親が海外で暮らしている、相続人が外国籍である、家族の財産が複数の国に分かれている。このような相続では、関係する方の居住状況や財産の所在地に応じて、日本の相続税の取扱いを確認する必要がある。
外国人の相続税では、現在の住所や国籍だけでなく、在留資格や過去の日本での住所歴も判定に関係します。「10年ルール」と呼ばれることもありますが、取得者と被相続人のどちらを確認するかによって、要件や対象となる期間が異なります。
この記事では、代表的な4つのケースを通じて、日本国内の財産のみが課税対象となる場合と、国外財産も課税対象に含まれる場合を整理します。
なお、本記事の「外国籍の方」は、日本国籍を有しない方を指します。日本国籍と外国籍を併せ持つ方は、日本国籍を有する方として判定します。
外国人に日本の相続税はかかる?
外国籍の方でも、日本の相続税の対象となることがあります。課税される財産の範囲は、財産を取得する方と、亡くなった方(被相続人)の双方の住所、国籍、在留資格、日本での住所歴などによって異なります。ここでは、外国籍の方が相続する代表的な4つのケースを見ていきましょう。
相続税における「住所」は生活の本拠を指し、住民票の有無だけでなく、居住や生活の実態を踏まえて判断します。海外で暮らしていても、一時的な滞在かどうかなどによって取扱いが異なる場合があります。
また、財産が日本の課税範囲に含まれることと、実際に納税額が生じることは別です。課税対象となる財産を整理した後に、基礎控除や各種特例などを踏まえて申告・納税の要否を確認します。
日本在住の外国人が海外在住の親から相続するケース
日本に住所がある外国籍の方が、海外に住所がある外国籍の親から相続する場合、取得者の在留資格や日本での住所歴に加え、親の過去の住所歴・国籍などを確認します。
取得者が相続税法上の「一時居住者」に該当し、親が「非居住被相続人」に該当する場合は、原則として、その方が相続する日本国内の財産のみが課税対象となります。非居住被相続人に該当するかは、親の相続開始時の住所、相続開始前10年以内の日本での住所歴、その国内住所期間中の日本国籍の有無によって判定します。
一方、日本に住所がある取得者が「永住者」など一時居住者に該当しない方である場合は、その方が相続する国外の預金や株式などを含め、原則として国内外の財産が課税対象となります。
なお、取得者が一時居住者であっても、海外に住所がある親が非居住被相続人に該当しない場合には、原則として国外財産も課税対象となります。
日本在住の外国人が日本在住の日本人から相続するケース
日本に住む外国籍の方が、日本在住の日本人から財産を取得する場合は、原則として国内財産と国外財産の両方を確認します。たとえば、日本人の夫から外国籍の妻が相続する場合、妻が相続する海外の預金や有価証券も日本の相続税の計算に含まれます。
取得者が一時居住者であっても、被相続人が日本在住の日本人であれば、原則として国外財産も課税対象となります。
海外在住の外国人が日本在住の日本人から相続するケース
取得者が海外に住む外国籍の方でも、被相続人が日本在住の日本人であれば、原則として国内財産と国外財産の両方が日本の相続税の対象となります。
たとえば、日本在住の親が国内の預金と海外の株式を持っていた場合、海外在住の外国籍の子がこれらを相続すると、原則として両方が日本の相続税の計算に含まれます。取得者が日本国外に住んでいることだけを理由に、国外財産が課税対象から外れるわけではありません。
海外在住の外国人が海外在住の親から相続するケース
取得者と被相続人がともに海外在住の外国籍であっても、日本国内の財産を取得すれば、日本の相続税の課税対象となることがあります。たとえば、海外在住の親が日本に不動産を所有していれば、その不動産を取得した外国籍の子について、日本の相続税の課税対象となるかを確認する必要があります。
一方、親が「非居住被相続人」などに該当する場合は、海外にある預金や株式などは原則として日本の課税範囲に入りません。
ただし、非居住被相続人に該当するかは、現在の居住地だけでは決まりません。相続開始前10年以内に日本へ住所があったか、また、日本に住所があった場合には、その期間に日本国籍を有していたかなどを確認します。
