「日本に住む親が亡くなったが、自分は海外にいる」
「納税管理人を決めるよう言われたものの、何を任せればよいか分からない」
海外在住の相続人には、このような悩みが生じることがあります。
日本で相続税の申告が必要になっても、海外から税務署とのやり取りを進めるのは容易ではありません。そこで、国内で税務関係の連絡や手続きを担うのが納税管理人です。
この記事では、納税管理人が必要になるケースや依頼先の選び方、届出書の記入方法、費用を確認する際のポイントを解説します。
相続税の納税管理人とは?
相続税の納税管理人とは、日本国内に住所・居所がない相続人に代わって、税務署との連絡や納税に関する手続きを行う人です。国税通則法第117条に基づく制度で、選任した場合は所轄税務署への届出が必要です。
納税管理人の役割は、税務署からの書類の受け取りだけでなく、申告書の提出や納付、還付金の受領などにも及びます。
ただし、納税管理人を選任しても、相続税を納める義務は相続人本人にあります。納税管理人が本人に代わって税金を負担するわけではありません。
相続税の納税管理人が対応できる手続き
納税管理人が担う主な事務は、次の4つです。依頼先が親族か税理士かによって、実際に任せられる業務には違いがあります。
- 相続税申告書の提出
- 税金の納付手続き
- 税務署から届く文書の受領
- 税務調査に関する連絡の取り次ぎ
1. 相続税申告書を税務署へ提出する
相続人本人や税理士が作成した申告書は、納税管理人を通じて税務署に提出できます。国税通則法基本通達では、書類の作成も納税管理人の事務に含まれています。
ただし、納税管理人に選任されたからといって、税理士資格がなくても他人の相続税申告書を業として作成できるわけではありません。相続税申告書の作成を専門業務として依頼する場合は、税理士に任せるのが基本です。
2. 相続税の納付手続きを行う
納税管理人は、相続人が用意した資金を使って、相続税の納付手続きを行うことができます。また、納め過ぎた税金が還付される場合には、還付金の受け取りも可能です。
相続税の納付期限は、原則として相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。海外から送金する場合は手続きに時間がかかることもあるため、期限に間に合うよう、納付資金や送金方法を早めに確認しておきましょう。
3. 税務署からの書類を受け取る
相続人に対する税務署からの通知書や照会文書は、納税管理人が受領します。受け取った内容は本人へ速やかに伝え、必要な対応を確認します。
申告業務を税理士に任せている場合には、担当税理士にも情報を共有し、対応の遅れを防ぎましょう。
4. 税務調査の連絡を取り次ぐ
申告後に税務調査の連絡があった際は、納税管理人から相続人や担当税理士へ内容を伝えます。
ただし、税務署に対して本人の代わりに主張や説明を行う「税務代理」は、税理士法上の専門業務です。納税管理人に指定されたことだけで、税務代理を業として行う資格が与えられるわけではありません。
相続税の納税管理人が必要な人
国内に住所・居所がなく、日本の相続税について申告や納付などの事務が生じる人は、原則として納税管理人の選任が必要です。選任の判断では、国籍よりも国内に住所・居所があるかが重要になります。
なお、相続税の申告要否は、原則として遺産に係る課税価格の合計額と基礎控除額を比較して判断します。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
| 相続人の状況 | 選任の要否 | 確認するポイント |
| 海外在住で日本の相続税申告が必要 | 原則必要 | 国内で税務手続きを担う人を決める |
| 相続税の手続きが残る状態で海外へ転居する | 原則必要 | 出国前に届出を済ませる |
| 出張・旅行などで一時的に国外へ出る | 通常は不要 | 国内の住所・居所が維持されているか |
| 海外在住で申告・納付などが不要 | 通常は不要 | ほかに必要な国税関係の事務がないか |
相続税の納税管理人は誰に頼む?
