個人事業主が事業承継をする方法とは?手続きから贈与税対策まで税理士が解説

個人事業主の事業承継は、押さえておかないといけないポイントがあります。例えば生前に個人事業を承継する場合は、一般に先代事業主が廃業手続きを行い、後継者が新たに開業手続きを行います。事業用資産の移転や契約の承継・再契約に加え、許認可についても、制度に応じて承継手続きや新たな申請が必要になります。

相続による承継では、準確定申告や預金口座の相続手続きも必要です。準確定申告とは、亡くなった事業主に代わって相続人が行う確定申告のことです。準備が不足すると、贈与税・相続税の負担や休業、運転資金の不足につながるおそれがあります。

この記事では、個人事業主の事業承継に必要な手続きを税理士が解説します。事業用資産の引き継ぎ方や個人版事業承継税制、事前準備も確認しましょう。早めに資産と手続きを整理すれば、事業を止めるリスクを抑えられます。

相続税

事業承継を個人事業主が行うための手続き

個人事業のすべてを生前に承継する場合、先代の廃業と後継者の開業が基本です。相続による承継では、申告期限や提出書類が異なります。

以下の表は、生前承継に伴い税務署へ提出する主な書類です。実際に必要となる書類は、青色申告の利用状況や消費税の課税関係、従業員の有無などによって異なります。

現在の経営者(先代)が提出する書類後継者(次世代)が提出する書類
基本の届け出個人事業の開業・廃業等届出書(廃業)個人事業の開業・廃業等届出書(開業)
青色申告関連
※該当する場合
所得税の青色申告の取りやめ届出書所得税の青色申告承認申請書
消費税・インボイス事業廃止届出書など(該当する場合)消費税課税事業者選択届出書、消費税簡易課税制度選択届出書、適格請求書発行事業者の登録申請書など(該当する場合)
従業員の雇用給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(廃止)給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(開設)

必要書類は、消費税の課税状況やインボイス登録の有無で変わります。給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書は、原則として開設または廃止から1か月以内に提出します。

従業員の労働契約を後継者へ承継する場合は、事業譲渡の形で従業員の労働契約を後継者へ承継する場合は、原則として各従業員から個別に同意を得る必要があります。事業譲渡の状況や承継後の労働条件などを説明し、十分な時間的余裕をもって協議することが重要です。

相続による承継では、亡くなった先代事業主について確定申告が必要な場合、相続人等が相続開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告と納税を行います。被相続人が青色申告者だった場合は、死亡時期に応じて青色申告承認申請の特例期限が設けられています。

個人事業主の廃業届を管轄の役所へ提出する

先代は、納税地を所轄する税務署へ個人事業の開業・廃業等届出書を提出します。個人事業には法人格がありません。事業用資産や契約は、原則として事業主本人に帰属します。事業のすべてを後継者へ譲り、先代がその事業を廃止する場合は、廃業手続きを行います。

2026年1月1日以後に廃業した場合、開業・廃業等届出書の提出期限は、廃業した年分の所得税の確定申告期限までです。青色申告を取りやめる場合は、所得税の青色申告の取りやめ届出書も提出します。提出期限は、青色申告を取りやめる年分の所得税の確定申告期限までです。

消費税の課税事業者やインボイス発行事業者が事業を廃止する場合は、事業廃止届出書なども確認します。事業廃止届出書の提出時期は、速やかにとされています。消費税の課税事業者は、廃業した年分の消費税申告も必要です。

また、消費税の課税事業者が廃業に伴って車両などの事業用資産を家事用に転用した場合は、その資産を廃業時に自己へ譲渡したものとみなされ、非課税取引に該当する資産などを除き、廃業時の時価を基に消費税の課税対象となる場合があります。

年の途中で廃業した場合も、廃業日までに生じた事業所得はその年分の所得として計算します。確定申告義務がある場合は、原則として翌年の確定申告期限までに申告・納税を行います。

後継者の開業届を提出して事業を引き継ぐ

後継者は、自分の名義で個人事業の開業・廃業等届出書を提出します。2026年1月1日以後に開業した場合、提出期限は開業した年分の所得税の確定申告期限までです。先代が青色申告の承認を受けていても、生前承継では後継者に引き継がれません。後継者自身が所得税の青色申告承認申請書を提出します。

