経営者に万一のことがあれば、会社にはどれくらいの資金が必要になるのか、明確に答えられる方は多くありません。法人保険には加入済みでも、保障額の根拠までは説明できないということもあります。
事業保障は保険商品の名前ではなく、会社の事業継続に必要な資金を確保するための考え方です。この記事では、事業保障の意味と備えたい費用、必要保障額の求め方を解説します。
計算の手順がわかれば、決算書の数字から自社に必要な保障額を確かめられるでしょう。
事業保障とは?
事業保障とは、代表取締役をはじめとする経営者に万一のことがあった場合に、会社が事業を継続できるよう、必要な資金をあらかじめ確保しておく考え方です。
ここでいう万一の事態には、経営者の死亡だけでなく、重い病気や事故によって長期間働けなくなるケースも含まれます。
事業保障は、特定の保険商品だけを指す言葉ではありません。手元現預金の確保、金融機関との借入条件の確認、後継体制の整備、法人保険の活用などを組み合わせて準備します。
経営者が亡くなったり、長期間働けなくなったりしても、会社の支払いは続きます。一方で、経営者が営業、資金繰り、金融機関対応、重要な意思決定を担っている会社では、売上や受注が減少する可能性があります。
事業保障の目的は、こうした状況でも事業継続に必要な資金を確保することです。経営者個人の相続への備えとは目的が異なります。
事業保障が必要な理由
経営者の不在は、事業の停滞や資金繰りの悪化につながる可能性があります。特に中小企業では、経営者個人の信用や判断力に会社経営が大きく依存していることも少なくありません。会社を守るために事業保障が必要となる理由を、3つの視点から整理します。
- 経営者が不在でも事業を継続できるようにするため
- 売上が減少しても資金繰りを維持するため
- 会社の信用を維持するため
経営者が不在でも事業を継続できるようにするため
事業保障があると、後継体制を整えるための時間を確保しやすくなります。中小企業では、営業や金融機関との折衝を経営者が担っていることも少なくありません。
経営者が不在になれば、新規の受注や重要な判断に影響が生じる可能性があります。資金に余裕があれば、急いで事業を縮小するのではなく、事業を継続しながら後継者への引き継ぎや社内体制の見直しを進めやすくなります。
売上が減少しても資金繰りを維持するため
経営者の不在によって売上が減少しても、会社の支払いがすぐに減るとは限りません。給与や社会保険料は、人員を維持する限り発生します。売上入金が大幅に減少する一方で固定費の支払いが継続した場合、手元のキャッシュは急速に減少します。
あらかじめ事業保障資金を確保しておくことで、後継体制が整い、受注が回復するまでの資金繰りショートを防ぐことが可能です。
会社の信用を維持するため
支払いの遅れは、金融機関や取引先との関係に影響します。銀行への返済が滞れば、今後の融資判断に影響する可能性があります。仕入先や外注先への支払いが遅れると、取引条件の見直しや取引停止を求められる場合もあります。資金不足による支払いの遅れを防ぐことは、会社の信用を維持するうえでも重要です。
事業保障で備えておきたい費用
経営者が不在になっても、会社からの支払いは続きます。事業保障で備えておきたい費用を、資金の使い道ごとに5つへ整理します。
| 費用項目 | 主な内容 | 支払いの性質 |
| 銀行借入金の返済資金 | 元本と利息 | 返済期間中は続く |
| 従業員へ支払う人件費 | 給与、賞与、社会保険料 | 継続的に発生 |
| 事業所にかかる賃料 | 事務所、店舗、工場、倉庫 | 毎月発生 |
| 仕入先へ支払う資金 | 仕入代金、外注費、買掛金 | 取引に応じて発生 |
| 後継体制を整える費用 | 採用、引き継ぎ、専門家への依頼 | 一時的に発生 |
銀行借入金の返済資金
金融機関からの借入金は、代表者が交代または不在となった場合であっても、契約に基づいて返済を続ける必要があります。取引金融機関ごとの借入残高や返済スケジュールについては、直近の返済予定表や決算書の勘定科目内訳明細書等を通じて正確に把握しておくことが重要です。
従業員へ支払う人件費
人件費は、事業を継続するために確保しておきたい資金です。給与のほか、賞与や会社負担の社会保険料も考慮します。給与の支払いが遅れれば、従業員の生活や雇用関係にも影響します。
事業所にかかる賃料
