法人保険を解約すると、法人が受け取る解約返戻金は一定額が益金(収益)に計上され、法人税等の負担が増える場合があります。
ただし、受け取った解約返戻金の全額が、そのまま会社の益金になるとは限りません。帳簿上に保険積立金や前払保険料などが残っていれば、その資産計上額を取り崩した後の差額が損益に影響します。
法人オーナーが重視すべきなのは、表面的な解約返戻率ではなく、法人税等を差し引いた後に会社に残る金額です。無対策で法人保険を解約するのではなく、一定の対策がないか検討をするということが重要です。
本記事では、法人オーナーの財務戦略のサポートを長年担当してきた税理士法人が、法人契約の保険を解約した場合の税金と、益金が生じる場合に検討したい対策を解説します。
個人が解約返戻金を受け取る場合の所得税や贈与税については、生命保険の解約返戻金にかかる税金をご覧ください。個人と法人では課税関係が異なるため、分けて考える必要があります。
法人保険の解約返戻金の全額が利益(益金)になるとは限らない
法人保険を解約した場合、解約返戻金の全額がそのまま利益になるとは限りません。過去に支払った保険料の一部を「保険積立金」などとして資産計上している場合は、解約時にその資産計上額を取り崩します。
そのため、解約によって会社の利益に影響する金額は、基本的に次のように考えます。
| 解約返戻金 | 保険を解約して法人が受け取る金額 |
| 資産計上額 | 解約時点で帳簿に残っている保険積立金など |
| 利益または損失への影響額 | 解約返戻金 − 税務上の資産計上額 |
例えば、解約返戻金が1,000万円、保険積立金が600万円なら、法人の利益に影響する額は400万円です。
一方、過去の支払保険料をすべて損金処理しており、帳簿上に保険積立金などが残っていない場合は、解約返戻金の全額が法人の利益を増加させます。
2019年7月8日以後に契約した一定の定期保険・第三分野保険については、最高解約返戻率が50%を超える場合、原則として保険料の一部を一定期間資産計上します。2019年7月7日以前の契約は旧取扱いが適用されるため、契約日も確認が必要です。
契約時期や返戻率別の処理については、法人保険の税制改正で何が変わる?で詳しく解説しています。
法人保険の解約返戻金による利益の計算と、いつ解約するかの検討
法人オーナーにとって重要なのは、解約によってどの程度の税金がかかり、税引き後のキャッシュがどの程度増えるかということです。次の内容を検討いただければ、どの程度のキャッシュが残るかを計算することが可能になります。
- 解約返戻金により生じる益金の計算に必要な項目を確認
- 法人保険はいつ解約するべきか
- 法人保険の解約返戻率のピークアウト
- 今期と翌期の決算予測を比較する
解約返戻金により生じる益金の計算に必要な項目を確認
最初に、保険会社から解約予定日時点の解約返戻金額を取得します。次に、総勘定元帳などから、対象契約に対応する保険積立金や前払保険料の残高を確認します。
解約返戻金と資産計上額の差額を求めれば、会社の利益に与える概算の影響を把握できます。ただし、同じ勘定科目で複数の保険契約を管理している場合は、解約する契約に対応する残高がいくらであるかをチェックしなければなりません。
法人保険はいつ解約するべきか
解約返戻率が最も高い時期に解約しても、その年度の本業が大幅な黒字であれば、法人税等の負担が重くなる可能性があります。
一方で、役員退職金や大規模修繕などで大きな損金が発生する年度に解約すれば、解約による利益と損金を同じ事業年度で対応させられる場合があります。
その結果、課税所得の急増を抑えながら、保険解約によって必要資金を確保しやすくなります。 また大きなコストの発生による赤字決算の回避にも貢献できます。
法人保険の解約返戻率のピークアウト
法人保険の中には、一定の時期を過ぎると解約返戻率が低下していく商品があります。このように、解約返戻率が最も高い時期を過ぎることを、一般にピークアウトといいます。
ピークアウト後は、解約を先延ばしにするほど受け取れる解約返戻金が減少する可能性があります。そのため、税負担だけでなく、解約返戻金の減少額も含めて判断することが重要です。
