「個人事業主として売上が伸びた。でも、税金が高すぎる…」
「会社を作れば節税になるって本当?」
「サラリーマンだけど、副業や不動産所得を節税したい」
毎年の確定申告で、驚くほどの納税額にため息をついていませんか。売上が安定するほど、所得税や住民税は雪だるま式に増えていきます。そんな時、会社設立(法人化)という選択肢が頭をよぎる方は非常に多いです。
しかし、税理士の立場からハッキリ申し上げます。
「節税できるらしい」という曖昧な期待だけで会社を設立すると後悔します。最悪の場合、節税どころか税務調査で否認され、余計な税金を取られる危険性すらあるのです。
この記事では、長年、富裕層や経営者の資産防衛に携わってきた税理士が、節税という視点から会社設立を徹底解剖します。会社設立で本当に手残りが増える人、逆に節税破産しかねない人の決定的な違いを、具体的な事例とともにお伝えします。
読み終わる頃には、あなたが今取るべき正しい次の一手が明確になっているはずです。
【税理士の警告】節税だけが目的なら、会社設立は今すぐ止めなさい
会社設立相談で最も多い動機は節税です。しかし、節税効果ばかりに目を奪われ、その代償を見落としている方が後を絶ちません。
法人は、個人事業主と違って赤字でも最低限かかるコストがあります。また、税務署は節税のためだけに作られた実態のない会社(ペーパーカンパニー)に、非常に厳しい目を光らせています。
失敗例1:マイクロ法人で節税破産?社会保険料と均等割のワナ
最近、マイクロ法人を作って社会保険料を安くするスキームが流行しています。個人事業主のままで国民健康保険を払うより、マイクロ法人から最低限の役員報酬をもらい、社会保険(協会けんぽ)に入った方が安い、という理屈です。
これは非常に危険な考え方です。
まず、法人は赤字でも最低年間7万円の法人住民税(均等割)がかかります。さらに、税務申告を自分で行うのは困難なため、税理士への顧問料(年間数十万円)も必要です。
節税できる社会保険料よりも、法人維持コストの方が高くなれば、完全な赤字です。売上が不安定な方が安易に設立すると、コスト倒れで節税破産しかねません。
失敗例2:実態のない親族への役員報酬が否認されたA氏
節税目的で、専業主婦の妻を役員にして月50万円の報酬を支払っていたAさん。しかし税務調査で「奥様は具体的にどんな業務をしていますか?」と追及されます。実際には妻に勤務実態はなく、仕事はすべてAさん一人で行っていました。
結果、「不相当に高額な給与」とみなされ、数年分の報酬が経費(損金)として否認されました。会社側は法人税を追徴されただけでなく、妻が納めた所得税も戻ってこない「二重課税」の状態になり、多額のペナルティーを支払う羽目になりました。
結論:節税は事業の実態があってこそ成り立つ
会社設立による節税メリットは、すべて法人として独立した事業活動を行っているという実態が大前提です。
税務署が疑うのは、「なぜ、わざわざ法人にしたのか?」という点です。答えが節税のためだけであれば、あらゆる節税策が否認されるリスクを負うことになります。
会社設立で本当に節税になる?個人事業主との5大違い
では、リスクを理解した上で、なぜ会社設立が節税になると言われるのでしょうか。それは、個人事業主にはない、法人だけの5つの税務メリットがあるからです。
① 税率の違い:所得800万円を超えたら法人税が有利
最大の理由は、税率構造の違いです。
個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税(最大45%+住民税10%)。
一方、法人税は(資本金1億円以下の中小企業の場合)所得800万円以下の部分は15%、超える部分は約23%と、ほぼ一定です。
【ポイント】
個人の所得が800万円~900万円を超えると、所得税・住民税の合計税率が法人税率を上回る逆転現象が起きます。これが法人化を検討する一つの目安です。
