「今期の利益は出そうだが、結局いくら税金で持っていかれるのか」
「決算書に書かれている税率と、実際に払う感覚が違うのはなぜか」
経営者や資産管理を行うオーナーであれば、一度はこのような疑問を抱いた経験があるでしょう。
日本の法人税システムは複雑怪奇です。法律上の税率(表面税率)と、実際に負担する割合(実効税率)にはズレが生じます。このズレを理解していないと、資金繰り計画に狂いが生じたり、使えるはずの優遇措置を見逃したりするリスクがあるので注意が必要です。
本記事では、税理士としての実務経験をもとに、複雑な計算式ではなく経営判断に必要な数字として実効税率を解説します。
最後までお読みいただければ、御社の税負担が適正かどうかの判断基準と、合法的に税率を下げるための道筋が見えるはずです。
そもそも「法人税の実効税率」とは何か?表面税率との違い
経営者が把握すべきは、法律に書かれた表面税率ではなく、実際に財布から出ていく実効税率です。
なぜ税率は2つあるのか?「損金」になる税金の存在
法人税とひと口に言いますが、実は会社が払う税金は主に以下の3種類から構成されています。
- 法人税(国税)
- 法人住民税(地方税)
- 法人事業税(地方税)
ここで重要なポイントがあります。通常、法人税や住民税は経費(損金)になりません。しかし、法人事業税だけは、支払った年度の経費(損金)として計上できるというルールがあります。
税金を払うことで利益が減り、その分だけ翌期の税金計算のベースとなる所得が減る。この税金が税金を減らす効果を加味して計算し直したものが、実質的な負担率、すなわち実効税率です。表面上の税率を単純に足し合わせた数字よりも、実効税率のほうが少し低くなるのは、この事業税の損金算入効果があるからです。
【早見表】現在の実効税率の目安(中小企業 vs 大企業)
細かな計算はさておき、まずは目安となる数字を頭に入れてください。会社の規模や所在地(東京都などは少し高い)によって異なりますが、2024年時点での概算は以下の通りです。
- 大企業(資本金1億円超など): 約29.74% ~ 30.62%
- 中小企業(年800万円超の部分): 約30% ~ 32%
- 中小企業(年800万円以下の部分): 約23% ~ 25%
ここで「おや?」と思った経営者の方、鋭いです。実は、中小企業で利益が年間800万円以下の部分については、国が成長を支援するために税率が大幅に低く設定されています。
実効税率の計算式は「覚える必要なし」その理由
インターネットで検索すると、以下のような複雑な数式が出てきます。
実効税率 = 法人税率 × (1 + 地方法人税率 + 住民税率) + 事業税率 / 1 + 事業税率
税理士試験を受けるのでなければ、この式を暗記する必要はありません。経営において重要なのは、数式の暗記ではなく分母の「1+事業税率」が意味することの理解です。
複雑な計算式を因数分解する(事業税の損金算入)
先ほど述べた通り、事業税は支払った時に経費になります。数式の分母に「1+事業税率」があるのは、その経費になって利益を圧縮する効果を割り引いていると考えてください。
「表面上の税率の合計が約34%あっても、事業税が経費になる分、実質的な負担は30%前後に落ち着く」という感覚を持っておけば、経営判断としては十分です。
実務では「約30%~34%」を目安に資金繰りを行う
私が顧問先のお客様と決算対策をする際、「利益の3割は税金用に取り分けておきましょう」とお伝えすることが多いです。
特に、突発的に大きな利益が出た年は要注意です。予定納税(来年の税金の前払い)も発生するため、キャッシュフローが一気に悪化するケースが散見されます。実効税率は約3割という定規を持っておくことで、設備投資や役員報酬の改定など、先手の対策が打てるようになります。
日本の法人税は高い?世界との比較と推移
「日本は税金が高いから海外に移転したい」
そのような相談を受けることもあります。確かにかつて日本の法人税実効税率は40%を超え、世界でもトップクラスの高税率国でした。しかし、近年の法人税改革により状況は変わってきています。
主要国(アメリカ・中国・シンガポール)との税率比較
G7などの主要国と日本の実効税率を比較してみましょう(州税などを含む概算)。
