事業承継で生命保険を活用する理由は?自社株の納税資金を確保する

自社株の評価額が予想以上に高くなっていて、後継者に納税資金の当てがない。黒字を積み上げてきた会社ほど、そうした状態に置かれやすいです。自社株は市場で売却しにくく、相続が始まってから現金を用意する手立ては限られます。

生命保険は、必要になったときに現金を用意する手段として使われますが、契約の形を誤れば税負担がかえって重くなる場合もあるので要注意です。

この記事では、事業承継に生命保険を活用することで備えられるトラブルや活用のメリット、保険の種類と選び方、そして税務上の注意点を税理士が解説します。一読すれば、自社にどの契約形態が合うかを判断する視点が得られるでしょう。

相続税

事業承継で生命保険を活用するとよい理由

事業承継における生命保険活用とは、経営者に万一のことがあった際の資金難や自社株の納税資金不足に備え、保険機能を活用する対策のことです。主に活用される理由は3つあります。

  1. 必要になる時期が読めない資金を用意できる点

経営者の死亡は予測できませんが、保険なら契約した時点から保障が始まります。積立で数億円を確保するには年数がかかる一方、多くの保険は原則、加入から一定期間が経過すれば保険金額に相当する死亡保障を得られます。

  1. 受取人を指定できる点

死亡保険金は受取人固有の財産として扱われ、原則として遺産分割の対象になりません。誰にいくら渡すかを、経営者が生前に設計しておけます。

  1. 相続税の非課税限度額を活用できる点

相続人が受け取る死亡保険金には、「500万円 × 法定相続人の数」までを非課税とする定めがあります。同じ金額を現金や預金のまま保有している場合と比べて、非課税となる枠を活用できます。

一方、保険料の負担は継続して発生します。会社の資金繰りと必要な保障の額を並べて検討することが重要です。

事業承継における生命保険の活用で備えられるトラブル

経営者に万一のことがあれば、資金と経営権の両方に影響します。想定される4つの事態を解説します。

  • 経営者の急逝で運転資金が不足する
  • 借入金の返済負担が後継者に及ぶ
  • 相続税の納税資金を確保できない
  • 代償金を用意できず遺産分割が難しくなる

経営者の急逝で運転資金が不足する

経営者が急に亡くなると、会社の資金繰りが滞る場合があります。営業の中心を担っていた経営者が不在になれば売上が落ちる一方、給与や社会保険料、仕入代金の支払いは続くためです。

金融機関の対応が変わる可能性もあります。経営者の個人的な信用で借入枠を確保していた会社では、追加の融資が受けにくくなる場面もあります。

当面の支払いに必要な金額を月次で洗い出し、数か月分を確保できる保障を用意しておきたいところです。会社が受取人となる契約であれば、死亡保険金を給与や仕入代金の支払いに充てられます。

借入金の返済負担が後継者に及ぶ

経営者保証が付いた借入金は、承継後の後継者の負担となる可能性があります。会社の返済が滞れば、保証人の立場を相続する後継者個人の財産にも影響が及ぶためです。

借入金の残高に見合う保障を確保しておくことで、返済の原資を残せる場合があります。

相続税の納税資金を確保できない

自社株の評価額が高い会社では、後継者が納税資金を用意できない事態が起こり得ます。相続税は原則として申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに金銭で一括納付する必要がある一方、自社株には取引市場がなく換金が難しいためです。

自社株が財産の大半を占める構成では、相続人が手元の預貯金だけでは納税資金を賄えないことがあります。死亡保険金は、請求から比較的短期間で支払われる契約が多く、納税資金として使いやすい資産です。受取人を後継者に指定しておけば、遺産分割協議の結論を待たずに受け取れます。

代償金を用意できず遺産分割が難しくなる

後継者へ自社株を集中させると、他の相続人の取り分が減ります。差を埋めるために現金を渡す方法を代償分割と呼びますが、後継者に支払う現金がなければ成立しません。

【シミュレーション:遺言で下記の資産についてそれぞれ受取人指定がされていた場合】

  • 自社株の相続税評価額: 4億円
  • 個人名義の不動産と預貯金: 1億円
  • 相続人:長男(後継者)と長女

長男が自社株、長女が不動産と預貯金を相続した場合、法定相続分の観点等から取り分に大きな偏りが生じるかもしれません。長女から遺留分侵害額請求などがなされた場合、長男は代償金の支払いを求められる可能性があります。

受取人を後継者に指定した保険に加入しておけば、代償金の原資を確保できます。

相続税

事業承継で生命保険を活用するメリット

生命保険は納税資金の確保だけでなく、株価対策や株式の集約にも関係します。2つの効果を解説します。

  • 高額な自社株にかかる納税資金を確保する
  • 経営者の退職金を準備して純資産を減らす

高額な自社株にかかる納税資金を確保する

生命保険の代表的な効果は、会社の現金を減らさずに納税資金を用意できる点です。会社から役員報酬や配当で個人へ資金を移そうとすれば、法人と個人の両方に税負担が生じます。

