「築年数の古い物件なら4年で減価償却できる」
賃貸用の中古住宅を検討していると、このような説明を受ける場合があります。
しかし、実際の償却期間は物件ごとに異なります。建物の構造や築年数、取得後の改良工事の金額で、耐用年数の計算方法が変わるためです。根拠があいまいなままでは、後から取扱いの確認を求められる場合もあります。
この記事では、賃貸・事業用の中古住宅を前提に、耐用年数の決め方、土地と建物の分け方、計算手順を整理します。手順を押さえれば、購入前に年間の減価償却費を試算できるようになるでしょう。
中古住宅の減価償却の基本
中古住宅の減価償却とは、賃貸用や事業用として取得した中古建物の取得価額を耐用年数に応じて分割し各事業年度の経費(損金または必要経費)として計上する手続きのことです。適正な償却額を算出するために押さえておくべき基本事項を3つに整理して解説します。
- 減価償却費は取得価額を期間配分するもの
- 対象は賃貸用の建物部分
- 構造別に異なる法定耐用年数
減価償却費は取得価額を期間配分するもの
減価償却とは、建物の取得価額を使用可能期間にわたって各年の必要経費として配分する方法です。購入時には、ローンや自己資金で現金が出ていきます。
一方、減価償却費は、その後の各年に分けて計上します。現金の動きと経費の計上時期がずれる点が、減価償却の大きな特徴です。そのため、手元資金の増減と帳簿上の利益は、分けて確認する必要があります。
対象は賃貸用の建物部分
減価償却の対象になるのは、賃貸用や事業用として使う建物と建物附属設備です。土地は、時間の経過によって価値が減少する資産ではないため、減価償却の対象になりません。
土地付きの中古住宅を購入した場合、購入総額をそのまま減価償却の計算には使えません。総額のうち建物にあたる部分を区分する必要があります。
構造別に異なる法定耐用年数
住宅用建物の法定耐用年数は、構造ごとに省令で定められています。
| 建物の構造(住宅用) | 法定耐用年数 |
| 木造・合成樹脂造 | 22年 |
| 木骨モルタル造 | 20年 |
| 金属造(骨格材の厚さ3mm以下) | 19年 |
| 金属造(骨格材の厚さ3mm超4mm以下) | 27年 |
| 金属造(骨格材の厚さ4mm超) | 34年 |
| れんが造・石造・ブロック造 | 38年 |
| 鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造 | 47年 |
法定耐用年数は、税務上、減価償却費を計算するための基準となる年数です。建物が実際に使用できる年数を示すものではありません。
中古住宅では、取得後の使用可能期間を合理的に見積もった年数や一定の場合には簡便法で算定した年数を耐用年数とすることがあります。
中古住宅の減価償却で必要な耐用年数の確認方法
中古住宅の耐用年数は、築年数だけで決まるわけではありません。見積もり、簡便法、資本的支出という順序で確認すれば、使うべき年数がわかります。
- 見積耐用年数を使用する
- 一部経過資産は簡便法で計算する
- 全部経過資産は20%で計算する
- 資本的支出50%超は別計算する
見積耐用年数を使用する
中古住宅を事業に使い始めた時点で、あと何年使えるかを合理的に見積もれる場合は、その年数を耐用年数として使えます。築年数さえわかれば、簡便法を自動的に使えるというわけではありません。
ただし、取得後の使用可能期間を客観的・合理的に見積もるには建築士による建物状況調査や鑑定評価などの裏付けが必要となる傾向にあります。そのため実務上は、見積もりが困難な場合に適用が認められている簡便法が広く用いられています。
一部経過資産は簡便法で計算する
法定耐用年数の一部を経過した中古住宅では、次の式で計算します。
(法定耐用年数 – 経過年数) + 経過年数 × 20%
築年数に1年未満の端数がある場合は、法定耐用年数と経過年数を月数に換算して計算します。途中では端数を切り捨てず、最終的に算出した年数の1年未満を切り捨てます。2年に満たないときは2年とします。
築10年の木造は14年
木造住宅の法定耐用年数は22年です。築10年の場合は、次のように計算します。
22年 – 10年 + 10年 × 20% = 14年
したがって、簡便法による耐用年数は14年です。
築20年6か月のRC造は30年
