「自社で所有していた不動産が、予想以上に高く売れた。しかし、このままだと多額の法人税が……」
法人の経営者、特に資産管理会社のオーナー様にとって、不動産の売却益は嬉しい反面、深刻な税金問題を引き起こします。
個人の売却(分離課税)とは異なり、法人の売却益は他の事業所得と合算され、最大で約34%もの法人税等が一気にかかってきます。せっかく得た利益の1/3以上が税金で消えるとしたら、何のために売却したのか分かりません。
「車でも買うか…」「無駄に広告費を使うか…」
そんな場当たり的な節税は、税務調査で否認されるリスクが高い上、何より会社のキャッシュを無駄遣いする最悪手です。
この記事は、富裕層の資産管理会社を専門とする税理士の視点から、法人の不動産売却益に対する戦略的な節税策を徹底解説します。
この記事を読めば、危険な節税を回避し、売却益を次の資産や会社の成長に賢く繋げるための、具体的かつ安全な方法がすべて分かります。
なぜ法人の不動産売却益は税金が高いのか?個人との根本的な違い
法人が不動産を売却した際、「なぜこんなに税金が高いのか」と驚かれる経営者様は少なくありません。
その理由は、個人と法人とでは、税金の計算ルールが根本的に異なるためです。
法人の場合は売却益が他の事業の利益(赤字)と合算される総合課税が適用されます。
違い①:個人は分離課税、法人は総合課税
最大の違いは、税金の計算方法です。個人の場合、不動産を売却した利益は分離課税といって給与や事業の所得とは完全に切り離して計算されます。税率も所有期間に応じて固定されており、長く持っていれば約20%(5年超)、短くても約39%(5年以下)と決まっています。
一方、法人の場合に適用されるのが総合課税です。これは、不動産の売却益も本業の利益や雑収入とすべて合算し、会社の全所得として課税される仕組みとなっています。
恐ろしいのは、本業が黒字の状態で不動産売却益が出た場合です。利益全体が大きく押し上げられることで、法人税・住民税・事業税を合わせた実効税率(約30%〜34%程度)が売却益全体に重くのしかかることになります。
違い②:法人は特別控除が使えない
もう1つの大きな違いは、控除の有無です。個人がマイホーム(居住用財産)を売却した場合、利益から最大3,000万円を差し引ける3,000万円特別控除という強力な特例が使えます。これにより、利益が3,000万円までなら税金はゼロになります。
しかし、法人の不動産売却には、この特例は一切適用されません。どんなに長く保有していても、どれだけ利益が小さくても、法人の場合は利益の全額が課税対象となります。
この総合課税による合算と特別控除の不適用というダブルパンチこそが、法人の不動産売却において税金が驚くほど高額になる根本的な原因なのです。
やってはいけない!税務署に否認される危険な節税3選
多額の税金を目の前にすると、何でもいいから経費をと焦りがちです。
しかし、富裕層の税務を数多く見てきた経験上、税務調査で最も狙われるのが、この急ごしらえの節税です。以下の3つは、特に危険度が高い行為なので注意しましょう。
失敗例①:実態のない駆け込み経費
決算間際に、慌てて高額な社用車やPC、応接セットなどを購入したり、広告宣伝費を大量に使ったりするケースです。
税務署はタイミングをよく見ています。決算直前の大量購入は「本当に事業に必要なのか?」「金額は妥当か?」という事業関連性と必要性を厳しく問われます。
特に、社長個人がプライベートで使うような高級車や、実態のないコンサルティング費用などは、経費として認められないどころか、役員への利益供与(役員賞与)とみなされる可能性が高いです。そうなれば、法人税の経費にならない上に、社長個人に所得税がかかるという最悪の結果を招きます。
失敗例②:唐突な役員報酬の増額
「今期は不動産が売れて利益が出たから役員報酬を上げて調整しよう」という考えです。
役員報酬には定期同額給与という厳格なルールがあります。原則として、期首から3ヶ月以内しか金額を変更できません。期の途中で利益が出たからという理由で急に増額した分は、全額が損金不算入(経費にならない)となります。
また、決算賞与として出そうとしても、事前に税務署へ事前確定届出給与の手続きをしていなければ、これも全額経費として認められません。
