「親が経営していた会社の株式を相続したものの、いくらの価値があるのか、いつまでに何をすべきか分からない」と悩む方は少なくありません。非上場株式は市場価格がなく、評価方法も株主区分や会社規模などで異なります。
上場株式のようにすぐ売却できるとは限らない一方、相続税は原則として金銭で納付し、申告・納付期限は通常10か月以内です。相続放棄や準確定申告には、さらに早い期限もあります。
この記事では、非上場株式の評価、売却、納税資金の準備、2026年に始まった評価制度見直しの検討について、期限に沿って整理します。ご自身がいつまでに何を確認すべきかを把握できます。
非上場株式と上場株式の相続との違い
非上場株式の相続では、証券取引所に上場されていない会社の株式を相続人が取得します。
非上場株式は上場株式と異なり、売却しにくく、相続後は株主名簿の名義書換などの手続きも必要です。換金性が低い場合は、相続税の納税資金も早めに確認しておきましょう。
非上場株式の相続税評価は相続する人で変わる
同じ会社の株式でも、相続する人の議決権割合や役員かどうかなどによって評価方法が変わります。どの評価方法の対象になるかを確認しましょう。
| 相続する人 | 評価方法 | 特徴 |
| 同族株主等のうち一定の株主 | 原則的評価方式 (類似業種比準方式・純資産価額方式・併用) | 会社規模や業績、資産などを反映して評価 |
| 少数株主等のうち一定の株主 | 特例的評価方式 (配当還元方式) | 配当をもとに評価 |
同族株主が相続すると原則的評価方式になる
同族株主が取得した株式は、原則的評価方式で評価するのが基本です。同族株主とは、株主本人と一定の特別関係者を合わせた議決権割合が30%以上となるグループに属する株主を指します。50%超の議決権を持つグループがある場合は、そのグループに属する株主が対象です。
ただし、同族株主でも議決権割合などによって配当還元方式の対象になる場合があります。判定は株式数ではなく、原則として議決権割合を基礎に行います。
少数株主が相続すると配当還元方式を使える
会社への支配力が比較的小さい一定の株主は、配当還元方式の対象となります。配当還元方式は、過去の配当金額をもとに株価を評価する方法です。
配当還元価額が原則的評価方式による価額を上回る場合は、原則的評価方式による価額で評価します。適用できるかどうかは、同族株主の有無や議決権割合、役員に該当するかなどを確認して判断しましょう。
会社規模で類似業種比準方式の割合が決まる
原則的評価方式では、会社規模も評価方法に影響するため確認しましょう。従業員数、総資産価額、取引金額などをもとに、大会社・中会社・小会社に区分します。中会社はさらに3区分に分かれます。
会社規模に応じて、類似業種比準価額と純資産価額を用いる割合が異なります。
特定の評価会社は純資産価額方式で評価する
一定の要件に該当する特定の評価会社は、通常の会社規模別の方法とは異なる方法で評価します。代表例は、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社などです。
純資産価額方式を用いるケースがあるほか、株式等保有特定会社では所定の方法による評価も認められています。持株会社についても、資産構成などから株式等保有特定会社に該当するか確認することが重要です。
株式が分散している会社の法務面については、こちらで詳しく解説しています。
相続税評価額と売買時の価格の違いはこちらをご覧ください。
非上場株式の相続で押さえる5つの期限
非上場株式の相続では、手続きごとに期限が異なります。期限を過ぎると利用できない制度もあるため、何をいつまでに判断するかを整理しましょう。
| 期限 | 決めること | 過ぎた場合 |
| 3か月 | 相続放棄をするか | 原則として放棄できない |
| 4か月 | 準確定申告・納付 | 加算税・延滞税がかかる場合がある |
| 8か月 | 事業承継税制の認定申請 | 原則として納税猶予を受けられない |
| 10か月 | 相続税の申告・納付 | 加算税・延滞税がかかる場合がある |
| 約3年10か月 | 株式の譲渡をするか | 一定の税務上の特例が使えない |
3か月以内に相続放棄をするか判断する
