決算前になると、「社長の人間ドック代を会社で払えないだろうか」と考える経営者の方は多いものです。
人間ドック代は、対象者や費用負担の条件によって、福利厚生費として扱える場合もあれば、役員の給与として扱われる場合もあります。役員だけを対象とするなど給与扱いになった場合、役員本人に所得税等がかかるほか、会社側でも役員給与として損金に算入できないことがあるため注意が必要です。
この記事では、人間ドック代を福利厚生費として扱うための3つのポイントを国税庁の考え方をもとに解説します。一人社長の扱いや仕訳、残しておく書類もまとめました。受診前に確認しておけば、会計・税務処理を判断しやすくなります。
人間ドックの会社負担を福利厚生費にする3条件
人間ドック代を福利厚生費として扱うには、対象者や費用負担の条件を適切に定めることが重要です。次の3点が判断のポイントになります。
- 対象となる従業員が利用できる制度にする
- 役員だけを特別扱いしない
- 社会通念上妥当な内容・費用にする
1. 対象となる従業員が利用できる制度にする
まずは、合理的な基準を満たす人が広く申し込める制度にすることです。
国税庁の質疑応答事例では、35歳以上の希望者全員が受診でき、受診した人全員の費用を会社が負担する例が示されています。この場合、会社が負担した費用を給与として課税する必要はないとされています。
大切なのは、対象となる人が公平に受診できる制度になっているかです。希望しなかった人がいても、一定の基準を満たす人が申し込める制度であれば、直ちに給与課税されるわけではありません。一方、役員や特定の地位にある人だけを対象にすると、給与課税の問題が生じる可能性があります。
一定年齢以上に限定する場合
35歳以上や40歳以上など、健康管理上の合理的な基準を設けて対象者を限定することは可能です。国税庁の質疑応答事例でも、35歳以上の希望者を対象としています。
一方、「部長以上」のように役職だけで区分し、結果として特定の地位にある人だけが対象になる制度は、給与課税の問題が生じる可能性があります。
2. 役員だけを特別扱いしない
2つ目のポイントは、役員だけを対象にしたり、役員だけに著しく有利な条件を設けたりしないことです。制度を設ける際は、次のような項目を整理しておきましょう。
- 対象になる年齢
- 受診できる回数
- 会社が負担する金額
- 受診できるコース
- 申し込みの方法
性別や年齢などに応じて医学的に必要な検査内容が異なる場合は、合理的な理由があるかを確認して判断します。
たとえば、社長だけ約30万円の脳ドック・PET検査付きコースを受診し、従業員は約3万円の基本コースを受診しているケースです。このように役員だけに高額な健診(健康診断)を提供している場合、社長分が役員給与として扱われる可能性があります。
役員だけに特別な利益を与える制度になっていないかを確認することが重要です。
3. 社会通念上妥当な内容・費用にする
3つ目のポイントは、検査内容や費用が一般的な健康管理の範囲に収まっていることです。
国税庁は、「いくらまでなら福利厚生費になる」という一律の金額基準を示していません。質疑応答事例では、「一般的に実施されている人間ドック程度」の健康診断を前提としています。
そのため、検査内容や費用、対象者などを踏まえて個別に判断する必要があります。「○万円以下なら必ず福利厚生費になる」という基準はありません。
観光や保養を兼ねる内容や高額なオプション検査を会社が負担する場合は、一般的な健康管理の範囲といえるか、役員など特定の人だけを優遇していないかを確認しましょう。
人間ドックを会社負担にするメリット
人間ドックの会社負担には、従業員の健康管理を支援し、福利厚生を充実させられるメリットがあります。
- 病気の早期発見を支援できる
- 健康維持による生産性への効果が期待できる
- 採用時に福利厚生として示せる
病気の早期発見を支援できる
人間ドックは、一般に法定の健康診断より検査項目が多く、生活習慣病やがんなどを詳しく調べられます。会社が費用を負担すれば、従業員の金銭的な負担が軽くなり、受診しやすくなります。従業員が自分の健康状態を確認する機会を会社として支援することが可能です。
健康維持による生産性への効果が期待できる
病気の早期発見や適切な治療につながれば、体調不良による欠勤などを減らせる可能性があります。ただし、人間ドックを実施すれば生産性が必ず向上するわけではありません。従業員の健康保持を支える取り組みの一つとして活用することが大切です。
採用時に福利厚生として示せる
人間ドックの費用補助は、会社の福利厚生の一つとして求職者に示せます。「40歳以上は年1回、上限5万円まで会社負担」のように、対象年齢・補助額・回数を具体的に示すと、制度の内容が伝わりやすくなります。
人間ドック費用の会社負担は義務?