1月16日以後に開業した場合、申請期限は開業日から2か月以内です。1月1日から1月15日までに開業した場合は、原則として3月15日までとなります。青色申告特別控除は、事業所得などを計算する段階で差し引く控除です。最大65万円の控除を受けるには、複式簿記による記帳などが必要です。

貸借対照表と損益計算書を添付し、期限内に申告しなければなりません。e-Taxによる申告または一定の電子帳簿保存も要件となります。期限を過ぎると、原則としてその年分は青色申告を適用できません。開業日を決める段階で、申請期限も確認しておきましょう。

消費税の課税事業者に該当するかどうかも、後継者ごとに判定します。インボイスを発行する場合は、後継者名義で登録申請が必要です。

個人の事業承継における資産の移行方法

事業用資産の所有権を移す方法には、売買や贈与、相続があります。先代が所有権を残し、後継者へ貸す方法も選択肢の一つです。

選ぶ方法によって、先代と後継者の税負担や必要資金が変わります。時価や帳簿価額、相続税評価額などを確認し、資産ごとに引き継ぎ方を決めます。

  • 事業用資産を引き継ぐ際の贈与税負担を把握する
  • 個人版事業承継税制の適用要件を確認する

事業用資産を引き継ぐ際の贈与税負担を把握する

機械設備や車両、備品、不動産を無償で渡すと、原則として贈与税の課税対象となります。暦年課税では、その年に受けた贈与財産の合計額から、基礎控除額110万円を差し引いて税額を計算します。年間の贈与額が110万円以下であれば、原則として贈与税はかかりません。

贈与財産は、原則として贈与時の時価を基に評価します。時価とは、通常の取引で成立すると認められる価額です。実際の評価では、財産評価基本通達などに定められた方法を用います。

決算書に記載された帳簿価額と、贈与税の計算に使う評価額は一致するとは限りません。固定資産台帳や契約書、登記事項証明書などをそろえ、資産ごとの評価方法を確認します。

親族間で有償譲渡する場合も、売買価格の設定には注意が必要です。個人から個人へ財産を著しく低い価額で譲渡した場合、買い手である後継者側では、時価と実際に支払った対価との差額が贈与により取得したものとみなされ、贈与税の課税対象となることがあります。

なお、「著しく低い価額」に該当するかどうかは個々の具体的な事情に応じて判断されるため、「時価の2分の1未満」で一律に判定されるわけではありません。

生前に事業用資産を引き継ぐ場合は、贈与・売買・賃貸などの方法を比較し、後継者の資金力だけでなく、先代の引退後の収入や双方の税負担も考慮して決定しましょう。

生前に引き継ぐ場合は、贈与や売買、賃貸を比較します。後継者の資金力だけでなく、先代の引退後の収入も考慮してください。

個人版事業承継税制の適用要件を確認する

個人版事業承継税制は、特定事業用資産に対応する贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。一定の要件を満たすと、対象となる税額の全額が納税猶予の対象になります。後継者が死亡した場合などは、猶予税額の全部または一部が免除されます。

申告時に税額が減る制度ではありません。対象資産を事業で使い続けるなど、承継後も要件を守る必要があります。対象となる特定事業用資産は、主に次のとおりです。

  • 宅地など(400平方メートルまで)
  • 建物(床面積800平方メートルまで)
  • 固定資産税の課税対象となる機械や器具備品
  • 営業用の標準税率が適用される車両など
  • 特許権をはじめとする一定の無形固定資産

すべての機械や車両が対象になるわけではありません。対象資産は、原則として贈与または相続があった年の前年分の青色申告書の貸借対照表に計上されている必要があります。不動産貸付業などは対象外です。先代が正規の簿記による青色申告を行っていることも要件となります。

原則として、対象事業にかかる特定事業用資産のすべてを承継しなければなりません。後継者についても、贈与による承継の場合には贈与直前に対象事業に従事していることなど、贈与・相続のそれぞれについて一定の要件があります。また、承継後も青色申告を行い、対象となる事業や特定事業用資産を原則として継続して維持する必要があります。

