役員の退任が決まり、退職金の額も固まった。それでも「どの事業年度の損金になるのか」で迷う経営者は少なくありません。
たとえば、退任日は3月、決議日は5月、振込日は6月というように日付がずれると、損金算入時期の判断が難しくなります。決算を超えた場合、その期の法人税額や納税資金にも影響します。
この記事では、退職金の損金算入時期を役員と従業員に分けて整理します。あわせて、退任日・決議日・支給日などから判定する方法、未払金の扱い、分掌変更や退職年金などの例外的なケースも解説します。
退職金の損金算入時期は、支給する相手が役員か従業員か、退職金の額がいつ具体的に確定したか、実際にいつ支払ったかによって変わります。自社のケースでどの年度に損金算入すべきか、どの資料を残すべきかを確認していきましょう。
退職金の損金算入時期はいつ?区分別に比較
退職金の損金算入時期とは、法人が支給する退職慰労金や退職手当について、税法上どの事業年度の損金(経費)として算入が認められるかという計上時期の基準のことです。
通常の役員退職金は、株主総会の決議などにより支給額が具体的に確定した日の属する事業年度に損金算入するのが原則です。ただし、実際に支払った事業年度で損金経理した場合には、その支払年度で損金算入する取扱いも認められています。
一方、従業員退職金は、役員退職金のような株主総会決議を前提とせず、退職金規程や退職の事実などから債務が確定した事業年度で判断します。
まずは、支給区分ごとの考え方を確認しましょう。
| 支給区分 | 原則的な算入時期 | 実際の支給の重み | 未払計上 | 主な確認事項 |
| 通常の役員退職金 | 支給額が具体的に確定した日の属する事業年度 | 実際に支払った額を支払年度に損金経理した場合は、その年度での損金算入も認められる | 確定前の未払計上は損金算入できない | 株主総会議事録、取締役会議事録、支給額の算定根拠 |
| 通常の従業員退職金 | 退職により債務が確定した事業年度 | 支払時期だけでなく債務の確定状況で判断 | 債務が確定していれば未払計上できる | 退職金規程、退職日、計算資料 |
| 分掌変更による役員退職金 | 実際に支払った事業年度が基本 | 実質的に退職したと同様の事情があるかを確認 | 未払計上額は原則として退職給与に含めない | 職務内容、役員報酬、代表権、経営関与の変化 |
| 使用人から役員への昇格時の退職金 | 要件を満たして実際に支給した事業年度 | 使用人期間に対応する退職金かを確認 | 未払計上は原則として対象外 | 退職金規程、昇格日、支給日、計算根拠 |
| 役員退職金の分割払い | 総額が具体的に確定した事業年度が原則 | 支払年度に損金経理する取扱いもある | 確定前の未払計上は損金算入できない | 総額、支払回数、支払期限 |
| 退職年金 | 各年金を支給すべき事業年度 | 各支給期ごとに判定 | 将来分の一括計上は原則として認められない | 年金規程、支給期、支給額 |
役員退職金は、株主総会や取締役会の決議によって支給額が具体的に確定しているかが重要です。従業員退職金は、退職の事実や退職金規程などから、支給義務と金額が確定しているかを確認します。
分掌変更や使用人から役員への昇格では、さらに取扱いが変わります。実際の支給に加え、それぞれの要件を満たす必要があるためです。
まずは、自社の支給がどの区分に当たるかを確認してください。区分が決まれば、損金算入時期を判断するために確認すべき日付や資料も整理しやすくなります。
役員退職金の損金算入時期を4つの日付で判定
役員退職金の損金算入時期を判断する際は、退任日・株主総会決議日・取締役会決議日・支給日の4つを確認します。
| 日付 | 確認できる事実 | 算入時期への影響 | 主な確認資料 |
| 退任日 | 役員を退いた事実 | 起点になるが、単独では年度を決めない | 辞任届、退任登記、株主総会議事録 |
| 株主総会決議日 | 支給の決定と支給額の確定 | 具体的に確定していれば原則の算入年度 | 株主総会議事録 |
| 取締役会決議日 | 一任された具体額の決定 | 株主総会で一任された場合、具体額の確定日になる | 取締役会議事録 |
| 支給日 | 実際の支払い | 支払年度で損金経理する場合に重要 | 振込記録、総勘定元帳 |
原則として算入年度の基準になるのは、退任日ではなく金額が具体的に確定した日です。退任しただけでは、金額が確定したとは限りません。
株主総会で3,000万円と決議された場合は、その日に具体額が確定します。株主総会が金額の決定を取締役会へ委ねる形もあります。
