「iDeCoは節税に有利」と聞いて加入を検討しているものの、インターネット上で「意味がない」「損をする」という意見を見て不安を感じていませんか。iDeCoには、掛金の所得控除、運用益の非課税、受取時の控除という税制上のメリットがあります。
ただし、所得税・住民税がほとんどかかっていない場合や、住宅ローン控除との関係で所得控除を十分に生かせない場合には、掛金拠出時の税負担軽減効果が小さくなることがあります。 また、会社の退職金とiDeCoの一時金を近い時期に受け取ると、退職所得控除が調整され、想定より税負担が増える場合があります。
この記事では、iDeCoが「節税にならない」といわれる理由や、税制上のメリットを生かしにくい人の特徴、受取時の注意点を税理士の視点から解説します。iDeCoとNISA、小規模企業共済などをどのように使い分けるべきか検討する際の参考にしてください。
iDeCoは節税にならないは本当?
iDeCoが一律に「節税にならない」ということはありません。
iDeCoは、公的年金に上乗せする老後資金を自分で準備する私的年金制度です。原則として、支払った掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、その年の課税所得から差し引かれます。
さらに、運用期間中の運用益は非課税となり、受取時には、一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金で受け取る場合は公的年金等控除の対象となります。
一方、所得税・住民税がかかっていない人は、掛金を所得から差し引いても税負担が減りません。また、手数料、資金拘束、運用損失、受取時の課税まで含めると、期待していたほどメリットを得られない場合もあります。
iDeCoの加入を判断するときは、現在の年収だけでなく、課税所得、掛金額、加入期間、退職金、受取方法、生活資金などを総合的に確認することが重要です。
iDeCoは節税にならないと言われる理由
iDeCoには税制上の優遇がある一方、手数料や受取時の課税、原則60歳まで引き出せないという制約があります。
| 税金への影響・メリット | 発生するコスト・注意点 | |
| 積立時 | 掛け金が全額所得控除の対象 | 所得税・住民税がかかっていない場合は、所得控除による効果がない |
| 運用時 | 運用で出た利益が非課税 | 口座管理手数料や投資信託の信託報酬がかかる場合がある |
| 受取時 | 一時金は退職所得控除、年金は公的年金等控除の対象 | 控除額や他の退職金・年金との関係によって税金がかかる場合がある |
表のように、一般的には入り口(積立時)のメリットばかりが注目されがちですが、実際には運用中や出口(受取時)にコストと税金がかかります。それぞれの段階の注意点について詳しく解説します。
- 所得控除の効果は掛金を拠出した年に限られる
- 受取時に税金がかかる場合がある
- 加入時・運用時・受取時に手数料がかかる
所得控除の効果は掛金を拠出した年に限られる
iDeCoの掛金によって所得税・住民税の負担が軽減されるのは、原則として、その掛金を拠出した年です。掛金の拠出を停止すれば、新たな掛金に対する所得控除もなくなります。 ただし、iDeCoの税制上のメリットは積立時だけではありません。運用益が非課税となるほか、受取時にも退職所得控除や公的年金等控除が設けられています。
したがって、「税金が安くなるのは積立時だけ」と考えるのではなく、積立時、運用時、受取時の3段階を通じて判断する必要があります。
受取時に税金がかかる場合がある
iDeCoの資産は、受取方法によって所得区分が異なります。
- 一時金で受け取る場合: 退職所得
- 年金で受け取る場合: 公的年金等に係る雑所得
一時金で受け取る場合は、原則として、受取額から退職所得控除額を差し引いた残額の2分の1が退職所得となります。退職所得は、原則として給与所得や事業所得などとは分けて税額を計算します。
年金で受け取る場合は、公的年金などと合わせて公的年金等に係る雑所得を計算します。そのため、公的年金の額やその他の所得が多い人は、所得税・住民税の負担が増えることがあります。
受取時に税金がかかるとしても、掛金拠出時に減った税額と同額がそのまま課税されるわけではありません。拠出時と受取時の税率、控除、運用益などを含めて比較する必要があります。
加入時・運用時・受取時に手数料がかかる
iDeCoでは、加入時や掛金拠出時、資産管理時、給付時などに手数料がかかります。金融機関によっては、これに加えて運営管理手数料が設定されていることがあります。
また、投資信託を選ぶ場合は、商品ごとに信託報酬がかかります。
所得税・住民税がかからず掛金の所得控除を利用できない場合や、掛金額が少ない場合には、手数料負担の割合が相対的に大きくなります(手数料の負担によってトータルでマイナスになる状態を「手数料負け」と呼びます)。ただし、手数料を上回るかどうかは、運用結果や加入期間も含めて判断しなければなりません。
iDeCoで節税にならない人とは?
