個人投資家の中には、個人ではなく法人化して資産を運用したほうが税負担を軽減できると聞いて気になっている方も多いのではないでしょうか。
必ず法人化したほうが良いというわけではないため、どのような場合に法人化すべきなのか事前に把握しておくことが大切です。
この記事では、個人投資家の法人化とは何か、法人化するメリット・デメリット、法人化の流れやかかる費用などを解説します。個人投資家の方で法人化すべきか気になっている方はぜひ参考にしてください。
個人投資家の法人化とは資産管理会社を設立すること
個人投資家の法人化とは、個人の資産を管理・運用する資産管理会社を設立することです。法人化と聞いた方は、株式の発行や銀行融資などで取得した資金を元手に利益を得る法人を想像した方が多いのではないでしょうか。資産管理会社はあくまでも代表者(オーナー)の資産を運用・管理することを目的とする会社で、プライベートカンパニーとも呼ばれます。
個人投資家が法人化する最大のメリットは税制上の優遇を受けられる可能性がある点です。しかし、必ず法人化したほうが良いというわけではありません。法人化したほうが損をする可能性もあることから、どのようなケースで法人化すべきなのか事前に把握しておくことが大切です。
資産管理会社を設立する目安は課税される所得金額900万円以上
資産管理会社を設立する1つの目安は課税される所属金額900万円以上です。900万円以上が目安とされる理由は、適用される税率の差です。それぞれの税率を比較してみましょう。
【所得税】
課税される所得金額 | 税率 |
---|---|
1,000円~1,949,000円 | 5% |
1,950,000円~3,299,000円 | 10% |
3,300,000円~6,949,000円 | 20% |
6,950,000円~8,999,000円 | 23% |
9,000,000円~17,999,000円 | 33% |
18,000,000円~39,999,000円 | 40% |
40,000,000円以上 | 45% |
参照:国税庁「No.2260 所得税の税率 /https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm」
【法人税】
区分 | 税率 | ||
---|---|---|---|
資本金1億円以下 | 年800万円以下の所得 | 下記以外の法人 | 15% |
適用除外事業者 | 19% | ||
年800万円超の所得 | 23.20% | ||
上記以外の普通法人 | 23.20% |
参照:国税庁「No.5759 法人税の税率 /https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm」
課税される所得金額が900万円を超えた場合の税率は、個人が33%であるのに対し、法人は最大で23.20%です。そのため、課税される所得金額900万円以上が法人化を検討する1つの目安と言えるでしょう。
しかし、個人に適用される所得税は、所得によって税率が変化する超過累進税率の総合課税制度と、各所得で独自に定めた税率が適用される分離課税制度に分かれます。
例えば、株式投資を特定口座で行った際の税率(所得税+住民税+復興特別所得税)は20.315%と一律で、法人税よりも低いです。所得の内訳によって条件が異なる点に注意しましょう。
法人化する時に確認したい損益分岐点の目安まとめ
所得税は、超過累進課税制度という課税される所得金額が一定額を超えた際、超えた部分のみ高い税率が適用される仕組みが採用されています。そのため、税率33%が適用されるのは900万円以上の部分のみなので、実際に課される税金は33%よりも少ないです。
法人税も同様で、資本金1億円以下の場合、税率23.20%が適用されるのは800万円を超える部分のみなので、実際に課される税金は23.2%よりも少なくなります。
上記の特性を踏まえて損益分岐点の目安を考えると、800万円程度を境に法人税が所属税を下回ることから、800万円が1つの目安と言えます。法人のみ認められる経費があることを考慮すると700万円程度から法人化を検討しても良いでしょう。ただし、法人化すべきかは所得の種類や状況によって異なるため、専門家に相談しましょう。
法人化を検討すべき人
以下のような方は法人化による恩恵が期待できます。
- 個人投資家
- 資産運用や副業をしているサラリーマン
- 相続税が発生する富裕層
- オーナー社長
上記の人たちは、資産管理会社を設立することによって所得税や相続税を減らせるといった税制面の優遇を受けられるでしょう。しかし、正しい知識を身につけずに、節税目的だけで資産管理会社を設立すると、税務署から指摘を受けてペナルティを受ける可能性があるので注意してください。
個人投資家が法人化する5つのメリット
個人投資家が法人化するメリットとして、以下の5つが挙げられます。
- 所得税や相続税の節税効果が期待できる
