「赤字の会社を買えば、自社の法人税が減るらしい」とM&Aの仲介会社や知人の経営者から聞いたことがある方もいるでしょう。しかし、赤字会社を買収しただけで、自社の法人税が減るわけではありません。
株式を取得して赤字会社を子会社にしても、買収した会社と自社は別法人のままです。そのため、買収先の繰越欠損金を、自社の利益から直接差し引くことは原則としてできません。
一方で、適格合併やグループ通算制度などでは、一定の要件のもとで欠損金を利用できる場合があります。ただし、買収前に生じた欠損金には、引継ぎや利用に制限が設けられることもあります。
この記事では、赤字会社を買収した場合の繰越欠損金の扱いを、買収方法ごとに解説します。あわせて、欠損金を利用するための条件、買収前に確認すべきポイント、買収価格を考える際の注意点も整理します。
「想定していたほど法人税が減らなかった」という事態を避けるための判断材料として、ぜひ参考にしてください。
赤字会社の買収で節税できる?
赤字会社の買収で節税できるかどうかは、買収方法や買収後の事業内容、繰越欠損金の利用条件によって変わります。
まず押さえておきたいのは、株式を取得して赤字会社を買収しただけでは、自社の法人税は減らないという点です。株式を買っても、買収した会社と自社は別法人のままです。繰越欠損金は、原則として欠損金が生じた法人自身の所得から控除します。
たとえば、毎年3,000万円の利益が出ているA社があるとします。A社が、繰越欠損金1億円を持つB社の株式をすべて買い取っても、A社の利益からB社の繰越欠損金を直接差し引くことはできません。
B社がそのまま事業を続ける場合、繰越欠損金は原則としてB社自身の所得から控除します。
一方で、適格合併などでは、一定の要件を満たすと欠損金を引き継げる場合があります。また、グループ通算制度を適用する場合には、通常の株式取得とは異なる取扱いになります。
ただし、いずれの場合も無条件に欠損金を利用できるわけではありません。支配関係が生じた時期、買収後の事業内容、申告状況、繰越期限、控除限度額などを確認する必要があります。
まずは、買収の方法によって繰越欠損金の扱いが変わる点を押さえましょう。
赤字会社の買収方法で欠損金の扱いが変わる
欠損金をどこで使えるかは、株式譲渡・事業譲渡・合併のどれを選ぶかで変わります。表で違いをつかんでから、手法ごとの注意点を見ていきましょう。
| 買収の方法 | 欠損金の帰属先 | 買い手の利益から直接差し引けるか | 主な確認ポイント |
| 株式譲渡 | 買収した赤字会社 | 原則できない | 赤字会社が将来黒字になるか |
| 事業譲渡 | 売り手の会社 | 原則できない | 引き継ぐ資産・負債・契約 |
| 適格合併 | 要件を満たせば合併法人が引き継げる場合がある | 条件による | 適格要件、支配関係、欠損金の引継制限 |
株式譲渡では対象会社が欠損金を使う
株式譲渡(会社の株を買い取って経営権を得る方法)では、欠損金は買収した赤字会社の中に残ります。株主が変わっても、会社そのものは変わらないためです。
親会社になっても、原則として自社の利益から対象会社の欠損金を直接差し引くことはできません。買収した会社が将来利益を出せるかが、欠損金を利用できるかを左右します。
なお、グループ通算制度を適用する場合は取扱いが異なり、通算グループへの加入時に時価評価の対象となる場合、加入前の欠損金が切り捨てられることがあります。また、切り捨てられなかった加入前の欠損金についても、加入した法人自身の所得の範囲でしか控除できない場合があります。
事業譲渡では欠損金を承継しない
事業譲渡では、売り手の欠損金は買い手に移りません。事業譲渡は、資産や契約などを個別に引き継ぐ方法であり、会社そのものを承継するわけではないためです。
事業譲渡を選んでも、売り手の欠損金を買い手の所得から差し引くことはできません。欠損金は売り手の会社に残ります。
適格合併でも承継可否を判定する
適格合併(税法上の要件を満たし、資産や負債を原則として帳簿価額で引き継ぐ合併)では、被合併法人の繰越欠損金を引き継げる場合があります。
ただし、適格合併であれば無条件に欠損金を利用できるわけではありません。合併法人と被合併法人の支配関係が生じた時期や、みなし共同事業要件を満たすかどうかによって、欠損金の引継ぎが制限されることがあります。
たとえば、支配関係が生じたのが合併事業年度の開始の日の5年前の日以後で、かつ、みなし共同事業要件も満たさない場合には、支配関係が生じる前の欠損金などが引継制限の対象となる場合があります。
適格合併を使って欠損金の引継ぎを検討する場合は、法人税法57条などに基づき、支配関係の時期、事業の関連性、事業規模、役員や従業員の引継ぎ状況などを個別に確認する必要があります。
赤字会社の買収で欠損金を利用する条件
欠損金を使うには、申告の状況や期限、買収後の事業内容など、複数の条件を満たす必要があります。主な4つの条件を順に確認していきます。
- 申告要件を満たしている
- 欠損金の繰越期間が残っている
- 買収後の一定事由による利用制限を判定する
- 控除限度額を算定する
申告要件を満たしている