RC造住宅の法定耐用年数は47年です。築20年6か月の場合は、法定耐用年数を564か月、経過年数を246か月として計算します。
(564か月 – 246か月) + 246か月 × 20% = 367.2か月
367.2か月を年数に換算すると30.6年です。最終段階で1年未満の端数を切り捨てるため、簡便法による耐用年数は30年となります。
全部経過資産は20%で計算する
法定耐用年数をすべて経過した中古住宅は、簡便法では法定耐用年数の20%を耐用年数とします。
築25年の木造は4年
「22年 × 20% = 4.4年」となり、1年未満を切り捨てて4年です。築22年以上の木造住宅が、必ず2年になるわけではありません。
| 物件例 | 法定耐用年数 | 経過年数 | 中古の耐用年数 | 償却率 | 建物取得価額 | 年間減価償却費(12か月使用の場合) |
| 木造戸建て | 22年 | 10年 | 14年 | 0.072 | 2,000万円 | 144万円 |
| RC造マンション | 47年 | 20年6か月 | 30年 | 0.034 | 6,000万円 | 204万円 |
| 木造アパート | 22年 | 25年 | 4年 | 0.250 | 1,500万円 | 375万円 |
中古マンションを選ぶ基準はこちらで解説しています。
資本的支出について取得価額の50%超は別計算する
購入後に大規模な改良工事をする場合は注意が必要です。資本的支出の額が中古住宅の取得価額の50%以下であれば、通常どおり見積法や簡便法を使えますが、取得価額の50%を超えると簡便法は使えません。
この場合、資本的支出が再取得価額(同じ資産を新品で取得するとした場合の価額)の50%以下であれば次の算式による年数を、再取得価額の50%を超えるときは法定耐用年数を使います。
取得価額の50%超 かつ再取得価額の50%以下は加重計算する
資本的支出が再取得価額の50%以下の場合は、一定の要件のもと、次の算式による耐用年数を使用できます。
(中古資産の取得価額 + 資本的支出)÷(中古資産の取得価額 ÷ 簡便法の年数 + 資本的支出 ÷ 法定耐用年数)
計算結果に1年未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。
再取得価額の50%超は法定耐用年数を使う
資本的支出が再取得価額の50%を超える場合は、見積法や簡便法による耐用年数を適用できず、法定耐用年数を使います。住宅用の木造建物なら22年です。
取得後の大規模な改良工事は、適用する耐用年数に影響する可能性があります。購入直後に実施するリフォームや修繕工事が資本的支出に該当するか修繕費に該当するかによっても取扱いが変わるため、工事の見積書や内訳明細を精査したうえで適用耐用年数を判定することが重要です。
中古住宅の減価償却で必要な取得価額の分け方
購入総額を土地・建物・建物附属設備へ分ける作業は、減価償却費の金額を左右します。どの資料を使い、何を残すかまで確認しておきます。
- 土地は減価償却の対象外
- 建物価格は客観資料で按分
- 建物附属設備は区分可否を確認
- 採用した根拠資料は取得時に保存する
土地は減価償却の対象外
土地付きの中古住宅では、購入総額のうち建物部分を区分して減価償却します。土地は減価償却の対象になりません。
取得に伴う付随費用は、その内容に応じて取得価額への算入可否や対象資産を判断します。購入総額だけで減価償却費を試算すると、実際の金額と大きく離れる場合があります。
建物価格は客観資料で按分
土地と建物の価格を区分する際は、契約内容や客観的な資料に基づき、合理的な方法で判断します。
| 按分の資料 | 内容 | 確認するポイント |
| 売買契約書の内訳 | 当事者が合意した土地・建物の価格 | 価格の算定根拠に合理性があるか |
| 契約書の消費税額 | 建物部分に係る消費税額 | 売主や取引の課税関係 |
| 固定資産税評価額 | 土地と建物の評価額を基に按分 | 取得時期に対応する評価額か |
| 不動産鑑定など | 土地・建物の時価を基に区分 | 評価の根拠が明確か |
| 設備の見積書・明細書 | 建物本体と附属設備の区分 | 設備の内容と金額が確認できるか |
売買契約書の内訳は合理性を確認
契約書に土地と建物の金額が記載されている場合は、まず契約内容を確認します。固定資産税評価額などの客観的な資料も確認し、価格の区分に合理性があるかを判断することが重要です。