一方、株主総会では退職金の支給だけを決め、具体額の決定を取締役会に一任することもあります。その場合は、取締役会で具体額を決めた日が、支給額の確定日になります。
支給日は、実際に支払った事業年度で損金経理する場合に重要です。役員退職金は、支給額の確定日だけでなく、実際の支給日と会計処理もあわせて確認しましょう。
4つの日付は、議事録や振込記録などの書面で確認できるようにしておくことが大切です。
役員退職金の損金算入時期をケース別に判定
3月決算の会社が、役員退職金3,000万円を支給するケースを例に、退任日・決議日・支給日による違いを確認します。
| ケース | 退任日 | 決議日 | 支給日 | 原則的な算入年度 | 支払年度で処理する場合の要件 |
| 基本例 | 3月10日 | 3月25日 | 3月30日 | 当期(3月期) | 確定も支払いも同一年度 |
| A | 3月31日 | 5月25日 | 6月10日 | 翌期 | 確定も支払いも翌期 |
| B | 3月10日 | 3月25日 | 6月10日 | 当期 | 当期に具体額が確定。翌期支給の場合の会計処理を確認 |
| C | 3月20日 | 5月25日 | 3月20日 | 個別確認 | 決議前支給のため、支給時点の手続き、損金経理、事後決議の内容を確認 |
| D | 3月31日 | 5月25日に一任、7月10日に具体額決定 | 7月20日 | 7月10日の属する事業年度 | 具体額を決めた取締役会議事録を確認 |
役員退職金3,000万円が当期の損金になるか翌期の損金になるかによって、その期の課税所得は3,000万円変わります。
実効税率を仮に約33%とすると、単年度の税額では約990万円の差が生じます。令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは、防衛特別法人税も加わるため、実際の税額への影響は事業年度ごとに確認が必要です。
翌期に算入すれば、翌期の税額に反映されます。退職金の損金算入時期は、税額だけでなく、納税資金や退職金の支給資金をいつ用意するかにも関わる重要なポイントです。
退任後の翌期決議は翌期算入が原則
3月31日に退任しても、その時点で退職金3,000万円が決まっていなければ、原則として3月期の損金にはなりません。5月25日の株主総会で具体額が決まったケースでは、翌期が原則の損金算入年度です。
退任日と具体額の確定日が異なる場合は、両者を明確に区分して検証する必要があります。退任が属する当事業年度での損金算入を希望する場合は、期末日までに臨時株主総会を開催して具体額まで決議しておくなど、日程面の前倒しを検討することが推奨されます。
翌期支給は確定年度が原則
3月中に退任し、同月中に退職金3,000万円まで具体的に決まっていれば、実際の支払いが6月になったとしても、原則として支給額が確定した3月期の損金になります。
この場合、3月期に未払金として計上し、実際の支払時に未払金を取り崩す処理が考えられます。
一方、実際に支給した事業年度に支払額を損金経理した場合は、その年度で損金算入する取扱いもあります。決議日と振込日が決算期をまたぐ会社では、具体額の確定日、支給日、会計処理をあわせて確認しましょう。
決議前支給は支払年度の要件を確認
正式な決議より先に退職金を振り込んだケースでは、支給日だけで損金算入年度を判断することはできません。
たとえば、3月に退職金を振り込み、5月に株主総会で具体額を決議した場合、原則的な基準となるのは5月の確定日です。ただし、実際の支給が先行しているため、支給時点でどのような決定があったのか、誰に決定権限があったのか、帳簿でどのように処理したのかを確認する必要があります。
役員退職慰労金規程、算定資料、取締役会や株主総会の議事録、振込記録などをそろえ、実際の経緯を説明できる状態にしておきましょう。
一任決議は具体額の決定日を確認
株主総会で退職金の支給方針だけを決め、具体額の決定を取締役会へ一任する場合があります。
このケースでは、株主総会の日だけを見て損金算入時期を判定するのは適切ではありません。具体的な支給額がいつ確定したのかを確認します。
たとえば、5月の定時株主総会で支給方針のみを決議し、具体額を取締役会に一任した後、7月の取締役会で3,000万円と決議した場合、税務上の確定日は7月になります。
取締役会議事録には、決定額だけでなく、役員退職慰労金規程や功績倍率などに基づく算定根拠も残しておくと、後から説明しやすくなります。
役員退職金の未払金の損金算入時期
役員退職金は、未払金として計上すればいつでも損金になるわけではありません。
重要なのは、支給額が具体的に確定しているかどうかです。未払計上できる場面とできない場面を分けて確認しましょう。
