合は、税理士法人ネイチャーへご相談ください。
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