相続放棄は、自己のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に行うのが原則です。相続放棄をすると、預貯金や不動産などの相続財産も受け取れません。株式だけを放棄することはできないため注意しましょう。
財産の調査に時間がかかる場合は、3か月以内に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てられます。伸長が認められれば、判断する時間を確保できます。
4か月以内に準確定申告を済ませる
準確定申告は、亡くなった方に所得税の申告義務がある場合に、相続人が代わって行う手続きです。期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。
たとえば、死亡した年の給与収入が2,000万円を超える場合などは申告が必要です。給与以外の所得があるオーナー経営者は、申告の要否を確認しましょう。相続人に海外居住者がいる場合は、相続税の課税範囲なども別途確認が必要です。
8か月以内に事業承継税制の認定を申請する
後継者が非上場株式を相続する場合、一定の要件を満たせば相続税の納税猶予を受けられる事業承継税制があります。適用には都道府県知事の認定が必要です。相続の場合、都道府県知事への認定申請は、原則として相続開始の日の翌日から5か月を経過する日以後、8か月を経過する日までに行います。
特例措置では特例承継計画も必要です。提出期限は2027年9月30日、特例措置の対象となる贈与・相続等は2027年12月31日までです。
10か月以内に相続税を申告して納める
相続税の申告・納付期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。申告期限までに遺産分割が終わっていない財産には、原則として配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できません。
「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付し、期限後3年以内に分割した場合は、一定の要件のもとで特例を適用できます。分割後に更正の請求を行い、相続税の還付を受けられる場合もあります。
3年10か月を過ぎると金庫株特例が使えなくなる
相続した非上場株式を発行会社へ譲渡する場合、一定の要件を満たせば、いわゆる金庫株特例を適用できます。金庫株特例を適用することで、自社株買いの際に発生する所得を最大55%の総合課税ではなく、一律20.315%で分離課税となる譲渡所得で計算をすることができます。正確な期限は、相続開始日の翌日から「相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日」までです。
同じ期間内の譲渡では、相続税額の一部を取得費に加算できる特例もあります。発行会社の資金準備や譲渡手続きにも時間が必要なため、期限から逆算して早めに検討しましょう。
非上場株式の相続手続きは名義書換から始まる
非上場株式を相続した場合は、まず発行会社へ連絡し、遺言や遺産分割の内容を確認したうえで、株主名簿の名義書換を進めます。
相続は「一般承継」に当たるため、譲渡制限株式であっても、原則として通常の株式譲渡のような会社の承認は必要ありません。
ただし、定款に「相続人等に対する売渡請求」の定めがある会社では、一定の手続きにより、会社が相続人に対して株式の売渡しを請求できる場合があります。定款の内容もあわせて確認しましょう。
名義書換に必要な書類は会社や相続の状況によって異なりますが、戸籍関係書類、遺言書、遺産分割協議書などの提出を求められることがあります。
また、相続税の申告が必要な場合には、非上場株式の評価も並行して進めます。決算書、法人税申告書、株主名簿など、株式評価に必要な会社資料も早めに準備しておくことが重要です。
非上場株式の相続で納税資金をつくる方法
納税資金を確保する方法を確認しましょう。税務上の特例には要件や期限があるため、手続きの順序にも注意が必要です。
- 保有株式の一部を発行会社に売却する
- 金庫株特例を利用する
- 死亡退職金を納税資金に充てる
保有株式の一部を発行会社に売却する
会社が自社の株式を買い取ることを自己株式の取得といいます。相続人が株式の一部を会社へ売却すれば、経営権への影響を抑えながら納税資金を確保できる場合があります。
