アメリカにお住まいだったご家族が亡くなり、悲しみに暮れる間もなく、現地の金融機関や弁護士から届いた一通のメール。そこに書かれた「Federal Transfer Certificate (Form 5173)」という見慣れない単語を見て、頭が真っ白になってしまった…今、この記事を読んでいるあなたは、そんな状況にいらっしゃるのかもしれません。
「何から手をつければいいのか分からない」
「英語の書類なんて、読めないし書けもしない」
「このままでは、故人が遺してくれた大切な資産を受け取れないのではないか…」
ご安心ください。そのような不安を抱えるのは、決してあなた一人ではありません。私たち税理士法人ネイチャーには、毎年多くの同じ悩みを抱えたお客様がご相談にいらっしゃいます。この記事では、国際相続を専門とする私たちが、これまで培ってきた経験と知識を基に、以下の点を徹底的に解説します。
- 譲渡証明書(Form 5173)の正体と、なぜ必要なのか
- 取得までの具体的な手順と、かかる期間の目安
- 多くの方が陥る失敗例と、それを避けるためのプロの視点
- 専門家に依頼する本当のメリット
読み終える頃には、あなたの目の前にかかっていた霧が晴れ、何をすべきかが明確になっているはずです。どうぞ、肩の力を抜いて読み進めてください。
譲渡証明書(Form 5173)とは?米国資産を動かすための「通行手形」です
まず、この複雑そうな書類を分かりやすくご説明します。
米国の遺産税を支払った(あるいは支払う必要がない)証明書
譲渡証明書(Transfer Certificate)とは、一言でいうと「故人の米国資産に関して、アメリカの遺産税(Estate Tax)をきちんと納税済みである、もしくは納税の必要がないことを、IRS(米国内国歳入庁、日本の国税庁にあたる機関)が証明します」という公式な証明書です。
アメリカ政府からすれば、外国人が米国内の資産を相続する際に、遺産税を取り損なうわけにはいきません。そのため、銀行や証券会社などの金融機関に対して、「IRSから譲渡証明書というお墨付きが出るまでは、絶対に資産を動かしてはいけない」と厳しく命じているのです。
つまり、この証明書は、あなたが故人の米国資産を解約したり、日本の口座に送金したりするための通行手形のようなものだとイメージしてください。
もし譲渡証明書がなければ?資産が凍結され、永久に動かせないリスクも
この通行手形がなければ、金融機関はあなたの指示に一切応じてくれません。
銀行口座は解約できず、株式を売却することもできない可能性があります。実際に、手続きの複雑さから途中で諦めてしまい、何年もの間、資産が凍結されたままになっているケースも残念ながら存在します。
譲渡証明書が必要になる「米国資産」の具体例
では、どのような資産を相続した場合に、この譲渡証明書が必要になるのでしょうか。代表的なものは以下の通りです。
- 米国の不動産(土地、建物)
- 米国の銀行・証券会社の口座にある預金、株式、投資信託など
- 米国法人の株式(上場・非上場を問わず)
- 米国内にあるゴルフ会員権や美術品など
これらの資産を、日本にお住まいのあなたが相続する場合には、原則としてこの譲渡証明書が必要になります。
【3ステップで理解】譲渡証明書(Form 5173)取得までの全体像
「通行手形の重要性は分かった。では、どうすれば手に入るの?」
ここからは、取得までの具体的な流れを3つのステップに分けて解説します。
Step1:大前提となる米国遺産税申告書(Form 706-NA)の提出
譲渡証明書(Form 5173)を単体で申請することはありません。最初のステップは、米国非居住者向けの遺産税申告書であるForm 706-NAを作成し、IRSに提出することです。この申告書で故人の全財産を報告し、納税額を計算(または非課税であることを証明)します。このForm 706-NAの提出が、譲渡証明書取得の全ての始まりとなります。
【税理士からのワンポイント】
Form 706-NAは、故人の財産が基礎控除額(2024年時点では6万ドル)を超える場合に提出義務があります。しかし、6万ドル以下であっても、金融機関から譲渡証明書の提出を求められるケースがほとんどです。そのため、資産額にかかわらず、この申告手続きは必要と考えておきましょう。
Step2:譲渡証明書交付申請書(Form 5173)の作成・提出
Form 706-NAと同時に、あるいはその後にForm 5173, Application for Federal Transfer Certificateという申請書を提出します。
この書類には、故人の情報、相続人の情報に加え、資産を保有している金融機関名や口座番号、資産の評価額などを正確に記載する必要があります。この情報が、Step1で提出した遺産税申告書(Form 706-NA)の内容と完全に一致していることが極めて重要です。
Step3:IRS(米国歳入庁)による審査と証明書の発行
2つのフォーム(Form 706-NAとForm 5173)がIRSに受理されると、ようやく審査が開始されます。IRSの担当官は、提出された書類に不備がないか、税額の計算は正しいかなどを厳しくチェックします。
全ての審査が完了し、納税が確認される(あるいは納税不要と判断される)と、晴れてあなたの元(もしくは代理人である専門家の元)に、譲渡証明書が郵送されてきます。この証明書を米国の金融機関に提出することで、ようやく資産の凍結が解除されるのです。
【要注意】申請から取得まで1年以上?手続きが長期化する現実
「3ステップなら簡単そう」と思われたかもしれません。しかし、ここには大きな落とし穴があります。それは、手続きにかかる時間です。
順調に進んだとしても、申請から譲渡証明書の取得まで、最低でも6ヶ月~1年はかかります。もし書類に少しでも不備があれば、IRSとの間で何度もやり取りが発生し、2年以上かかってしまうケースも珍しくありません。この時間の長さが、多くの方を精神的に疲弊させてしまう最大の原因なのです。
プロが明かす!譲渡証明書の手続きで9割の人が陥る3つの落とし穴
なぜ、これほどまでに時間がかかってしまうのでしょうか。それは、国際相続の実務経験がないと分からない、特有の落とし穴が数多く存在するからです。ここでは、私たちが見てきたよくある失敗例を3つご紹介します。
落とし穴1:情報の不一致。申告書と金融機関の情報が1ドル違うだけで却下?