次のような人は、iDeCoの所得控除による効果が小さかったり、制度上の制約が負担になったりする可能性があります。
- 所得税や住民税がほとんどかかっていない人
- 住宅ローン控除との関係で所得控除を生かしにくい人
- 50代後半など加入期間・運用期間が短い人
- 数年以内に大きな支出の予定がある人
- 将来もらう退職金が多い人
所得税や住民税がほとんどかかっていない人
専業主婦・専業主夫や、所得が一定額以下のパート・アルバイトの方など、所得税や住民税がかかっていない人は、掛金の所得控除による税負担軽減効果を得られません。
iDeCoの掛金控除は、自分自身の所得から差し引く制度です。配偶者が掛金を負担したとしても、原則として配偶者側の所得控除にはできません。
ただし、運用益が非課税になるメリットはあります。所得控除を利用できないからといって、iDeCoに加入する意味がまったくないわけではありません。
換金性を重視する場合は、必要に応じて売却できるNISAとの比較が重要です。
住宅ローン控除との関係で所得控除を生かしにくい人
住宅ローン控除を利用している場合、iDeCoの所得控除によって課税所得と所得税額が下がる一方、所得税から控除しきれない住宅ローン控除額が増えることがあります。
このため、所得税だけを見ると、iDeCoによる税負担軽減効果を実感しにくい場合があります。
ただし、住民税にも影響するため、「住宅ローン控除で所得税がゼロなら、iDeCoの効果も必ずゼロ」とは限りません。住宅ローン控除の適用額、課税所得、住民税からの控除額などを基に個別に試算する必要があります。
50代後半など加入期間・運用期間が短い人
50代後半からiDeCoを始める場合、若い世代と比べて運用期間が短くなるため、長期積立や複利の効果は得にくくなります。
また、60歳から老齢給付金を受け取るためには、原則として、60歳になるまでの通算加入者等期間が10年以上必要です。10年に満たない場合は、通算加入者等期間に応じて受給可能年齢が後ろ倒しになります。
一方、課税所得がある人は、比較的短い加入期間でも掛金の所得控除による効果を得られることがあります。年齢だけで加入の損得を判断せず、受給開始年齢、手数料、運用商品、掛金額を確認しましょう。
数年以内に大きな支出の予定がある人
iDeCoの資産は、原則として60歳まで引き出せません。
子どもの教育資金、住宅購入資金、事業資金、病気や介護に備える資金など、数年以内にまとまった資金が必要になる可能性がある人は、iDeCoへの拠出額を慎重に決める必要があります。
税制上のメリットがあっても、生活資金が不足して高金利の借入れを利用することになれば、家計全体では不利になる可能性があります。
まずは生活防衛資金を確保し、そのうえで当面使う予定のない資金をiDeCoに回すことが基本です。
将来もらう退職金が多い人
会社の退職金や役員退職金が多い人は、iDeCo一時金との受取時期に注意が必要です。
iDeCoの一時金は退職所得に該当します。会社の退職金とiDeCo一時金の受取時期が近く、勤続期間とiDeCoの加入者等期間が重複している場合には、退職所得控除額が調整されることがあります。
その結果、iDeCo一時金の一部または全部が退職所得控除額を超える可能性があります。ただし、原則として、控除後の残額の2分の1が退職所得となり、他の所得とは分けて税額を計算します。
退職金が多いという理由だけでiDeCoが不利になるわけではありません。現役時代に受けた所得控除の効果を含め、受取時期と受取方法を具体的に試算することが重要です。
iDeCoが節税にならない制度上のデメリット
iDeCoを検討するときは、税制上の効果だけでなく、資金拘束や将来の制度変更リスクも確認しておきましょう。
- 受取時に課税される可能性がある
- 特別法人税は現在課税が停止されているが再開するリスクがあること
受取時に課税される可能性がある
