「RSUをもらえたのは嬉しいけれど、どうも税金が多く引かれている気がする…」「日本と海外、両方で税金を払っているのでは?」と感じている外資系企業にお勤めの皆さま、ご安心ください。
まず結論からお伝えします。RSU(譲渡制限付株式ユニット)による二重課税は、日本の税制で外国税額控除という仕組みを使って、ほぼ解消できます。
この問題は、RSUが付与されるのが海外の親会社からであり、その源泉徴収が日本と海外の税制のズレによって起こるために生じるものです。しかし、正しく確定申告を行えば、過払いした海外の税金分を取り戻すことができるのです。
この記事では、長年、国際税務と資産運用に携わってきた税理士の視点から、RSUによる二重課税の仕組み、その具体的な解消法である外国税額控除の計算ステップ、そしてRSUを資産として最大化するための戦略を分かりやすく解説します。
RSUでなぜ二重課税が起こるのか?仕組みを解説
RSUによる二重課税のリスクは、主に課税されるタイミングと課税の考え方が日本と海外(特に米国)で異なるために生じます。
多くの外資系企業で採用されているRSUは、大きく分けて2つのタイミングで課税されます。
| 課税タイミング | 概要 | 課税内容 |
| 1. 権利確定時(Vesting時) | 株式が手に入る日 | この時点の株式の時価が給与所得として課税 |
| 2. 売却時 | 権利確定後に株式を売却した日 | Vesting時から値上がりした利益が譲渡所得として課税 |
海外の親会社が源泉徴収(税金を天引きすること)を行う場合、その国の税制に基づいてVesting時に課税されます。たとえば米国企業の場合、Vesting時の所得に対して米国の税金が源泉徴収されるのが一般的です。
一方で、日本に住んでいる方は日本の税法に基づき、同じVesting時の所得を給与所得として日本にも納税する義務が生じます。
同じ所得(Vesting時の時価)に対して、米国と日本の両国で税金が課される、これが二重課税が発生する基本的な仕組みです。しかし、この問題を解決するために、国同士で結ばれた日米租税条約に基づき、日本の税制に外国税額控除という救済措置が設けられています。
二重課税を解消する「外国税額控除」とは?
二重課税を解決する決定的な手段が外国税額控除(がいこくぜいがくこうじょ)という制度です。
この制度は、海外ですでに支払った税金(外国税)を、日本の税金から差し引く(控除する)ことで、実質的な二重課税を解消するための仕組みです。
なぜこの制度があるのか?
日本と米国のような国々の間には租税条約という取り決めがあります。これは、国民が国境を越えて経済活動を行う際に、不利益を被らないようにするためのものです。この条約に基づき、同じ所得に二度税金をかけないという原則を守るために外国税額控除が適用されます。
したがって、RSUによる所得に対して海外(米国など)で源泉徴収された税金がある場合は、日本の確定申告でこの控除を適用することで、納めすぎた税金を取り戻すことができるのです。この手続きは確定申告が必須となり、自動的に処理されるわけではありません。
【具体例で解説】外国税額控除の計算ステップと注意点
外国税額控除を適用する際に最も重要なのは、控除できる金額には上限があるということです。
海外で支払った税金がいくらであっても、日本の税金から差し引ける金額(控除限度額)は、日本の所得税法に基づいて計算されます。
この控除限度額の計算は、多くの人がつまずくポイントです。計算式は複雑ですが、簡単に言うと、海外で得た所得が自分の全所得に占める割合に応じて、日本の税金のうちいくらまでを控除の対象とするかを決めるものです。
控除限度額の基本的な考え方
控除限度額 = 日本の所得税額 × (国外源泉所得の金額 / 全世界所得の金額)
- 日本の所得税額: 控除適用前の、あなたの年間所得税額。
- 国外源泉所得の金額: RSUのVesting時における所得など、海外で発生した所得の合計額。
- 全世界所得の金額: 給与、RSU、その他の所得を含めた、あなたの全ての所得の合計額。
例えば、全世界所得のうちRSUによる国外源泉所得が10%を占める場合、あなたの日本の所得税額の10%までが控除限度額となります。この限度額を超えた分は、その年の控除対象にはなりません。
経験から語る、控除手続きの注意点
まず、必要書類の準備が重要です。 控除を適用するには、海外の税金が天引きされたことを証明する書類が必要です。通常、RSUを管理する証券会社や海外の親会社から発行される源泉徴収票(W-2や特定の明細)がこれに当たります。この書類は、確定申告の際に必ず添付しなければなりません。
次に、繰越控除の活用も覚えておきましょう。 もし海外で支払った税金が控除限度額を超えてしまい、その年に全額を控除しきれなかった場合でも、安心してください。繰越控除の制度を利用すれば、翌年以降3年間にわたって繰り越して控除を適用することができます。ただし、この適用を受けるためにも、控除できなかった年を含め、連続して確定申告が必要です。
RSUの確定申告:譲渡所得と取得費の正しい考え方
RSUの課税は、Vesting時の給与所得で終わりではありません。株を売却する際には、譲渡所得(じょうとしょとく)として再度課税が発生します。
RSUの売却益は、主に次の計算式で求められます。
譲渡所得 = 売却金額 – (取得費 + 売却にかかった費用)
ここで、税理士として特に強調したいのが「取得費(しゅとくひ)」の考え方です。
RSUの取得費とは?
