設立時や資金繰りが厳しい時期に、個人のお金を会社へ入れてきた社長は少なくありません。決算書には、今も役員借入金の残高が残っているのではないでしょうか。業績が安定した今、そろそろ返してもらいたいと考える方も多いはずです。
一方で、返済を受けると税金がかかるのか、不安に感じる方もいるでしょう。役員報酬を減らして返済に回す方法も、本当に得なのか迷うところです。
この記事では、役員借入金の返済にかかる税金と仕訳を税理士が解説します。役員報酬を減らした場合の個人と会社の税負担も試算しました。税負担や資金繰りへの影響を踏まえ、返済方法を検討する際のポイントがわかります。
役員借入金の元本返済には原則税金がかからない
役員借入金の返済にかかる税金は、元本・利息・役員報酬に分けて考えます。元本の返済では、役員に原則として所得税はかからず、会社側でも損金にはなりません。
| 会社から役員への支払い | 役員個人の税金 | 会社の処理 |
| 借入金の元本の返済 | 原則として所得にならない | 損金(税金計算上の経費)にならない |
| 借入金の利息 | 原則として雑所得 | 適正な額なら支払利息として損金 |
| 役員報酬 | 給与所得 | 定期同額給与などの要件を満たせば損金 |
返済元本は役員の所得にならない
実在する役員借入金の元本返済は、役員の所得になりません。役員から見ると、以前会社に貸したお金が戻ってくるだけだからです。新たな利益が生じないため、所得税も住民税もかかりません。
たとえば、会社へ貸した1,000万円のうち300万円を返してもらう場合、戻ってきた300万円を所得として申告する必要はありません。
役員報酬は給与所得、配当は配当所得として課税対象になりますが、元本の返済は貸したお金の回収として扱われます。ただし、実際に貸付けが行われた事実や、借入金残高を確認できることが前提です。
返済元本は会社の損金にならない
会社側でも、元本の返済額は損金になりません。借入金の返済は、会社の費用に当たらないためです。返済すると、現預金と役員借入金が同じ金額だけ減ります。動くのは貸借対照表(会社の財産や負債などを示す書類)だけです。損益計算書(会社の収益や費用を示す書類)には、返済額は計上されません。
元本の返済は、消費税の課税対象外です。元本を返済しても、法人税の課税所得は減らない点に注意しましょう。
支払利息は原則雑所得になる
会社から受け取る利息は、役員個人では原則として雑所得です。会社側では、適正な額の利息であれば、支払利息として損金に算入できます。注意したいのは、同族会社の役員が受け取る利息です。
同族会社とは、原則として上位3つの株主グループが株式等の50%超を保有する会社を指します。給与所得者は、給与以外の所得が20万円以下であれば、一定の条件のもとで所得税の確定申告が不要です。
ただし、同族会社の役員がその会社から受け取る貸付金の利息は、所得金額が20万円以下であっても、原則として確定申告が必要です。元本と利息は帳簿で分け、受け取った利息の額を記録しておきましょう。
役員借入金を返済する仕訳
役員借入金の仕訳は、返済した元本の分だけ役員借入金を減らすのが基本です。利息を支払う場合は、元本と分けて記帳します。返済方法ごとの仕訳を表にまとめました。
| 返済の方法 | 借方 | 貸方 |
| 現金で100万円を返済 | 役員借入金100万円 | 現金100万円 |
| 普通預金から100万円を振り込み | 役員借入金100万円 | 普通預金100万円 |
| 残高500万円のうち50万円を返済 | 役員借入金50万円 | 普通預金50万円 |
| 元本100万円と利息2万円を振り込み | 役員借入金100万円、支払利息2万円 | 普通預金102万円 |
元本だけを返済する場合
元本100万円を会社の普通預金から振り込む場合、仕訳は「役員借入金100万円/普通預金100万円」です。一括返済でも分割返済でも、考え方は変わりません。分割返済なら、返済のたびに同じ形の仕訳をします。
現金の手渡しは記録が残りにくいため、会社口座からの振り込みが望ましいでしょう。摘要欄(取引の内容を書く欄)に「元本返済」と記載しておくと、あとで確認しやすくなります。
利息を付けて返済する場合
元本100万円と利息2万円を合わせて振り込む場合、仕訳は「役員借入金100万円・支払利息2万円/普通預金102万円」となります。勘定科目は、元本が役員借入金、利息が支払利息です。
利息は、契約で定めた利率や計算期間に基づいて算出します。計算額と支払額に差がある場合は、その理由を確認する必要があります。支払う前に、利率・計算期間・支払額の3点を照らし合わせましょう。
役員借入金の返済額は資金繰りで決める