消費税額から建物価格を確認
土地の譲渡は消費税が非課税ですが、建物の譲渡は売主や取引の状況によって課税対象になります。売買契約書に建物部分の消費税額が明確に記載されている場合は、土地と建物の価格を確認する資料の一つになります。
固定資産税評価額で比率を確認
売買契約書上に土地と建物の内訳金額が明記されていない場合は、取得年度の固定資産税評価額の比率を用いて購入対価を按分する方法が、税務実務上広く合理的な基準として用いられています。
評価額の考え方はこちらで説明しています。
総額1億円を2つの方法で比較
築20年のRC造マンションを1億円で取得し、簡便法による耐用年数を31年とした場合の比較です。
| 按分方法 | 建物部分の価格 | 年間減価償却費 | 10年後の帳簿価額 |
| 契約書の内訳 | 6,000万円 | 198万円 | 4,020万円 |
| 固定資産税評価額を基に按分 | 4,500万円 | 148.5万円 | 3,015万円 |
建物部分の取得価額が異なれば、減価償却費も変わります。ただし、減価償却費を増やすために按分方法を任意に選べるわけではありません。契約内容や客観的な資料に基づき、合理的に土地と建物を区分する必要があります。
建物附属設備は区分可否を確認
給排水設備、電気設備、空調設備などは、内容によって建物本体と区分して計上する場合があります。建物附属設備には、設備の種類ごとに法定耐用年数が定められています。中古資産として耐用年数を算定する場合は、設備ごとの取得時期や経過年数なども確認が必要です。
設備を区分する場合は、見積書や明細書など、内容と金額を確認できる資料を残しておくことが重要です。
採用した根拠資料は取得時に保存する
土地・建物などの区分方法を決めたら、判断の根拠となった資料を保管します。売買契約書、消費税額が確認できる資料、固定資産税評価証明書、設備明細、工事の請求書などが該当します。取得後に確認が必要となる場合に備え、按分の計算過程とあわせて保存しておきましょう。
中古住宅の減価償却費の計算方法
耐用年数と建物価格が決まれば、残る手順は償却率と使用月数の当てはめです。個人と法人では確認する点が違うため、分けて整理します。
- 年間償却費は取得価額 × 償却率
- 個人は供用日と損益通算の範囲を確認
- 法人は決算での計上額を確認
年間償却費は取得価額 × 償却率
建物は定額法で計算します。「年間減価償却費 = 建物の取得価額 × 耐用年数」に応じた償却率です。耐用年数4年なら0.250、14年なら0.072、31年なら0.033を使います。
年の途中から賃貸の用に供した場合は、使用した月数(1か月未満切り上げ)に応じて計算します。基準になるのは購入日ではなく、事業の用に供した時期です。取得日や賃貸募集の開始日、実際の使用状況などを確認できる資料を残しておきます。
個人は供用日と損益通算の範囲を確認
個人が新たに取得する賃貸用建物や建物附属設備は、定額法で計算します。減価償却費の計上は任意ではなく、毎年必要経費として計算します。建物本体と建物附属設備は、耐用年数などが異なる場合、それぞれ区分して管理します。
不動産所得が赤字になった場合、その損失は原則として他の所得と損益通算できます。ただし、土地等を取得するための借入金利子に相当する損失など、損益通算できない金額があります。
法人は決算での計上額を確認
法人の税務においては、決算書において減価償却費として損金経理した金額のうち、税法上の償却限度額に達するまでの金額が損金算入されます。所得税(個人)と異なり任意償却の性質を持ちますが、期末に損金経理を行わなかった金額は当期の損金として認められない点に留意が必要です。建物本体と建物附属設備、供用時期などを区分し、資産台帳で管理することが重要です。
中古住宅の減価償却終了後の収支
減価償却が終了すると、家賃収入などが同じでも所得は増える可能性があります。購入前に5年目以降の税負担や手元資金まで確認しておく理由を説明します。
- 課税所得が増える可能性がある
- 手元資金が減りやすい時期がある
課税所得が増える可能性がある
家賃収入や他の経費が同じでも、減価償却費がなくなれば所得は増えます。たとえば、法定耐用年数をすべて経過した木造住宅に簡便法を適用し、耐用年数が4年となる場合、5年目以降は減価償却費を計上できません。
