「そろそろ相続税対策を」と思いながら、着手が先送りになっていないでしょうか。事業や投資の判断は素早くできても、自分が亡くなった後の資産設計は後回しになりがちです。
しかし相続税対策には、暦年課税による生前贈与の加算対象期間のように、時間が関係する制度があります。相続が近づいてからでは、選べる方法が限られる場合があります。
この記事では、富裕層が相続税対策を始める時期や早めに始める理由、検討したい7つの方法などを整理します。相続税対策を何から対策するべきか、お困りの方の参考になれれば幸いです。
富裕層の相続税対策が重要な理由
財産が多い方ほど、相続税対策の重要度は高くなります。相続税は超過累進税率で、法定相続分に応じた取得金額が大きいほど税率が上がるためです。
最高税率は55%です。基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算します。
相続税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、金銭で一括して納めるのが原則です。不動産や自社株の割合が高い場合、相続税額が大きい一方で、納税に必要な現金が不足する可能性があります。
富裕層の相続税対策はいつ始める?
相続税対策に、一律の開始年齢はありません。将来、相続税の負担が見込まれる段階で、税額の試算を始めることが重要です。財産の内容や家族構成は人によって異なり、年齢だけでは判断できません。自社株や不動産の評価額も変動する可能性があります。
実際、経営者・富裕層を対象とした調査では、約半数が相続対策に未着手であり、相続対策を始めた年代では60代が最多となっています。相続が発生する時期を事前に予測することはできないため、早い段階から財産の状況を把握し、必要な対策を検討しておくことが大切です。
開始を検討する目安は次の3つです。
- 正味の遺産額が基礎控除額を超えると見込まれるとき
- 自社株や不動産など、評価額が変動する財産を保有しているとき
- 親などの相続を経験し、自分の財産の残し方を考え始めたとき
富裕層の相続税対策を早めに始める3つの理由
富裕層が相続税対策を早めに始める意味は、節税額の大きさだけではありません。検討する時間を確保することで、複数の方法を比較しやすくなります。
| 対策 | 時間に関係する主な制度 |
| 生前贈与 | 暦年課税では、相続開始前の一定期間の贈与を相続税の課税価格に加算(段階的に最長7年へ) |
| 不動産 | 2027年1月1日以後の相続等から、相続開始前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産の評価が見直される予定 |
| 生命保険 | 加入時の年齢や健康状態により、選べる商品が変わる |
対策できる期間を確保しやすい
期間が長いほど、計画は立てやすくなります。代表例が生前贈与です。暦年課税による贈与は、相続開始前の一定期間分が相続税の課税価格に加算されます。
2024年1月1日以後の贈与は贈与から7年以内に相続が発生した場合、相続財産に足し戻され、対策効果が無効化されてしまいます(4~7年経過時点に対応する贈与財産については合計で100万円までは加算対象外となります)。
また、毎年の生前贈与の非課税枠110万円の活用においても、贈与する年数を増やすほど多くの資産を税金をかけずに次の世代に移転することができるため、やはり早い段階で対策を開始することは有効です。
複数の方法を比較しやすい
時間があれば、対策を比べたうえで選べます。生前贈与、生命保険、不動産、資産管理会社は対策効果の効率が違います。税額の増減だけでなく、利回りや換金のしやすさ、納税資金まで含めて比べます。複数の方法を比較できる点が、早期着手の利点です。
資産状況に応じて見直しやすい
早く始めれば、途中で見直す余地が残ります。資産額は運用や事業で変わり、家族構成も結婚や出生などで変化します。
贈与の加算対象期間は見直され、貸付用不動産の評価も2027年以後の見直しが示されています。資産状況や制度が変わったときに見直す時間を確保できる点も、早期着手の利点です。
富裕層の相続税対策で最初に確認する4項目
生前贈与や不動産を選ぶ前に、現状を数字で把握します。順に確認すると、必要な対策の規模を判断しやすくなります。
- 相続人を確認する
