海外不動産を相続したものの、「現地の査定額と課税通知書のどちらを使えばよいのか」「日本円にはどの為替相場で換算するのか」と迷う方もいるでしょう。
海外不動産の相続税評価では、日本の路線価をそのまま使えない場合があり、現地の売買実例や鑑定評価などをもとに、相続開始時の時価を算定します。
さらに、現地の権利関係や評価資料を確認し、適切な為替相場で円換算する必要があります。
この記事では、海外不動産の相続税評価について、評価方法の選び方、必要資料、計算手順、為替換算まで順に解説します。申告時に確認しておきたい注意点もあわせて紹介します。
海外不動産の相続税評価の基礎知識
海外に所在する不動産であっても、日本の相続税申告においては国税庁の「財産評価基本通達」に則って評価を行うのが原則です。
ただし、海外には日本の路線価や固定資産税評価額に相当する制度が存在しない国・地域が多く、通達に直接定められた方式をそのまま適用することはできません。そのため、実務上は財産評価基本通達5-2(国外財産の評価)を根拠として、売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して、相続開始時点における「適正な時価」を合理的に算定・立証することになります。主な資料は次のとおりです。
- 近隣にある類似物件の取引価格
- 現地の公的な制度で公表されている価格
- 不動産鑑定など専門家が算定した価格
重要なのは、資料に記載された金額をそのまま採用するのではなく、相続開始時の時価を示す資料として適切かを確認する点です。
海外不動産では、現地で入手できる資料を確認しながら、日本の相続税における評価額を算定します。
海外不動産の相続税評価の方法
海外不動産の相続税評価では、現地の査定額や鑑定評価額、公的な評価額などをもとに時価を算定します。利用できる資料は国や地域によって異なるため、物件ごとに相続開始時の時価を適切に算定できる方法を選ぶことが重要です。
| 評価方法 | 検討しやすいケース | 主な確認事項 |
| 不動産会社の査定 | 一般的な住宅・投資用物件 | 査定の根拠となった売買実例価額 |
| 鑑定人による評価 | 高額な物件、取引が少ない地域 | 評価の基準日、資格、評価手法 |
| 取得価額の時点修正 | 査定や鑑定が難しい物件 | 取得価額の適正さ、価格指数 |
| 相続後の譲渡価額の時点修正 | 相続後に第三者へ売却した物件 | 売却の時期、相手、条件 |
| 現地の公的評価額 | 公的な価格制度がある国の物件 | 時価との差、基準日 |
評価方法を任意に選ぶのではなく、財産評価基本通達を踏まえ、物件ごとに合理的な評価方法を検討します。
現地の不動産会社へ査定を依頼する
現地の不動産会社に、相続開始日時点の査定を依頼する方法です。査定書では、参考にした売買事例の立地や広さ、築年数、取引時期などを確認します。評価の根拠を説明できるよう、査定書と売買事例に関する資料はあわせて保存しておきましょう。
現地の鑑定人へ評価を依頼する
現地の資格を持つ鑑定人に評価を依頼する方法です。依頼する際は、評価の基準日を相続開始日に指定します。あわせて次の点も確認します。
- 評価の対象(土地・建物・共有持分など)
- 鑑定の目的
- 使われた評価手法
融資用など別の目的で行われた鑑定は、評価の前提が異なる場合があります。
取得価額を時点修正する
適正な時価で取得したと認められる金額を、相続開始日の水準に修正する方法です。現地の不動産価格指数など、合理的な価額変動率を使って計算します。
取得価額が適正な時価と認められない場合や、合理的な価額変動率を確認できない場合には、この方法による評価は適切ではありません。使った指数の出典や対象地域は、記録しておきましょう。
相続後の譲渡価額を時点修正する
相続後に第三者へ売却した場合、その譲渡価額を相続開始日の水準に修正して評価する方法があります。譲渡価額が適正な時価と認められ、合理的な価額変動率を確認できることが前提です。親族間の取引など、通常の取引条件と異なる場合は慎重な判断が必要です。
現地の公的評価額を参考にする
現地に公的な固定資産評価制度や公示価格制度が存在する場合、その評価額を参考指標として活用できるケースがあります。また、現地の遺産税申告等において採用された評価額も、適正な鑑定評価等に基づくものであれば有力な根拠資料となり得ます。