- 金額確定年度は未払計上を確認する
- 内定段階の未払金は損金にならない
- 算入年度がずれた場合は税務調整を確認する
金額確定年度は未払計上を確認
役員が実際に退任し、株主総会などで支給額が具体的に確定していれば、未払金として処理することがあります。
たとえば、3月期中に役員退職金3,000万円が具体的に確定し、支払いが翌期になる場合は、3月期に次のような仕訳を行うことが考えられます。
役員退職金 3,000万円 / 未払金 3,000万円
実際に支払ったときは、次のように未払金を取り崩します。
未払金 3,000万円 / 普通預金 3,000万円
税務上の損金算入で重要なのは、支給額が具体的に確定しているかどうかです。
確認資料として、株主総会議事録、取締役会議事録、支給額の計算資料、支払予定の記録をそろえておきましょう。金額、決定日、支払予定に矛盾がないかも確認が必要です。
内定段階の未払金は損金にならない
株主総会などによる正式な決議前に、社内で内定した額や見込額を未払計上する例があります。しかし、この段階では、原則として損金に算入できません。支給額が具体的に確定していないためです。決算前に見込額を計上しても、税務上その年度の損金になるとは限りません。翌期に株主総会などで具体額が確定した場合は、その確定年度が原則の損金算入時期となります。
算入年度がずれた場合は税務調整を確認
会計上の費用計上年度と法人税上の損金算入年度が一致しない場合もあります。申告前に気づいたときは、法人税申告書で必要な税務調整をします。
申告後に判明した場合は、税額が不足していれば修正申告、多く納めていれば更正の請求が必要かを確認しましょう。決算前に決議日や支給日、会計処理をそろえて確認しておくことが重要です。
退職金の損金算入時期が異なる5ケース
通常の役員退任とは判定基準が変わる場面を5つ整理します。特に混同されやすい分割払いと退職年金は、支払義務が生じる時期から違いを確認します。
| 区分 | 原則的な考え方 | 主な確認事項 |
| 従業員退職金 | 債務が確定した事業年度で判断 | 退職日、退職金規程、計算根拠 |
| 分掌変更による退職金 | 実質的に退職したと同様の事情と実際の支給を確認 | 役職、職務内容、報酬、代表権、経営関与 |
| 死亡退職金 | 法人側は金額確定年度を確認 | 死亡日、決議日、支給日、遺族側の相続税 |
| 分割払いの退職金 | 総額が確定した年度が原則 | 総額、支払回数、支払期限、損金経理 |
| 退職年金 | 各年金を支給すべき事業年度で判断 | 年金規程、支給期、支給額 |
ケース1. 従業員退職金
従業員の退職金には、株主総会の決議という手続きがありません。そのため、債務が確定した事業年度で判断します。確認するのは、退職の事実、支払義務の確定、金額を合理的に計算できることの3点です。
退職金規程がある場合は、勤続年数、退職理由、基礎給与などから退職金額を計算します。退職日、退職金規程、計算資料、支払予定を確認し、債務が確定していることを説明できるようにしておきましょう。
役員退職金と同じ基準で判断すると、損金算入時期を誤るおそれがあります。
ケース2. 分掌変更による退職金
代表取締役社長から会長へ役職を変更するなど、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合があります。分掌変更では、実際に支払ったかどうかが問われます。未払金として計上した額は、原則として退職給与に含めません。
また、退職の実態があるかも確認されます。たとえば、常勤役員から非常勤役員になったか、代表権がなくなったか、職務内容が大きく変わったか、役員報酬が大きく減少したか、経営上主要な地位を占めていないかなどを確認します。
分掌変更後も実質的に経営に強く関与している場合は、退職給与として認められない可能性があるため注意が必要です。
ケース3. 死亡退職金
死亡日、支給額の決定日、遺族への支給日が、それぞれ異なる場合があります。法人側では、金額が具体的に確定した年度を原則として確認します。死亡日そのものが算入年度を決めるわけではありません。
遺族側では、死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金は、みなし相続財産として相続税の対象になります。ただし、相続人が受け取る場合は「500万円 × 法定相続人の数」の非課税限度額があります。
法人側の損金算入時期と遺族側の課税関係を分けて確認してください。
ケース4. 分割払いの退職金