うまく大きな経費の発生タイミングと解約のタイミングが重なればよいのですが、そのような大きな経費の予定がない場合は、能動的に対策を行う方法も考えられます。この対策方法については後ほど記載します。
今期と翌期の決算予測を比較する
解約時期を決める前に、今期と翌期の決算予測を作成します。
少なくとも、次の項目を比較してください。
- 本業の利益見込み
- 解約返戻金の推移
- 解約時点の資産計上額
- 役員退職金などの支出予定
- 利用できる繰越欠損金
- 法人税等の概算
- 解約後の資金需要
1年だけでなく複数年度で比較すると、税金と資金繰りの双方を踏まえた判断がしやすくなります。このような比較をして、どの時期に解約するべきかを検討することが重要です。
法人保険の解約返戻金で益金が生じる場合の5つの対策
それでは、法人保険の解約返戻金について、益金をどのように対策するかを考えてみましょう。
- 役員退職金の支給年度を把握する
- 本業が赤字となる年度に解約する
- 繰越欠損金を確認する
- 事業上必要な支出が発生する年度に解約する
- 中小企業経営強化税制を活用する
主な対策と注意点は、次のとおりです。これらは、適正な益金計上を前提に、会社全体の所得や資金繰りを調整する方法です。解約返戻金の計上を任意に回避する方法ではありません。
役員の退任予定がある場合は役員退職金の支給年度を把握する
役員の退任が具体的に予定されている場合は、役員退職金の損金算入時期と法人保険の解約時期を同じ事業年度にできるか検討します。
解約による利益と役員退職金の損金が同じ事業年度に計上されれば、課税所得の急増を抑えられる可能性があります。また役員退職金の損金計上による赤字決算の回避に、解約返戻金による特別利益が貢献できます。
ただし、解約返戻金と同額を退職金として計上すれば、必ず損金として認められるわけではありません。
役員退職金を損金算入するには、実際の退職があり、支給額が適正で、株主総会等の決議を経ていることなどが重要です。国税庁は、適正な役員退職金について、原則として金額が具体的に確定した事業年度に損金算入するとしています。
法人保険を役員退職金の原資にする方法は、保険を退職金代わりに活用する方法で詳しく解説しています。
本業が赤字になる年度に解約する
本業で税務上の欠損が生じる年度に解約すれば、当期の損失と解約による利益を相殺できる場合があります。
例えば、本業で500万円の赤字が生じる年度に500万円の解約返戻金による益金を計上すれば、両者を合算した課税所得がゼロになる可能性があります。
ただし、赤字になるタイミングを待っている間に解約返戻金が下がってしまっては元も子もありません。税負担を抑えるために解約を延期する場合は、延期によって減少する解約返戻金も比較してください。
繰越欠損金を確認する
過去に生じた繰越欠損金が残っていれば、解約益を含む所得から控除できる可能性があります。
青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金は、一定の要件を満たせば、原則として10年間繰り越せます。中小法人等以外では、原則として所得の50%に相当する金額が控除限度となるなど、法人区分によって取扱いが異なります。
繰越欠損金の残高は、法人税申告書の別表七(一)などで確認します。
事業上必要な支出が発生する年度に解約する
修繕、広告宣伝、人材採用、教育研修など、もともと予定していた支出がある年度に解約する方法も考えられます。ただし、機械や設備などの固定資産は、原則として取得時に資産計上し、減価償却を通じて費用化します。
そのため、1,000万円の設備を購入しても、1,000万円の解約益をその年度に全額相殺できるとは限りません。取得価額、耐用年数、事業供用日、適用できる特例を検討する必要があります。
中小企業経営強化税制を活用する
中小企業経営強化税制を活用して、新規事業に投資をする手法はこの数年、多くの法人オーナー様が取り組まれています。この税制は、一定の要件を満たしたうえで事業投資を行った場合に、その投資額の全額を初年度の損金に計上できるというものです(即時償却と税額控除の選択適用です)。