欠損金の繰越控除を受けるには、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出している必要があります。青色申告とは、一定の帳簿書類を備えることなどを条件に、税務上の特典を受けられる申告制度です。
その後も連続して、確定申告書を提出していなければなりません。買収前には、過去の法人税申告書、別表七(一)、青色申告の承認状況、帳簿書類の保存状況を確認しましょう。
欠損金の繰越期間が残っている
欠損金には使える期限があります。2018年4月1日以後に始まった事業年度の欠損金は、10年間繰り越せます。2018年4月1日前に始まった事業年度の欠損金は、9年間です。
申告書上の欠損金が大きくても、期限が近ければ使い切れないまま期限を迎えるおそれがあります。別表七(一)で、事業年度ごとの欠損金額や繰越残高を確認しましょう。
買収後の一定事由による利用制限を判定する
特定支配関係が生じた日(特定支配日)から5年以内に一定の事由が生じると、欠損金の繰越控除が制限される場合があります。対象となるのは「欠損等法人」です。
欠損等法人とは、株式の50%超を取得されるなどして特定支配関係が生じた法人のうち、一定の欠損金額や評価損資産を有する法人を指します。欠損等法人に該当し、一定の事由が生じた場合には、買収前に生じた欠損金の繰越控除が制限されることがあります。また、含み損のある資産を売却して生じた損失についても、損金算入が制限される場合があります。
主な例は次のとおりです。
- 事業をしていなかった会社が、新たに事業を始める
- 元の事業をすべて廃止し、または廃止する見込みがある状態で、元の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れや出資を受ける
- 主な役員が全員退任し、従業員のおおむね20%以上が退職したうえで、元の従業員が実質的に携わらない事業の規模が、元の事業のおおむね5倍を超える
「5年間事業を続ければ制限を受けない」という規定ではありません。
該当するかどうかは、特定支配関係が生じた時期や買収後の事業内容などをもとに個別に判断します。
控除限度額を算定する
欠損金は、毎年の所得(税金計算上の利益)から全額を控除できるとは限りません。中小法人等は原則として所得金額の全額まで、中小法人等に該当しない法人は原則として所得金額の50%までが控除限度額です。中小法人等には、資本金1億円以下の普通法人などが該当します。
ただし、資本金1億円以下でも、資本金5億円以上の法人などとの間に完全支配関係がある法人は、中小法人等に該当しない場合があります。買収後の資本金や株主構成まで含めて、控除限度額を確認しましょう。
赤字会社を買収するメリット
赤字会社を買収する主なメリットは、次の2点です。
- 顧客、取引先、人材、許認可などの事業基盤を取得できる
- 対象会社が将来利益を出せば、一定の条件のもとで欠損金を使える
赤字会社であっても、顧客基盤、取引先、人材、技術、許認可などに価値がある場合があります。新しく事業を立ち上げるよりも、短い期間で新しい市場に参入できる可能性があります。
株式譲渡では、会社そのものが存続するため、許認可や契約関係を引き継ぎやすい場合があります。ただし、許認可の種類や契約内容によっては、届出、変更手続き、相手方の承諾などが必要になることがあります。
また、買収した会社が将来黒字化した場合、一定の要件を満たせば、その会社の所得から繰越欠損金を控除して、法人税負担を軽減できる可能性があります。
ただし、株式譲渡の場合、繰越欠損金は原則として買収した会社自身の所得から控除します。買い手である親会社の利益から、買収先の欠損金を直接差し引けるわけではない点に注意しましょう。
赤字会社を買収するデメリット
赤字会社の買収では、主に次の負担が生じる可能性があります。
- 買収後も赤字が続く可能性がある
- 対象会社の簿外債務が判明する可能性がある
- 事業再建や組織統合に追加費用がかかる
- 赤字が続いても法人住民税の均等割などがかかる
赤字会社は、買収後にすぐ黒字化できるとは限りません。赤字の原因が一時的なものではなく、事業構造や人員体制、取引条件にある場合は、改善までに時間と追加資金が必要になる可能性があります。
また、買収後に簿外債務が判明することもあります。簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務や、将来負担となる可能性がある義務をいいます。未払いの残業代、未払税金、社会保険料の未納、他社の借入れに対する保証などが代表例です。
たとえば、赤字会社を買収した後に、過去の未払い残業代が見つかることがあります。このような簿外債務の支払額が、想定していた欠損金による税負担の軽減額を上回る場合もあります。
さらに、買収後も赤字が続く場合でも、法人住民税の均等割などは原則として発生します。均等割は、所得の有無にかかわらず課される法人住民税です。
赤字会社の買収では、欠損金による税負担の軽減だけでなく、再建に必要な追加資金、簿外債務、固定的に発生する税金や管理コストも含めて判断しましょう。
