故人の米国資産の相続に直面し、706-NAという聞き慣れない申告書にたどり着いたあなたへ。
706-NA (United States Estate Tax Return Estate of nonresident not a citizen of the United States)は、米国に住んでいない人(非居住者)が亡くなった際、米国にある一定額以上の財産を相続した場合に、米国の遺産税を申告・納税するために提出する非常に重要な書類です。
国際相続は複雑で不安が伴いますが、ご安心ください。私たち税理士法人ネイチャーは、国際税務と相続の専門家として、この複雑な申告手続きをシンプルかつ確実に行うための知識と経験を持っています。
この記事では、706-NAの申告義務から、最も重要な非課税枠6万ドルの適用、そして日米租税条約を活用した具体的な計算方法まで、分かりやすく解説します。
706-NAとは?米国非居住者が必ず知るべき遺産税申告の全体像
706-NAの申告義務が生じる「たった一つの条件」
706-NAの申告義務が生じる条件はシンプルです。それは、故人が米国非居住者であり、かつ米国にある財産(米国財産)の総額が6万ドル(約900万円)を超えている場合です。
この6万ドルという基準は、米国非居住者用の基礎控除(非課税枠)と同じ金額です。つまり、米国財産の総額が6万ドル以下であれば、申告は原則不要です。しかし、少しでも超える可能性がある場合は、申告の義務が生じます。
非居住者の判断基準は複雑ですが、簡単に言えば米国に住所がない、または生活の拠点がない人です。故人が日本人で日本に住んでいた場合は、通常この非居住者に該当します。
申告が必要な「米国財産」とは?具体的な資産リスト
706-NAの課税対象となる米国財産は、日本の相続税でいう相続財産とは範囲が異なります。特に注意すべき代表的な資産は以下の通りです。
| 資産の種類 | 課税の有無 | 備考 |
| 米国上場株式 | 課税対象 | 例: 個別株、米国籍のETFや投資信託など。 |
| 米国内の不動産 | 課税対象 | 例: ハワイやニューヨークなどに所有していた土地や建物。 |
| 米国の銀行預金 | 非課税 | 原則として課税対象外ですが、特殊な形態(事業用口座など)には注意が必要です。 |
ご自身の保有資産が米国財産に該当するかどうかの判断は非常に専門的です。少しでも疑問がある場合は、国際税務に精通した税理士に確認することが不可欠です。
押さえておくべき申告期限と提出先
706-NAの申告期限は、原則として故人の死亡日から9か月以内です。
日本の相続税の申告期限(死亡日から10か月以内)と似ていますが、1ヶ月短いため特に注意が必要です。この期限を過ぎると、重いペナルティが課される可能性があります。
やむを得ない事情で期限に間に合わない場合は、Form 4768という書類で最長6ヶ月の申告期限の延長申請が可能です。ただし、納税額は延長期間に関わらず原則9か月以内に納付する必要があります。
【専門家解説】706-NA申告で最も重要な「非課税枠6万ドル」の落とし穴
米国非居住者が使える遺産税の「基礎控除」の原則
米国の遺産税には、納税者の負担を軽減するために基礎控除(Unified Credit)が設けられています。しかし、米国非居住者の場合、その控除額は6万ドルという非常に低い水準に設定されています。
この6万ドルという非課税枠こそ、706-NA申告の有無を決定づける基準です。
【重要な原則】
- 米国財産の総額が6万ドル以下:申告義務なし(ただし、相続税対策上、申告した方が有利なケースは除く)。
- 米国財産の総額が6万ドル超:申告義務あり。この場合、課税遺産総額から6万ドルを差し引いた残額に対して税率が適用されます。
非課税枠を超えた場合の「課税遺産総額」の計算ロジック
課税遺産総額は、以下のシンプルな計算で求められます。
この米国財産の総額の算定において、故人死亡日時点の資産の時価を正確に評価することが極めて重要です。特に米国株などは日々価値が変動するため、専門家による厳密なチェックが必要です。
専門家が教える!申告・納税手続きのステップバイステップ
申告は複雑ですが、以下のステップで進めれば安心です。
- 米国財産の特定と評価: 故人の米国の銀行口座、証券口座などを確認し、死亡日時点の時価を評価します。
- 専門家(税理士)への相談・依頼: 国際税務のプロに依頼することで、申告漏れや誤りを防ぎます。
- 706-NAの作成・添付書類の準備: 申告書を作成し、評価証明書などの必要な添付書類を揃えます。
- 申告書の提出: IRSに郵送します。
- 遺産税の納付: 納付期限までに指定の方法で納税を完了します。
<税理士法人ネイチャーからのアドバイス>
特に米国株の評価は、日本の証券会社が発行する残高証明書だけでは不十分なケースがあります。IRSが認める形式での証明や、現地ブローカーとのやり取りが必要になる場合があるため、国際相続の経験豊富な専門家に依頼することが最も確実で迅速な解決策となります。
複雑な二重課税を防ぐ!日米租税条約の適用と日本の相続税との関係
日米租税条約の「遺産税の規定」を活用するメリット
706-NAの申告で必ず活用すべきなのが日米租税条約(日米相続税条約)です。
日本と米国は二重課税を避けるため、相続税に関する条約を結んでいます。この条約を活用することで、非課税枠の拡大という極めて大きなメリットを受けられる場合があります。
条約を適用すると、非居住者であっても、米国市民と同等の基礎控除(数億円相当)の一部が使えるようになる場合があります。この結果、6万ドルを超えていても、実際には遺産税の課税がゼロになるケースが多く存在します。
706-NAと同時に確認すべき日本の「外国税額控除」
もし条約を使っても米国遺産税を納める必要が生じた場合でも、日本と米国で二重に税金を払う必要はありません。
納めた米国遺産税は、日本の相続税申告において外国税額控除という制度を利用することで、日本の相続税から差し引くことができます。これにより、実質的な二重課税が解消されます。
【ポイント】
日本の相続税申告(10ヶ月以内)と、706-NA申告(9ヶ月以内)は期限が近接しています。日米両国の税務知識を持ち、両申告を同時に最適化できる専門家(税理士)に一括して依頼することが、時間的・費用的にも最も合理的です。
【重要】租税条約適用に必要な「Form 8833」とは?