これは非常に多いケースです。遺産税申告書(Form 706-NA)に記載した資産評価額と、譲渡証明書の申請書(Form 5173)に記載した金額、そして金融機関がIRSに報告している残高。これらが1ドルでも異なると、IRSは書類を却下します。
特に株式などは日々価値が変動するため、「いつの時点の評価額で統一するのか」という専門的な知識が必要です。このズレに気づかず申請してしまうと、数ヶ月後に却下の通知が届き、また一からやり直し…ということになりかねません。
落とし穴2:書類の不備。日本では馴染みのない「認証」手続きの壁
申請には、遺言書や死亡診断書など、多くの添付書類が必要です。これらの書類が英語でない場合は、翻訳文を添付する必要があります。
さらに、書類によってはCertified Copy(認証謄本)やNotarization(公証)といった、日本ではあまり馴染みのない方法で、その書類が本物であることを証明しなくてはなりません。この手続きを間違えると、書類が差し戻されてしまう可能性が高くなります。
落とし穴3:金融機関とのコミュニケーションエラー。担当者による対応の違い
無事に譲渡証明書を取得しても、それで終わりではありません。今度はその証明書を金融機関に提出し、解約や送金の手続きを進める必要があります。
しかし、米国の金融機関は担当者によって言うことが変わったり、国際送金の手続きに不慣れだったりすることが頻繁にあります。英語での電話やメールで、粘り強く、かつ正確にこちらの要求を伝え続ける高度な交渉力が求められるのです。
手続きは自分でできる?税理士に依頼する?メリット・デメリットを徹底比較
これらの落とし穴を前に、「やはり自分では無理かもしれない…」と感じられたかもしれません。ここで、ご自身で手続きを進める場合と、私たちのような専門家に依頼する場合を比較してみましょう。
ご自身で挑戦する場合の「覚悟すべきこと」
- 膨大な時間と労力: IRSのウェブサイトや手引きを読み解き、全ての書類を不備なく準備するには、かなりの時間をかけた学習と作業時間が必要です。
- 英語力: 書類の読解・作成はもちろん、IRSや金融機関との電話・メールでの質疑応答も全て英語です。
- 精神的なストレス: 進捗が見えず、いつ終わるか分からない状況は、想像以上に精神的な負担となります。
- 金銭的なリスク: 申告内容の誤りによる追徴課税や、手続きの遅延による機会損失(株価の下落など)のリスクを全て自分で負うことになります。
国際相続の税理士に依頼する4つの絶対的メリット
- 圧倒的な時間と労力の節約: あなたは必要最低限の書類(戸籍謄本など)をご準備いただくだけです。煩雑な書類作成、IRSや金融機関との交渉は、全て私たちが代行します。
- 確実性とスピード: 最新の税法と実務に精通したプロが、最短ルートで手続きを完了させます。よくある落とし穴を熟知しているため、無駄な手戻りがありません。
- 安心感: 進捗状況は都度日本語で丁寧にご報告します。「今、手続きがどの段階にあるのか分からない」という不安はありません。
- 税務上の最適化: 私たちは単なる手続き代行屋ではありません。日米の税法を考慮し、あなたにとって最も有利な(納税額が少なくなる)申告方法を提案します。譲渡証明書取得後の日本での相続税申告まで、ワンストップでサポート可能です。
最後に:不安を乗り越え、大切な資産を未来へつなぐために
この記事を読み終えた今、譲渡証明書(Form 5173)の手続きと、その取得がいかに複雑で時間のかかるプロセスかが明確になったことでしょう。この証明書は、故人の米国資産を動かすための通行手形であり、これを手に入れるには、米国遺産税申告書(Form 706-NA)の正確な提出と、IRSとの粘り強いやり取りが不可欠です。
国際相続は、誰もが経験する手続きではありません。情報の不一致や書類の不備、そしてIRSや金融機関とのコミュニケーションなど、多くの人が途中で挫折してしまう落とし穴が存在します。
しかし、ご安心ください。国際相続を専門とする税理士に依頼することで、煩雑な手続きを確実かつスムーズに完了させることが可能です。一人で抱え込まず、まずは専門家にご相談ください。
資産運用や税金対策についてどんな不安や疑問もコンサルタントが丁寧にお答えします。
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