会社に人間ドック代を負担する法律上の義務はありません。一方、法定の健康診断は、会社に実施義務があります。厚生労働省の通達でも、法律で実施が義務づけられた健康診断の費用は、会社が負担すべきものとされています。
人間ドックは任意の制度なので、全額負担・一部補助・本人負担など、費用負担の方法は会社が決められます。人間ドックが法定健康診断に相当する内容で、従業員がその結果を証明する書面を会社に提出した場合は、法定健康診断に代えることができます。
| 比較項目 | 法定健康診断 | 人間ドック |
| 会社の実施義務 | あり | なし |
| 会社の費用負担 | 原則として会社負担 | 任意 |
| 検査項目 | 法令で定められている | 医療機関やコースで異なる |
| 法定健診への代替 | ― | 法定健診に相当する内容なら可能 |
人間ドックの会社負担は一人社長でも経費になる?
従業員のいない一人社長の場合、人間ドック代を福利厚生費として扱うのは難しいと考えられます。
国税庁は、役員や特定の地位にある人だけを対象として人間ドック代を会社が負担する場合、給与課税の問題が生じるとしています。一人社長の場合は受診者が社長だけになるため、一般的な福利厚生として扱えるか慎重な判断が必要です。
また、代表取締役は通常、労働安全衛生法上の「労働者」には当たらないため、会社に法定健康診断を実施する義務も原則としてありません。会社が人間ドック代を負担した場合は、役員給与として扱われる可能性があります。
| 対象者 | 基本的な考え方 |
| 一人社長 | 福利厚生費として扱うのは難しい |
| 家族経営会社 | 勤務実態や対象者、制度の内容を確認 |
| 個人事業主(一人親方を含む) | 本人分は家事費と判断され、原則として必要経費になりにくい |
人間ドックの会社負担はどこまで?
人間ドックの会社負担を決める際は、上限額・対象となる検査・利用できる補助制度を確認します。事前に基準を定めておけば、役員や従業員ごとの取扱いに差が出にくくなります。
- 会社負担の上限を社内で決める
- 会社負担に含める検査を決める
- 協会けんぽの補助を利用する
会社負担の上限を社内で決める
会社負担の決め方には、主に3つのパターンがあります。
| パターン | 例 |
| 全額負担 | 指定コースの費用を会社がすべて支払う |
| 一部補助 | 費用の5割を会社が支払う |
| 定額上限 | 1人5万円まで会社が支払う |
税務上、「○万円まで」という一律の上限はありません。一般的に実施されている人間ドックの内容や費用を踏まえ、会社ごとに基準を定めます。役員だけを優遇せず、対象者に共通する基準を設けることが大切です。
会社負担に含める検査を決める
会社負担の対象は、「基本コース」「オプション検査」「再検査・精密検査」などに分けて決めておくと明確です。
オプション検査を会社負担にする場合は、対象者が同じ基準で利用できるかに加え、一般的な健康管理の範囲として妥当な内容・費用かも確認しましょう。本人の希望による高額な追加検査は、本人負担とする方法もあります。
再検査や精密検査は、病気の診断や治療につながる性質があるため、人間ドックとは税務上の判断が異なる場合があります。会社が負担する範囲はあらかじめ規程に定め、個別の内容に応じて判断しましょう。
協会けんぽの補助を利用する
2026年4月から、協会けんぽで人間ドック健診への費用補助が始まりました。
対象は35〜74歳の協会けんぽの被保険者本人で、補助額は最大2万5,000円です。健康保険組合や国民健康保険に加入している従業員は、加入先の制度を確認してください。協会けんぽと契約している健診実施機関で受診する必要があります。年度内に利用できるのは、人間ドック健診または生活習慣病予防健診のいずれか1回です。
補助を利用すると、人間ドックの費用から協会けんぽの補助額を差し引いた金額が自己負担額となります。会社がその自己負担額の全部または一部を負担する制度にすれば、会社の支出も抑えやすくなります。
人間ドックの会社負担を処理する手順
処理は「規程づくり→支払い→仕訳→書類の保存」の順に進めると整理しやすくなります。受診前に対象者や会社負担の基準を決めておきましょう。
- 福利厚生規程を受診前に整える
- 支払方法を社内で統一する
- 福利厚生費で仕訳する
福利厚生規程を受診前に整える
人間ドックを会社負担にする場合は、受診前に福利厚生規程などで対象者や負担条件を明確にしておくことが重要です。国税庁の質疑応答事例でも、社内規程を設けたケースが示されています。
規程には、次の内容を定めておきます。
- 対象者と年齢
- 受診できる回数
- 対象のコース
- 会社負担の上限額
- 支払いの方法と申請期限
規程を整えたら、対象となる従業員に案内し、同じ基準で利用できる状態にしておきましょう。案内メールや社内掲示なども、制度の運用状況を確認できる資料として保存しておくと安心です。