ただし、自己株式の取得には会社法上の手続きが必要です。取得対価も原則として分配可能額の範囲に限られます。会社の資金繰りや財務状況への影響も確認しましょう。
譲渡時の税金の計算方法はこちらをご覧ください。
金庫株特例を利用する
非上場株式を発行会社へ譲渡すると、譲渡対価のうち資本金等の額を超える一定部分は、原則としてみなし配当の対象となります。
相続税を納める方が、相続税の対象となった非上場株式を一定期間内に発行会社へ譲渡した場合、みなし配当課税を行わず、譲渡所得として計算できる特例があります。
正式名称は「相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」です。適用の有無によって税負担が変わるため、売却前に要件を確認することが重要です。
届出は株式を譲渡する前に提出する
特例を利用する相続人は、株式を発行会社へ譲渡する日までに所定の届出書を発行会社へ提出します。発行会社は、譲り受けた年の翌年1月31日までに所轄税務署へ提出します。
一定の要件を満たせば、支払った相続税の一部を取得費に加算する特例も併用できます。譲渡できる期間は、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。
死亡退職金を納税資金に充てる
会社から遺族へ死亡退職金を支給できる場合は、相続税の納税資金に充てられます。相続人が受け取る死亡退職金には、500万円 × 法定相続人の数の非課税限度額があります。
相続税の対象となる退職手当金等は、非上場株式を純資産価額方式で評価する際、会社の負債として扱われます。そのため、株式の評価額が引き下がる場合があります。
役員退職金は、株主総会の決議等で金額を確定させるのが一般的です。税務上、不相当に高額な部分は損金に算入できないため、支給額の妥当性も確認しましょう。
非上場株式を相続する際の注意点
非上場株式は換金しにくい一方で、相続税の課税対象になります。相続前後では、主に次の点に注意しましょう。
- 評価額が高くても、すぐに現金化できるとは限らない
- 譲渡制限がある場合、売却に会社の承認が必要になる
- 少数株主は経営への影響力が限られやすい
- 株式が分散すると、会社の意思決定が複雑になる場合がある
- 相続税評価額と遺産分割や売買で用いる価額は一致するとは限らない
特に、譲渡制限株式は原則として物納できないため、相続税の納税資金を別途確保する必要があります。株式を誰が引き継ぐかは、税負担だけでなく、換金性や経営権への影響も踏まえて検討しましょう。
非上場株式の相続を望まない場合の選択肢
非上場株式を自分で保有し続けたくない場合には、相続放棄以外にも、第三者への売却や代償分割などの方法があります。方法によって手続きや税負担が異なるため、最終的に手元へいくら残るのかも含めて比較しましょう。
- 譲渡承認請求を通じて会社等に買い取ってもらう
- 代償分割で株式を後継者に集める
譲渡承認請求を通じて会社等に買い取ってもらう
相続によって譲渡制限株式を取得すること自体には、原則として会社の承認は必要ありません。一方、相続した譲渡制限株式を第三者へ売却する場合には、原則として会社の承認が必要です。
譲渡承認を請求する際に、承認されない場合には会社または指定買取人による買い取りを求める旨も請求できます。会社が譲渡を承認しなかった場合には、会社自身が買い取るか、指定買取人を指定して買い取る手続きへ進みます。
売買価格は当事者間の協議で決めます。協議がまとまらない場合には、一定の期間内に裁判所へ売買価格の決定を申し立てることができます。
なお、この制度は、相続人がいつでも自由に会社へ株式の買い取りを請求できる制度ではありません。第三者への譲渡承認請求と、不承認の場合の買取請求を組み合わせて利用する制度である点に注意しましょう。
代償分割で株式を後継者に集める
代償分割は、後継者が株式を取得し、他の相続人へ現金などを支払う方法です。株式の分散を防ぎやすい一方、後継者には代償金を用意する負担があります。
相続税の計算方法にも影響するため、金額を決める際は税務上の取扱いを確認しましょう。
非上場株式の相続税評価は見直しが検討されている
国税庁は2026年4月から、取引相場のない株式の評価制度について検討を進めています。現時点で改正内容や適用時期は決まっていないため、公表されている議論の状況を確認しておきましょう。