事前に経営力向上計画の認定を受けて税制を活用すれば、決算当月に1,000万円の固定資産を取得した場合でも、1,000万円の損金を計上することが可能です。
事業の売上と異なり、法人保険の解約返戻金は、益金とともにキャッシュが手元に入ってくることが特徴です。そのため、法人保険を解約して、中小企業経営強化税制を活用した事業投資に取り組むことは非常に相性が良く、多くの法人オーナー様が保険のピークアウト対策として利用をされています。
具体的に法人決算対策としてどのような事業投資に取り組まれている方がいるか、ということをお知りになりたい場合は、ぜひ当社担当者との無料面談をお申し込みください。
またこれら以外の損金計上の方法を検討する場合は、法人税の節税方法・テクニック23選も参考にしてください。
法人保険を解約する以外の方法で資金需要をカバーする
この記事を読まれている方の中には、直近で資金が必要となり法人保険の解約を検討されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。その場合は、解約だけでなく次のような方法も併せてご検討されることを推奨しております。
- 払済保険への変更
- 保険金額の減額
- 契約者貸付の利用
- 法人保険全体の見直し
払済保険へ変更して保険料の支払いを止める
払済保険とは、以後の保険料の支払いを止め、保障額を減らして契約を継続する方法です。この場合保険料の支払いがストップされるため、手元からのキャッシュアウトを減らすことができます。
ただし、払済保険に変更すれば課税を避けられるとは限りません。
国税庁は、原則として変更時の解約返戻金相当額と資産計上額との差額を、変更日の属する事業年度の益金または損金に算入する取扱いを示しています。契約の種類によって例外もあるため、専門家への事前確認が必要です。
保険金額を減額して一部の資金を受け取る
契約によっては、保険金額を減額し、一部の返戻金を受け取りながら保障を残せる場合があります。
減額部分についても、受け取った返戻金と対応する資産計上額を把握し、適正な経理処理を行います。
一時的な資金需要には契約者貸付を検討する
一時的に資金が必要な場合は、保険を解約せず、契約者貸付を利用できることがあります。
ただし、契約者貸付は借入れであり、利息が発生します(一般的には銀行からの事業融資等よりは利息は高くなる傾向にあります)。また返済しない場合は、将来受け取る保険金や解約返戻金から元利金が差し引かれる可能性があります。
法人保険全体の見直しを行う
解約、減額、払済変更、契約継続のどれが適切かは、加入目的や会社の財務状況によって異なります。また解約・減額・払済は、いざという時に受け取ることのできる保険金の額を減らすことにもつながります。そのため、それらの手続きによって必要保障額が不足してしまわないか、確認が必要です。
また足元ではかなり保険商品の投資効率が良くなっている場合があり、過去にかけた保険を解約し、今の保険に組み替えるだけで、保障額を増額させつつ毎月の支払保険料の額を減らすといったようなことができる場合もあります。もしそのような可能性がないか検討したい場合は、当グループに所属する専門の担当者が、無料で法人保険の現状分析と組み換え後にどのように変わるかを比較して、お伝えすることも可能です。ぜひご活用ください。
法人保険の解約返戻金に関するよくある質問
次のようなご質問をよくいただくため、回答を記載します。
- 法人保険の解約返戻金に消費税はかかる?
- 解約返戻金はどの事業年度に計上する?
- 解約返戻金が資産計上額を下回った場合はどうなる?
- 保険を一部解約・減額した場合も益金が生じる?
- 決算直前に解約しても対策は間に合う?
法人保険の解約返戻金に消費税はかかる?
法人保険の解約返戻金は、一般に消費税の課税対象にはなりません。
解約返戻金は、商品やサービスを提供した対価として受け取るものではないためです。法人税の計算上は収益や益金に影響する場合がありますが、消費税の課税売上には含めません。
解約返戻金はどの事業年度に計上する?