支払方法を社内で統一する
支払方法は、医療機関への直接払いと、従業員による立替精算などがあります。どの方法を使う場合も、対象者や会社負担額を確認できるようにしておきましょう。
医療機関へ直接支払う場合
会社宛ての請求書などを受け取り、会社から医療機関へ支払います。会社負担額や受診内容を確認しやすく、支払いの記録も残しやすい方法です。
立替分を精算する場合
従業員が費用を立て替えた場合でも、直ちに給与として扱われるわけではありません。対象となるコースか、会社負担の上限内か、実際に受診した費用かを確認します。
領収書や精算書を保存し、社内ルールに沿って精算しましょう。受診実績や実費と関係なく一定額を現金で支給する場合は、給与として扱われる可能性があるため注意が必要です。
福利厚生費で仕訳する
福利厚生費として扱える人間ドック代は、「福利厚生費」で仕訳します。
| ケース(金額は税込) | 借方 | 貸方 |
| 10名が受診し、1人5万円を会社が直接支払い | 福利厚生費 500,000円 | 普通預金 500,000円 |
| 8万円のコースで会社負担5万円、本人負担3万円を会社がまとめて支払い |
福利厚生費 50,000円 |
普通預金 80,000円 |
本人負担分を会社が立て替えた場合は、後日、本人から受け取って立替金を精算します。
人間ドックなどの健康診断は、一般に消費税の課税対象です。会社が仕入税額控除を受ける場合は、原則として一定事項を記載した帳簿と適格請求書などを保存します。会社の課税状況によって取扱いが異なるため、個別に確認してください。
保存しておきたい主な書類は、次のとおりです。
- 福利厚生規程
- 対象者への案内
- 対象者の一覧・申請書
- 請求書・領収書・精算書
- 検査コースの資料
人間ドックの会社負担分が給与として扱われる場合
福利厚生費として扱う要件を満たさない場合、会社が負担した人間ドック代が従業員や役員への給与として扱われる可能性があります。影響は、従業員と役員で異なります。
- 従業員分は給与課税の対象になる
- 役員分は損金算入できるか確認する
従業員分は給与課税の対象になる
特定の従業員だけを対象にした場合などは、会社が負担した人間ドック代が給与として扱われる可能性があります。
給与に該当すると、従業員本人の給与所得として所得税等の対象になります。会社は、給与として必要な源泉徴収を行わなければなりません。源泉徴収が不足していた場合、会社が不足分の納付を求められることがあります。
役員分は損金算入できるか確認する
役員の場合は、本人の所得税に加えて、会社の法人税にも影響する可能性があります。
会社が役員個人の人間ドック代を負担し、その負担額が給与に当たる場合は、役員への経済的利益として扱われます。役員給与は、定期同額給与など法人税法上の要件を満たさなければ、原則として損金に算入できません。
人間ドック代のように単発で会社が負担する費用は、毎月おおむね一定額を継続して供与する定期同額給与には通常該当しにくいため、損金に算入できない可能性が高いです。
社長の30万円の人間ドック代を会社が負担したケースで比べると、次のとおりです。
| 項目 | 福利厚生費として扱える場合 | 役員給与とされた場合 |
| 会社の法人税 | 30万円を損金に算入 | 損金に算入できない場合がある |
| 社長の所得税 | 原則として課税されない | 30万円相当が給与として課税 |
| 会社の源泉徴収 | 不要 | 必要 |
| 追加負担 | 原則なし | 源泉所得税の不足額や加算税・延滞税が生じる場合がある |
役員給与として扱われると、役員本人に給与課税が生じるほか、会社側でも損金に算入できない場合があります。
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人間ドック代の扱いは、福利厚生費や役員給与などの税務上の取扱いを踏まえて判断する必要があります。一人社長や家族経営の会社、高額な検査、すでに支払った費用の処理は、個別の事実関係に応じた判断が必要です。そのため、人間ドック費用の損金算入には一定のハードルがあり、活用が難しいケースも多いです。
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まとめ:人間ドックの会社負担は3条件を確認しよう
人間ドック代を福利厚生費として扱うには、主に次の3点を確認することが大切です。
- 合理的な基準を満たす希望者が広く受診できる
- 役員だけを特別扱いしない
- 内容や費用が社会通念上妥当な範囲である
一人社長や役員だけを対象とする場合は、給与として扱われる可能性があります。受診前に、対象者や会社負担の範囲、支払方法を規程などで明確にしておきましょう。
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