親から実家や日本国内にある収益物件、あるいは海外不動産を相続し、売却して現金化すべきか、そのまま保有すべきか悩むケースは珍しくありません。売却時期や利用できる特例を確認せずに手続きを進めると、想定以上の税負担が生じたり、保有を続ける選択肢と十分に比較できなかったりする可能性があるため注意が必要です。
この記事では、相続不動産の売却手続きの流れや負担を軽減する3つの特例、さらに優良な資産を手元に残すための組み換え戦略を解説します。本記事を、税負担や売却後の手取り額、保有を続ける場合の収益性を比較する際の参考としてお役立てください。
相続不動産を売却して現金化する全体の流れ
不動産の売却は親族間での話し合いから物件の引き渡しまで数ヶ月を要するため、ここでは、売却をスムーズに進める3つの基本ステップを解説します。
- 遺産分割協議を行って不動産の分け方を決定する
- 相続登記を申請して名義変更を完了させる
- 不動産会社に依頼して売却活動を始める
相続税がいくらかかるのか計算の方法は「不動産の相続税はいくらかかる?高額?計算方法や対策に役立つ特例を紹介」をご覧ください。
遺産分割協議を行って不動産の分け方を決定する
相続不動産を売却するには、まず遺言書の有無を確認し、必要に応じて相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの不動産を引き継ぐのかを決定します。遺言書によって取得者が指定されている場合など、遺産分割協議が不要なケースもあります。
遺産分割協議を行った場合は、全員で合意した内容を遺産分割協議書にまとめます。相続登記に使用する際は、一般に相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添付します。
関連記事: 「土地の遺産相続手続きや費用は?分割方法を分かりやすく解説!」
相続登記を申請して名義変更を完了させる
遺産分割協議がまとまった後は、法務局で相続登記を行い、亡くなった親から相続人へと名義変更を完了させます。亡くなった方の名義のままでは、不動産を第三者に引き渡せない決まりがあるためです。
2024年4月から相続登記が義務化されており、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。正当な理由なく期限内に申請しない場合は、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。必要書類は相続方法によって異なるため、法務局や司法書士に確認しましょう。
不動産会社に依頼して売却活動を始める
名義変更が終わったら、不動産会社と媒介契約を結んで実際の売却活動を始めます。不動産の相場や売却条件を確認するためには、専門的な知識を持つ不動産会社のサポートを活用することが有効です。
物件の種類やエリア毎に得意な会社が異なりますので、もし悩まれた場合は当社にて、それぞれの会社の特徴をお伝えさせていただくことも可能です。単純な不動産仲介だけでなく、オークション形式での売却や、従来であれば売却することが難しく負動産と呼ばれていたような物件の処分に特化した事業者もご案内可能です。
条件に合う会社が見つかったら、正式に媒介契約を結びます。買い手が見つかり売買契約が成立すると仲介手数料が発生し、媒介契約で定めた時期に支払います。
相続不動産の売却で利用できる3つの特例
不動産を売却して利益が出た場合、譲渡所得税がかかる点に注意が必要です。ここでは税負担を大幅に軽減できる代表的な3つの特例(特別控除を含む)とその要件を解説します。
| 主な適用要件 | 軽減される内容 | |
| 取得費加算の特例 | 相続などで取得し、取得者に相続税が課されていて、所定の期限内に売却すること | 相続税額のうち一定額を取得費に加算できる |
| 居住用財産の3,000万円特別控除 | 売却する本人が生活の本拠として使用していた自宅などを売却すること | 譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける |
| 空き家特例 | 昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された(一定の耐震基準を満たす)一戸建て実家で相続により空き家になった物件を売却すること | 譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける |
3年以内の売却で使える取得費加算の特例を適用する
支払った相続税の一部を不動産の取得費(経費)に上乗せして、譲渡所得税の負担を軽減できるのが取得費加算の特例です。売却益を計算する際、経費が大きいほど税金は安くなる構造になっています。
この特例を利用するには、売却する本人に相続税が課されており、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却する必要があります。通常は、亡くなってから3年10か月以内です。手続きのタイミングが遅れると適用できなくなるため、早い段階で売却すべきかどうかの見極めが求められます。
