「想定より多い株式売却益が計上された」「配当収入が大きく増えた」という相談を法人経営者の方からいただくことがあります。
「法人で株式投資をすると節税になる」という情報もありますが、株式を購入しただけで損金になるわけではありません。
株式の売却損や繰越欠損金、受取配当等の益金不算入など、税額に影響する税務上の取扱いがあります。ただし、適用要件や損益を計上する時期はそれぞれ異なるので注意が必要です。
この記事では、法人の株式利益にかかる税金の種類を解説します。確認したい税務上の取扱いや、シミュレーションによる効果も紹介します。一読すれば、自社で確認すべき項目と税引後に残る資金を考えるためのポイントを整理できるでしょう。
法人の株式投資は節税になる?
法人による株式投資は、単に株式を購入しただけでは「現金預金から有価証券への資産の組み替え」に過ぎず、税務上の損金が生じることはありません。
保有期間中の含み損についても、売買目的有価証券を除き、原則として税務上の評価損計上(損金算入)は認められていません。例外は限られており、上場株式では期末の時価が帳簿価額のおおむね50%を下回り、かつ近い将来その価額の回復が見込まれない場合などに限られます。
会社更生や民事再生の手続開始といった法的整理の事実が生じた場合も対象です。したがって、税務上の損金を計上して所得を圧縮するためには、原則として「事業年度内に市場等で売却して損失を確定させる」必要があります。
株式に関する行為が法人税へ与える影響を、下表で整理します。
| 行為・項目 | 税負担への影響 |
| 株式の購入 | 原則として影響なし(資産の組み替え) |
| 株式の保有 | 原則として影響なし |
| 株式の売却益 | 益金として所得計算に反映 |
| 株式の売却損 | 損金として所得計算に反映 |
| 国内株式の配当 | 保有区分に応じて一定額を益金不算入 |
| 過年度の繰越欠損金 | 一定の要件・限度で控除可能 |
個人と異なり、法人ではNISAや特定口座を利用できません。そのため、株式の売却損益や配当は、益金不算入などの税務調整を行ったうえで法人税の所得計算に反映されます。
これから法人化を検討する個人投資家の方は、下記もご参照ください。
法人の株式投資にかかる税金
法人が株式で得た売却損益や配当は、受取配当等の益金不算入などの税務調整をしたうえで、本業の所得と合わせて法人税等を計算します。
個人の上場株式等の譲渡益などに適用される20.315%の申告分離課税とは、計算方法が異なります。
- 法人税
- 地方法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 所得税等
法人税
株式売却益は原則として益金に算入し、配当は益金不算入の適用を反映して法人所得を計算します。個人の株式投資とは、税率や計算方法が異なる点に注意しましょう。
法人税率は、法人の区分や所得金額などによって変わります。一定の中小法人等では、年800万円以下の所得部分に軽減税率が適用されます。株式売却益などによって所得が増えると、所得区分に応じて法人税額も増加します。
また、令和8年(2026年)4月1日以後に開始する事業年度からは、法人税に加えて防衛特別法人税が課されます。
基準法人税額から年500万円の基礎控除額を差し引いた金額に、原則として4%を乗じて計算する国税で、株式売却益によって基準法人税額が増えれば、防衛特別法人税の負担も増加します。
地方法人税
地方法人税は、株式利益へ直接税率を乗じる税金ではありません。原則として、基準法人税額に10.3%を乗じて計算する国税です。
株式売却益などで所得が増え、基準法人税額が増えれば、地方法人税も増加します。反対に、売却損などで基準法人税額が減れば、地方法人税も減少します。
税負担を試算する際は、法人税だけでなく地方法人税も含めて税負担を確認しましょう。特別法人事業税とは別の税金であるため、混同しないことも重要です。
法人住民税
法人住民税は、法人税割と均等割で構成されます。株式利益が影響するのは、主に法人税割です。
法人税割は、課税標準となる法人税額を基に計算します。そのため、株式売却益などによって法人税額が増えれば、法人税割も増加します。
均等割は、資本金等の額や従業者数などに応じて課されます。所得が赤字でも発生します。均等割額は自治体によっても異なるため、決算時に確認しましょう。
法人事業税
法人事業税は、一般的な普通法人では株式利益を含む所得金額などを基に計算します。税率や計算方法は、法人区分や所在地などによって異なるので注意が必要です。
外形標準課税の対象法人では、所得割のほか、付加価値割や資本割も計算します。資本金1億円以下でも、一定の減資法人や100%子法人等は外形標準課税の対象となる場合があります。
法人事業税とあわせて、特別法人事業税も申告・納付が必要です。売却損などで所得が減れば所得割は減少する場合がありますが、外形標準課税では付加価値割や資本割まで同様に減るとは限りません。
所得税等
法人が配当等から源泉徴収された所得税等は、法人税の所得税額控除の対象となります。受取配当等の益金不算入とは別の制度です。