- 相続財産を洗い出す
- 相続税額を試算する
- 納税資金を確認する
1. 相続人を確認する
最初に、法定相続人が誰かを確認します。基礎控除額も生命保険金の非課税限度額も、法定相続人の数を使って計算するためです。養子がいる場合は、算入できる人数に制限があります。法定相続人の数が1人変われば、基礎控除額は600万円変わり、相続税の計算上適用される税率にも大きな影響があります。
2. 相続財産を洗い出す
次に、相続税の課税対象となる財産等を洗い出します。現預金や有価証券のほか、自宅や収益不動産、自社株、一定の死亡保険金、国外財産なども確認します。一覧にすると、財産総額だけでなく、換金しにくい財産の割合も把握できます。
3. 相続税額を試算する
財産の一覧ができたら、現時点の税額を試算します。たとえば、課税対象となる財産が2億円で、相続人が子2人のみ、債務や葬式費用などを考慮しない場合、基礎控除額は4,200万円です。相続税の総額は3,340万円となります。
あわせて将来の財産額も想定します。運用や自社株の評価額の変動により、財産が増える場合もあります。将来の財産額も想定すると、必要な対策の規模を検討しやすくなります。
4. 納税資金を確認する
最後に、納税に必要な現金を用意できるか確認します。上記の例で現預金が3,000万円なら、相続税の総額3,340万円を下回ります。不動産や自社株は、すぐに現金化できるとは限りません。相続税の負担を抑える検討と、納税資金の準備をあわせて進めることが重要です。
富裕層の相続税対策で検討したい7つの方法
代表的な方法を整理します。どれが適するかは、財産の内容と家族構成で変わります。ここでは概要を示します。
- 生前贈与を検討する
- 生命保険を検討する
- 不動産を検討する
- 小規模宅地等の特例を確認する
- 資産管理会社を検討する
- 孫への資産承継を検討する
- 自社株の承継を検討する
1. 生前贈与を検討する
生前贈与は、財産を生きているうちに移す方法です。贈与税の計算方法には暦年課税と相続時精算課税があります。
2024年以後は、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除があります。暦年課税では相続開始前の一定期間の贈与が相続税の課税価格に加算されるため、早い時期から計画的に検討することが重要です。
2. 生命保険を検討する
相続人が受け取る死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」の非課税限度額があります。
また、死亡保険金は受取人固有の財産として遺産分割協議の対象外となるため、「特定の相続人へ確実に現金を遺す手段」や、不動産・自社株を取得した相続人が他の相続人へ支払う「代償分割の原資」としても極めて有効です。さらに、受取人が直接受け取れるため、銀行口座の凍結にかかわらず当面の葬儀費用や相続税の納税資金として即座に充当できる利点があります。
なお、契約者(保険料負担者)・被保険者・受取人の関係性によって課税対象(相続税・所得税・贈与税)が異なるため、契約形態の事前確認が不可欠です。
3. 不動産を検討する
不動産は、現預金と相続税評価の方法が異なります。土地は路線価方式や倍率方式で評価し、一定の賃貸不動産の敷地は貸家建付地として評価されます。
ただし、令和8年度税制改正の大綱において、2027年(令和9年)1月1日以後に開始する相続等から、相続開始前5年以内に取得または新築された一定の貸付用不動産について、路線価等に基づく引き下げ評価を制限し、実質的な取得価額をベースとした評価に見直す方針が盛り込まれました。
これにより、かつて行われていた「相続直前にタワーマンションや賃貸アパートを購入して評価額を急圧縮する」といった駆け込み的な節税策は通用しなくなります。不動産を活用した対策には、最低でも5年以上のスパンを見据えた長期的な保全計画が不可欠です。
4. 小規模宅地等の特例を確認する
小規模宅地等の特例は、一定の要件を満たす自宅や事業用などの宅地等について、相続税評価額を減額できる制度です。特定居住用宅地等に該当すれば、330㎡まで80%減額できます。誰が取得し、その後どのように利用するかなどによって適用の可否が変わります。
5. 資産管理会社を検討する