日本在住の外国人が受け取る場合の相続税の扱い
日本に住む外国籍の方が相続する場面では、最初に在留資格と日本での居住期間を確認します。そのうえで、財産を残した方がどの区分に当たるかを見ていきます。
- 海外在住の外国籍の親から受け取る場合
- 日本在住の日本人から受け取る場合
海外在住の外国籍の親から受け取る場合
このケースでは、取得者が「一時居住者」に該当するかが重要です。一時居住者として扱われるには、相続開始時の在留資格と、それまでの日本での居住期間を確認します。主な要件は次の2点です。
- 相続開始時に、入管法別表第一の在留資格で日本に住んでいる
- 相続前15年以内に日本へ住所があった期間が、合計10年以下である
「経営・管理」や「技術・人文知識・国際業務」などは別表第一に含まれます。一方、「永住者」や「日本人の配偶者等」は別表第二の在留資格であり、一時居住者には該当しません。ただし、取得者側の条件だけで課税範囲は決まりません。
親が「外国人被相続人(相続開始時に入管法別表第一の在留資格を有し、日本に住所があった外国籍の被相続人)」または「非居住被相続人」など一定の区分に該当することも確認します。たとえば、日本で会社を経営する外国籍のAさんが、母国に住む父から財産を取得したとします。父の財産は次のとおりです。
- 東京のマンション: 1億円
- 父の母国にある預金・株式: 2億円
父が非居住被相続人に該当し、Aさんが一時居住者であれば、原則として東京のマンションが日本の相続税の課税対象となります。一方、Aさんが永住者の場合は、一時居住者に該当しないため、母国にある預金や株式も含め、原則として3億円が日本の相続税の課税対象となります。
取得する財産が同じでも、取得者の在留資格や居住歴、被相続人の区分によって、日本の相続税の課税範囲が異なります。
日本在住の日本人から受け取る場合
次に、日本に住む日本人が財産を残したケースを見てみます。たとえば、日本人の夫が亡くなり、日本に住む外国籍の妻が相続したとします。夫が東京の不動産だけでなく、海外銀行にも預金を持っていた場合、その海外預金も日本の相続税を計算する際に含めます。
妻が一時居住者であっても、被相続人が日本在住の日本人である場合は、国外財産を外すことはできません。取得者が外国籍かどうかだけでなく、被相続人がどの区分に該当するかも、課税範囲を判断するうえで重要です。
一方、亡くなった方も外国籍で、相続開始時に入管法別表第一の在留資格で日本に住んでいた場合は、取扱いが異なることがあります。
その方が「外国人被相続人」に該当し、取得者も一時居住者の要件を満たす場合には、原則として日本国外の財産は日本の相続税の課税対象から外れます。
海外在住の外国人が受け取る場合の相続税の扱い
取得者が海外で暮らしている場合でも、日本の相続税を確認する場面があります。特に影響が大きいのは、財産を残した方が日本に住んでいたケースと、日本国内の不動産などを取得するケースです。
- 日本在住の日本人から国外財産を受け取る場合
- 海外在住の外国人から日本の不動産を受け取る場合
日本在住の日本人から国外財産を受け取る場合
海外に住む外国籍の方が相続人でも、被相続人が日本在住の日本人であれば、原則として取得した国内財産と国外財産の両方が日本の相続税の課税対象となります。たとえば、日本に住む母が次の財産を所有していたとします。
- 日本国内の預金: 8,000万円
- 海外企業の株式: 1億2,000万円
母が亡くなり、海外に住む外国籍の子が相続した場合、原則として合計2億円が日本での相続税の計算対象となります。子に日本の住所がなく、日本国籍も持っていないとしても、それだけで海外株式が課税対象から外れるわけではありません。
海外株式について相手国でも相続税に相当する税を負担することがあります。その場合は、一定の要件のもとで、日本の相続税から外国で課された税額を一定の限度額の範囲内で控除できることがあります。この仕組みが外国税額控除です。
海外在住の外国人から日本の不動産を受け取る場合
