「今期は予想以上に利益が出たが、税金で半分持っていかれるのは避けたい」
「設備投資を考えているから、もっとも有利な税制優遇が知りたい」
決算が近づくにつれて、このような悩みを抱える経営者の方は少なくありません。
利益が出ることは喜ばしい反面、何もしなければ多額の納税が発生します。そこで注目されるのが「即時償却(そくじしょうきゃく)」という制度です。購入した設備の代金を、その年の経費として一括で計上できる即時償却は、手元のキャッシュフローを改善する強力な手段となります。しかし、仕組みを正しく理解せずに飛びつくと、かえって資金繰りを悪化させるリスクも潜んでいるのです。
この記事では、資産運用と税務の専門家である税理士の視点から、即時償却の基礎知識、メリット・デメリット、そして賢く活用するためのポイントを解説します。制度を味方につけ、会社と個人の資産を守るための一歩を踏み出しましょう。
即時償却とは?仕組みと通常との違いを理解する
設備投資を行った際、通常は何年にも分けて経費にしていきます。しかし、一定の条件を満たすことで、その年の経費として一気に計上できる特例があります。それが即時償却です。まずは基本的な仕組みを整理します。
通常の減価償却と即時償却の違い
通常、建物や機械などの資産を購入すると、国が定めた期間(耐用年数)に応じて、少しずつ費用として計上します。これが「減価償却(げんかしょうきゃく)」です。例えば、1,000万円の機械を10年で償却する場合、1年間の経費は100万円だけになります。残りの900万円分の支払いは済んでいても、経費にはなりません。
一方、即時償却は、購入した年に1,000万円全額を経費にできます。その年の利益が1,000万円圧縮されるため、法人税等の負担を大きく減らす効果が期待できるのです。
【通常償却と即時償却のイメージ比較】
| 項目 | 通常の減価償却 | 即時償却 |
| 経費化のタイミング | 耐用年数に応じて毎年分割 | 初年度に全額(100%) |
| 初年度の節税効果 | 小さい | 非常に大きい |
| 2年目以降の経費 | あり | なし(0円) |
| トータルの経費額 | 購入価額と同じ | 購入価額と同じ |
特別償却との違いはスピード
似た言葉に「特別償却」があります。これは、通常の減価償却費に加えて、購入額の30%などを上乗せして経費にできる制度です。
- 即時償却: 初年度に100%経費化。
- 特別償却: 初年度に通常分+30%程度を経費化。残りは翌年以降に償却。
資金繰りを重視し、今期の税金を極限まで抑えたい場合は即時償却が選ばれる傾向にあります。
即時償却を活用する3つの大きなメリット
なぜ多くの経営者がこの制度に注目するのでしょうか。単に「税金が減る」以上の財務的なメリットが存在します。
1. 圧倒的な節税効果でキャッシュを守る
最大のメリットは、納めるべき税金を大幅に減らせることです。日本の法人実効税率は約30〜34%です。もし1,000万円の即時償却を行えば、約300万円〜340万円の税流出を防げます。
手元に残ったキャッシュは、次の事業投資や、万が一の際の運転資金として確保できます。
2. 利益を平準化できる
今期の利益を対策し、来期以降の経費を先取りすることで、結果的に来期以降の利益を平準化することにつながります。当期の多額の利益計上を繰り延べ、来期以降に回すイメージになります。
3. 決算直前の対策として有効
即時償却は、事業年度の末日までに資産を取得し、かつ事業の用に供する(稼働させる)ことで適用されます。決算の数ヶ月前に利益予測が立った段階で、必要な設備を導入して対策を打つことが可能です。
知っておくべきデメリットとリスク
メリットばかりに目が向きますが、税理士として必ずお伝えしなければならない注意点があります。ここを理解していないと、将来的に資金繰りに苦しむ可能性があります。
あくまで課税の繰り延べである
即時償却を使っても、トータルで支払う税金がゼロになるわけではありません。
初年度に経費を使い切ってしまうため、2年目以降は減価償却費という経費がなくなります。その分、2年目以降の帳簿上の利益が出やすくなり、将来の税負担が増えることになります。