購入前に、減価償却が終了した後の税負担や収支まで試算しておくことが重要です。
手元資金が減りやすい時期がある
事例: 法人が築25年の木造アパートを取得した場合です。建物1,500万円、年間減価償却費375万円、家賃年収800万円、諸経費と支払利息200万円、ローン元金返済400万円と仮定します。
| 区分 | 1〜4年目 | 5年目以降 |
| 減価償却費 | 375万円 | 0円 |
| 物件の収支(税引前) | 225万円 | 600万円 |
| 税負担(30%と仮定) | 約68万円 | 約180万円 |
| 返済後の手元資金(家賃収入 – 諸経費 – 元金返済 – 税負担) | 約132万円 | 約20万円 |
※税負担は物件の収支に30%を乗じた単純な試算です。実際の法人税等は、法人全体の所得、資本金、所在地などによって異なります。
ローンの元金返済は損金になりません。そのため、減価償却が終了すると、手元資金の動きが変わらなくても所得と税負担が増える場合があります。減価償却の終了時期とローンの返済計画をあわせて確認することが重要です。取得前には、償却期間中だけでなく、終了後の収支も試算しておきましょう。
中古住宅の売却時に減価償却が与える影響
保有中の減価償却は、売却時の建物の取得費にも影響します。保有中の税負担だけで判断しない理由を3つの論点から確認します。
- 売却時は建物取得費が減少する
- 未計上分も取得費計算に反映する
- 所有期間は売却年の1月1日で判定する
売却時は建物取得費が減少する
個人が中古住宅を売却する場合、建物の取得費は、購入代金などから減価償却費相当額を差し引いて計算します。減価償却費相当額が大きいほど取得費は小さくなり、その分、譲渡所得が増える要因になります。
保有中の税負担だけでなく、売却時の税負担まで含めて手元に残る資金を比較することが重要です。
未計上分も取得費計算に反映する
個人の事業用建物では、必要経費に算入していなかった減価償却費がある場合でも、原則として毎年の減価償却費の合計額を取得費から差し引きます。
減価償却費を必要経費に計上しなかったとしても、その分が売却時の取得費に残るわけではありません。
所有期間は売却年の1月1日で判定する
個人が土地・建物を売却する場合、長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分は、売却日から単純に5年を数えて判断するものではありません。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期、5年以下なら短期となります。
売却する時期によって適用される税率が変わる場合があるため、取得日と売却予定年を確認しておくことが重要です。
中古住宅の減価償却でよくある質問
購入前や申告前によくある疑問に回答します。
築22年以上の木造住宅は必ず2年ですか?
必ず2年になるわけではありません。法定耐用年数22年をすべて経過した木造住宅に簡便法を適用すると、「22年 × 20% = 4.4年」となり、1年未満を切り捨てて4年です。 2年は、簡便法による計算結果が2年未満になった場合の下限です。
中古の耐用年数は後から変更できますか?
中古資産の耐用年数は、原則として事業の用に供した事業年度において決定します。当初の申告で簡便法により算定・適用した耐用年数について、翌期以後の事業年度で任意に見直したり再計算したりすることは原則として認められません。
土地も減価償却できますか?
土地は減価償却の対象外です。中古住宅では、建物や建物附属設備などの減価償却資産が計算対象になります。
減価償却費の経費算入について相談したい場合は税理士法人ネイチャー
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まとめ:中古住宅の減価償却は耐用年数の確認から始めよう
中古住宅の減価償却で確認すべきポイントは、使用可能期間の見積もり、簡便法の適用、資本的支出の判定、取得価額の按分、事業の用に供した時期、売却時の取得費です。
順に確認すれば、購入前に年間の減価償却費や将来の収支を試算しやすくなります。取得から売却までの税負担や手元資金も含めて検討することが重要です。判断に迷う場合は、事前に顧問税理士に確認しましょう。
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