実家を売るなら居住用財産の3,000万円特別控除を使う
ご自身の自宅として生活の拠点にしていた実家を売却する場合、居住用財産の3,000万円特別控除を利用できる可能性があります。この制度を適用すると、不動産を売って得た利益から最大3,000万円を差し引けます。
控除後の譲渡所得がゼロになれば、譲渡所得にかかる税金は発生しません。ただし、特例を適用するには、税額がゼロになる場合でも確定申告が必要です。
ただし、この特例を利用するには、売却する本人が主としてその家屋に居住していた実態があるなど、生活の拠点に関する厳格な要件を満たす必要があります。相続前後を通じてその家屋を自宅として使用していない相続人には、原則として適用されない点に注意が必要です。
またこの特例が使えるということは、相続税申告の際に居住用の小規模宅地等の特例を適用している可能性が高いです。同一生計の親族が相続税の申告期限までに被相続人の自宅を売却をすると、小規模宅地等の特例は適用できなくなるためご留意ください。なお、被相続人の配偶者が取得した場合など、居住・保有継続要件が課されないケースもあります。
空き家特例を活用して譲渡所得から控除を受ける
親が一人で暮らしていて空き家になった古い実家を売却する際は、空き家特例を利用できる可能性があります。
主な対象は、昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された区分所有建物以外の家屋で、相続開始直前に原則として被相続人以外の居住者がおらず、相続後から売却まで事業・貸付け・居住に使用されていないものです。売却代金が1億円以下であることなどの要件もあります。
適用要件を満たせば、最大3,000万円を利益から控除できます(※令和6年(2024年)1月1日以後の譲渡について、対象となる家屋・敷地等を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上の場合は、控除額が1人あたり最大2,000万円となります )。対象となるのは、昭和56年(1981年)5月31日以前に建てられた古い家屋です。
従来は、原則として売却前に耐震改修を行うか、家屋を取り壊したうえで売却する必要がありました。しかし、令和6年(2024年)1月1日以後の譲渡については、売却後、売却した年の翌年2月15日までに家屋が一定の耐震基準を満たすこととなった場合や、家屋の全部が取り壊された場合にも、一定の要件のもとで特例を適用できるようになりました。
相続不動産の売却以外の選択肢
相続した不動産は、必ずしもすべて売却して現金化するのが正解ではありません。現預金や法人を活用して、より効率的に資産を運用する方法を提案します。
- 収益物件の投資利益率を見極めて保有を継続する
- 売却資金を元手に新たな資産に組み替えて運用する
- 資産管理法人へ不動産を移転して資産運用を効率化する
収益物件の投資利益率を見極めて保有を継続する
賃貸アパートやマンションなどの収益物件を相続した場合は、投資収益率(ROI)や手取りのキャッシュフローを確認し、保有を続けるか売却するかを検討します。家賃収入があっても、空室や修繕費、固定資産税、管理費、借入金の返済などによって、十分な収益が残らない場合があるためです。
物件の築年数、今後の修繕費用、空室率、立地や賃貸需要などを総合的に確認し、保有を続ける場合と売却する場合を比較しましょう。
売却資金を元手に新たな資産に組み替えて運用する
立地が悪く収益性が低い不動産は速やかに手放し、得られた資金を元手により高い利益を生む新たな資産へ組み換える戦略も検討します。利益を生まない不動産を持ち続けると、固定資産税や維持管理費ばかりがかかり、資産全体が目減りしてしまうためです。
組み替えを行う際は、再投資先の収益性だけでなく、価格変動のリスク、換金性、管理の負担なども比較して判断しましょう。
資産管理法人へ不動産を移転して資産運用を効率化する
個人で不動産を保有し続けると所得税の負担が重くなる場合、資産管理法人を設立して不動産(または管理権限)を移転し、法人税率の適用を受ける選択肢が有効です。ただし、法人を設立しただけで、個人が所有する不動産の家賃収入が自動的に法人の所得になるわけではありません。
個人から法人へ不動産の所有権を移す場合は、個人側に譲渡所得にかかる税金が発生する可能性があるほか、法人側でも登録免許税や不動産取得税などがかかります。管理委託、法人による一括借上げ、不動産の所有権移転など、活用方法によって税務上の取扱いが異なるため、法人の設立・維持費を含めて事前に試算することが重要です。
こちらもご参考ください。
海外に所在する相続不動産を売却する際の注意点
ハワイや東南アジアなどの海外不動産の売却は、現地の法律と為替の影響を大きく受ける点に留意が必要です。
国際税務の観点から注意すべき3つのポイントを解説します。
- 現地の税制による影響を事前に算定すること
- 売却時の為替変動によるリスクを把握すること
- 日本の税制に基づく申告義務を満たすこと
現地の税制による影響を事前に算定すること