納税管理人は、日本国内に住所または居所がある親族や知人、税理士・税理士法人などに依頼できます。親族や知人に頼む場合は、相続税の申告後も継続して連絡を取れるかが重要です。
一方、国内に頼れる親族がいない場合や、相続税申告もまとめて任せたい場合は、税理士への依頼を検討するとよいでしょう。
特に、財産評価や特例の適用など、専門的な判断が必要な相続では、申告を担当する税理士に納税管理人も依頼することで、手続きを一括して進められます。
なお、海外在住の相続人が複数いる場合は、同じ人を納税管理人に選任することも可能です。ただし、届出は相続人ごとに行う必要があります。
相続税の納税管理人の届出手続き
依頼先が決まったら、届出書を準備します。手続きは次の順序で進めましょう。
- 提出期限を確認する
- 所定の様式に必要事項を記入する
- 管轄の税務署へ届け出る
届出書の提出時期を確認する
納税管理人を新たに選んだ場合は、その時点で届出を行います。国内に住所・居所がある人が海外へ転居する際は、原則として出国の日までに提出します。すでに海外で暮らしている人は、選任後、速やかに手続きを進めましょう。
相続税の申告義務がある人が、通常の申告期限前に納税管理人の届出をせず、国内に住所・居所を有しないこととなる場合は、原則としてその日までに相続税の申告・納付を行う必要があります。
通常の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。
届出書に必要事項を記入する
国税庁が公開している相続税・贈与税用の「納税管理人届出書」を使用します。作成前に最新の様式を入手しましょう。被相続人が国内に住んでいた場合、相続税の納税地は原則として死亡時の住所地となります。
記入する情報の例は、次のとおりです。
| 記入する情報 | 内容 | 記載例(架空) |
| 納税地 | 亡くなった人の死亡時の住所 | 東京都港区〇〇1-2-3 |
| 納税者の氏名・個人番号 | 届出を行う相続人の情報 | 山田 一郎 |
| 国外の住所・居所 | 相続人の海外での居住先 | シンガポール〇〇通り10 |
| 納税管理人の住所・氏名 | 依頼を引き受けた人の情報 | 大阪府〇〇市/山田 次郎 |
| 納税管理人との関係・職業 | 届出者との続柄、納税管理人の職業等 | 弟/会社員 |
| 納税管理人を定めた理由 | 選任する理由 | 海外在住のため、日本国内での相続税申告等の手続きを依頼する |
| その他の参考事項 | 被相続人の氏名・相続開始日など | 山田 太郎/令和8年5月10日 |
記入時は、相続人本人と納税管理人、被相続人の情報を混同しないよう注意してください。実際の記入欄や必要事項は、使用する届出書の様式に従って確認しましょう。
納税地の税務署へ届出書を提出する
提出先は、納税地を所轄する税務署です。納税管理人の住所地を管轄する税務署ではありません。
被相続人が日本国内に住んでいた場合は、原則として被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署へ提出します。提出方法には、税務署の窓口への持参、郵送、e-Taxによる電子申請があります。
2025年1月から、税務署では申告書等の控えへの収受日付印の押印を行っていません。提出の記録は、e-Taxの受信通知や郵送記録などで確認しましょう。所得税について納税管理人を届け出ている場合でも、相続税については別途届出が必要です。
相続税の納税管理人の依頼費用の確認方法
依頼費用は、相続税申告の報酬と納税管理人の報酬を分けて確認しましょう。
相続税申告と納税管理人はそれぞれ別の業務であり、税理士事務所では、納税管理人の報酬を相続税申告とは別に設定していることが一般的です。ただし、報酬体系や業務範囲は事務所によって異なるため、見積もりの際は次の点を確認します。
- 納税管理人の報酬額と対応範囲
- 相続税申告と納税管理人の業務を別々に依頼できるか
- 税務調査への対応や還付金の海外送金などに追加費用がかかるか
依頼する業務の範囲によって費用が異なるため、相続税申告と納税管理人それぞれの報酬や対応範囲を、契約前に確認することが大切です。
相続税の納税管理人を頼む際の注意点