原則として、保険契約の解約が成立し、法人が解約返戻金を受け取る権利と金額が確定した日の属する事業年度に計上します。
そのため、必ずしも銀行口座への入金日を基準にするわけではありません。例えば、決算日前に解約手続きが完了して返戻金額が確定し、入金だけが翌期になった場合は、当期の収益として未収計上が必要になる可能性があります。
一方、決算日までに解約申込みをしただけで、保険会社による解約処理や金額の確定が翌期となる場合は、翌期計上となることも考えられます。
解約返戻金が資産計上額を下回った場合はどうなる?
解約返戻金が帳簿上の保険積立金などを下回った場合は、その差額が損失になります。
例えば、解約返戻金が500万円、保険積立金が600万円であれば、100万円を保険解約損や雑損失などとして処理するのが一般的です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 500万円 | 保険積立金 | 600万円 |
| 保険解約損 | 100万円 |
税務上も、適正に資産計上されていた金額と解約返戻金との差額は、原則として損金に影響します。
保険を一部解約・減額した場合も益金が生じる?
一部解約や保険金額の減額により返戻金を受け取った場合も、益金が生じることがあります。
基本的には、受け取った返戻金から、一部解約・減額した部分に対応する保険積立金などの資産計上額を取り崩し、その差額を利益または損失として処理します。
例えば、一部解約による返戻金が300万円、対応する資産計上額が200万円であれば、差額100万円が利益に影響します。反対に、対応する資産計上額が350万円であれば、差額50万円は損失となるのが基本です。
ただし、資産計上額をどのように一部解約・減額部分へ対応させるかは、保険商品の仕組みや減額内容によって異なります。保険会社から減額返戻金の明細を取得し、残存契約の保障額や解約返戻金も含めて確認する必要があります。
決算直前に解約しても対策は間に合う?
決算直前でも対策できる場合はありますが、選択肢は限定されます。
例えば役員退職金による対策は、実際の退職に加え、原則として株主総会の決議などによって金額が具体的に確定することが必要です。決算対策のために退職金を未払計上しただけでは、当期の損金として認められない場合があります。
実施時期や必要手続きが間に合わない場合は、無理に支出を増やすのではなく、翌期の解約も含めて税引後の手元資金を比較することが重要です。
法人保険の税金や解約対策なら税理士法人ネイチャー
税理士法人ネイチャーは、法人オーナーの保険解約返戻金に対するプランニングを多数行ってまいりました。本記事でご説明したような様々な手法を用いて、今期の決算ですぐ使える即効性の高い手法を、実際の事例と共にお伝えすることが可能です。
また当社は税理士法人ではありますが、顧問契約は原則承っておらず、スポットでのコンサルティング提案のみをさせて頂く事務所でございます。そのため、現在の顧問税理士様との関係性はそのままに、当社をセカンドオピニオンの税理士事務所としてご活用いただくことが可能です。よろしければ、当社担当との無料相談をご活用いただき、まずはどのような対策事例があるかをお伝えさせていただければ幸いです。
まとめ:法人保険の解約返戻金による益金は、その期の損金とセットで検討しよう
法人保険の解約返戻金は、無対策での解約となってしまうと大きな益金計上が発生し、結果として多額の法人税等の納税を求められる形となるケースがあります。そのような状況を回避するためには、解約に向けてどのような選択肢があるのかを確認し、経営する法人の状況に当てはめていくことが重要です。
「有効な対策手法を知りたい」「法人の保険を整理し、見直したい」という方は、ぜひ一度、税理士法人ネイチャーの無料相談をご活用ください。専門的な視点から、より多くの財産をご家族へ引き継ぐためのサポートをいたします。
資産運用や税金対策についてどんな不安や疑問もコンサルタントが丁寧にお答えします。
お客様の保有資産をさらに増やすための最適な提案を数多くの選択肢からご提供します。
豊富な経験と、投資や税務の様々な視点から、お客様にあった税金対策を提案します。
相続税の不安やお悩みに、専門チームが最適な対策をご提案します。