ただし、米国のProperty Tax(固定資産税)の課税標準額(Assessed Value)のように、税負担軽減を目的とした政策的控除や上限規制(カリフォルニア州のProposition 13など)が適用されており、実勢価格(時価)と大きく乖離している公的価格も少なくありません。公的機関が発行した数値であっても、それが「相続開始時点の実勢時価を反映しているか」という観点から慎重に検証する必要があります。
海外不動産の相続税評価を進める手順
評価は「対象の特定、資料選び、時価の算定、円換算」の4段階で進めます。順番に確認すると、評価の根拠を整理しやすくなります。
- 権利関係から評価対象を特定する
- 使用する評価資料を選ぶ
- 相続開始日の時価を算定する
- 相続開始日のTTBで円換算する
権利関係から評価対象を特定する
現地の登記資料や権利証、購入契約書などで、次の点を確認しましょう。
- 名義人と共有持分
- 区分所有(マンションの一室)か、一棟か
- 土地の所有権か、借地権や長期リース権か
法人や信託を通じて保有している場合、相続税の評価対象が不動産そのものではなく、株式や信託に関する権利などになることがあります。
使用する評価資料を選ぶ
売買実例価額、公示価格、鑑定評価額などを確認し、物件の時価を合理的に算定できる資料を選びます。ほかの資料と金額が異なる場合は、差が生じた理由も記録します。採用した資料や評価方法の根拠を説明できる形で残しておくことが重要です。
相続開始日の時価を算定する
資料の基準日が相続開始日と異なる場合は、合理的な価額変動率による時点修正を検討します。共有している不動産は、持分割合や権利の内容を確認したうえで評価します。
相続開始日のTTBで円換算する
円換算には、原則として納税義務者(相続税を納める人)の取引金融機関が公表するTTBまたはこれに準ずる相場を使います。TTBとは、金融機関が外貨を買い取る際の為替相場です。
原則として、相続開始日における最終の相場を使用します。休日などで相場がない場合は、相続開始日前の最も近い日の相場を使います。
海外不動産の相続税評価の計算例
海外不動産を取得価額から評価する場合の計算を、ハワイのコンドミニアムを例に確認します。
会社経営者Aさんの父は、母と共同でコンドミニアムを所有していました。父の持分は50%で、相続によりAさんが取得したものとします。
| 項目 | 内容(仮定) |
| 取得価額 | 80万ドル |
| 取得後の価額変動率 | 1.20倍 |
| 父の持分 | 50% |
| 相続開始日のTTB | 1ドル = 150円 |
まず、取得価額を現地の価格指数で相続開始日の水準に修正します。
「80万ドル × 1.20 = 96万ドル」
次に、父が所有していた50%の持分を反映します。
「96万ドル × 50% = 48万ドル」
最後に、48万ドルを円に換算します。
「48万ドル × 150円 = 7,200万円」
この例では、父の持分に対応する円換算後の評価額は7,200万円です。
取得時からの価格変動、相続した持分、為替相場の順に確認すると、計算過程が明確になります。実際に取得価額を用いる場合は、購入時の金額が適正な時価であったか、使用する価格指数が合理的かを確認する必要があります。
※この計算例は、父母がそれぞれ50%の持分を所有している前提です。ジョイントテナンシーなど、死亡に伴って他の共有者へ権利が移る制度を利用している場合は、現地法上の権利関係を確認し、日本の相続税上の取扱いを個別に判断します。
海外不動産の相続税評価で用意する資料
評価額の根拠を示せるよう、目的ごとに必要な資料をそろえておきましょう。
| 分類 | 主な資料 | 確認する内容 |
| 権利関係 | 現地の登記資料、権利証、購入契約書 | 名義、持分、権利の種類 |
| 時価 | 鑑定書、売買事例、公示制度に基づく価格 | 評価額、評価日、評価条件 |
| 時点修正 | 取得時の契約書、価格統計 | 取得価額、価額変動率 |
| 賃貸状況 | 賃貸借契約書、家賃明細など | 賃料、空室、契約条件 |
| 為替換算 | 金融機関の為替資料 | TTB、金融機関名、日付 |
| 説明資料 | 日本語の要約、評価計算書 | 評価の過程、資料を選んだ理由 |
物件の状況や評価方法によって、必要な資料は異なります。また、すべてが相続税申告書への添付書類になるとは限りません。
評価額の算定根拠を説明できるよう、使用した資料は保存しておくことが重要です。
海外不動産の相続税評価の注意点
賃貸状況、国外財産調書、現地ローンの扱いは、確認が必要なポイントです。評価額を確定させる前に、順に確認しましょう。
- 賃貸中は契約内容が評価に影響する場合がある