相続人が受け取る死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」までを非課税とする定めがあります。法定相続人が3人であれば1,500万円までが非課税です。

この非課税の対象は、相続人が受け取った保険金に限られます。相続人ではない孫を受取人にした場合、この非課税枠は使えず、相続税額の2割加算の対象にもなります(代襲相続人となった孫を除く)。受取人の指定は契約時に慎重に確認してください。

経営者の退職金を準備して純資産を減らす

法人契約の保険を解約して受け取る解約返戻金は、役員退職金の原資として活用できる場合があります。退職金を支給することで会社の純資産が減少し、結果として自社株の評価額を下げる効果が期待できます。

ただし、退職金の額は在任期間や職責、同業他社の水準などから相当と認められる範囲で判断され、不相当に高額な部分は損金として認められません。解約返戻金を受け取る時期と退職の時期がずれると、法人税の負担だけが先行して生じる場合もあるため、支給計画との整合が必要です。

事業承継で活用できる生命保険の種類

保険の種類によって、保障期間の長さや解約返戻金の有無が異なります。代表的な4つの特徴を整理します。

種類 保障期間 解約返戻金 主な用途
定期保険 一定期間 少ないか、なし 運転資金
借入金の返済
終身保険 一生涯 あり 納税資金
代償金
株式の買取資金
長期平準定期保険 長期
(90歳や100歳まで等)
商品・時期により異なる 死亡保障と役員退職金の準備
逓増定期保険 一定期間 商品・時期により異なる 将来の事業承継資金
役員退職金の準備

定期保険

定期保険は、決めた期間だけ死亡保障を確保する保険です。保険料が掛け捨てとなる分、同じ保険金額であれば終身保険よりも保険料負担を抑えられます。

経営者に万一のことがあった場合の運転資金や借入金の返済資金として使いやすい保険です。借入金の返済期間に合わせて保険期間を設定する方法もあります。

一方、保険期間が終われば保障はなくなります。解約返戻金も少ないため、資金を積み立てる目的には向きません。更新時に保険料が上がる商品もあり、契約内容の確認が必要です。

終身保険

終身保険は、死亡保障が一生涯続く保険です。いつ相続が始まっても保険金を受け取れるため、承継の時期が確定していない場合でも使いやすい商品です。

自社株の買取資金、相続税の納税資金、代償金の原資として活用されます。解約返戻金があるため、途中で資金が必要になった場合の備えにもなるでしょう。

一般に定期保険よりも保険料の負担は大きくなります。保障を確保する期間が長い分、会社や経営者個人の資金繰りへの影響も長く続く点に注意が必要です。

長期平準定期保険

長期平準定期保険は、保険期間が長く、保険料が一定の定期保険です。90歳や100歳までといった長期の保障を平準化された保険料で確保できます。

死亡保障を長く持ちながら、解約返戻金を役員退職金の原資に充てられる場合があります。解約返戻率は契約後しばらく上昇し、その後は逓減していく形が一般的です。

ただし、解約返戻金の金額や推移は商品によって異なります。解約時期によって受取額が変わるため、経営者の引退予定時期や事業承継の計画とあわせて確認することが重要です。 

逓増定期保険

逓増定期保険は、契約後の経過期間に応じて死亡保険金額が増えていく定期保険です。事業の成長などによって経営者に必要な保障額が増えることを想定して利用される場合があります。 

商品によっては解約返戻金が一定時期まで増加し、その後減少するものもあり、役員退職金や事業承継時の資金準備に活用できる場合があります。ただし、返戻率やピークとなる時期は契約によって異なるため、承継予定時期と合っているかを事前に確認しましょう。

なお、法人が契約する定期保険の保険料については、商品名だけで損金算入額が決まるわけではありません。2019年7月8日以後の一定の契約では、最高解約返戻率などに応じて保険料の一部を資産計上する取扱いがあるため、税務上の処理は契約内容ごとに確認する必要があります。

事業承継における生命保険の選び方

保険は目的に応じて選びます。事業を守る保障と、個人の資金形成という2つの視点から解説します。

  • 早期の死亡リスクに備えて定期保険を選択する
  • 引退後の資金形成を見据えて終身保険を選択する

早期の死亡リスクに備えて定期保険を選択する

経営者がまだ現役で、当面の事業を守ることが目的なら、定期保険が有力な選択肢です。同じ保険料でより大きな保障を確保しやすいためです。

保険金額は、当面の運転資金と借入金の残高から逆算します。従業員の給与、仕入代金、家賃の数か月分に、借入金の残高を加えた金額が一つの目安です。

事業を守るための保障は、金額の大きさが優先されます。資金を積み立てる機能は別の手段で確保し、保障は保障として設計する考え方が実務的です。

引退後の資金形成を見据えて終身保険を選択する

引退後の資金や相続への備えを重視するなら、終身保険が選択肢になります。一生涯の保障に加え、解約返戻金として資金を引き出せるためです。

契約者を経営者個人、被保険者を経営者、受取人を後継者とする形であれば、死亡保険金は納税資金や代償金の原資となります。契約者を法人とする形であれば、解約返戻金を役員退職金に充てることが可能です。

