売上や利益が順調に伸びる一方で、毎年自宅に届く国民健康保険料の高さに直面する個人事業主は少なくありません。
インターネット上にある一般的な経費計上や青色申告の手続きだけでは、高所得な個人事業主の負担を軽減できない事例があります。良かれと思って進めた手続きが、かえって負担を増加させかねません。
この記事では、数多くの資産防衛を手掛ける税理士法人ネイチャーが、見落とされがちな制度や確定申告の注意点を解説します。条件に合う制度を活用すれば、国民健康保険料の負担を抑えられる場合があります。
国民健康保険を安くする方法はある?
国民健康保険料の負担は、適切なアプローチをとれば十分に軽減できます。まずは、なぜ保険料が高くなるのかを知り、手元に残る現金を増やすための第一歩を踏み出しましょう。
国民健康保険料の計算方法は、会社員の健康保険とは根本的に異なります。高額な通知が届く原因となる、保険料の算定仕組みを解説します。
国民健康保険が高すぎる3つの理由
個人事業主の国民健康保険料が高くなりやすいのには、制度上の明確な原因が存在します。負担が重くなる3つの構造的な背景を解説します。
- 所得割の負担が重いため
- 賦課限度額の上限に達するため
- 経費が少ないと所得が増えるため
所得割の負担が重いため
前年の所得をもとに所得割が計算されるため、事業所得が増えるほど国民健康保険料も高くなりやすくなります。また、確定申告した株式譲渡所得や配当所得などが保険料の算定対象に含まれる場合もあるため注意が必要です。
また、会社員のように会社が保険料を半分負担してくれる「労使折半」の仕組みがないため、算定された保険料の全額を自分一人で支払わなければならない点が個人事業主の負担を重くしている最大の要因です。
賦課限度額の上限に達するため
年間最高100万円を超える上限額が存在し、一定以上の所得がある事業者は全員が一律で最高額を徴収されます。度重なる法改正によってこの上限額(賦課限度額)は毎年引き上げられており、事業所得が基礎控除後の金額で約1,000万円を超えると、多くの自治体で国民健康保険料の最高上限額(賦課限度額)に達します。
ただし、賦課限度額があるということは、一定の所得ラインを超えると、国民健康保険料はそれ以上増加しなくなるということでもあります。そのため、高所得の個人事業主は、自分の所得が賦課限度額に達しているかどうかを確認したうえで、所得対策や法人化、社会保険への切り替えなどを検討することが重要です。
経費が少ないと所得が増えるため
会社員に適用される給与所得控除のような一律の差し引きがないため、売上から経費を引いた利益がそのまま算定ベースです。仕入れが少ない業種や、自身の知識やスキルを売るフリーランスのような職種では、売上の大部分がそのまま「所得」とみなされてしまい、国民健康保険料を押し上げる結果に繋がります。
個人事業主が国民健康保険を安くする方法10選
負担を軽減するための具体的な解決策を解説します。手軽にできる公的な手続きから、大きな所得圧縮に繋がる制度まで10の選択肢をまとめました。
まずは、どのような選択肢があるのかを比較しましょう。
| 対策の分類 | 具体的な手法 | 主な効果と特徴 |
| 税制・共済の活用 | 青色申告の特別控除 | 最大65万円を所得から直接差し引ける基本の対策 |
| 経営セーフティ共済への加入 | 年間最大240万円の掛け金を全額経費にして所得を抑える(事業所得のみ) | |
| 中小企業経営強化税制の活用 | 対象の設備投資を行った年に一括で100%経費化できる | |
| 組織・環境の変更 | 国民健康保険組合への移行 | 所得の金額に関わらず、毎月の保険料が一律定額にできる |
| マイクロ法人を設立して社会保険加入を検討 | 資産管理会社を作り、個人の国民健康保険から脱出する | |
| 家族が加入する社会保険の扶養 | 年収要件を満たせば、個人の保険料負担がゼロになる | |
| 社会保険の任意継続の選択 | 退職後2年間、会社員時代の健康保険の金額を維持できる | |
| 公的軽減・世帯調整 | 法定軽減制度の申請 | 会社都合の退職時に、前年の給与所得を3割にみなして計算 |
| 自治体の減免制度の活用 | 災害や廃業などで本年の所得が激減した際に免除される | |