- 所得の種類に関係なく損益通算ができる
- 10年間損失の繰越控除ができる
- 個人事業主よりも人い範囲で経費にできる
- 相続・贈与をスムーズに行える
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
所得税や相続税の節税効果が期待できる
投資で得た総合課税の対象となる所得が一定額を超えた場合には、法人税の方が所得税の税率を下回るため、所得税の節税効果が得られることは既に説明しました。
個人投資家の中には、資産が増加したので次は相続税対策をしたいと考える方も多いでしょう。自身の資産を家族に渡す場合は、110万円を超えると贈与税の課税対象となるため、贈与だけで次世代に資産を移していくには限界があります。
しかし、資産管理会社を設立し、家族を従業員として雇用し給与を渡すことで、投資により得た資産を効率良く配分することができ、相続税対策につながるでしょう。
所得の種類に関係なく損益通算ができる
損益通算とは、同一年分の利益と損失を相殺することです。投資で利益と損失が出た場合、利益から損失を引くことによって税負担を軽減できます。しかし、株式投資とFXのように種類が異なる金融商品同士は原則損益通算ができません。
個人投資家もこの原則に従います。ただし、法人化した場合、種類が異なる金融商品同士も損益通算が可能です。
仮に株式投資で利益が出て、FXで損失が出た場合、法人化していれば損益通算することで税負担を軽減できるでしょう。
10年間損失の繰越控除ができる
繰越控除とは、その年に生じた損失を翌年以降に繰り越せることです。例えば、100万円の損失が生じた翌年に50万円の利益が生じたとします。通常は翌年の50万円の利益に対して税金が課されますが、繰越控除を利用できれば前年の損失と相殺することができるので翌年の税金が課されずに済むでしょう。
青色申告した個人事業主の場合には、翌年以降3年間繰り越せます。しかし、青色申告した法人の場合には、繰越期間が3年から10年に延長されます。法人化することによって長期間繰り越せるようになるため、税負担をさらに軽減できるでしょう。
個人事業主よりも広い範囲で経費にできる
個人事業主として投資をしている場合、金融商品に投資する際にかかった手数料以外にも、セミナー参加費用やそれに伴う旅費などのように、その所得を得るために必要とした経費を計上できます。
しかし、法人として投資をしている場合、会社が利益を得るためにかかった費用は基本的に全て経費として計上できるため、個人事業主よりも広い範囲で経費にできるのです。また、社会保険料、生命保険料、役員報酬、退職金なども経費にできるため、経費を増やすことで節税対策になるでしょう。
相続・贈与をスムーズに行える
保有資産が現金の場合、毎年110万円以下であれば、贈与税を課されずに資産を移すことで相続税対策になります。しかし、保有資産が不動産の場合には、分割して資産を移すことが基本的にできません。
法人化した場合、法人が所有する資産は株式に変わります。例えば、2,000万円の不動産を法人で購入した場合、仮に100株発行していたとすると、1株あたりの価値は20万円です。
5株を贈与しても100万円と110万円の範囲内に収まっているため、5株ずつ贈与することで不動産の相続税対策が可能です。法人化して株式に換えることで、相続・贈与をスムーズに行えるでしょう。
個人投資家が法人化する4つのデメリット
個人投資家が法人化するデメリットとして、以下の4つが挙げられます。
- 会社の設立や維持に費用がかかる
- 評価益も課税対象になる
- 社会保険の加入が義務化される
- 決算申告の手間がかかる
それぞれのデメリットについて詳しく説明していきます。
会社の設立や維持に費用がかかる
個人投資家が法人化する際は設立費用がかかります。どのような法人を設立するかによって費用は異なりますが、合同会社で15万円程度、株式会社で25万円程度が目安です(下記参照)。
また、法人を設立した後は、維持するために法人税、事業税といった税金が発生するほか、従業員の厚生年金保険といった社会保険料の事業者負担も生じます。
個人の場合は、損失が出た年は住民税を支払う必要がありません。しかし、法人の場合は、損失が出た年であっても均等割という法人住民税は必ず納める必要があります。各自治体で納税額は異なりますが、最低でも毎年7万円課税される点に注意が必要です。
評価益も課税対象になる
株やFXなどの投資で得られた利益は実現益と含み益の大きく2つに分類されます。実現益は実際に確定させた利益のことで、譲渡益として課税対象となります。
一方、含み益とは購入時よりも評価額が上がっている状況のことで、個人では評価益に対して通常税金が課されません。しかし、法人化して投資資産が「売買目的有価証券」とみなされた場合評価益に対しても税金が課されるので注意してください。
社会保険の加入が義務化される