- 国外財産調書の評価額は相続税評価額と異なる場合がある
- 現地ローンは不動産と分けて債務控除を判定する
賃貸中は契約内容が評価に影響する場合がある
現地で賃貸に供している物件は、賃料設定や契約期間、入退去の制限などが不動産の処分価値(時価)に直接影響を与えます。
ここで留意すべきは、日本の借地借家法を前提とした「貸家建付地」や「貸家」の画一的な評価減ルール(借家権割合30%等の減額)が、海外不動産に対して当然に適用できるわけではないという点です。現地の借家権保護の強弱や借主の権利内容が日本の借地借家法と同等と認められない場合、単純な通達評価減は認められず、現地の取引慣行や鑑定評価において「賃貸中であることが実勢時価にどれだけ減価要因として織り込まれているか」を個別に立証する必要があります。
国外財産調書の評価額は相続税評価額と異なる場合がある
国外財産調書は、原則として、その年の12月31日時点で合計5,000万円を超える国外財産を保有する一定の居住者が、翌年6月30日までに提出する書類です。調書には、各年12月31日時点の時価または見積価額を記載します。
一方、相続税は相続開始時の時価が基準のため、同じ金額になるとは限りません。調書の金額を参考にするときは、評価方法と基準日を確認しましょう。
現地ローンは不動産と分けて債務控除を判定する
海外不動産の評価額は、ローン残高を直接差し引かずに算定します。現地ローンは不動産と分けて、相続開始時に存在する確実な債務として債務控除の対象になるかを判定します。
ローンを差し引いて評価してしまったケースを想定します。
会社経営者のBさんは、父から相続した米国の賃貸物件について、時価100万ドルから現地ローン残高40万ドルを差し引いた「正味60万ドル」を不動産の評価額として計上してしまいました。
しかし、税務上は「不動産評価(資産)」と「借入金(債務控除)」を別々に計上しなければなりません。さらに重要な点として、資産側の不動産は金融機関が外貨を買い取る「TTB(対顧客直物電信買相場)」で円換算するのに対し、債務である借入金は金融機関が外貨を売る「TTS(対顧客直物電信売相場)」を用いて円換算します。両者をネット(相殺)して同一レートで換算してしまうと税額の算定根拠を誤ることになるため、それぞれ独立して算定することが不可欠です。
※小規模宅地等の特例の適用可否や外国税額控除などは、財産の評価とは別に確認します。
海外不動産の相続税評価でよくある質問
海外不動産の相続税評価の場面で迷いやすい3つの疑問にお答えします。
- 海外不動産の評価に日本の路線価は使える?
- 海外不動産の評価に現地の鑑定書は必須?
- 海外不動産の相続開始日のTTBがない場合は?
海外不動産の評価に日本の路線価は使える?
日本の路線価を海外の土地に直接適用することはできません。海外不動産も財産評価基本通達に沿って評価し、通達による評価が難しい場合は、現地の売買実例価額や鑑定評価額などを参考に時価を算定します。
海外不動産の評価に現地の鑑定書は必須?
必須とは限りません。物件の状況に応じて、売買実例価額や現地の公的な価格など、相続開始時の時価を合理的に算定できる資料を検討します。
海外不動産の相続開始日のTTBがない場合は?
相続開始日のTTBがない場合は、相続開始日前の相場のうち、相続開始日に最も近い日のTTBまたはこれに準ずる相場を使います。
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海外不動産の相続税評価では、現地の査定書や鑑定書だけでなく、権利関係や為替相場まで確認したうえで、日本の相続税のルールに沿って評価する必要があります。複数国に不動産がある場合や、共有・法人・信託などを通じて保有している場合は、判断が複雑になりやすいため注意が必要です。
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まとめ:海外不動産の相続税評価は相続開始日の時価を資料から算定しよう
海外不動産の相続税評価で大切なのは、次の3点です。
- 相続開始時の時価で評価する
- 時価を合理的に算定できる資料を確認し、評価の根拠を残す
- 相続開始日のTTBまたはこれに準ずる相場で円換算する
評価方法に迷ったときは、相続開始時の時価として合理的な根拠があるかを確認することが重要です。海外不動産の評価方法や必要な資料でお悩みの方は、税理士法人ネイチャーの無料相談をご利用ください。
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