| 世帯分離による保険料への影響を確認 | 住民票の世帯を分けることで、全体の負担を最適化する |
青色申告の65万円特別控除を適用する
確定申告の際に複式簿記での帳簿付けを行うだけで、所得から最大65万円をダイレクトに差し引いて国民健康保険料を抑える効果があります。青色申告特別控除の活用は、税金面の負担を軽減させる上でも有効な手段です。
なお、令和9年分からは複式簿記かつe-taxでの送信等、一定の要件を満たせば最大75万円の控除が受けられるようになります。
経営セーフティ共済に加入し全額経費にする
取引先の倒産に備えるための公的共済制度ですが、毎月の掛け金を年間最大240万円まで全額事業所得の計算における経費として処理できます。利益が出ている年に掛け金を拠出することで、国民健康保険料の算定ベースとなる所得を合法的に圧縮できます。
ただし、不動産所得など事業所得以外の収入については掛金を必要経費にできません。また、解約時の返戻金は収入として課税対象になるため、加入時だけでなく出口戦略も確認しておく必要があります。
職種に応じた国民健康保険組合へ切り替える
医師、建設業、文芸美術関係など、特定の職種では「国民健康保険組合」に加入できる場合があります。国民健康保険組合は、同業者などで組織される公的医療保険の一種です。市区町村の国民健康保険とは保険料の計算方法が異なり、組合によっては所得にかかわらず一定額の保険料が設定されていることがあります。そのため、所得が高い個人事業主の場合、市区町村の国民健康保険よりも保険料を抑えられる可能性があります。
ただし、加入できる職種や地域、加入条件、保険料の計算方法は組合ごとに異なります。また、家族や従業員を加入させる場合は人数に応じて保険料が増えることもあります。加入を検討する際は、自分の職種が対象になるか、現在の国民健康保険料と比べて本当に安くなるかを事前に確認しましょう。
中小企業経営強化税制を活用し即時償却する
経営計画の申請を行い、指定の設備やソフトウェアなどを導入した場合に、購入費用をその年の経費として一括で全額処理できる国の優遇税制です。利益が出た年に本税制を利用して所得圧縮を行うことで、結果的に課税所得が減り、連動して翌年の国民健康保険料を引き下げられます。
マイクロ法人を設立して社会保険加入を検討する
個人事業とは別に実態のある法人事業を行い、役員報酬を設定して社会保険に加入することで、国民健康保険ではなく健康保険・厚生年金に切り替わる場合があります。ただし、法人の事業実態、役員報酬の設定、社会保険加入義務、法人維持コストを含めて慎重に検討する必要があります。
個人事業とは別に実態のある法人を設立し、役員報酬を設定して社会保険に加入することで、国民健康保険ではなく健康保険・厚生年金の対象となる場合があります。国民健康保険とは保険料の計算方法が異なるため、所得状況や役員報酬の設定によっては、社会保険料の負担を見直せる場合があります。
詳細は弊社の関連記事「マイクロ法人とは?設立で税金と社会保険料が安くなる仕組みを税理士が解説」にまとめています。
倒産や解雇による法定軽減制度を申請する
会社を解雇されたり、倒産によって退職せざるを得なくなったりした場合に適用される公的な軽減措置です。役所に申請を行うことで、前年の給与所得を本来の「100分の30」として保険料を再計算してくれるため、手続きを行うだけで最大で7割近く国民健康保険料が軽くなります。
所得激減による自治体の減免制度を活用する
災害や病気による長期療養、予期せぬ廃業などで本年の所得が前年より著しく減少した場合、本制度を申請できます。自治体ごとに基準は異なりますが、前年比で所得が50%以上減少しているなどの条件を満たせば、免除や減免措置が受けられます。
世帯分離による保険料への影響を確認する
同じ家に住んでいても、住民票の世帯をそれぞれ独立した世帯に分ける手続きです。国民健康保険料は世帯ごとに計算されるため、それぞれの所得バランスによっては世帯を分けることで全体の支払額を最適化できることがあります。
ただし世帯分離によって国民健康保険料が下がる場合もありますが、必ず安くなるわけではありません。均等割や平等割、所得割、軽減判定の扱いは自治体や世帯構成によって異なるため、手続き前に、自治体の窓口や保険料試算ツールなどで、世帯分離した場合としない場合の保険料を確認することが重要です。