個人投資家が法人化した場合は、社会保険への加入が義務化されます。社会保険への加入は必ずしもデメリットとは言えません。社会保険料の会社負担分を経費として計上できる点はメリットです。
しかし、社会保険料は利益が出ていない場合でも会社負担分を支出しなくてはなりません。利益の有無に関係なく支出が発生する点は大きなデメリットと言えるでしょう。
決算申告の手間がかかる
法人化する前の個人投資家の場合、確定申告書を税務署に提出することによって確定申告が完了します。しかし、法人化すると、都道府県や市区町村の地方税や事業税などについても申告書を作成して提出しなくてはなりません。
日常の会計処理についても法人化する前と比較すると手間がかかります。税の専門家である税理士に相談すれば手間を省けますが、報酬を支払うことになるのでよく検討しましょう。
個人投資家の法人化にかかる経費は2種類
個人投資家が法人化する際は、以下のような費用がかかります。
- 設立費用
- 維持費用
それぞれの費用について詳しく解説していきます。
設立費用
法人(株式会社)を設立する際は以下のような費用がかかります。
費用 | 目安 |
---|---|
登録免許税 | 15万円程度 |
定款の認証手数料 | 5万円 |
定款の謄本手数料 | 2,000円程度 |
収入印紙代 | 4万円 |
株式会社の設立には25万円程度の費用がかかります。設立には時間と手間がかかるため、登記の専門家である司法書士に依頼する方が多いです。依頼する場合、司法書士報酬として数万円~十数万円程度の費用が加算されるので注意してください。
維持費用
法人を設立した後は、法人税や法人住民税といった維持コストがかかります。法人税は会計期間中における会計の利益に対して課税される税金です。利益が出ない場合は納税の必要はありません。
法人県民税や法人市民税などの法人住民税は、法人税割と均等割に分類されます。法人税の税額を基準に算出される法人税割については、法人税と同様で利益が出ない場合には納税の必要がありません。しかし、均等割は利益に関係なく課税されます。赤字であったとしても、上述した通り最低7万円程度の法人住民税が課税されるということを覚えておきましょう。
個人投資家が資産管理会社を設立するまでの流れ3ステップ
個人投資家が資産管理会社を設立する際は、以下の3つのステップで進めます。
- 会社の概要を決める
- 会社設立に必要なものを用意する
- 関係各所に書類を提出する
それぞれのステップを詳しく見ていきましょう。
①会社の概要を決める
法人を設立する際は、まず以下のような会社の概要を決める必要があります。
- 社名
- 所在地
- 資本金
- 設立日
- 会計年度
- 事業目的
- 株主の構成
- 役員の構成
資本金は1円以上であればいくらでも問題ありません。対外的な取引のある法人の場合は、信用という面からある程度の資本金が必要です。しかし、資産管理会社の場合は、対外的な取引がないので、資本金の額はこだわらなくても問題ないでしょう。
なお、決算月は何月に設定しても問題ありません。
②会社設立に必要なものを用意する
会社の概要を決めた後は、会社設立に必要な以下のものを用意します。
- 印鑑
- 定款
印鑑は代表者印と角印、銀行印の3種類です。代表者印は会社の実印として使用するため、法務局で登録を済ませなくてはなりません。
また、会社の基礎的なルールをまとめた定款を作成します。株式会社の定款を作成した後は公証役場で認証を得なくてはなりません。合同会社の場合は認証を得る必要はないものの、定款は必ず作成しなくてはならないので注意してください。
③関係各所に書類を提出する
法人設立の準備が整った後は、用意した書類を関係各所に提出します。主な書類と提出先は以下の通りです。
書類 | 提出先 |
---|---|
設立登記 | 法務局 |
青色申告承認申請書 | 税務署 |
法人設立届出書 | 都道府県・市区町村 |
上記以外にも手続きや書類の提出が必要になる場合があります。不備があった場合は書類の再提出の時間と手間がかかります。速やかに手続きを済ませるには、司法書士に法人設立のサポートを依頼したほうが良いでしょう。
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まとめ:個人投資家の法人化で悩んだら専門家に相談しよう
個人投資家が法人化すれば、利益に課される税負担を軽減できる、相続税対策になるなどの恩恵を受けられる可能性があります。しかし、個人投資家全員が恩恵を受けられるわけではありません。
課税される所得金額によっては、法人化しないほうが良いケースもあるので注意が必要です。また、法人化する際は、手続きに手間と時間がかかるだけでなく費用もかかります。法人の設立にかかる手間と時間を省き、税法上のルールを守りながら節税するためにも、専門家に相談することをおすすめします。
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