「毎月の保険料を経費にできれば、税負担は軽くなるのではないか」と考える個人事業主もいるでしょう。保険料の税務上の扱いは、契約内容や補償対象によって変わります。
事業主本人の生命保険料は、原則として必要経費になりません。一方で、事業用建物の火災保険料や事業用車両の自動車保険料など、事業に直接必要な損害保険料は、必要経費にできる場合があります。
この記事では、個人事業主が支払う保険料を「必要経費」「所得控除」「対象外」の3つに分けて整理します。あわせて、家事按分の考え方や仕訳についても解説します。
保険証券を確認しながら、保険料の税務上の扱いを判断するためのポイントを押さえましょう。
個人事業主の保険は経費になる?
個人事業主の保険料が必要経費になるかどうかは、その保険が事業に直接関係するリスクを補償するものかどうかで判断します。
たとえば、事業用建物の火災保険料、事業用車両の自動車保険料、業務上の賠償責任に備える保険料などは、事業に必要な部分について必要経費にできる可能性があります。
一方で、事業主本人や家族の生命保険料、私用のみの自動車保険料、居住用部分の火災保険料などは、原則として必要経費になりません。
自宅兼事務所や、事業と私用で兼用している車両のように、事業と生活の両方に関係する支出は、事業に使っている部分だけを合理的に区分して必要経費に算入します。
| 区分 | 主な保険料 | 差し引く時期 |
| 必要経費になる | 事業用建物の火災保険料事業用車両の自動車保険料事業に必要な賠償責任保険料 | 事業所得を計算する段階 |
| 所得控除の対象になる | 国民健康保険料や国民年金保険料 (社会保険料控除)一定の生命保険料 (生命保険料控除)居住用部分に対応する一定の地震保険料 (地震保険料控除) | 所得を合計したあと |
| どちらにもならない | 居住用部分の火災保険料私用のみの自動車保険料所得控除の対象とならない私的な保険料 | ― |
必要経費は、事業所得を計算する段階で差し引きます。一方、所得控除は、事業所得や給与所得などを合計した後に差し引きます。
必要経費になるか、所得控除になるかによって、所得税だけでなく、住民税、国民健康保険料、個人事業税などに与える影響が変わる場合があります。
個人事業主が経費にできる保険料は種類で異なる
個人事業主が支払う保険料は、保険の種類ごとに税務上の扱いが異なります。保険の名称だけでなく、補償対象、契約者、被保険者、受取人、事業との関係を確認することが重要です。
| 保険の種類 | 経費にできる範囲 | 家事按分 | 所得控除 | 主な勘定科目 |
| 生命保険料(本人・家族) | 原則なし | 不要 | 契約により生命保険料控除 | 事業主貸 |
| 自動車保険料 | 事業で使う割合 | 必要 | なし | 損害保険料 |
| 火災保険料 | 事業で使う割合 | 必要 | 居住用部分の地震保険料は一定の要件で対象 | 損害保険料 |
| 賠償責任保険料(事業用) | 原則として全額 | 原則不要 | なし | 損害保険料 |
| 所得補償保険料(本人) | なし | 不要 | 契約により対象 | 事業主貸 |
| 傷害保険料(本人) | 原則なし | 不要 | 契約により対象 | 事業主貸 |
| 従業員のための保険料 | 契約内容により異なる | 原則不要 | なし | 福利厚生費など |
| 一人親方の労災保険料(特別加入) | なし | 不要 | 社会保険料控除 | 事業主貸 |
生命保険料
事業主本人や家族を対象とする生命保険料は、原則として必要経費になりません。事業用口座から支払った場合は、事業主貸で処理します。損金保険というような言い方もありますが、法人であれば一定額が経費になる仕組みがあるということで、個人の場合は生命保険料は必要経費化できません。
ただし、一定の要件を満たす保険料は生命保険料控除の対象です。
2026年(令和8年)分の所得税においては、23歳未満の扶養親族を有する居住者を対象として、新生命保険料控除の適用限度額が従来の4万円から6万円へと一時的に引き上げられます。ただし、一般・介護医療・個人年金を合算した全体の控除上限額(12万円)および住民税における限度額に変更はありません。
