良かれと思って始めた米国債投資が、相続税の計算の時に家族の重荷になってしまうことがあります。円安対策や安定した利回りを求め、米国債をポートフォリオに組み込む富裕層が増えているのです。しかし、相続という出口を考えたとき、米国債は複雑な検討が必要になる場合があります。
評価額の算出ミスによる税務署からの指摘、アメリカで発生するかもしれない過酷な相続手続き。何も知らずに放置すれば、せっかく築いた資産の多くが税金と手数料に消えていく事態になりかねません。
本記事では、国際税務の最前線で数多くの海外相続を成功させてきた専門家の視点から、米国債相続の全リスクと解決策を徹底解説します。正しい評価方法から、合法的に税負担を最小化するテクニックまで、実務上のノウハウをすべて公開します。
米国債の相続税評価額を正しく計算する2つの柱
米国債の相続税評価額は、亡くなった日の時価をベースに計算しなければなりません。日本の相続税法において、外貨建て資産は相続開始日の時価で評価する規定が存在します。
利付債であれば相続開始日の市場価格+既経過利息、ゼロクーポン債(割引発行の公社債)であれば相続開始日の市場価格を基準に据えてください。為替レートは、納税者が利用している金融機関が公表する対顧客電信買相場(TTB)を適用します。
仲値(TTM)よりも低いレートであるTTBを用いることで、評価額を適法に低く抑えることが可能です。評価日のレートが休日の場合は、その直前の日のレートを採用するルールを遵守してください。
既経過利息の計上漏れが税務調査のリスクを招く
利付債の相続で最も注意すべき点は、前回の利払日から相続開始日までに発生した既経過利息の扱いです。米国債は半年ごとに利子を受け取ることが多いため、利払日以外に相続が起きた際は、日割り計算による利息分を財産に加算する必要があります。この利息分は源泉所得税を差し引いた後の金額を計上します。
証券会社から発行される残高証明書だけでは利息分が判明しない場合もあるため、詳細な計算書を別途取得する必要があるかもしれません。正確な計上により、税務署に指摘されない正しい相続税申告を行うことができます。
日本居住者が米国債・米国株式をもつと米国で遺産税が課税されるのか?
米国債を保有している場合、日本だけでなく米国側でも遺産税(Estate Tax)の対象となる可能性があります。米国に居住していない日本人であっても、米国所在資産については米国内での課税権が発生するためです(U.S. Code § 2104)。
非居住者の場合、米国遺産税の基礎控除額は6万ドル(約900万円※1ドル150円換算)です。
ただし、6万ドルを超えたからといって即座に多額の納税が発生するわけではありません。日米租税条約に基づく特例(按分控除)を申請すれば、実質的な非課税枠が大幅に拡大し、結果として米国での納税額はゼロになるケースが大半です。
この仕組みは亡くなった方が全世界に所有する資産のうち、アメリカに所在する資産については、アメリカの人と同じだけの控除が受けられるという仕組みです。
この非課税枠については2026年現在、1,500万ドル(22.5億円※1ドル150円換算)となっておりますので、通常は課税されることは考えにくいです
重要なのは、「納税は不要でも、申告手続き(申告書の提出)自体は必須」という点です。米国債だけでなく米国株式(米国に所在する会社が発行する株式)や米国内にある不動産等も対象になります。ここを誤解して放置するとペナルティの対象となる可能性があるため、必ず専門家を通じて手続きを行う必要があります。
- 基礎控除額6万ドルまでの米国内所在資産(米国債や米国株式等)であれば申告が不要
- 6万ドルを超える場合も日米租税条約に基づく特例により、1,500万ドルまでは課税されない
- ただし6万ドルを超える場合は米国への申告書の提出が必要
外国税額控除の適用で日本側の相続税から差し引く
上述した通り、基本的に適正な申告をすれば米国で遺産税が課税されることはないと考えられます。ただし全世界における資産額が1,500万ドルを超える場合は、米国でも遺産税の課税が行われます。また、この非課税枠は頻繁に変更されるため、将来的に非課税となる額が小さくなっているリスクもありますので、相続が発生してしまった段階で非課税枠がいくらであるかを確認することも必要です。
二重課税を回避する最大の切り札が、日本の相続税申告において外国税額控除を適用することです。この制度を利用すれば、アメリカで支払った遺産税相当額を、日本で納めるべき相続税額から直接控除できます。控除を受けるためには、米国の遺産税申告書の写しや納税証明書を日本の税務署に提出しなければなりません。ただし、控除限度額の計算は複雑です。
米国側の申告期限は相続開始から9ヶ月以内となっており、日本の10ヶ月という期限と並行して進めるスケジュール管理が求められます。早い段階で国際税務に精通したプロフェッショナルにご相談下さい。
保管場所で変わる米国債の相続手続きと難易度
国内証券会社での手続きは比較的スムーズに進みます。日本の証券会社を通じて米国債を購入している場合、名義変更の手続きは国内資産に準じたものとなります。戸籍謄本や印鑑証明書、遺産分割協議書といった一般的な書類を揃えることで、相続人の口座へ振り替えが可能です。