家族が加入する社会保険の扶養に入る
会社員として働く配偶者や親族がいる場合、該当する親族が加入している健康保険の扶養に入る方法があります。年収が一定の基準(一般的に130万円未満など)を下回る必要がありますが、扶養に入ることができれば、個人の保険料負担は完全にゼロになります。
社会保険の任意継続を退職後に選択する
会社を退職して独立する際は、退職前に加入していた健康保険を最長2年間継続できる「任意継続」を選択できる場合があります。任意継続では、在職中に会社が負担していた分も含めて本人が保険料を全額負担します。ただし、保険料には上限があるため、退職前の給与水準や家族構成によっては、国民健康保険に加入するよりも保険料を抑えられるケースがあります。
一方で、国民健康保険料は前年所得や世帯人数、自治体の保険料率によって変わります。また任意継続では、在職中に会社と本人で折半していた保険料を、退職後は本人が全額負担します。 そのため、退職後に独立する場合は、任意継続と国民健康保険の保険料を比較したうえで選択しましょう。
国民健康保険を安くしたい人の確定申告リスク
手元に残る現金を増やそうと行う確定申告が、国民健康保険料を急増させる原因になるケースがあります。特に資産運用を行っている方は、税金だけでなく社会保険料への影響を常に意識しなければなりません。
- 株式等の譲渡益を申告すると国保が上がる
- 配当所得の総合課税で保険料が高くなる
- 申告不要制度の未選択で国保料が上がる
株式等の譲渡益を申告すると国保が上がる
株式等の譲渡益や配当所得を確定申告すると、国民健康保険料の算定対象となる所得に含まれる場合があります。損益通算や繰越控除を行うことで税金が戻る一方、国民健康保険料が増える可能性もあるため、税金と保険料を合わせて判断することが重要です。
配当所得の総合課税で保険料が高くなる
配当金については、所得税の還付や配当控除を受けるために、確定申告で総合課税を選択するケースがあります。総合課税を選択すると、所得税や住民税の負担が軽くなる場合があります。一方で、申告した配当所得が国民健康保険料の算定対象所得に含まれることで、翌年度の保険料が増える可能性があります。
そのため、配当控除による税金の軽減額よりも、国民健康保険料の増加額の方が大きくなると、結果的に手取りが減るケースもあります。配当所得を申告する際は、所得税・住民税だけでなく、国民健康保険料への影響も含めて判断しましょう。
申告不要制度の未選択で国保料が上がる
特定口座(源泉徴収あり)の株式譲渡益や配当所得は、確定申告しないことで申告不要とできる場合があります。一方、確定申告をすると国民健康保険料の算定対象所得に含まれる場合があるため、申告するかどうかは慎重に判断しましょう。
国民健康保険料が確定申告で上がるシミュレーション
良かれと思って行った確定申告が、翌年度の国民健康保険料の増加につながる場合があります。 特に、特定口座(源泉徴収あり)で受け取った配当所得や株式等の譲渡所得を確定申告する場合は、税金の還付額だけでなく、国民健康保険料への影響も確認しておくことが重要です。
ここでは、考え方をわかりやすくするために、概算例を用いて解説します。
※実際の国民健康保険料は、自治体の保険料率、世帯人数、年齢、介護保険分の有無、賦課限度額への到達状況によって異なります。
所得1,000万円超の個人事業主が配当を申告した場合
たとえば、事業所得が1,000万円ある個人事業主が、特定口座で受け取った200万円の配当金を総合課税で確定申告したケースを考えます。この場合、所得税や住民税では配当控除を受けられるため、税金が軽減される可能性があります。仮に、配当控除などにより約10万円の税負担が軽くなったとします。
一方で、申告した配当所得200万円が国民健康保険料の算定対象所得に含まれると、翌年度の保険料が増える場合があります。仮に、国民健康保険料が約25万円増加した場合、税金の軽減額10万円を差し引いても、結果的に約15万円の負担増になります。