従業員を被保険者とする保険料は、契約内容や受取人によって扱いが異なります。福利厚生費として処理できる場合もあれば、給与として扱われる場合もあるため、保険の種類だけでなく、契約者、被保険者、受取人を確認して判断しましょう。
自動車保険料
事業と私用で使う車の保険料は、事業で使う割合だけを経費にできます。按分には、走行距離や使用日数などの合理的な基準を用います。
例えば年間走行距離が1万キロメートルで、事業での走行が6,000キロメートルなら、事業割合は60%です。年間保険料が8万円なら、4万8,000円を必要経費にできます。税務調査等で按分割合の妥当性を問われた際に客観的な立証が行えるよう、日頃から運行記録や業務日報、走行メーターの記録等のエビデンスを適切に保管・管理しておきましょう。
火災保険料
自宅兼事務所の火災保険料は、事業で使う部分だけを経費にすることが可能です。按分には、床面積などの合理的な基準を用います。延床面積100平方メートルの住宅を例にします。
仕事専用の部屋が20平方メートルなら、事業割合は20%です。年間保険料6万円なら、1万2,000円が必要経費になります。居住用部分に対応する一定の地震保険料は、地震保険料控除の対象です。
一方、火災保険料の居住用部分は、原則として経費にも所得控除にもなりません。
賠償責任保険料
事業上の賠償リスクに備える保険料は、原則として必要経費にできます。対象となるのは、施設賠償責任保険、業務過誤賠償責任保険、PL保険(生産物賠償責任保険)などです。いずれも、事業活動で生じた賠償リスクに備える契約です。日常生活の事故に備える個人賠償責任保険は、原則として必要経費になりません。事業用の補償か、私生活上の補償かを確認して判断しましょう。
所得補償保険料
働けなくなったときの収入減少を補う所得補償保険は、誰を被保険者とするかで扱いが変わります。事業主本人を被保険者とする保険料は、必要経費になりません。事業主本人のけがや病気による生活費や所得減少を補う性質があるためです。
一方で、店舗の休業による売上減少や固定費の負担など、事業そのものの損失を補償する保険は、事業に必要な保険料として必要経費にできる場合があります。
所得補償保険を判断する際は、事業主本人の生活費や所得減少を補う契約なのか、店舗休業や事業上の損失に備える契約なのかを区別して確認しましょう。
個人事業主の保険料が経費になるか判断する方法
補償の対象、契約の関係者、按分の基準という3点を順に確認しましょう。経費にできるか整理しやすくなります。
- 補償対象と目的から事業関連性を確認する
- 契約者・被保険者・受取人を確認する
- 私用分は合理的な基準で按分する
補償対象と目的から事業関連性を確認する
最初に、何を守るための保険かを確認します。
事業用の建物、車両、設備、商品、業務上の賠償リスクなどを対象とする保険であれば、事業に必要な保険料として必要経費にできる可能性があります。
一方で、事業主本人や家族の生活だけを対象とする保険料は、原則として必要経費になりません。自宅兼事務所や兼用車両のように、事業と生活の両方に関係する場合は、事業に必要な部分を区分して判断します。
契約者・被保険者・受取人を確認する
次に、保険証券で契約者、被保険者、受取人を確認します。
契約者が事業主であっても、保険の内容が私的な保障であれば、必要経費にはなりません。反対に、事業上のリスクを補償する契約であれば、必要経費にできる場合があります。
従業員を被保険者とする保険も、受取人や契約内容によって扱いが変わります。福利厚生費として計上できる場合もあれば、給与として扱われる場合もあります。
保険料の処理は、保険の名称だけで判断せず、契約内容に応じて確認しましょう。
私用分は合理的な基準で按分する
事業と生活で共用する保険は、合理的な基準で分けます。建物なら使用面積や保険金額、車なら走行距離や使用日数などが基準です。基準を決めたあとは、計算の根拠となる資料を残します。図面や走行記録などが該当します。
事業とプライベートの双方に関連する保険料については、全額を無条件で経費算入することは認められず、私用部分を厳格に除外したうえで処理しなければなりません。合理的な按分基準に基づいて事業割合を算定し、その算定根拠を客観的に立証できる資料を整備しておくことが望まれます。