失敗例③:目的の曖昧な出張や交際費
利益が出た期に限って、海外視察や高額な会食が急増するケースです。
「それは本当に事業に必要な出張でしたか?」「その会食でどんなビジネス成果がありましたか?」 のように、税務調査では、このような証拠(議事録やレポート)を求められます。もし家族旅行を偽った出張や、単なるプライベートな飲食と判断されれば、交際費として認められないだけでなく、これもまた役員賞与として課税されるリスクがあります。
「無駄遣い」と「追徴課税」のダブルパンチ
これらの場当たり的な節税に共通するのは、会社のキャッシュを減らすという点です。さらに税務調査で否認されれば、減らしたはずの税金を払わされ、加えて追徴課税(過少申告加算税や延滞税)という重いペナルティまで課されます。
お金を使って、さらに罰金まで取られる。まさに踏んだり蹴ったりの状態を避けるためにも、安易な経費計上は絶対に避けるべきです。
【富裕層・資産管理会社向け】戦略的節税4つのステージ
安全かつ合法的に、今回の売却益を次の資産に繋げるためにはどうすべきか。 私たちは、売却益の活用法を「守り・短期・中期・長期」の4つのステージに分類して戦略を立てます。
ステージ1:【守り】損失との相殺(損益通算)
まず行うべき基本中の基本です。法人の最大のメリットであるすべての事業の損益を通算(合算)できる権利を行使します。
(1)本業の赤字と相殺する
例えば、不動産売却益が5,000万円出ても、本業で2,000万円の赤字があれば、課税対象となる利益は差引3,000万円に圧縮されます。
(2)繰越欠損金(過去の赤字)と相殺する
過去10年以内に発生した赤字(繰越欠損金)が残っていれば、今回の売却益にぶつけることができます。過去の赤字が5,000万円あれば、今回の利益5,000万円と相殺して、課税所得をゼロにすることも可能です。これは法人が持つ最強の権利であり、真っ先に検討すべき対策です。
ステージ2:【短期】今期の経費を前倒しする
次に、近いうちに使う経費を利益が出た今期に前倒しで実行し、損金に算入する方法です。
(1)設備投資・修繕(本当に必要なもの)
古くなったPCや社用車の入れ替え、オフィスの修繕などを行います。ただし、単なる修繕費か、資産価値を高める資本的支出(一括経費にならない)かの判断は専門的なため、税理士への確認が必須です。
(2)社員への還元(決算賞与)
役員賞与は原則NGですが、従業員への決算賞与は、決算日までに全員に通知するなど一定の要件を満たせば、全額を損金にできます。節税効果だけでなく、社員のモチベーションアップにも繋がるため、非常に有効な投資と言えます。
ステージ3:【中期】利益を将来に繰り延べる(再投資)
ここからが、富裕層や資産管理会社が得意とする戦略的節税の本丸です。単にお金を使って無くすのではなく、売却益を別の資産に振り替え、課税を将来に繰り延べる高度な手法です。
(1)中古(耐用年数超過)不動産への再投資
これが王道です。例えば、売却益で築22年を超えた木造アパートを購入します。 法定耐用年数を超えた木造物件は、4年という短期間で減価償却が可能です。仮に建物価格4,000万円なら、毎年1,000万円の減価償却費というキャッシュアウトしない経費を計上できます。今期の利益を圧縮しつつ、キャッシュを家賃収入を生む資産に変える錬金術です。
(2)オペレーティングリースへの出資
航空機や船舶などのリース事業に出資する金融商品です。出資の初年度に大きな減価償却費(損金)を取り込めるため、一時的に利益を大きく圧縮できます。7〜10年後のリース満了時に出資金が戻ってくるため、利益を将来に先送りする効果があります。
(3)経営セーフティ共済(倒産防止共済)
年間最大240万円(累計800万円)まで全額を損金に算入できます。2024年の税制改正により解約後2年間は再加入しても掛金を損金に算入できなくなりました。解約してすぐ入り直すという短期的な手法は使えないため、出口戦略(いつ解約して益金を出すか)を慎重に計画する必要があります。
ステージ4:【長期】株主・経営者へ分配する(出口戦略)
最後は、会社の利益を経営者個人(株主)に分配する最終的な出口戦略です。