役員借入金の返済額は、決算上の利益だけでなく、手元の現預金や今後の支出予定を踏まえて決めます。黒字の会社でも、売掛金(まだ回収していない売上代金)が多いと、使えるお金が不足する場合があるためです。返済可能額を検討する際は、次のような計算式を目安にできます。
返済可能額 = 現預金 – 運転資金 – 納税予定額 – 銀行への返済予定額 – 設備投資予定額 – 予備資金
必要な運転資金は、仕入れや給与などの支払いに加え、売掛金の回収時期なども踏まえて見積もります。月次の資金繰り表をもとに、返済後も会社に十分な現預金が残る金額を設定しましょう。一括返済が難しい場合は分割返済とし、返済予定表で残高を管理します。未返済の役員借入金は、社長個人の貸付金債権として、原則として相続税の対象です。
役員借入金の返済へ役員報酬の減額分を充てる
役員報酬を減らした分を役員借入金の返済に回すと、会社から役員へ支払う総額を維持できる場合があります。ただし、税金と社会保険料の扱いは異なります。見直しの時期と影響を順に確認しましょう。
- 役員報酬は原則期首3か月以内に見直す
- 役員個人の所得税が減る可能性がある
- 会社の法人税が増える可能性がある
- 社会保険料はすぐに下がらない
役員報酬は原則期首3か月以内に見直す
役員報酬を減額し、改定前後の報酬を損金に算入するには、原則として事業年度の開始から3か月以内に改定する必要があります。毎月の役員報酬は、原則として「定期同額給与」などの要件を満たさなければ、損金に算入できないためです。定期同額給与とは、1か月以下の一定期間ごとに、原則として同額を支給する役員給与を指します。
期首から3か月以内に株主総会などで決議して改定すれば、原則として改定前後の報酬を損金に算入することが可能です。期中の減額でも、経営状況の著しい悪化など、一定の事情がある場合は認められます。役員借入金の返済時期は契約条件に沿って決められますが、役員報酬の減額には税務上の制約があります。
役員個人の所得税が減る可能性がある
役員報酬を減らすと、役員個人の所得税と住民税が下がる可能性があります。所得税は、所得が多いほど税率が上がる累進課税の仕組みです。
課税所得が900万円超1,800万円以下の部分には、所得税33%が適用されます。住民税の所得割10%と復興特別所得税を含めると、合計の限界税率は約44.7%です。
一方、役員借入金の元本返済は所得にならないため、原則として所得税はかかりません。役員報酬の一部を元本返済に置き換えると、個人の税負担が減る場合があります。
会社の法人税が増える可能性がある
役員報酬を減らすと、会社の法人税が増える可能性があります。要件を満たす役員報酬は損金になりますが、借入金の元本返済は損金にならないためです。年間240万円の報酬を元本返済に置き換えると、会社の損金は240万円減ります。
中小法人の法人税率は、原則として年800万円以下の所得部分が15%、800万円を超える部分が23.2%です。ただし、所得が年10億円を超える事業年度などでは、軽減税率の取扱いが異なるので注意が必要です。
2026年4月1日以後に開始する事業年度からは、防衛特別法人税も適用され、原則として、基準法人税額から年500万円を控除した額に4%を乗じて計算します。所得が増えると、法人住民税や法人事業税も増える場合があります。役員報酬の減額は、役員個人と会社の税負担を合わせて比較しましょう。
社会保険料はすぐに下がらない
役員報酬を減らしても、社会保険料が翌月から下がるとは限りません。保険料の計算に使う「標準報酬月額」の見直しには条件があるためです。固定的賃金の変更後、継続した3か月の報酬平均によって、原則として2等級以上の差が生じるなどの条件を満たすと、4か月目から改定されます。
2026年10月時点の標準報酬月額の上限は、厚生年金が65万円、健康保険が139万円です。報酬が高い役員は、減額しても社会保険料が下がらない場合があります。なお、厚生年金の標準報酬月額の上限は、2027年9月から段階的に引き上げられ、2029年9月には75万円となる予定です。
役員借入金を年240万円返済した場合の税負担
役員報酬を減らして返済に回すと、個人の手取りが増える一方、会社の法人税等も増える可能性があります。具体的な数字で見てみましょう。
【前提条件】
- 資本金1億円以下、3月決算の中小法人で、変更前の課税所得は約3,000万円
- 役員借入金の残高は3,000万円
- 期首から3か月以内に株主総会で決議し、役員報酬を月150万円から月130万円へ減額
- 減らした年240万円を、役員借入金の返済に充てる
- 役員は50代で、所得控除は社会保険料控除と基礎控除のみ