海外不動産を売却する際は、現地の税制が売却益や売却後の手取り額に与える影響を事前に確認する必要があります。不動産が所在する国・地域や売主の属性によって、現地で課税や源泉徴収が行われる場合があるためです。
例えば、米国の税務上の外国人が米国不動産を売却する場合、FIRPTA(外国人不動産投資税法)により、原則として売却代金などの実現額(amount realized)の15%が源泉徴収されます。ただし、一定の要件を満たす場合には源泉徴収が不要または軽減されるほか、所定の手続きにより源泉徴収額を減額できる場合もあります。
FIRPTAによる源泉徴収額は最終的な税額ではなく、米国で税務申告を行い、実際の税額との差額を精算することになります。源泉徴収額が最終的な税額を上回る場合には、還付を受けられることもあります。そのため、現地の専門家と連携し、税負担や売却後の最終的な手取り額を確認しておきましょう。
売却時の為替変動によるリスクを把握すること
海外不動産の売却では、為替の変動タイミングが売却資金の目減りや税金計算に及ぼすリスクの把握が欠かせません。売却代金は外貨で支払われるため、売却時だけでなく、購入時と売却時の為替レートの関係によって、日本円に換算した譲渡所得が変動するためです。
さらに日本の確定申告では、不動産を購入した時と売却した際の為替レートを用いて計算を行います。現地の通貨建てでは損失が出ていても、為替の影響で日本円に換算すると多額の利益が出ているとみなされ、想定外の税負担が発生する事例があるため十分に注意してください。
日本の税制に基づく申告義務を満たすこと
日本の税務上の居住者が海外不動産を売却して譲渡益を得た場合は、原則として日本でも申告対象となります。ただし、非永住者に該当する場合には、国外源泉所得のうち日本国内で支払われたものや国外から日本へ送金されたものなどが課税対象となるため、個別に課税範囲を確認する必要があります。
現地で所得税に相当する税金を納めた場合は、一定の要件のもとで外国税額控除を利用できる可能性があります(※ただし、日本の税額控除限度額の計算上、現地で支払った税額の全額が引ききれないケースもあります)。
また、その年の12月31日時点で合計5,000万円を超える国外財産を保有する居住者は、非永住者を除き、原則として国外財産調書の提出が必要です。
相続不動産を売却した翌年に必要な確定申告の注意点
相続不動産の売却により譲渡益が生じた場合は、原則として売却した翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行います。また、取得費加算の特例や3,000万円特別控除などを利用する場合は、特例の適用によって税額がゼロになるときでも確定申告が必要です。
税率が変わる所有期間の数え方や損失が出た場合の対処法を解説します。
- 譲渡所得税の計算では親の所有期間を引き継ぐこと
- 売却で損失が出た場合は他の譲渡益と相殺(内部通算)を行うこと
譲渡所得税の計算では親の取得時期を引き継ぐ
売却して得た利益に対する譲渡所得税を計算する際、相続した不動産の所有期間の判定は、原則として亡くなった親(被相続人)の取得時期を引き継ぎます。 不動産の所有期間が5年以下(短期譲渡: 税率39.63%)か5年超(長期譲渡: 税率20.315%)かによって、適用される税率が約2倍も変わるためです(※所有期間は相続発生日ではなく、売却した年の1月1日時点で判定します)。
自分が相続してから数ヶ月で売却した場合でも、親が該当の不動産を長期間(5年を超えて)所有していれば長期譲渡として低い税率で計算されます。
売却で損失が出た場合は他の譲渡益と相殺(内部通算)を行う
土地や建物の売却で譲渡損失が生じた場合は、同じ年に生じた他の土地・建物の譲渡所得から控除できます。ただし、控除しきれない損失は、原則として給与所得や事業所得などと損益通算できません(※ただし、一定のマイホームの売却損失については給与所得等との損益通算・繰越控除が認められる特例もあります)。
そのため、親の購入時よりも大きく値下がりした実家を売却する場合などで、同じ年にほかの土地や建物の売却益があるときは、譲渡損失をその譲渡益から控除できる可能性があります。
複数の不動産を同じ年に売却した場合は、それぞれの譲渡所得・譲渡損失を確認したうえで申告しましょう。
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まとめ:相続不動産の売却は手続きと特例を確認して判断する
相続した不動産を売却する際は、遺産分割から名義変更、売却活動までの手順を計画的に進めることが重要です。その上で、譲渡所得にかかる税負担を軽減できる取得費加算の特例や空き家特例などを適用できるか確認しましょう。特例だけでなく、売却価格や売却後の手取り額、保有を続ける場合の収益性も含めて判断することが重要です。
また、すべてを売却して現金化するのではなく、優良資産を残したり、資産管理法人を設立して運用を効率化したりと、広い視野で資産を組み換える柔軟性も重要です。海外不動産が含まれる場合は、為替リスクや国際税務の手続きも欠かせません。
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