2026年7月現在、個人事業承継計画の提出期限は2028年9月30日です。制度の対象となる贈与・相続等の期間は、2028年12月31日までとなっています。

制度を利用する場合は、認定経営革新等支援機関の指導と助言を受けます。認定経営革新等支援機関とは、国の認定を受けた税理士や金融機関などです。

指導と助言を受けて個人事業承継計画を作成し、都道府県へ提出します。計画の確認を受けた後、実際の贈与や相続に応じた認定申請が必要です。税務署への贈与税・相続税の申告でも、納税猶予の手続きを行います。

対象資産を事業に使わなくなった場合や事業を廃止した場合は、納税猶予が打ち切られることがあります。打ち切り時には、猶予されていた税額と利子税を納めなければなりません。申請期限だけでなく、承継後も事業を続けられるかを確認したうえで利用を判断してください。

相続税

個人事業主が事業承継を進めるための事前準備

個人事業の承継では、資産の整理だけでなく、許認可や契約も確認します。従業員の雇用や運転資金も準備が必要です。承継日から逆算して予定表を作れば、届出や契約変更の漏れを防ぎやすくなります。

  • 個人の名義で所有する事業用資産を把握する
  • 現経営者の廃業と後継者の開業手続きを整える
  • 事業用口座の凍結に備えて運転資金を確保する

個人の名義で所有する事業用資産を把握する

事業用資産と生活用の資産を分けます。個人事業では、預金や不動産が生活用の資産と混在している場合があります。直近の確定申告書や青色申告決算書を確認してください。固定資産台帳や預金通帳、契約書も確認します。

売掛金や棚卸資産、機械、車両、不動産、敷金、保険契約なども一覧にしましょう。自宅の一部を事務所として使っている場合は、事業で使う部分を明確にします。家族名義の土地や建物を使っている場合は、賃貸借や使用貸借の関係も確認してください。

資産だけでなく、借入金や個人保証、リース契約も一覧にします。取引先との契約を後継者へ承継できるかも確認が必要です。各項目について、次の情報を記録します。

  • 所有者と契約名義
  • 事業での使用状況
  • 帳簿価額とおおよその時価
  • 担保設定やリース契約の有無
  • 売買、贈与、賃貸などの引き継ぎ方法

不要な資産を処分する場合も、処分前に税務上の影響を試算します。資産の売却や家事用への転用によって、所得税や消費税が生じる場合があるためです。

現経営者の廃業と後継者の開業手続きを整える

承継日を決めたら、廃業と開業に必要な手続きを時系列で整理します。税務署への届出だけでなく、許認可や契約変更も予定に含めてください。許認可の扱いは、業種や制度によって異なります。後継者が新たな許可や登録を受けなければならない場合もあります。

個人開設のクリニックでは、開設者の変更を変更届だけで処理できません。原則として、先代の廃止と後継者の新規開設が必要です。保健所への手続きに加え、保険医療機関の指定申請も確認します。開設者が変わる場合は、新たな指定申請が必要です。一定の条件を満たせば、指定日の遡及が認められる場合もあります。

事業用口座の凍結に備えて運転資金を確保する

個人名義の預金口座を事業に使っている場合、相続時の資金繰りに注意が必要です。金融機関が口座名義人の死亡を把握すると、入出金が制限されることがあります。

従業員の給与や事務所の家賃、仕入代金を支払えなくなるおそれがあるため、月次の資金繰り表を作成してください。支払日と必要額を一覧にしておきましょう。算出した必要額をもとに、後継者個人の預金で立て替える準備を進めます。

金融機関における事前の融資枠確保も有効な手立てです。万が一の際にすぐ受け取れる生命保険金を運転資金へ充てる対策も推奨されます。死亡保険金にかかる税金は、被保険者、保険料負担者、受取人の組み合わせで変わりますが、被相続人となる先代経営者が保険料を負担している場合は相続税の対象です。