総額3,000万円を決議し、3年に分けて1,000万円ずつ支払う形もあります。支払回数で分けたからといって、各支払年度の損金になるとは限りません。原則は、総額が具体的に確定した年度で判断します。
ただし、実際に支払った事業年度に、その支払額を損金経理した場合は、支払年度で損金算入する取扱いもあります。
確認するのは、決議した総額、各回の支払額、支払期限の3点です。資金繰りの都合で分割するなら、処理方針を先に決めておいてください。
ケース5. 退職年金
退職年金は、退職一時金とは損金算入時期の考え方が異なります。
退職年金は、各年金を支給すべき事業年度に、その支給すべき金額を損金算入するのが原則です。将来の年金総額を未払金として計上しただけで、その全額を直ちに損金算入できるわけではありません。
一時金と年金を組み合わせる場合は、一時金部分と年金部分を分けて処理します。退職一時金は具体額の確定日や支払年度で損金経理したかを確認し、退職年金は各支給期ごとに損金算入時期を確認しましょう。
退職金の損金算入時期の確認に必要な資料
| 確認する事実 | 主な資料 | 確認する内容 |
| 退職の事実 | 辞任届、退任登記、株主総会議事録 | 退任日と役員の変更が記録されているか |
| 金額確定日 | 株主総会議事録、取締役会議事録、役員退職慰労金規程、従業員退職金規程 | 支給額と決定日、一任の有無 |
| 支給実績 | 振込記録、総勘定元帳、支給額の計算資料 | 実際の支払日と経理処理 |
| 職務変更後の実態 | 職務権限表、組織図、役員報酬の改定資料、稟議書 | 変更後の職務内容や関与の度合い |
資料は、支給が終わってから集めると手間がかかります。特に、議事録、退職金規程、振込記録は、支給の前後でそろえておきましょう。
一任決議をした会社では、株主総会議事録だけでなく、具体額を決定した取締役会議事録も重要です。金額だけでなく、算定根拠まで残しておくと、後から説明しやすくなります。
必要な資料がそろっていれば、退職金の損金算入時期を確認しやすくなり、税務調査などでも事実関係を説明しやすくなります。
法人の決算対策なら税理士法人ネイチャー
今から急いで退職金を支給して、今期の決算対策をといったことを考えられる経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし退職金は今後の役員の方の生活を保障する重要な資金です。短期間で決めてしまったことで、十分な検討がなされないまま、少なく(あるいは多く)支給してしまうリスクがあります。
また、決算対策のために分掌変更をして退職金を支給するというのは、リスクがあります。本当に経営に関与しなくなるのであれば問題はないのですが、形だけの分掌変更は後で退職金であることが認められず、税務調査で否認されるリスクがあるためです。
法人の決算対策で退職金を活用することには、このようなリスクが付きまとうため、他にリスクの低い方法がないか、あわせて知っておくことをオススメしております。
税理士法人ネイチャーは法人の決算対策を全力でサポートしています。原則として法人の顧問契約は承っておらず、決算対策や相続税対策をスポットで扱う、セカンドオピニオン専門の税理士法人です。
顧問税理士との関係はそのままに、今期の決算対策についてもご相談いただけます。受け取ったあとの資産運用や相続も含め、税務とあわせて検討できますので、ぜひお気軽に専門家との無料面談をご活用ください。
まとめ:退職金の損金算入時期は支給区分・確定日・支給実績で判断しよう
通常の役員退職金は、支給額が具体的に確定した年度が原則です。支払った年度で処理する場合は、実際の支払いと損金経理が前提になります。
従業員退職金は債務が確定した年度が基準です。分掌変更や分割払い、退職年金は、それぞれ取扱いを確認する必要があります。
退職金の損金算入時期を適切に判断するためには、実際の支給を行う前段階において、株主総会や取締役会の開催日程、具体額の確定時期、および決算書上の会計処理を整合させておくことが不可欠です。
事業年度をまたいだ後に処理を変更することは原則として認められないため、役員の退任や事業承継の計画が生じた早期の段階で、税務スケジュールを綿密に設計しておくことが望まれます。
税理士法人ネイチャーでは、初回無料の面談で退職金を使わない、別の切り口からの決算対策をご提案可能です。お気軽にお問い合わせください。
資産運用や税金対策についてどんな不安や疑問もコンサルタントが丁寧にお答えします。
お客様の保有資産をさらに増やすための最適な提案を数多くの選択肢からご提供します。
豊富な経験と、投資や税務の様々な視点から、お客様にあった税金対策を提案します。
相続税の不安やお悩みに、専門チームが最適な対策をご提案します。