赤字会社の買収価格の決め方
買収価格は、企業価値の評価を参考に、当事者間の交渉で決めます。
買収価格を検討する際は、会社の資産や負債、将来の収益力などから企業価値を評価します。資産や負債を時価で見直して純資産を求める方法のほか、今後の利益やキャッシュフローをもとに評価する方法もあります。赤字会社の場合、将来の収益見込みは慎重に見積もりましょう。
赤字会社の買収を成功させるポイント
赤字会社の買収では、欠損金の金額だけで判断しないことが重要です。買収後に赤字の原因を改善できるか、簿外債務や未納税金などのリスクがないか、黒字化までの資金計画を立てられるかを確認しましょう。
主なポイントは、次の3つです。
- 赤字の原因を分析する
- 買収前に対象会社を調査する
- 買収後の再建計画を数値化する
赤字の原因を分析する
まず、赤字が一時的な要因によるものか、事業構造上の問題によるものかを確認します。損益計算書、貸借対照表、資金繰り表などを可能であれば3〜5年分確認し、売上減少、粗利率の低下、固定費の過大、借入返済負担などの原因を整理しましょう。
買収後に改善できる原因であれば、再建によって企業価値を高められる可能性があります。一方で、需要の縮小や主要取引先への依存など、自社で改善しにくい原因が大きい場合は、赤字が続く可能性があります。
買収前に対象会社を調査する
買収前には、財務・税務・法務・労務の調査(デューデリジェンス)が重要です。税務の調査では、主に次の資料や事項を確認しましょう。
- 法人税申告書、決算書、別表七(一)
- 青色申告の承認状況と申告の連続性
- 株主名簿と株式の異動履歴
- 税務調査、修正申告、更正処分などの履歴
- 未納の税金、社会保険料、給与、残業代の有無
- 借入金、保証債務、係争中のトラブル
買収後の再建計画を数値化する
売上の回復に必要な期間や追加の運転資金を金額で見積もります。設備投資や組織統合に必要な費用も含めて計算しましょう。計画上、黒字化の時期が欠損金の繰越期限に間に合うかも確認が必要です。
赤字会社を買収する際のチェックリスト
赤字会社を買収する際は、欠損金の利用可否だけでなく、買収後の事業価値や追加負担まで確認することが重要です。契約前に、次の項目を一つずつ確認しましょう。
税務上の確認
- 買収方法が、株式譲渡・事業譲渡・合併のどれに該当するか確認したか
- 株式譲渡の場合、欠損金は買収先自身の所得から控除する前提で試算しているか
- 別表七(一)で、欠損金の残高、発生事業年度、繰越期限を確認したか
- 欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出しているか
- その後の各事業年度について、連続して確定申告書を提出しているか
- 帳簿書類の保存状況を確認したか
- 特定支配日から5年以内に、欠損金の利用制限に該当する事業変更、資金調達、役員・従業員の異動などの予定がないか
- 買収後に中小法人等に該当するか、控除限度額に影響がないかを確認したか
事業・価格面の確認
- 赤字の原因は、買収後に改善できるものか
- 簿外債務、未納税金、未納社会保険料、未払残業代、保証債務などを確認したか
- 黒字化の時期が、欠損金の繰越期限に間に合うか
- 欠損金の額面ではなく、実際に利用できる金額と税負担の軽減見込み額で評価しているか
- 買収価格に、欠損金の価値を過大に反映していないか
- 欠損金を除いても、買う価値がある事業か
法人税対策を見直すなら税理士法人ネイチャー
M&Aは複雑で、デューデリジェンスをおろそかにすると、想定外のリスクを抱え込む可能性もあります。税金対策をと思い赤字会社を買収したのに、コストがかさんで思ったより高い買い物になってしまった。そんな風な失敗事例も考えられます。
税理士法人ネイチャーでは、法人税対策や税金対策について、スポットでの相談・支援に対応しています。
もっとシンプルで、リスクの低い法人決算対策をお探しの方はぜひお気軽にご相談ください。
現在の顧問税理士との契約を継続したまま相談できるため、税対策だけをセカンドオピニオンとして確認したい場合にご活用いただけます。法人税対策についてお悩みの方は、税理士法人ネイチャーへご相談ください。
まとめ:赤字会社の買収は欠損金を除いた事業価値で判断しよう
株式取得によって赤字会社を買収しただけでは、自社の利益から買収先の欠損金を直接差し引けません。欠損金を利用するには、申告要件や繰越期限、支配関係、買収後の事業内容、控除限度額などの確認が必要です。
欠損金による税負担の軽減だけでなく、事業そのものの価値を踏まえて買収を判断しましょう。
税理士法人ネイチャーでは、さまざまな法人税対策を取り纏めてご提案しております。ご興味があられる方はお気軽に無料相談をご活用ください。
資産運用や税金対策についてどんな不安や疑問もコンサルタントが丁寧にお答えします。
お客様の保有資産をさらに増やすための最適な提案を数多くの選択肢からご提供します。
豊富な経験と、投資や税務の様々な視点から、お客様にあった税金対策を提案します。
相続税の不安やお悩みに、専門チームが最適な対策をご提案します。