取得者も被相続人も海外で暮らしている場合でも、日本国内の財産を取得すれば、原則として日本の相続税の課税対象となります。たとえば、海外在住の外国籍の父が大阪にマンションを持っており、そのマンションを海外在住の子が取得したとします。マンションは日本国内にあるため、日本で相続税の対象となります。
一方、父の母国にある預金や株式まで日本で課税対象となるかは、父の状況によって異なります。父が非居住被相続人など一定の区分に該当するのであれば、母国の金融資産は原則として日本の課税範囲に入りません。
相続時に海外在住だったとしても、それだけで判断はできません。相続開始前10年以内に日本へ住所があったか、その期間に日本国籍を持っていたかなども確認します。
海外在住者同士の相続では、「今どこに住んでいるか」だけでなく、過去の住所と国籍まで確認して課税範囲を判断します。
外国人の相続で日本の相続税がかからない主なケース
日本の相続税が生じないケースは、主に「国外財産が日本の課税範囲に入らない場合」と「日本で計算する課税価格が基礎控除の範囲内に収まる場合」に分けられます。
- 一時居住者が国外財産を取得した場合
- 海外在住者が国外財産を取得した場合
- 課税価格の合計が基礎控除額以下の場合
一時居住者が国外財産のみ取得した場合
日本に住む外国籍の方について、国外財産が日本の相続税の対象外となるかは、取得者と被相続人の双方を確認します。主な条件は次の3つです。
- 相続開始時に入管法別表第一の在留資格を持っている
- 相続前15年以内に日本へ住所があった期間が合計10年以下である
- 被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人などに該当する
取得者が一時居住者でも、被相続人側の条件を満たさなければ、原則として国外財産も日本の相続税の課税対象となります。外国人被相続人とは、相続開始時に別表第一の在留資格で日本に住所があった外国籍の方です。
2021年度(令和3年度)の税制改正では、外国人被相続人について、日本での居住期間に関する要件が撤廃されました。在留資格だけを見るのではなく、取得者と被相続人の双方の状況を確認して課税範囲を判断することが必要です。
海外在住者が国外財産のみ取得した場合
取得者が海外在住で日本国籍を持たない場合も、被相続人の区分を確認します。非居住被相続人とは、相続開始時に日本へ住所がなく、次のいずれかに該当する方をいいます。
- 相続開始前10年以内に日本へ住所がなかった
- 相続開始前10年以内に日本へ住所があったものの、日本に住所を有していたいずれの時点でも日本国籍を有していなかった
被相続人が非居住被相続人に該当する場合、海外在住の外国籍の取得者が取得した国外財産は、原則として日本の相続税の課税対象となりません。
なお、日本と外国の二重国籍で日本国籍を有している場合は、日本国籍がある人として判定します。
課税価格の合計が基礎控除額以下の場合
課税範囲を確認した後は、日本で計算する課税価格と基礎控除額を比べます。基礎控除は次の式で計算します。たとえば、法定相続人が3人なら、基礎控除額は4,800万円です。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
申告の要否は、一人が受け取った金額だけでは判断しません。各人について算定した課税価格を合計し、基礎控除額と比較します。
たとえば、各人の課税価格の合計額が2億円、法定相続人が3人であれば、4,800万円の基礎控除額を超えます。子が取得した財産が500万円であっても、その子について納付すべき相続税額が生じる場合には、原則として申告が必要です。
被相続人(父)の課税価格が合計2億円、法定相続人が3人であれば、4,800万円の基礎控除を超えます。
被相続人が外国籍の場合、実際に誰が相続人になるかは原則として被相続人の本国法で判断します。一方、基礎控除の計算に使う「法定相続人の数」は、相続税法15条2項により、民法の規定による相続人の数とされています。両者が一致しない場合もあるため、個別に確認が必要です。
外国人の相続税で国内財産を見分ける方法
日本国内の財産だけを対象として相続税を計算する場合は、財産ごとに「どこに所在するか」を判定します。主な基準は次のとおりです。