② 経費の範囲:社長の給与(役員報酬)が最大の経費になる
個人事業主は「売上-経費=所得」であり、自分自身に給与は払えません。
一方、法人は社長である自分に給与(役員報酬)を支払うことができます。
役員報酬は、法人の「経費」になります。会社に利益を残すのではなく、役員報酬として個人に移すことで、会社の利益(=法人税の対象)を圧縮できるのです。
さらに、個人として受け取った役員報酬は給与所得となり、給与所得控除という強力な控除が使えるため、個人の税金も優遇されます。
③ 赤字の繰越:個人が3年に対し、法人は10年間OK
事業には好不調の波があります。赤字が出た場合、その赤字を翌年以降の黒字と相殺できる制度を繰越控除と呼びます。
- 個人事業主(青色申告):赤字の繰越は3年間
- 法人(青色申告):赤字の繰越は10年間
設備投資などで大きな赤字が出た年があっても、法人のほうが長期間にわたって将来の税金を減らすことができます。
④ 消費税:最大2年間の免税事業者になれる(※インボイス考慮必須)
(※ここは2023年10月のインボイス制度開始により、状況が大きく変わっています。注意してください)
原則として、資本金1,000万円未満で会社を設立すると、設立1期目と2期目は、売上が1,000万円を超えても消費税の納税が免除される期間がありました。
ただし、インボイス制度の開始により、免税のままだと取引先から選ばれなくなるリスクが出てきました。節税メリット(免税)と、事業上のデメリット(インボイス未登録)を天秤にかける必要があります。
⑤ 退職金:自分への退職金が最強の節税になる
法人化の隠れた最大のメリットが退職金です。
法人は、社長である自分が退職する際に役員退職金を支払うことができます。
退職金は、給与で受け取るよりも税制上、圧倒的に優遇されています(退職所得控除、2分の1課税など)。
何十年もかけて利益を会社に貯め、最後にごっそり退職金として受け取る。これは、個人事業主には絶対に真似できない、究極の節税スキームです。
あなたはどっち?法人化でトクする人・損する人の目安
メリットとリスクが分かったところで、「結局、自分はどっち?」と悩む方も多いでしょう。ここでは、税理士としてのアドバイスをお伝えします。
トクする人の目安:課税所得が安定して800万円を超える
私たちが法人化を具体的におすすめするラインは、課税所得(売上から経費を引いた儲け)が800万円を安定して(2~3年)超えている場合です。
800万円超が一つの基準となる理由は、前述の通り、個人の税率と法人の税率が逆転し始めるラインだからです。
安定して超える必要があるのはなぜでしょうか。それは設立には費用がかかるためです。今年たまたま1000万円いったが、来年は300万円、という状況では、設立コストや維持コスト倒れになる可能性が高いので法人化をする意味がありません。
損する人の目安:売上が不安定、所得500万円以下
逆に、以下の場合はまだ早い可能性が高いです。
- 課税所得が500万円以下
- 売上の変動が激しい
- 事業を始めたばかりで、数年先が見通せない
所得が低い段階で法人化すると、節税できる所得税額よりも、法人の維持コストの方が高くつきます。
【重要】節税額 vs 維持コスト。トータルで判断を
会社設立で損をしないために、絶対に比較すべきなのが節税メリットと維持コストです。
| 項目 | 説明 | 目安コスト(年間) |
| 法人住民税(均等割) | 会社の規模に応じて課される税金。赤字でも必ず発生。 | 最低 7万円~ |
| 税理士顧問料 | 法人の複雑な税務申告を依頼する費用。 | 30万円~60万円 |
| 社会保険料 | 社長1人でも加入義務あり。会社と個人で折半する。 | 役員報酬額による |
合計:最低でも年間40万円~の固定コストが発生します。
あなたの節税見込額が、この年間コストを上回らない限り、法人化は損になるのです。
資産家・富裕層向けもう一つの会社設立とは?