国税庁が2026年4月に有識者会議を設置した
会計検査院の指摘などを踏まえ、国税庁は2026年4月20日に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第1回会合を開催しました。その後、5月11日に第2回、6月4日に第3回、7月3日に第4回、8月20日に第5回が開かれています。
第4回では、抜本的な見直しも視野に、評価方式の一本化や類似業種比準方式、配当還元方式などのあり方が検討されました。1964年に財産評価基本通達が制定されて以降、改正を重ねてきた現行の評価体系について、幅広い論点が議論されています。
また、第5回では(あくまで仮の方法としてですが)類似業種比準価額方式によらない新たな評価方法のイメージが、有識者会議の資料を通じて公表されました。
改正前に自社株の状況を点検しておく
現在、評価制度の改正は正式決定していません。一方、非上場株式の評価方法を、簿価純資産や収益力を基礎とする方式へ見直す新ルール案が報じられています。2028年1月以降の相続からの適用を目指すとの報道もありますが、具体的な制度内容や適用時期は、今後の国税庁の公表資料を確認する必要があります。
現時点では、自社が現行ルールでどの区分に該当するかを把握しておくことが重要です。会社規模や株主区分、資産構成などを確認しておけば、新ルールの内容が確定した際に評価額への影響を比較しやすくなります。
非上場株式の相続人が海外に住む場合の注意点
国外転出(相続)時課税が適用される場合は、原則として相続開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、被相続人の準確定申告と納税を行います。
この時点で遺産分割が終わっていない場合は、原則として各共同相続人が民法上の相続分に従って対象資産を取得したものとして、いったん国外転出(相続)時課税を計算します。
その後の遺産分割によって、非居住者が取得する対象資産の額が変わった場合には、分割の日から4か月以内に修正申告や更正の請求などを行って税額を調整します。
相続税の申告期限である10か月より早い段階で対応が必要になるため、非居住者である相続人がいる場合には、遺産分割が未了でも早めに適用関係を確認することが重要です。
非上場株式の相続でよくある質問
- 非上場株式の相続税評価額と売買価格は同じですか?
- 相続税の申告後でも会社に買い取ってもらえますか?
非上場株式の相続税評価額と売買価格は同じですか?
同じとは限りません。相続税評価額は相続税を計算するための価額で、実際の売買価格とは異なる場合があります。売買価格が税務上の時価と大きく異なる場合には、贈与税など別の課税関係が生じることもあるため注意が必要です。
相続税の申告後でも会社に買い取ってもらえますか?
会社法上の手続きや財源規制などの要件を満たせば、発行会社に買い取ってもらうことは可能です。一定の要件を満たせば、相続した非上場株式を発行会社へ譲渡した際のみなし配当課税について特例を適用できます。ただし期限と届出の要件があるため、売却前に確認が必要です。
非上場株式の相続に不安があるなら税理士法人ネイチャーへ
非上場株式の相続では、株価評価、納税資金、遺産分割など、複雑な内容を短期間で検討しなければなりません。相続が開始したら相続手続きについて早い段階で着手をしないと、重要な期日を過ぎてしまい、ペナルティが発生する可能性もあります。
税理士法人ネイチャーでは、相続税の申告や生前からの対策に対応しています。評価額の見当がつかない段階でも、まずは現在の株価評価の試算や必要な手続きの整理をするところからご相談ください。
まとめ:非上場株式の相続は期限から逆算して決める
非上場株式を相続したら、まず株主区分や議決権割合、会社規模、資産構成を確認し、評価方法と評価額を整理しましょう。相続放棄は原則3か月、準確定申告は4か月、事業承継税制の認定申請は原則8か月、相続税の申告・納付は10か月以内です。
期限を過ぎると利用できる制度が限られる場合があります。早めの確認が重要です。何から着手すべきか迷う方は、ぜひ税理士法人ネイチャーの無料相談をご利用ください。
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