| 財産の種類 | 判定基準 | 国内財産になる例 |
| 不動産 | 土地・建物の所在地 | 東京にあるマンション |
| 預金 | 預金を受け入れた営業所・事業所の所在地 | 外国銀行の東京支店にある預金 |
| 株式 | 発行会社の本店または主たる事務所の所在地 | 日本に本店がある会社の株式 |
預金は銀行の国籍ではなく、受入営業所の所在地で判定します。そのため、日本の銀行でも海外支店の預金は、原則として国外財産となります。株式についても、購入した証券会社の所在地ではなく、発行会社の本店または主たる事務所の所在地を確認します。そのため、日本の証券会社を通じて保有している場合でも、発行会社の本店等が海外にある株式は、原則として国外財産となります。
不動産・預金・株式では、国内財産かどうかの判定基準がそれぞれ異なります。相続税に関する条約が適用される国が関係する場合は、国内法だけでなく条約の内容も確認します。
外国人の相続税申告で確認すること
外国籍の方が関係する相続では、税額を計算する前に、まず日本で課税対象となる財産を整理します。申告の要否は、次の順で確認すると分かりやすくなります。
- 取得者ごとに日本で課税される範囲を確認する
- 対象となる財産の所在と評価額を整理する
- 各人の課税価格を算定し、その合計額を求める
- 基礎控除額と比較する
- 税額控除や特例の適用を確認する
相続税の申告と納税は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。配偶者の税額軽減など、申告を前提として適用を受ける特例もあります。そのため、特例の適用によって納付額がゼロになっても、申告が必要なケースがあります。
海外の銀行や証券会社から資料を取り寄せる場合は、手続きに時間がかかることがあります。外貨建ての財産については、日本円への換算も必要です。
海外在住者は納税管理人を定める
日本に住所がない方が相続税を申告する場合は、日本国内で税務手続きを行う「納税管理人」を定めます。納税管理人は、本人に代わって申告書の提出や納税、税務署から送られる書類の受領などを行います。日本に住む親族のほか、申告を依頼する税理士を選任することも可能です。
納税管理人を定めた場合は、所轄税務署へ届出書を提出します。被相続人が亡くなった時点で日本に住所を有していた場合、相続税申告書の提出先は、原則として被相続人の住所地を管轄する税務署です。被相続人が日本に住所を有していなかった場合は、納税地を確認したうえで、その納税地を所轄する税務署に申告します。
取得者が海外に住んでいる場合は、財産の確認とあわせて、納税管理人や申告先についても確認しておく必要があります。
外国人の相続税の相談なら税理士法人ネイチャー
税理士法人ネイチャーでは、外国籍の方が関係する相続について、日本で確認すべき財産や相続税申告の要否を整理しています。
取得者と被相続人の住所、国籍、在留資格、日本での居住歴などを確認したうえで、国内外にある財産を整理します。
また、国際相続や海外資産に関する税務だけでなく、相続手続きまで含めて相談できる点も特徴です。現地専門家とのネットワークを通じて、日本への資金還流もサポートいたします。
日本と海外の双方に財産がある場合や、一般的な事例だけでは判断しにくい相続もご相談ください。税務と資産運用を別々に考えるのではなく、資産全体を踏まえて整理したい方にも適しています。
まとめ:外国人の相続税は取得者ごとに課税範囲を確認しよう
外国籍であることや、海外に住んでいることだけでは、日本の相続税がかかるかどうかは決まりません。
取得者と被相続人の住所・国籍・在留資格・過去の居住状況を確認し、日本でどの財産を計算に含めるかを整理することが重要です。
そのうえで、課税価格と基礎控除額を比較し、税額控除や特例も踏まえて申告の要否を確認します。
ご家族の居住国や財産の所在が複数国にまたがり、判断が難しい場合は、税理士法人ネイチャーの無料相談をご利用ください。日本で確認すべき相続税の範囲を整理します。
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