賃料は、売上が減っても継続して発生する固定費の一つです。事務所、店舗、工場、倉庫などの賃料が対象になります。設備のリース料や駐車場代なども、必要に応じて合計に含めてください。
仕入先へ支払う資金
仕入先への支払いを続けることは、取引関係を維持するうえで重要です。仕入代金、外注費、決算日時点の買掛金などが対象です。支払期日までの期間が長い取引がある場合は、支払時期を月ごとに整理すると必要資金を把握しやすくなります。
後継体制を整える費用
後継体制を整える際には、追加の費用が発生する場合があります。後任者の採用費、幹部への一時的な手当、引き継ぎにかかる人件費などです。経営者の死亡時には、死亡退職金や弔慰金の支給も検討されます。
事業保障で備えておきたい金額
必要保障額は、事業継続に必要な資金をもとに計算します。当社が推奨する目安と決算書からの求め方、既存の保障を差し引く手順を示します。
- 必要保障額を計算する
- 月間運転資金は毎月の支払いから求める
- 計算例から不足保障額を確認する
必要保障額を計算する
税理士法人ネイチャーでは、次の計算式を必要保障額の目安としています。
必要保障額 = 月間運転資金 × 6か月 + 銀行借入金の残高
6か月とするのは、後継体制の整備や金融機関との協議に一定の期間を見込むためです。借入金の返済も続くため、残高を加えて計算します。ただし、6か月という期間は法令で決められた一律の基準ではありません。会社の業種、売上の安定性、後継者の有無、借入状況などに応じて調整が必要です。
月間運転資金は毎月の支払いから求める
月間運転資金は、毎月の支払いをもとに計算します。人件費、賃料、仕入代金、外注費、水道光熱費などを合計してください。単純な計算方法としては年間の売上原価と販管費からキャッシュアウトしない減価償却費を差し引き12か月で割るという方法です。
また精緻に算出する場合は、損益計算書の売上原価と販売費及び一般管理費、試算表の月次推移が参考になります。季節による変動が大きい会社は、支払いが多い月も考慮すると資金不足に備えやすくなります。
計算例から不足保障額を確認する
必要保障額から既存の保障を差し引くと、追加で準備したい金額を確認できます。従業員30名の製造業を例に計算します。
| 項目 | 金額 |
| 月間運転資金 | 1,500万円 |
| 運転資金の6か月分 | 9,000万円 |
| 銀行借入金の残高 | 1億2,000万円 |
| 必要保障額 | 2億1,000万円 |
| 既に加入している法人受取の保障 | ▲5,000万円 |
| 追加で準備したい保障額 | 1億6,000万円 |
事例として、借入金の額だけを見て保険金額を決めていた会社があります。経営者の死亡後、保険金を借入金の返済に充てても、給与や仕入代金などの支払いは続きます。必要保障額を考える際は、借入金だけでなく運転資金も分けて見積もってください。
事業保障の資金を準備する方法
事業保障の資金は、現預金の確保と法人保険の活用が主な準備方法です。2つの手段について、役割と注意したい点を説明します。
- 手元資金を確保する
- 法人保険で資金を準備する
手元資金を確保する
手元資金の強みは、使い道が自由で、必要なときにすぐ使える点です。普通預金のほか、緊急時に備えて口座を分ける方法もあります。ただし、必要保障額の全額を現金で積み上げるには年数がかかる場合があります。
法人保険で資金を準備する
法人保険の強みは、契約内容に応じた保障を早期に確保できる点です。現金を積み立てる場合と異なり、責任開始後に支払事由が生じれば、契約に基づいて保険金を受け取ることが可能です。
保険料は継続的な負担となるため、資金繰りへの影響を確かめたうえで判断します。途中で解約すると、解約返戻金が払い込んだ保険料の合計を下回る場合もあります。
商品ごとの特徴はこちらをご覧ください。
事業保障を法人保険で準備するときの注意点
法人保険で事業保障を準備する場合は、保険金が必要なときに会社へ入金される設計になっているかを確認することが重要です。
既存契約を見直す際は、保険証券や設計書をもとに、次の3点を確認しましょう。
- 保険金の受取人を確認する
- 保険金の支払条件を確認する
- 法人保険の経理処理を確認する
保険金の受取人を確認する
法人の事業保障が目的であれば、会社が保険金を受け取れる契約になっているかを確認します。受取人が遺族の契約では、保険金は会社の運転資金にはなりません。契約者、被保険者、受取人の3か所を見比べてください。