そこで用いるのが役員退職金の活用という方法です。経営者が勇退するタイミングに合わせて退職金を支給します。これは、①法人側で損金算入できる(法人税の節税)、②受け取る個人側も退職所得控除や1/2課税により税金が極めて安くなる(所得税の節税)という二重のメリットがあります。不動産売却益で得たキャッシュを原資に退職金を支払うことで、法人税を一気に圧縮しつつ、個人の資産へ安全に移転させることができます。
【ケーススタディ】売却益5,000万円。経営者AとBの選択
同じ売却益5,000万円でも、戦略次第で未来は大きく変わります。
(※本業の利益はゼロ、実効税率30%と仮定)
失敗するA社長 vs 成功するB社長
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比較項目 |
❌ 失敗するA社長 (場当たり的な浪費) |
⭕️ 成功するB社長 (戦略的な再投資) |
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実行した対策 |
高級車(2,000万円)を購入 |
中古木造アパート購入 (建物4,000万円) +設備投資・共済への加入 |
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経費(損金) |
500万円しか認められず ※税務調査で「私的利用」として1,500万円分が否認される |
合計 1,540万円の経費計上 ・減価償却費:1,000万円(初年度) ・設備投資+共済掛金:540万円 |
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課税される利益 |
4,500万円 (5,000万 − 認められた経費500万) |
3,460万円 (5,000万 − 経費1,540万) |
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支払う税金 |
約 1,350万円 (+否認による追徴課税リスク) |
約 1,038万円 (適正に圧縮された税額) |
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手元に残る資産 |
値下がりする中古車 | 家賃を生むアパート 将来戻ってくる共済金 |
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会社の |
合計 3,350万円 (車代2,000万 + 税金1,350万) |
合計 2,578万円 |
【結論】なぜB社長が勝ったのか?
数字を見ると一目瞭然です。
A社長は、税金を減らそうとしてキャッシュを3,350万円も失いました。手元に残ったのは、毎年価値が下がり維持費がかかる高級車だけです。さらに税務調査で否認されるリスクも抱えています。
一方、B社長はキャッシュ流出を2,578万円に抑えています(A社長より約770万円も手元資金が多い)。
さらに重要なのは、B社長の手元には毎月家賃を生み出すアパートと解約すれば戻ってくる共済金という質の高い資産が残っている点です。
「税金を払ってでも、良質な資産を残す」これこそが、会社を成長させる富裕層の鉄則です。
まとめ:不動産売却益は次の資産へのスタートライン
法人の不動産売却益に対する節税は、「経費で消す」という単純なものではありません。
- 基本は損益通算と繰越欠損金の活用。
- 駆け込み経費や唐突な役員報酬増額は税務リスクが高く危険。
- 富裕層・資産管理会社が取るべきは、利益の繰延戦略。
- 中古不動産への再投資やオペレーティングリースで、課税を先送りしつつ新たなキャッシュフローを生む資産を構築する。
- 最終的な出口として役員退職金を活用し、法人と個人のトータルでの税負担を最適化する。
不動産売却益は、会社にとって予期せぬボーナスです。
ボーナスを、税金で失うのか、あるいは次の10年を支える資産に組み替えるのか、選択は、経営者様の税務戦略にかかっています。
私たちは、一般的な税務処理に留まらず、お客様の資産背景、事業計画、そして相続まで見据えたオーダーメイドの税務戦略をご提案します。
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