不動産や有価証券を多くお持ちの場合、資産管理会社を活用する選択肢があります。一方で、個人から法人へ財産を移す際には税負担が生じる場合があり、設立費用や運営コストもかかります。財産の規模や所得、移転時の税負担などを踏まえ、総合的に判断することが重要です。
6. 孫への資産承継を検討する
子どもを飛び越えて孫へ直接財産を移転させる手法は、「親から子、子から孫」という2回の相続を1回にスキップし、ファミリー全体としての生涯税負担を圧縮する有効な選択肢です。
遺言による遺贈や死亡保険金の受取人に孫を指定した場合は相続税額が「2割加算」されるデメリットがある一方、生前贈与(暦年課税)を活用し、相続・遺贈で財産を取得しない孫へ贈与した場合は、原則として「生前贈与加算(最長7年ルール)」の対象外となる大きな強みがあります。どの手法がトータルで有利になるかを慎重に見極めなくてはなりません。
7. 自社株の承継を検討する
会社を経営されている場合、自社株の承継も相続対策の重要な項目です。業績などによって株価が上昇すれば、相続税評価額も高くなる場合があります。非上場株式は上場株式と比べて換金しにくいため、納税資金も確認が必要です。
個人の財産と自社株を分けず、同じ時間軸で検討することが大切です。
富裕層の相続税対策における3つの注意点
早く始めれば常に有利になるわけではありません。実行する前に、老後資金と財産の分け方、判断基準の3点を確認します。
- 老後の生活資金を確保する
- 相続人ごとの取得財産を確認する
- 相続税額だけで対策を選ばない
1. 老後の生活資金を確保する
贈与を進めすぎると、ご自身が使える資金が減ります。生活費に加え、医療費や介護費用も想定が必要です。贈与後は、財産を自由に取り戻せるものではありません。先に手元へ残す金額を決め、その範囲で贈与額を検討してください。
2. 相続人ごとの取得財産を確認する
税額の計算と同時に、誰が何を相続するかを確認します。不動産や自社株は分けにくい財産です。一人が不動産を相続し、他の相続人が取得する財産が少なくなる場合もあります。現金とのバランスを見て、財産の分け方まで含めて検討します。
3. 相続税額だけで対策を選ばない
判断の基準は、相続税額の減少幅だけではありません。たとえば、相続税の評価減だけを目的に過大な借入をして地方の賃貸物件などを建築・購入した場合、評価額は引き下げられたとしても、将来的な空室増や修繕費の増大によってキャッシュフローが破綻し、資産価値そのものを大きく損なう恐れがあります。
目先の税額軽減という単一の指標にとらわれるのではなく、不動産の収益性や将来の換金性、管理コスト、そして何よりも「次世代に健全な形でキャッシュと資産を残せるか」という総合的な手残り資産の観点から意思決定を行うことが重要です。
富裕層の相続税対策は定期的に見直す
相続税対策は、一度決めて終わりではありません。前提が変われば、必要な対策も変わります。数年に一度を目安に、状況が変わった際にも財産額と税額、納税資金を確認し直してください。
見直しのきっかけは、主に次の3つです。
- 資産額の変化(運用の成果、自社株の評価額の変動、不動産の売買など)
- 家族状況の変化(結婚、出生、死亡などによる家族構成の変化)
- 税制改正(贈与の加算対象期間、不動産評価の見直しなど)
税制改正は、ご自身の資産状況が変わらなくても相続税対策に影響する場合があります。
富裕層の相続税対策なら税理士法人ネイチャー
相続税対策では、財産の把握から税額の試算、生前贈与・生命保険・不動産の比較、納税資金の確認までを検討します。経営者の方は、個人の財産と自社株をあわせて整理することも重要です。
税理士法人ネイチャーでは、相続税対策や事業承継、所得税対策等を承っております。相続に関する部分だけでもご相談いただけますので、まずは相続試算を通じてどの程度将来的に相続税がかかるかを把握されることからはじめてみませんか。初回面談は無料です。
まとめ:富裕層の相続税対策は早期から検討しよう
相続税対策に、一律の開始年齢はありません。将来、相続税の負担が見込まれる段階で、財産、相続税額、納税資金を確認することが出発点です。生前贈与には加算対象期間があり、一定の貸付用不動産には2027年以後の評価見直しが示されています。
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