契約者、被保険者、受取人の組み合わせによって、課税される税金の種類(相続税・所得税・贈与税)が変わります。契約前に必ず税務上の取扱いを確認してください。

事業承継で生命保険を導入する際の注意点

法人契約の保険には、保険料と保険金の両面で税務上の定めがあります。特に重要な2つの注意点を解説します。

  • 会社が支払う保険料の税務上の扱いを確認する
  • 保険金を受け取る際に発生する法人税に備える

会社が支払う保険料の税務上の扱いを確認する

法人が支払う保険料は、全額が損金に算入できるとは限りません。2019年7月8日以後に契約した定期保険および第三分野保険については、法人税基本通達9-3-5および9-3-5の2により、解約返戻金の水準に応じて資産計上する割合が定められています。

判定に用いるのは最高解約返戻率です。保険期間が3年以上で最高解約返戻率が50%を超える契約は、次のように扱います。

  • 50%超70%以下: 一定期間、支払保険料の40%を資産計上し、残り60%を損金算入
  • 70%超85%以下: 一定期間、支払保険料の60%を資産計上し、残り40%を損金算入
  • 85%超: 資産計上期間中、当初10年間は「支払保険料×最高解約返戻率×90%」、その後は「支払保険料×最高解約返戻率×70%」を資産計上 

資産計上した金額は、契約区分ごとに定められた取崩期間に取り崩し、損金に算入します。

なお、最高解約返戻率が70%以下で、かつ年換算保険料相当額が被保険者1人につき合計30万円以下の場合は、この資産計上ルールの対象外となり、原則として法人税基本通達9-3-5に基づき期間の経過に応じて損金算入します。

保険金を受け取る際に発生する法人税に備える

法人が受け取る死亡保険金や解約返戻金は、益金に算入されます。資産計上していた金額(前払保険料)を差し引いた残りが、法人税の課税対象となります。

保険金を受け取った事業年度に大きな利益が計上された場合、多額の法人税負担が生じるおそれがあるので注意が必要です。そのため、役員退職金や弔慰金を同じ事業年度に支給し、損金と相殺させることで課税所得を平準化させる設計が一般的となっています。

【事例】経営者の死亡により1億円の保険金を受け取った会社が、退職金の支給を翌期に回したため、保険金を受け取った期に多額の法人税が生じました。支給の時期を保険金の受取時期と合わせていれば、避けられた負担です。

受け取る時期と支出の時期を合わせられるかどうかが、設計の要点となります。

事業承継の生命保険のご相談なら税理士法人ネイチャー

生命保険を事業承継に活用する場合、契約の形と時期の設計が結果を左右します。契約者と受取人の組み合わせによって課税される税金が変わり、保険金を受け取る時期によって法人税の負担も変わるためです。加えて、自社株の評価、遺産分割、資産全体のポートフォリオといった論点は相互に絡み合うため、部分最適では判断を誤りかねません。

税理士法人ネイチャーは、資産税と資産運用の両面をワンストップで扱う点を強みとしています。運用と税務を別々の相談先で検討すると、税引後の手取りや相続時の評価まで含めた全体最適が図りにくくなります。

自社株の評価額の把握、必要な保障額の試算、契約形態ごとの課税関係の整理、さらに個人・法人の資産配分や運用まで、税務と資産設計を一体で検討することが可能です。

「自社株の納税資金がいくら必要か知りたい」「どのような保険商品が事業承継に適しているか知りたい」という段階からお気軽にお問い合わせください。

まとめ:事業承継の生命保険活用は納税資金の確保を

事業承継で生命保険が活用されるのは、必要な時期が読めない資金を確保できるためです。運転資金、借入金の返済、相続税の納税資金、代償金、株式の買取資金と用途は複数にわたります。

保険の種類は、事業を守る定期保険と資金形成を兼ねる終身保険や長期平準定期保険に分かれます。まず決めるべきは、何のためにいくらの資金が必要かという金額の設計です。目的が定まれば、選ぶべき種類も契約者と受取人の組み合わせも絞り込みやすくなります。

法人契約では、保険料の損金算入と保険金受取時の益金算入の両方を確認してください。加入時点だけでなく、受取時点の設計が結果を左右します。個別の事実関係により取扱いが異なり得るため、最終的な判断は税理士への確認が必要です。

税理士法人ネイチャーでは、事業承継と生命保険に関するご相談を承っています。直近の決算書と保険証券をご用意いただければ、必要な保障額の試算から、資産運用をしながら保障額を確保する方法まで含めた全体設計のお手伝いが可能です。まずはお気軽にお問い合わせください。

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