- 日本: 約29.74%
- ドイツ: 約29.9%
- フランス: 約25.8%
- アメリカ: 約27.98%(カリフォルニア州など州により異なる)
- 中国: 25%
- シンガポール: 17%
日本は決して飛び抜けて高い国ではなくなりました。ドイツやアメリカと比べても遜色ない水準まで下がっています。ただし、シンガポールのようなタックスヘイブンに近い国と比較すれば、依然として高い水準である事実は否めません。
日本も下がってきているが「社会保険料」を含めると重い現実
ここで注意が必要なのは、会社が負担するのは法人税だけではないという点です。日本の場合、会社が負担する社会保険料(厚生年金・健康保険)の負担が非常に重い構造になっています。
税理士としての実感値ですが、法人税の実効税率は下がっていても、社会保険料を含めたトータルの公租公課負担は、以前と変わらないか、むしろ増えていると感じる経営者が多いのが現状です。法人税対策だけでなく、役員報酬の設定を含めた社会保険料の適正化もセットで考える必要があります。
【税理士直伝】実効税率を適正に下げて手残りを増やす方法
では、具体的にどうすれば実効税率を下げ、手元に残るお金を最大化できるのでしょうか。単なる経費の積み上げではない、賢いアプローチを紹介します。
中小企業の特権「年800万円以下の軽減税率」をフル活用する
資本金1億円以下の中小法人であれば、年間所得800万円以下の部分について、法人税率が15%(本則19%からの軽減)に設定されています。
実効税率で見ても20%台前半まで下がります。無理に利益を圧縮して損益ゼロにするよりも、「あえて800万円までは利益を出して、低い税率で納税し、内部留保を厚くする」という戦略は、財務体質を強化する上で非常に有効です。
経費計上よりも効く「税額控除」のインパクト(賃上げ・DX)
多くの経営者が経費を増やして利益を減らすことで節税しようとします。しかし、無駄な経費を使うことはキャッシュの流出を意味します。
それよりも強力なのが税額控除です。これは計算された税金から、直接金額を差し引ける制度です。
【賃上げ促進税制】
従業員の給与を上げると、増額分の最大45%を法人税から控除。
【中小企業経営強化税制】
ソフトウェアや機械装置を導入した際、即時償却(全額経費化)や10%の税額控除が可能。
特に賃上げ促進税制は、近年の改正で控除率が大幅にアップしており、実質的な実効税率を数%下げるほどのインパクトがあります。経費による節税は税金の先送りに過ぎないことが多いですが、税額控除は税金の免除に等しい効果(永久差異)を持ちます。
赤字でも税金はゼロではない?均等割の注意点
最後に、実効税率を考える際の落とし穴について触れておきます。
赤字なら税金はゼロと思われがちですが、法人住民税の均等割は赤字でも発生します。
資本金の額や従業員数に応じて変わりますが、最低でも年間7万円(地域や規模により異なる)程度です。節税のために無理に赤字にしても、このコストは消えないことを覚えておいてください。
まとめ:税率の数字に踊らされず、キャッシュフローを最大化しよう
法人税の実効税率について解説してきましたが、重要なポイントを振り返ります。
- 実効税率は約30%~32%(中小企業の800万円以下部分はさらに低い)。
- 表面税率との差は、事業税が経費(損金)になることから生まれる。
- 日本は国際的に見て極端な高税率国ではなくなったが、社会保険料負担は重い。
- 賢い経営者は経費だけでなく税額控除を使って実効税率をコントロールしている。
税金はコストです。コストである以上、適正に管理し、最小限に抑える努力は経営者として当然の責務と言えます。しかし、税率を下げること自体を目的にしてしまい、無駄な経費を使って会社の現金を減らしては本末転倒です。
大切なのは、税引き後にいくら手元に残るか。
現在の税負担に疑問を感じている、あるいは来期の納税予測を立てたいとお考えの方は、ぜひ一度専門家のシミュレーションを受けてみてください。適正なタックスプランニングは、御社の未来の投資資金を生み出す源泉となります。
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