保険金の支払条件を確認する
保険金が支払われる事由は、契約ごとに決まっています。死亡が対象の契約、高度障害や重大な疾病を保障する契約などさまざまです。法人でのがん保険の加入も徐々に増えてきました。
経営者が生存していても、長期間働けなければ事業に影響する可能性があります。どの状態でいくら受け取れるのかを確認し、必要な保障を整理してください。
法人保険の経理処理を確認する
法人保険の保険料は、契約形態や保険種類によって税務上の経理処理が大きく異なります。現行の法人税基本通達では、定期保険や第三分野保険の最高解約返戻率・保険期間等に応じて、支払保険料の一部または全部を資産計上するルールが定められています。
また、将来的に保険金や解約返戻金を受け取る際も、それまで資産計上してきた積立額との差額について益金(または損失)として処理しなくてはなりません。そのため、加入を検討する段階で「支払期間中の損金・資産計上割合」と「受取時の税務インパクト」の双方を事前に確認しておくことが重要です。
事業保障を見直すタイミング
銀行借入金や毎月の支払いが変われば、必要保障額も変わります。基本的には、決算書がそろう決算後に、最新の借入金残高と月間運転資金を使って毎年計算し直しましょう。
返済が進んだ会社では、必要保障額が減っている場合があります。一方で、新たな借入や設備投資、人員の増加などによって、必要保障額が増えている場合もあります。
次のような変化があったときは、決算を待たずに見直すことも検討しましょう。
- 新たな借入をした
- 大型の設備投資を行った
- 従業員数が増えた
- 固定費が大きく変わった
- 役員の交代や後継者の決定があった
- 既存の法人保険を解約・減額した
事業保障は、一度設定すれば終わりではありません。会社の規模、借入金、固定費、後継体制の変化に合わせて定期的に見直すことが重要です。
事業保障でよくある質問
事業保障でよくある質問をまとめました。
- 手元資金が十分にあれば、法人保険は不要ですか?
- 経営者保証と事業保障は同じものですか?
手元資金が十分にあれば、法人保険は不要ですか?
必要保障額と同等の十分な現預金を常時確保できている企業であれば、法人保険による追加手当ての優先度は低くなります。ただし、手元現預金は日常の運転資金や将来の設備投資、納税資金としても活用される性質があるため、万一の際に保全すべき事業保障資金と事業運営資金を分けて管理する観点からは、法人保険を併用する合理性も検討されます。
経営者保証と事業保障は同じものですか?
経営者保証と事業保障は別のものです。
経営者保証とは、経営者個人が会社の借入金について連帯保証人になる仕組みをいいます。一方、事業保障は、経営者に万一のことがあった場合に、会社の事業継続に必要な資金を確保しておく考え方です。
経営者保証がある場合、経営者の相続発生時に保証債務の問題が生じる可能性があります。ただし、経営者保証を外す取り組みと、会社の事業保障資金を準備することは、目的が異なります。
会社の借入金、保証の有無、必要保障額をあわせて確認し、金融機関との協議や事業保障の準備を進めましょう。
事業保障の相談なら税理士法人ネイチャー
事業保障を検討する際は、決算書や資金繰り、借入金、加入中の保険などを踏まえ、必要な資金を整理することが重要です。
税理士法人ネイチャーでは、法人経営者の方のリスク削減コンサルティング、相続税対策、法人の決算対策、個人の所得税対策などを行っています。原則として法人の顧問契約は承っておりません。顧問税理士の方との関係はそのままに、リスク削減や事業承継、相続税などについてご相談いただけます。ぜひ一度お問い合わせください。
まとめ:事業保障は必要保障額を計算して準備しよう
事業保障は、経営者に万一のことがあっても会社を続けるための資金を準備する考え方です。備えたい費用は、借入金の返済、人件費、賃料、仕入代金、後継体制を整える費用の5つに整理できます。
税理士法人ネイチャーでは、必要保障額として運転資金の6か月分と銀行借入金の残高の合計を目安としています。既存の保障や手元資金を確認すれば、追加で準備したい金額を把握しやすくなるでしょう。具体的にどのように確保するかお悩みの場合も、さまざまな選択肢をご提示いたしますので、初回無料の面談でお気軽にご相談ください。
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