ただし、すべての国内配当で源泉徴収されるわけではありません。一定の内国法人が受ける完全子法人株式等や持株割合が3分の1を超える株式等に係る配当等は、源泉徴収の対象外となります。
また、配当等に係る所得税額控除では、株式の所有期間に対応する金額のみが控除対象となる場合があります。益金不算入と所得税額控除は要件や計算方法が異なるため、申告時にそれぞれ確認しましょう。
法人が節税のために株式投資をするメリット
期中から検討する項目と、法人税申告時に適用を確認する制度に分けて整理します。株式売却損を当期に反映する場合は、原則として事業年度内に譲渡取引が成立している必要があります。
| タイミング | 主な対策 |
| 期中から検討 | 含み損のある株式の売却 |
| 法人税申告時に適用を確認 | 繰越欠損金の控除、配当の益金不算入、所得税額控除 |
株式売却損を当期所得から差し引ける
株式の売却損は、原則として譲渡契約が成立した事業年度の損金に算入され、本業の利益や他銘柄の売却益などと通算されます。
例えば、取得価額1,000万円の株式が600万円まで下落し、その事業年度中に売却した場合、400万円の売却損が生じます。この売却損は、本業の利益や別銘柄の売却益などと通算できます。個人の株式譲渡損失は原則として給与所得や事業所得などとは損益通算できないため、この点は法人保有との大きな違いです。
ただし、節税目的で含み損のある株式を売却すると同時に同数・同価格で買い戻すような「クロス取引」等を行った場合、実質的に保有継続しているとみなされ、税務調査において売却損の計上が否認される(売却取引自体が存在しなかったものとして扱われる)リスクがあります。損失確定を目的として売却を実行する際は、市場での取引実態や売買タイミングについて事前の慎重な確認が不可欠です。
個人名義や非上場株式の譲渡は下記をご参照ください。
繰越欠損金を法人所得から控除できる
青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金は、一定の要件を満たすと繰越控除が可能です。2018年4月1日以後に開始した事業年度の欠損金は、原則10年間繰り越せます。
過年度の繰越欠損金があれば、当期の株式売却益を含む所得から控除できる場合があります。欠損金が生じた年度に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出することなどが要件です。
中小法人等以外では、控除限度額にも注意が必要です。利益が見込まれる段階で、過去の申告書と繰越欠損金の残高を確認しておきましょう。
国内配当の一部を益金に算入しない
国内法人から受け取る配当は、保有区分に応じて益金不算入が適用されます。一般的な少数保有の上場株式は、原則20%が益金不算入です。
保有区分と益金不算入割合の目安は、次の表のとおりです。
| 株式区分 | 保有割合の目安 | 益金不算入割合 |
| 完全子法人株式等 | 100% | 100% |
| 関連法人株式等 | 3分の1超 | 100%(一部負債利子控除) |
| その他の株式等 | 5%超3分の1以下 | 50% |
| 非支配目的株式等 | 5%以下 | 20% |
上場株式の少額保有は、非支配目的株式等に該当する場合が多いです。基準日等を踏まえて判定します。
法人が節税のために株式投資をするデメリット
税負担の減少だけを見て売却や投資を判断すると、法人の資産や資金繰りに悪影響を及ぼす可能性があります。代表的なデメリットを5つ整理します。
- 株式売却益の税負担が個人より大きくなる場合がある
- 節税額より投資損失のほうが大きくなる
- 株式購入代金はすぐに損金にならない
- 多額の株式投資は資金繰りに影響する
- 株式売却は課税売上割合に影響する
株式売却益の税負担が個人より大きくなる場合がある
個人が上場株式等を売却して利益を得た場合、原則として20.315%の申告分離課税となります。一方、法人の株式売却益は本業の利益などと合算して法人所得を計算するため、会社の所得や規模、所在地などによっては、個人で保有する場合より税負担率が高くなることがあります。
そのため、株式の運用益だけを比較して法人保有を選ぶのではなく、売却損を本業の利益と通算できる点や受取配当等の益金不算入、法人から個人へ資金を移す際の税負担まで含めて比較することが重要です。
節税額より投資損失のほうが大きくなる
含み損のある株式を売却して損失を確定すると、税負担の減少額より投資損失のほうが大きくなります。税負担だけを基準に売却を判断するのは適切ではありません。
たとえば、実効税率を34%とし、400万円の売却損を全額所得から差し引けると仮定します。税負担の減少額は136万円です。一方、取得価額に対する投資損失は400万円で、税負担の減少を考慮した後の損失は264万円となります。
含み損のある株式を売却する場合は、税務面だけでなく、今後の保有方針や法人全体の資産配分も踏まえて判断しましょう。
株式購入代金はすぐに損金にならない
株式の購入は、現金から有価証券への資産の組み替えです。購入額をそのまま損金にはできません。