ただし、実際の増加額は自治体の保険料率、世帯構成、年齢、介護保険分の有無、賦課限度額への到達状況によって異なります。すでに賦課限度額に達している場合は、配当所得を申告しても国民健康保険料がそれ以上増えないケースもあります。
そのため、配当所得を申告するかどうかは、税金の還付額だけでなく、国民健康保険料への影響も含めて試算したうえで判断しましょう。
国民健康保険を安くする方法についてのよくある疑問
実務において判断に迷いやすいポイントや、間違った解釈で損をしてしまいがちな3つの疑問について、分かりやすく解説します。
自己都合退職でも自治体で減免されるのか
自己都合退職の場合でも、病気や家族の介護など正当な理由があり、雇用保険上の特定理由離職者に該当する場合は、非自発的失業者の軽減制度の対象になることがあります。また、収入が著しく減少した場合は、自治体独自の減免制度を利用できるケースもあります。対象可否は自治体やハローワークで確認しましょう。
世帯を合併すると上限超えて損をするのか
それぞれの国民健康保険を一つにまとめるために世帯を合算した結果、家族全員の所得が合計されて世帯あたりの上限額に早く到達してしまうことがあります。高所得の家族がいる場合、世帯を分けた方が保険料を抑えられるケースもあります。ただし、世帯分離によって均等割や平等割、軽減判定が変わり、かえって負担が増える場合もあります。手続き前に、自治体の窓口や試算ツールで世帯構成ごとの保険料を確認しましょう。
社会保険の任意継続とどちらが安いのか
退職前の給与水準が高い人は、退職直後の国民健康保険料より任意継続の方が安くなるケースがあります。ただし、任意継続では在職中の会社負担分も本人が負担するため、必ず安くなるわけではありません。退職後は、任意継続と国民健康保険の保険料を比較して選択しましょう。
国民健康保険の適正化なら税理士法人ネイチャー
ここまで解説してきた通り、国民健康保険料の負担を抑えるには、単に領収書を集めて経費を増やすだけでは不十分です。青色申告特別控除や経営セーフティ共済などを活用して所得を適切に抑える方法もあれば、国民健康保険組合への加入、任意継続、マイクロ法人の設立など、加入する制度そのものを見直す方法もあります。
また、株式や配当所得を確定申告する場合は、税金の還付だけでなく、翌年度の国民健康保険料への影響も確認しなければなりません。
どの方法が有効かは、所得金額、事業内容、世帯構成、自治体の保険料率、将来の事業計画によって異なります。国民健康保険料を見直す際は、税金と社会保険料の両面から総合的に判断することが重要です。
税理士法人ネイチャーは、ビジネスオーナーや個人投資家の皆様に特化した、資産防衛と税務コンサルティングのプロフェッショナル集団です。お客様一人ひとりの事業状況や投資環境を綿密に分析し、税金面と社会保険料面の双方から手元に残る資金を増やすための方針を、お客様の状況に合わせてご提案いたします。「個人事業主の対策手法を知りたい」「投資の申告で損をしたくない」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ:国民健康保険を安くする方法は所得上限の把握と投資の申告見直しがカギ
国民健康保険料を抑えるためには、単に経費を増やすのではなく、自分の所得が賦課限度額に対してどの位置にあるのかを把握することが重要です。 また、株式譲渡益や配当所得を確定申告する場合は、所得税・住民税だけでなく、翌年度の国民健康保険料に与える影響も確認する必要があります。税金の還付を受けられる場合でも、国民健康保険料が増えることで、結果的に手取りが減るケースもあるためです。
さらに、経営強化税制による即時償却の実施や、法人化といった抜本的な構造の再構築を組み合わせることで、初めて確実な効果が得られます。
税理士法人ネイチャーでは、お客様の事業状況や所得構成を踏まえ、税金と社会保険料の両面から負担を見直すサポートを行っています。現在の国民健康保険料に不安がある方や、法人化を含めて対策を検討したい方は、ぜひ一度ご相談ください。なお確定申告については新規での受付をしておりません(当社はコンサルティングに特化しております)。もしご興味があれば無料面談にお進みください。
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