個人事業主の保険料は経費分だけ仕訳する
保険料は経費にできる部分だけを費用として記録します。私用分を混ぜると、決算書の数字が実態と合わなくなります。
| ケース | 仕訳の考え方 |
| 全額が事業用 | 支払額の全額を「損害保険料」で計上する |
| 事業用と私用の兼用 | 事業分は「損害保険料」、私用分は「事業主貸」に分ける |
| 複数年契約・翌年分の前払い | 当年分は「損害保険料」、翌年分以降は原則「前払費用」にする |
| 保険金を受け取った場合 | 保険金の対象や補償内容に応じて処理する |
たとえば、事業と私用で兼用している車の自動車保険料8万円を事業用口座から支払い、事業割合が60%の場合は、4万8,000円を損害保険料、3万2,000円を事業主貸として処理します。
複数年分の保険料を一括で支払う場合、翌年以降に対応する部分は、原則として前払費用に計上し、期間の経過に応じて費用へ振り替えます。
ただし、一定の契約に基づく継続的な役務について、支払日から1年以内に提供を受ける部分は、継続して同じ処理をするなどの要件を満たせば、支払った年の必要経費にできる場合があります。
また、保険金を受け取った場合は、その保険金が何を補償するものかによって扱いが異なります。本人のけがや病気に基づいて受け取る一定の給付金は、原則として非課税です。一方で、事業上の収入減少や必要経費を補てんする保険金は、事業所得の収入金額になる場合があります。
個人事業主ができる保険料以外の税金対策
保険以外にも、税負担に影響する制度があります。掛金の税務上の扱いや資金を使える時期を比べ、目的に合った方法を検討します。
| 対策 | 税務上の扱い | 資金を使える時期 | 主な注意点 |
| 小規模企業共済 | 掛金の全額が所得控除 | 廃業・退職などの受取事由が生じたとき | 20年未満で任意解約すると、解約手当金が掛金合計額を下回る |
| 経営セーフティ共済 | 要件を満たせば事業所得の必要経費 | 解約時など | 任意解約であっても40か月以上の納付で掛金全額が戻る。なお、解約日から2年以内に再加入して支払った掛金は原則として必要経費に算入できない点に注意が必要 |
| iDeCo | 掛金の全額が所得控除 | 原則として60歳以降 | 原則として途中で引き出せない |
| 法人化 | 所得税と法人税などの負担が変わる | ― | 設立・維持費や社会保険料なども考慮が必要 |
所得控除や必要経費になる制度でも、税務上の扱いだけで有利・不利は判断できません。資金を使える時期や受取時の課税なども含めて比較する必要があります。
国民健康保険料は必要経費ではなく、社会保険料控除の対象です。負担についてはこちらの記事で解説しています。
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保険料を経費にできるか、家事按分をどう算定するか、所得控除や小規模企業共済と比較してどれを優先すべきかは、契約内容や所得状況によって異なります。
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まとめ:個人事業主の保険料は事業関連性で経費を判断しよう
個人事業主が支払う保険料は、保険の名称だけでなく、補償対象や契約者・被保険者・受取人を確認し、事業に直接必要な部分のみを必要経費に算入します。
事業主本人や家族の生命保険料は原則として必要経費にならず、一定の要件を満たす場合は生命保険料控除の対象です。自動車保険や火災保険などを事業と私用で共用する場合は、走行距離や使用面積などの合理的な基準で按分し、算定根拠を残しておきましょう。
保険料を必要経費にしても、支払額がそのまま税負担の減少額になるわけではありません。必要な補償内容、税負担の減少額、支払後の手元資金を比較し、小規模企業共済やiDeCoなど他の方法も含めて検討することが重要です。
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