iDeCoには、掛金拠出時の所得控除、運用益の非課税、受取時の各種控除があります。
一方、受取時には、一時金なら退職所得、年金なら公的年金等に係る雑所得として課税対象になる場合があります。その意味では課税繰延べの側面がありますが、単なる税金の先送りとだけ捉えるのは適切ではありません。
拠出時と受取時の税率差、退職所得控除、公的年金等控除、運用益の非課税などによって、最終的な負担は変わり、基本的には有利になる傾向です。ただしNISAは運用益については非課税となるため、投資リターンに対する課税という意味ではNISAの方が有利です。iDeCoの所得控除の効果はNISAにはないので、比較することが重要です。
特別法人税は現在課税が停止されているが再開するリスクがあること
確定拠出年金の積立金には、制度上、年1.173%の特別法人税がありますが、現在は課税が停止されています。
制度そのものが廃止されたわけではないため、将来の税制改正によって取扱いが変わる可能性はあります。ただし、現時点で課税再開が決まっているわけではありません。
加入判断に当たっては、確定的な負担として計算するのではなく、将来の制度変更リスクの一つとして認識しておくのが適切です。
iDeCoの節税効果を左右する年収別の損得ライン
節税効果を最大化するために、年収300万円、600万円、1,000万円超の3つの基準でiDeCoの損得ラインを解説します。
年収300万円以下は手数料負けに注意
年収300万円以下の方は、所得税率が低いため手数料負けに注意が必要です。課税所得(税金の計算基準となる金額)が低いと、iDeCoの掛け金全額が所得控除になっても、実際に安くなる税金の額はわずかです。
一方で、口座管理手数料は毎月固定で数百円発生します。前述の通り、所得税率が低いため節税額が固定手数料を下回るリスクが高まり、節税効果と手数料のバランスを確認したうえで判断することが大切です。
年収600万円前後は新NISAを優先
年収600万円前後の方で、今後のライフイベントで現金が必要になる可能性がある場合は、新NISAを優先する選択肢もあります。
NISAとiDeCoには、それぞれ異なる特徴があります。
| 項目 | iDeCo | NISA |
| 掛金・投資額の所得控除 | あり | なし |
| 運用益 | 運用中での課税なし | 非課税 |
| 途中引出し | 原則60歳まで不可 | 売却・引出しが可能 |
| 受取時の課税 | 受取方法などにより課税される場合がある | NISA口座内の売却益・配当等は原則非課税 |
この年収帯ではiDeCoの所得控除メリットは得られやすいですが、60歳まで資金を引き出せない制限がネックです。新NISAであれば運用益が非課税になるうえ、いつでも自由に資金を引き出せます。まずは新NISAの枠を優先して埋め、余剰資金がある場合にのみiDeCoを併用するバランスが最適です。
年収1,000万円超は受取時の税負担に警戒
年収1,000万円を超える高所得者は、入り口の節税額が大きい反面、受取時の税負担に警戒しなくてはなりません。所得税率は収入が高いほど上がるため、現役時代の節税効果は最大化されます。
一方、会社の退職金や役員退職金が多い場合は、iDeCo一時金との受取時期によって退職所得控除が調整される可能性があります。
例えば、勤続30年の役員が役員退職金3,000万円を受け取り、同じ年にiDeCo一時金500万円も受け取る場合、退職所得控除額は役員の勤続期間、iDeCoの加入者等期間、それぞれの期間の重複関係を踏まえて計算します。
単純に「合計3,500万円から勤続30年分の退職所得控除1,500万円を差し引く」とは限りません。役員退職金の勤続年数や受取時期によっても取扱いが変わるため、具体的な税額試算が必要です。
iDeCoの節税メリットを最大化する出口戦略
iDeCoの出口戦略では、次の点を検討します。
- 一時金、年金、併用のどれを選ぶか