つまり、今払う税金を、将来に先送りしているという見方が正確です。
赤字計上による金融機関評価への影響
巨額の即時償却を行うと、会計上は大きな赤字になることがあります。
融資の審査において銀行などの金融機関が重視するのは企業の収益性です。節税のための意図的な赤字であれば説明がつきますが、決算書の見栄えが悪くなることで、一時的に融資が受けにくくなるリスクも考慮する必要があります。
償却資産税の負担は変わらない
法人税や所得税は減りますが、資産を持っていること自体にかかる「償却資産税(固定資産税の一種)」は対象外です。即時償却をしても、資産の評価額に基づいて毎年1.4%程度の償却資産税がかかり続ける点は忘れてはいけません。
即時償却が使える主な税制制度
現在、即時償却を利用できる代表的な制度は以下の通りです。それぞれ要件が細かく設定されています。
中小企業経営強化税制
中小企業にとって最も使い勝手の良い制度の一つです。認定を受けた経営力向上計画に基づき、生産性を向上させる設備を取得した場合に適用されます。
- 対象資産
機械装置、工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウェアなど - 要件
資本金1億円以下の中小企業など - メリット
即時償却、または取得価額の10%(条件により7%)の税額控除を選択可能
近年は新規事業への投資を行いながら、当期への経費計上を行うことで、期末に経費を計上するだけでなく翌期以降に安定収入を確保する手法も非常に人気があります。もしこのような手法にご興味がある場合は、ぜひお問い合わせください。
中小企業投資促進税制
こちらは上記の強化税制よりも手続きが比較的シンプルですが、即時償却(100%経費化)は選択できません。 基本的には、30%の特別償却または7%の税額控除のいずれかとなります。
【ポイント】
事前の認定手続きが不要で導入しやすい制度ですが、一括で経費にすることはできません。即時償却を狙うなら、手間をかけてでも前述の中小企業経営強化税制を活用する必要があります。
賢い活用には出口戦略が不可欠
即時償却を行う上で最も重要なのは、償却メリットを取り切った後、どうするかという出口戦略です。
資産価値が維持されるものを選ぶ
税金を減らすために、事業に不要なものや、すぐに価値がなくなるものを買うのは本末転倒です。
収益を生む資産を選ぶ視点が大切です。収益の獲得によりお金が戻ってくることで、初めて繰り延べた税金に対する納税資金が確保できます。
資産運用としての視点を持つ
私たち税理士法人ネイチャーは、単なる節税アドバイスにとどまらず、お客様の資産全体を増やすことを重視しています。
事業に必要な投資を行うことは大前提ですが、それが将来的に会社の資産として残るか、あるいは個人の資産形成に寄与するかを見極めなくてはなりません。
例えば、海外の不動産や航空機などは、日本の税制とは異なる減価償却のルールが適用されるケースがありましたが、税制改正により封じ込められているスキームも多く存在します。最新の税制に対応した、合法かつ効果的な手段を選ぶには専門的な知見が不可欠です。
まとめ:即時償却は専門家と共に戦略的に
即時償却は、手元の資金を確保し、事業を加速させるための有効なカードです。しかし、以下の点を押さえておく必要があります。
- 即時償却は初年度に全額経費化できる強力な節税手段。
- 本質は課税の繰り延べ。将来の納税に備える必要がある。
- 中小企業経営強化税制の活用には、事前の計画認定が必要。
- 出口(売却)まで見据えた資産選びが重要。
「とりあえず何か買って節税したい」と考える前に、まずは自社の決算状況と将来のビジョンを照らし合わせてみてください。
今期の決算対策や、将来を見据えた資産形成についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。当社担当者より、具体的な取り組み事例をいくつかお話しさせていただきます。
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