先代の預金を生前に後継者へ移す場合は、資金移動の理由を明確にします。贈与であれば贈与税を確認し、貸し付けであれば契約内容や返済条件を定めます。

相続後は、遺産分割前の預貯金払戻し制度を利用できる場合があります。家庭裁判所を経ずに一定額を払い戻す方法と家庭裁判所の判断を受ける方法の2つです。家庭裁判所を経ない預貯金の単独払戻し制度は、法定相続分の3分の1(かつ1金融機関あたり上限150万円)という法的な限度額が設けられています。

そのため、事業の運転資金や買掛金の決済をすべて賄うことは難しく、あくまで補助的な手段として捉えておく必要があります。運転資金のすべてを確保できるとは限らないため、補助的な手段として考えましょう。

個人の事業承継の相談をするなら税理士法人ネイチャー

個人事業の承継では、資産評価と税務手続きを並行して進めます。贈与、売買、相続のどれを選ぶかで、先代と後継者の負担が変わるためです。

先代の引退後に必要な生活資金も確認が必要です。後継者の運転資金と分けて考え、双方の収支を整理します。

承継時期が決まっていない段階でも、資産と契約を一覧にすれば課題が明確になるでしょう。税理士法人ネイチャーでは、個人事業主の方が相続に向けて何をするべきか、ロードマップを作り、事業承継や資産管理に関してサポートをしています。

事業承継や相続についてのみ、専門的にサポートをしておりますので、今の顧問税理士の方から当社に顧問を替えて頂く必要はありません。顧問の先生との関係も大切にしながら、相続・事業承継の分野が得意な税理士法人ネイチャーをセカンドオピニオンの相談先として、ぜひお気軽にご活用ください。

まとめ:個人事業主の事業承継は資産管理会社の設立を含めた検討をしよう

個人事業主の事業承継では、先代の廃業と後継者の開業が基本です。事業用資産は、売買、贈与、相続などの方法で引き継ぎます。先代から資産を借りて使う方法もあります。生前承継と相続による承継では、必要な手続きや期限が異なるので注意が必要です。資産評価、税額の試算、許認可、契約、運転資金を事前に確認してください。

個人版事業承継税制を利用すれば、一定の事業用資産にかかる贈与税・相続税の納税猶予を受けられる場合があります。適用前だけでなく、承継後も要件を満たさなければなりません。

クリニックの場合は、一般的な事業会社の設立と医療法人化を分けて検討します。所得税や法人税だけでなく、社会保険料、設立費用、管理業務、許認可への影響も比較してください。

法人の設立を決める前に、事業と資産を誰が保有するかを整理します。個人のまま承継する方法、事業会社へ移す方法、資産管理会社を利用する方法を分けて比較しましょう。

「現在の資産を引き継ぐと税金はいくらになるのか」「将来の事業承継に向けた相続税対策を検討したい」とお考えの方は、税理士法人ネイチャーへご相談ください。無料相談を通じ資産構成や事業内容を確認し、有効な対策方法の検討や現状の可視化を行います。

【参照】

国税庁「No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
国税庁「所得税の青色申告承認申請手続
国税庁「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
国税庁「相続で事業を引き継いだ場合の納税義務について
国税庁「個人事業者が事業を廃止した場合
国税庁「青色申告特別控除
国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)
国税庁「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
国税庁「相続時精算課税の選択
国税庁「個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
国税庁「個人版事業承継税制」および同制度のあらまし
中小企業庁「個人版事業承継税制の前提となる認定
厚生労働省「事業譲渡等指針のポイント
東京都多摩府中保健所「個人開設・診療所の開設届出事項の変更
厚生労働省「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン
近畿厚生局「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱い
国税庁「死亡保険金を受け取ったとき

相続税
お客様の目的にあわせたネイチャーグループのサービス
無料相談

資産運用や税金対策についてどんな不安や疑問もコンサルタントが丁寧にお答えします。

\Amazonギフトカード1万円分プレゼント!/

無料相談に申し込む
資産運用

お客様の保有資産をさらに増やすための最適な提案を数多くの選択肢からご提供します。

税金対策

豊富な経験と、投資や税務の様々な視点から、お客様にあった税金対策を提案します。

相続税対策

相続税の不安やお悩みに、専門チームが最適な対策をご提案します。

\Amazonギフトカード1万円分プレゼント!/
所得税の無料個別相談
\売り込み・営業は一切なし/
法人税対策の無料相談