- 会社の退職金と何年に受け取るか
- 退職所得控除の調整対象になるか
- 公的年金やその他の所得がいくらあるか
- 所得税・住民税や医療保険料などにどう影響するか
2026年以後は「5年空ければよい」とは限らない
従来、60歳でiDeCo一時金を受け取り、65歳で会社の退職金を受け取るといった方法が紹介されることがありました。
しかし、2026年1月1日以後にiDeCoなどの老齢一時金を受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合、会社の退職金を受け取る年の前年以前9年内に受け取った老齢一時金が、退職所得控除の調整対象となります。
そのため、従来いわれていた「5年以上空ければよい」という考え方は、2026年以後の受取りにはそのまま当てはまりません。受取年を10年離す必要が生じる場合があります。
反対に、会社の退職金を先に受け取り、後からiDeCo一時金を受け取る場合には、iDeCo側で前年以前19年内の退職金との重複期間を調整するルールがあります。
受取順序によって適用される期間が異なるため、退職予定年の直前ではなく、早めに試算することが重要です。
年金形式は税金と保険料への影響を確認する
iDeCoを年金形式で受け取る場合は、公的年金等に係る雑所得として、公的年金などと合わせて所得を計算します。
その結果、所得税・住民税だけでなく、加入している医療保険制度や自治体の算定方法によっては、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料、介護保険料などに影響する場合があります。
一方、一時金には退職所得控除と原則2分の1課税があります。一時金と年金のどちらが有利かは、受取額、公的年金、退職金、その他の所得によって異なります。
個人事業主や経営者は小規模企業共済も選択肢
小規模企業の経営者や個人事業主は、iDeCoに加えて、小規模企業共済も選択肢になります。
小規模企業共済の掛金は、iDeCoと同様に小規模企業共済等掛金控除の対象です。また、一定の要件を満たせば、納付した掛金の範囲内で契約者貸付制度を利用できます。
ただし、契約者貸付は積立金を自由に引き出す制度ではなく、利息を負担する借入れです。また、任意解約の時期によっては、受け取る解約手当金が納付した掛金合計額を下回ることがあります。
小規模企業共済の共済金や解約手当金は、請求事由や受取方法によって退職所得、一時所得、雑所得など取扱いが異なります。
したがって、小規模企業共済が常にiDeCoより有利とは限りません。老後資金の準備、経営者の退職金準備、事業資金への備えなど、目的に応じて使い分けることが大切です。
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まとめ:iDeCoは自身の年収と将来の退職金額に合わせて加入を判断する
iDeCoには、掛金の所得控除、運用益の非課税、受取時の控除という税制上のメリットがあります。
一方、所得税・住民税がほとんどかかっていない人は、掛金の所得控除による効果を得にくくなります。また、近い将来にまとまった資金が必要な人や、会社の退職金が多い人は、資金拘束や受取時の課税に注意が必要です。
加入の損得は、年収だけでは決まりません。次の項目を確認したうえで判断しましょう。
- 現在の課税所得と適用税率
- 住宅ローン控除など他の控除
- 60歳まで使わずに済む資金か
- 加入期間と受給開始年齢
- 会社の退職金や役員退職金の金額
- 一時金と年金のどちらで受け取るか
- 退職金とiDeCo一時金の受取時期
換金性を重視する場合はNISA、個人事業主や小規模企業の経営者が退職金を準備する場合は小規模企業共済も選択肢になります。
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