例えば、法人が1,000万円で株式を取得しても、会計・税務上は資産の振り替えとなるため、当期の損金(経費)には算入されません。また、株式の買付手数料などの付随費用は原則として株式の取得価額に算入(加算)され、支出時の損金にはならない点にも注意が必要です。
なお、投資判断のために支出した市場情報利用料や調査費用等については、法人の本来業務との関連性や事業上の必要性に応じて個別に損金算入の可否を判断することになります。
多額の株式投資は資金繰りに影響する
運転資金や納税資金まで株式へ振り向けると、必要な現金を確保できない可能性があります。投資額は、運転資金や納税資金、設備投資などに必要な資金を確保したうえで検討しましょう。
株式は相場変動により、資金が必要な時期に想定価額を下回る場合があります。値下がり時に現金化すれば、売却損が生じる可能性もあります。
税負担だけでなく、今後の資金繰り表や事業計画、法人全体の資産配分を踏まえて投資額を判断しましょう。
株式売却は課税売上割合に影響する
株式の譲渡は消費税法上非課税取引に該当します。消費税の仕入税額控除の計算において、課税売上割合を算出する際には「株式の譲渡対価(売却金額)の5%に相当する額」を分母(総売上高)に加算するという特例ルールが定められています。分母にのみ非課税売上相当額が加算され、分子(課税売上高)には反映されません。そのため、多額の株式を売却すると結果として課税売上割合を押し下げる要因となります。
本則課税を採用している法人において、課税売上高が5億円を超えるか、または課税売上割合が95%未満に落ち込むと、全額控除方式が使えなくなり「個別対応方式」または「一括比例配分方式」による計算を余儀なくされます。その結果、本来控除できるはずだった仕入税額控除が制限され、「法人税は減ったものの消費税の納税額が跳ね上がる」という思わぬ資金流出を招くリスクがある点に注意が必要です。
なお、簡易課税制度を適用する法人や免税事業者は、課税売上割合を用いて仕入税額控除を計算しないため、株式の売却によってこの影響を受けることはありません。詳しい計算方法は下記をご参照ください。
法人の株式投資による節税効果シミュレーション
本業利益2,000万円の法人を例に、税額への影響を確認します。株式売却損、繰越欠損金、配当の益金不算入を組み合わせて計算します。
【前提条件】
- 本業利益:2,000万円
- 上場株式の売却益:1,000万円
- 別銘柄の売却損:400万円
- 国内株式の配当(非支配目的株式等):500万円
- 繰越欠損金の残高:300万円
- 実効税率:仮に34%
| 項目 | 金額 |
| ①売却損等反映前の所得(本業 + 売却益 + 配当) | 3,500万円 |
| ②株式売却損 | △400万円 |
| ③配当の益金不算入(500万円 × 20%) | △100万円 |
| ④繰越欠損金の控除 | △300万円 |
| ⑤所得(① + ② + ③ + ④) | 2,700万円 |
| 法人税等(実効税率34%と仮定) | 約918万円 |
単純に3,500万円へ34%を乗じた約1,190万円と比べると、税額差は約272万円です。ただし、400万円の売却損は実際の投資損失を伴います。税額差だけでなく、税引後の資産額まで含めて判断しなくてはなりません。
配当500万円から源泉徴収された所得税等は、別途、所得税額控除の対象となる金額を確認します。
なお、上記は実効税率34%による簡易試算です。令和8年4月1日以後に開始する事業年度は防衛特別法人税も課されるため、実際の税額は個別に計算する必要があります。
法人の株式投資における節税対策なら税理士法人ネイチャー
法人の株式利益にかかる税務判断には、複数の視点が必要です。株式の保有区分や売却損、繰越欠損金の残高などを確認し、税負担だけでなく資金繰りや資産全体への影響も踏まえて判断しなくてはなりません。
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株式投資についても、税額だけで判断せず、税引後に残る資産や法人全体の資産配分まで含めて検討することが重要です。ネイチャーグループでは、税務と資産運用の両面からご相談いただけます。初回面談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ:法人の株式投資では3つの節税対策を検討しよう
法人の株式投資は、株式を購入しただけでは節税になりません。株式売却損、繰越欠損金の控除、配当の益金不算入が主な検討項目です。所得税額控除も含め、利益や配当の種類に応じて適用できる制度が異なります。
「税金が減るから売却する」という考え方は避けましょう。税負担だけでなく、投資としての妥当性や資金繰り、税引後の資産額を含めて検討することが重要です。決算直前に判断を急がないよう、期中から確認を進めましょう。
法人における有価証券の運用は、単年度の損益通算や配当の益金不算入といった局所的な税務メリットにとどまらず、消費税への波及効果や中長期的なキャッシュフロー、さらには経営者個人の資産形成まで視野に入れた総合的な設計が求められます。
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