租税条約の特典(非課税枠の拡大など)を適用するためには、単に706-NAを提出するだけでなく、IRSに対してForm 8833 (Treaty-Based Return Position Disclosure)という私は条約の規定を使いますという意思表示の書類を添付することが義務付けられています。
このForm 8833の記載が不十分だったり、添付を忘れたりすると、せっかくの非課税枠拡大の特典が受けられないという致命的なミスにつながります。実務経験のない税理士では見落としがちな、国際税務の専門性が問われるポイントです。
失敗事例から学ぶ!706-NA申告でよくある3つの税務トラブルと対策
トラブル事例1:米国資産の「評価額の算定ミス」と追徴課税
【事例】
故人が死亡した日の米国株の終値ではなく、相続人が勝手に平均値で評価して申告。後日IRSから指摘を受け、正しい終値で再計算した結果、課税対象額が大幅に増え、多額の追徴課税とペナルティを支払うことになった。
【対策】
米国財産の評価は故人の死亡日(Date of Death)の時価で、IRSが認める情報源に基づき、厳格に行う必要があります。日本の税務当局に提出する評価額とは異なる場合もあるため、日米両方の評価基準を熟知した専門家に依頼すべきです。
トラブル事例2:申告期限超過による重いペナルティの具体例
【事例】
日本の相続税の期限(10ヶ月)と勘違いし、706-NAの申告期限(9ヶ月)を1ヶ月過ぎて提出。申告すべき遺産税額に対し、最大で25%という重い無申告加算税や延滞税が課されてしまった。
【対策】
9ヶ月以内を絶対に守る必要があります。間に合わない場合は、必ずForm 4768で期限延長の手続きを行いましょう。ただし、延長が認められるのは申告期限であり、納税期限ではない点に注意が必要です。納税額は9ヶ月以内に納める必要があります。
トラブル事例3:米国IRSからの「追加資料要求」への適切な対応
【事例】
706-NAを提出した後、IRSから米国財産の評価に関する追加資料や非居住者であることの証明を求めるレターが届いたが、英語での対応に困り、返答が遅れたことで税務調査に発展した。
【対策】
IRSからの問い合わせはすべて英語で行われます。国際税務の専門家に依頼していれば、これらのレターへの適切な回答と資料提出を代行してもらえます。専門家はIRSの求める形式や論理構造を理解しているため、速やかかつ正確に対応することで、税務調査への発展リスクを最小限に抑えられます。
【生前対策】国際相続の専門家が推奨する米国遺産税対策
米国資産を保有する方が生前に検討すべき具体的な対策
米国資産を保有している方が706-NAの申告と遺産税を回避するために、生前からできる対策は多岐にわたります。
| 対策の概要 | 具体的な行動 | メリット |
| 資産の組み換え | 米国籍の株式やETFを、非課税対象とならない投資商品に組み換える。 | 資産が米国財産から外れ、6万ドルの基準以下になる可能性が高まる。 |
| 暦年贈与の活用 | 日本の暦年贈与の非課税枠(110万円)を活用し、生前に計画的に米国外の資金を贈与していく。 | 相続財産自体が減少し、日本の相続税と米国の遺産税の双方の圧縮につながる。 |
| 信託の活用 | 米国の特定非課税信託(Qualified Domestic Trust:QDOTなど)を設立し、資産を信託財産に移す。 | 遺産税の支払いを繰り延べたり、非課税枠を最大限に活用できる。高度な専門知識が必要。 |
申告代行を依頼する税理士の選び方と費用相場
706-NAの申告は、国際税務という非常に専門的な分野です。通常の相続税申告しか扱ったことのない税理士では、日米租税条約の適用やForm 8833の添付など、重要な実務を見落とすリスクがあります。
【良い税理士を選ぶ3つのポイント】
- 国際税務と相続の両方に特化しているか: 日本の相続税と米国の遺産税、両国の税制を横断して最適な申告ができるか。
- 英語でのコミュニケーション能力があるか: IRSへの問い合わせや、現地の弁護士・金融機関との連携をスムーズに行えるか。
- 具体的な事例を提示できるか: 「706-NAを●件申告した」「米国株の相続で非課税枠拡大に成功した」など、具体的な成功事例を持っているか。
費用相場は、資産の複雑さにもよりますが、おおよそ数十万円~数百万円程度になるケースが多いです。しかし、適切な申告で節税できた金額を考えれば、むしろコスト以上の価値があると言えます。
【最終確認】706-NAの不安を安心に変えるための「次の行動」
この記事を通して、米国遺産税申告書「706-NA」の手続きの複雑さ、「6万ドルの非課税枠」の注意点、そして日米租税条約の適用がいかに重要であるかをご理解いただけたかと思います。
国際相続の成功は、この複雑なルールを正しく理解し、抜け漏れなく対応できるかにかかっています。特に、申告期限(9ヶ月以内)の遵守や、Form 8833の適用、日本の相続税との連動は、専門的な知識なしに進めると大きなトラブルやペナルティにつながりかねません。
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