多くの大手証券会社では、相続手続き専用の窓口が設置されており、書類の取り寄せも比較的容易に行えます。ただし、相続人がその証券会社に口座を持っていない場合は、新規開設の手間が発生する点に注意してください。
米国債のまま引き継ぐのか、売却して円貨に変えるのか等を、将来の為替見通しを含めて慎重に判断することが推奨されます。早期の手続き着手が、機会損失を防ぐ鍵となります。
海外の金融機関に直接保有している場合は要注意
米国の銀行や証券会社に直接口座を持ち、そこで米国債を管理しているケースでは手続きの難易度が跳ね上がります。プロベート(Probate)と呼ばれる裁判所の手続きを経なければ、資産の凍結が解除されない可能性が高いためです。
プロベートの完了には1年以上の歳月と、多額の弁護士費用、現地での煩雑なやり取りが求められます。英文でのやり取りや現地の法律への対応は、個人で完結させるにはあまりにもハードルが高いと言わざるを得ません。
死因贈与契約の活用や共同名義口座の設定など、生前からの出口戦略が極めて重要になります。また安易に共同名義の口座を作ってしまうと、逆に日本側で贈与税が課税リスクもあります。現状、海外に口座がある方は、一刻も早く国際相続の実務経験が豊富な税理士へ相談することをお勧めします。
富裕層が実践すべき米国債の相続対策と出口戦略
相続発生を待たずに、米国債を生前贈与することで将来の税負担を劇的に軽減できる場合があります。円高局面で贈与を行えば、評価額を低く抑えた状態で次世代へ資産を移転させることが可能です。年間110万円の基礎控除枠の活用はもちろん、相続時精算課税制度を利用して、値上がりが期待できるタイミングで一気に渡す手法も有効です。
米国債は換金性が高いため、受け取った子や孫がライフイベントに合わせて柔軟に運用できるメリットもあります。しかし、贈与の際も米国側の贈与税のルールを無視することはできません。また米国側での贈与税は、日本の非居住者が無形資産(株式や債券など)を贈与する場合は課税されないと考えられます(U.S. Code § 2501)。ただし今後の制度変更などには注意が必要です。トータルで最も有利なタイミングを見極める必要があります。
生命保険を活用した納税資金の確保と非課税枠の利用
米国債の保有額が大きい場合、多額の現金による納税が必要となり、手元資金が不足する懸念が生じます。米国債を売却して納税に充てることも可能ですが、当時の為替レートによっては損失を確定させてしまう結果になりかねません。
そこで、生命保険を活用して相続時に確実に円貨のキャッシュが入る仕組みを構築しておくべきです。保険金であれば、相続発生から短期間で支払われるため、期限の厳しい相続税納付に余裕を持って対応できます。
また、500万円 × 法定相続人の数の非課税枠を利用することで、相続財産そのものを圧縮する効果も得られます。資産を減らさずに、賢く次世代へ引き継ぐためのポートフォリオ再編を検討しましょう。
米国債の相続に関わる主な必要書類とチェックリスト
円滑な手続きを進めるために、あらかじめ準備すべき重要書類を整理しました。これらを早期に揃えることで、期限間際の混乱を避けることができます。
| カテゴリ | 必要書類・項目 | 入手先・確認事項 |
| 残高証明 | 評価額証明書(相続用) | 取引証券会社(死亡日の価格明記) |
| 利息関連 | 既経過利息計算書 | 証券会社へ別途依頼が必要なケースあり |
| 身分証明 | 戸籍謄本(出生から死亡まで) | 本籍地の市区町村役場 |
| 遺産分割 | 遺産分割協議書・印鑑証明 | 相続人全員の合意と実印 |
書類に不足があると名義変更の手続きや相続税の申告がストップしてしまいます。
プロの視点が米国債相続の成否を分ける理由
一般的な税理士の多くは、国内不動産や現金の相続には精通していても、海外資産が絡む国際税務には馴染みがありません。米国債の評価ミスや外国税額控除の失念は、そのまま納めすぎた税金としてお客様の損失になります。
また、税務署は近年、国外財産調書の提出義務やAIを活用した税務調査先の選定などを通じて海外資産の把握に全力を挙げています。申告に当たった専門家の知識不足による申告漏れにより厳しいペナルティを課される事態にも発展しかねません。
最新の日米租税条約や現地の税制改正をリアルタイムで把握している国際税務に精通した専門家のサポートは、もはや必須と言えます。
まとめ:米国債の相続は早めの準備と専門家への相談を
米国債の相続は、国内資産にはない特有のルールとリスクが複雑に絡み合っています。正しい評価額の算出、日米間の二重課税の回避、そして膨大な事務手続きをすべて完璧にこなすことは容易ではありません。しかし、仕組みを正しく理解し、信頼できるパートナーと共に準備を進めれば、大切な資産を最大限に残して引き継ぐことは十分に可能です。
本記事の要点を振り返ります。
- 評価額は死亡時の時価 × TTBレートで、既経過利息を含めて計算する。
- 米国遺産税の6万ドル基準を確認する。
- 海外口座での保有はプロベートのリスクを考慮し、生前からの対策を行う。
- 国際税務に特化した専門家を選び、申告漏れや過払いによる損失を防ぐ。
米国債の相続に関して少しでも不安を感じた際はぜひご相談ください。
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