- 社会保険料は変更前後とも年167万円と仮定
- 法人の実効税率は35%と仮定(防衛特別法人税を含む概算)
以下は、改定後の月額報酬と返済額が12か月続いた場合の年換算比較です。改定初年度の実際の減額額や税負担は、改定月や会社の決算期によって異なります。
| 項目 | 変更前 | 変更後 | 差額 |
| 役員報酬 | 1,800万円 | 1,560万円 | -240万円 |
| 役員借入金の返済額 | 0円 | 240万円 | +240万円 |
| 役員の受取総額 | 1,800万円 | 1,800万円 | 0円 |
| 給与所得 | 1,605万円 | 1,365万円 | -240万円 |
| 所得税(復興特別所得税を含む) | 約308万円 | 約227万円 | 約-81万円 |
| 住民税 | 約140万円 | 約116万円 | 約-24万円 |
| 社会保険料(本人負担) | 約167万円 | 約167万円 | 0円 |
| 役員の手取り | 約1,185万円 | 約1,290万円 | 約+105万円 |
| 会社の損金(報酬と社会保険料) | – | – | -240万円 |
| 法人利益(課税所得) | – | – | +240万円 |
| 法人税等 | – | – | 約+84万円 |
| 役員借入金の残高 | 3,000万円 | 2,760万円 | -240万円 |
※所得税・住民税は2026年分の税制を前提とした概算です。住民税は所得割を中心に計算しています。
※税負担の違いを比較するため、社会保険料は変更前後で同額と仮定しています。実際には、報酬の減額に伴い健康保険料等が下がる場合があり、本人・会社の負担額や税額も変わります。
※法人税等は実効税率35%を仮定した概算であり、実際の税額とは異なります。
役員の手取りは年約105万円増える一方、会社の法人税等は年約84万円増えます。この試算条件では、役員個人の所得税・住民税の減少額と、会社の法人税等の増加額を差し引くと、税負担は合計で年約21万円減少する計算です。
ただし、役員報酬の減額がどの会社でも有利とは限りません。実際の結果は、会社の利益水準や適用税率、所得控除、社会保険料などによって変わります。
役員借入金の返済前に残高の根拠を確認する
返済の前に、役員借入金の残高に根拠があるかを確認しましょう。実際の借入れを確認できない場合、返済額が役員給与などとして扱われるおそれがあるためです。
主に、次の資料で確認します。
- 総勘定元帳(取引を勘定科目ごとに記録した帳簿)
- 勘定科目内訳明細書(法人税申告書に添付する勘定科目ごとの明細)
- 金銭消費貸借契約書(お金の貸し借りに関する契約書)
- 会社口座の入出金記録
資料をもとに、誰が・いつ・いくら会社に貸したのかを確かめましょう。契約書がない場合は、振込記録や役員が立て替えた経費の領収書などから内訳を整理します。
返済の際は、会社口座から役員口座へ振り込み、返済日と金額を記録しておきましょう。役員報酬を減らす場合は、株主総会議事録など、改定の経緯を示す資料の保存も重要です。
法人利益への対策なら税理士法人ネイチャー
役員報酬を減らして返済に回すと、個人の所得税等が下がる可能性があります。一方、会社では損金が減ることで課税所得が増え、法人税等の負担が重くなる場合があるので注意が必要です。
税理士法人ネイチャーでは、法人経営者の相続税対策や法人の決算対策、個人の所得税対策に対応しています。役員個人の手取りと会社の税負担、返済後の資金繰りを一体的に検討できる点が強みです。
さらに、将来の相続や資産形成も見据え、役員報酬と借入金返済の適切なバランスを検討できます。
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役員報酬の改定は原則として期首から3か月以内に行う必要があるため、早めの検討が重要です。初回面談は無料ですので、ぜひご相談ください。
まとめ:役員借入金の元本返済には原則所得税がかからない
実在する役員借入金の元本を返済しても、原則として所得税はかかりません。会社側でも、返済した元本は損金になりません。ただし、利息を支払う場合は、役員側で確定申告が必要になるケースがあります。
役員報酬を減らして返済に回すと、個人の税負担が下がる可能性があります。一方、会社では損金が減ることで課税所得が増え、法人税等の負担が重くなる場合があるほか、社会保険料も、報酬の減額に応じて下がるとは限りません。
役員報酬と借入金返済の配分は、個人と会社の税負担に加え、資金繰りも踏まえて判断しましょう。
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