RSUの場合、タダで株式をもらったわけではありません。Vesting時の時価は、既に給与所得として課税され、その分の税金を支払っています。したがって、譲渡所得における株式の取得費は、権利確定時(Vesting時)の株の時価となります。
誤った認識によるリスク ここで注意すべきは、誤った認識によるリスクです。 最も多い間違いは、取得費をゼロと計算してしまうことです。これでは売却金額の全てが利益(譲渡所得)と見なされ、過大な税金を払うことになります。 また、Vesting時の時価を正しく認識していないケースも問題です。Vestedされた日の時価(日本円に換算したもの)を正しく計算・記録していないと、正確な譲渡所得を計算できません。
正しい取得費の把握は、税金を過度に払わないための生命線です。証券会社から送られてくる明細には、Vesting時の時価が記載されていることが多いですが、外貨建ての場合はその日の為替レートで正確に円換算する必要があります。
確定申告が必要なケースと、うっかりミスを防ぐチェックリスト
RSUを保有している、あるいは売却した方は、ほとんどの場合で確定申告が必要になります。特に外国税額控除を適用して二重課税を解消したい場合は、必ず確定申告をしなければなりません。
確定申告が必要になる主なケース
RSUを保有している、あるいは売却した方は、ほとんどの場合で確定申告が必要になります。
特に、二重課税を解消するために外国税額控除を適用したい場合は、申告が必須です。 また、RSUを売却して利益(譲渡所得)が出た場合や、RSUによる給与所得(Vesting時)を含めた給与以外の所得が年間20万円を超える場合も申告が必要となります(RSUは特定口座に入らないことが多いため、売却益が出た場合は基本的に申告が必要とお考えください)。
もちろん、これらのRSU関連の理由とは別に、年間の給与収入が2,000万円を超えている方も確定申告の対象となります。
確定申告前のうっかりミスを防ぐチェックリスト
| 項目 | 確認内容 | 備考 |
| 外国税額控除 | 外国の源泉徴収税額を証明する書類(明細)は揃っているか? | 控除の適用には添付が必須。 |
| 為替レート | Vesting時の時価、売却時の金額を所得が発生した日のレートで円換算したか? | 時価の特定が最も重要。 |
| 取得費 | 売却時の譲渡所得計算で、取得費にVesting時の時価(円換算)を使用しているか? | ゼロ円計算は過大な納税に繋がります。 |
| 住民税 | 確定申告の情報は翌年の住民税にも反映されることを理解しているか? | 住民税についても外国税額控除の手続きが必要です。 |
| 扶養控除 | RSU所得が、配偶者や家族の扶養控除の基準(38万円・48万円など)を超えていないか? | 特に配偶者の収入がRSUで増えると扶養から外れる可能性があります。 |
RSUを最大限活かす!税理士が教える税金対策と資産運用
RSUは、あなたの努力が報われた大きな資産形成のチャンスです。二重課税対策を済ませた後は、この資産をさらに活かす出口戦略を考えることが重要です。
資産最大化のための税金対策
二重課税の解消は第一歩ですが、その後の税金対策を講じることで、手取り額をさらに増やすことができます。
具体的には、RSUを現金化した資金を、NISA(ニーサ)やiDeCo(イデコ)のような非課税制度に回すことを強く推奨します。NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)を利用すれば、将来的な運用益や売却益が非課税になったり、掛け金が所得控除の対象になったりするため、非常に効果的な税金対策となるでしょう。
また、万が一、他の上場株式や投資信託で損失が出ている場合には、その損失をRSUの売却益(譲渡所得)と損益通算することも有効です。これにより課税対象となる所得を減らすことができます。
RSUの資産としての出口戦略と相続
RSUは、受け取った後、いつ売却するかによって最終的な手取り額が変わります。
売却タイミングの戦略として、まず即時売却(すぐに売る)という方法があります。RSUの課税の仕組み上、Vesting時と売却時が近ければ、譲渡所得(売却益)は小さくなるため、税金計算が最もシンプルになり、株価変動のリスクも避けられます。 これに対し、長期保有(長く持つ)という戦略もあります。これは将来の株価上昇を期待して保有する方法ですが、売却益は大きくなる可能性がある反面、それに伴う税金(譲渡所得)も増え、株価下落のリスクも負うことになります。
さらに、こうした売却戦略とは別に、相続・贈与の視点も重要です。RSUを現金化せずに保有したまま亡くなった場合、株式は相続税の対象となり、その評価額は相続発生日の時価に基づきます。 また、生前に贈与を検討する場合、日本の贈与税は高率であるため、「暦年課税の基礎控除(年間110万円)」の範囲内で少しずつ贈与したり、「相続時精算課税制度」の利用を検討するなど、税理士と連携した計画的な対策が不可欠です。
RSUは国際税務、所得税、譲渡所得、そして相続・贈与と、非常に幅広い税務分野にまたがるテーマです。複雑な手続きを避け、資産を最大化するためにも、国際税務に強い専門家への相談を検討されることをお勧めします。
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