納税管理人を依頼する際は、相続税の申告後の対応や、管理人を変更・解任する場合の手続きについても確認しておくことが大切です。
特に、次の2点に注意しましょう。
- 申告後の対応範囲や依頼期間を確認する
- 管理人の変更・解任に必要な届出を確認する
申告後の対応範囲や依頼期間を確認する
相続税の申告後も、税務署から問い合わせや税務調査の連絡が入ることがあります。税務署が相続税の申告内容を更正できる期間は、原則として法定申告期限から5年ですが、不正行為がある場合などは7年となることがあります。
そのため、納税管理人に依頼する際は、申告後も対応してもらえる期間や、税務署から連絡があった場合の連絡方法を確認しておきましょう。
また、申告後の対応に追加費用が発生する場合もあるため、契約前に業務範囲と費用の条件を明確にしておくことが大切です。
管理人の変更・解任に必要な届出を確認する
納税管理人を解任する場合は、「納税管理人解任届出書」を税務署へ提出します。別の人に変更するときは、後任者について新たに「納税管理人届出書」も提出する必要があります。
また、海外在住の相続人が日本へ帰国する際も、届出の要否を確認しましょう。一時帰国で国内に住所・居所がない場合は、原則として納税管理人の選任を継続します。
一方、日本国内に住所・居所を再び有する場合は、納税管理人を置く必要がなくなるため、解任の届出を行います。
相続税の納税管理人を選任・届出しない場合のリスク
納税管理人の選任が必要なのに届け出ていない場合、税務署からの重要な連絡を見落とすおそれがあります。申告が遅れると無申告加算税、納付が遅れると延滞税が発生する場合があります。滞納が続けば、財産を差し押さえられるおそれもあるので注意が必要です。
相続税には、ほかの相続人の未納分についても、相続などで受けた利益の額を限度に納付義務を負う「連帯納付義務」があります。ただし、申告期限などから5年以内に税務署長が納付通知書を発していない場合や、本来の納税義務者が延納の許可や一定の納税猶予を受けている相続税については、連帯納付義務の対象外です。
また、2022年1月から、税務署長等が一定の要件のもとで「特定納税管理人」を指定する制度が施行されています。税務署長等から納税管理人の届出を求められても対応しない場合などには、国内の関係者が指定されることがあります。
ただし、特定納税管理人の役割は、主に税務署と納税者との間での書類の受領・送付などです。納税者に代わって相続税を申告・納付する義務を負うものではありません。
たとえば、都内で会社を経営していた父が5月に亡くなり、15年以上シンガポールに住む長男が、自社株と都内の賃貸マンションを相続したケースを考えてみましょう。
| 時期 | 起きたこと |
| 5月(相続開始) | 海外在住の長男が相続人になる |
| 6〜9月 | 納税管理人を選任せず、国内の弟を非公式の連絡窓口にする |
| 10月 | 相続税に関する確認事項が長男に伝わらず、必要資料の準備が遅れる |
| 翌年1〜3月 | 自社株の評価資料がそろわず、申告期限が迫る |
相続税の申告期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。海外在住の場合は、早めに納税管理人を選任し、税務署との連絡体制を整えておきましょう。
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まとめ:相続税の納税管理人は必要な手続きを確認して選任する
日本国内に住所・居所がなく、相続税の申告や納付が必要な方は、原則として納税管理人を選任し、税務署へ届け出る必要があります。
納税管理人の届出は、選任したとき、または海外への転居によって国内に住所・居所がなくなる場合は出国の日までに行います。申告期限に影響する場合もあるため、早めに手続きを進めましょう。
納税管理人は親族にも依頼できますが、他人の申告書作成や税務代理を業として行うことは、原則として税理士の業務です。相続税申告までまとめて依頼したい場合は、税理士への相談を検討しましょう。
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