ここまでは主に個人事業主の所得税節税の話でした。
しかし、会社設立にはもう一つの側面があります。富裕層・資産家向けの資産防衛です。
目的は所得税ではなく資産税(相続・贈与)
年収が数千万円あり、金融資産や不動産を多くお持ちの方の悩みは所得税だけではなく、相続税・贈与税ではないでしょうか。
個人が個人に資産を渡せば贈与税が、亡くなれば相続税がかかります。
法人(資産管理会社)を介在させることで、税負担をコントロールし、スムーズな資産移転を目指すのが、富裕層の会社設立です。
ケース1:不動産所得の法人化(資産管理会社)
親から相続したアパートなど、複数の不動産をお持ちの場合。
個人のままだと、不動産所得(家賃収入)が給与所得と合算され、高額な累進課税の対象になります。
資産管理会社を設立し、不動産を法人所有に移す(または法人で管理する)ことで、以下のメリットが生まれます。
- 家賃収入が法人に入るため、個人の所得税から切り離せる。
- 家族をその法人の役員にし、役員報酬を支払うことで、所得を分散できる(=個人の税率を下げる)。
- 修繕費や管理費を法人の経費として計上しやすくなる。
ケース2:金融資産の移転と相続税対策
個人の株式や投資信託を法人に移し、株式(自社株)を、時間をかけて子どもや孫に贈与していく方法もあります。
個人の財産を自社株という形に変えることで、相続財産の評価をコントロールしやすくなり、将来の相続税対策に繋がります。
設立前に知るべき落とし穴と税理士の選び方
「自分は法人化した方がトクそうだ」と判断した方。最後のハードルはどうやって設立するかです。ここで間違えると、せっかくの節税メリットが台無しになります。
設立だけ格安の業者に潜むリスク
ネット上には「会社設立 手数料0円」といった広告が溢れています。
これらの多くは、設立後の税理士顧問契約がセットになっています。問題は、顧問料が相場より高かったり、あなたの業種に詳しくない税理士だったりするケースです。
設立はスタートにすぎません。 設立費用をケチった結果、その後の節税対策が不十分で、トータルで損をしては本末転倒です。
見るべきは「設立後」。顧問契約の重要性
会社設立による節税のキモは、設立後にあります。
- 最適な役員報酬はいくらか?(高すぎると会社が赤字に、低すぎると個人の税金が上がる)
- 決算前にできる節税対策は?(倒産防止共済、保険、設備投資など)
- 社会保険の手続きは?
これらはすべて、設立後に顧問税理士と二人三脚で計画的に行う作業です。設立だけを代行業者に任せ、後の運営を自分流でやってしまうのが、一番の失敗パターンなのです。
失敗しない税理士の選び方:3つのチェックポイント
(1)シミュレーションをしてくれるのか?
「設立しましょう」と即答する税理士は危険です。あなたの所得や家族構成、将来の展望をヒアリングし、「個人事業主のまま」と「法人化後」の税額・社会保険料を具体的に試算(シミュレーション)してくれる税理士を選んでください。
(2)あなたの業界・業種に精通しているか?
IT、不動産、医療、飲食。業界によって「儲かる経費の勘所」は全く違います。
(3)節税に「積極的」かつ「慎重」か?
脱税ギリギリの危ない節税を勧める税理士は論外です。税務署のロジックを熟知した上で、「合法的な範囲で最大限のメリット」を追求してくれる、バランス感覚のある専門家がベストです。
まとめ:会社設立はゴールではない。賢い経営のスタートライン
節税をキーワードに会社設立を検討することは、経営者として非常に正しい一歩です。
しかし、この記事で見てきたように、会社設立は打ち出の小槌ではありません。
法人化でトクする人
- 所得800万円が安定的に超え、事業の実態がある人
- 維持コスト(均等割、税理士顧問料)を払っても、節税メリットが上回る人
- 資産管理や相続まで、長期的な視点で経営を考えたい人
法人化で損する人
- 節税という言葉だけに惹かれ、具体的なシミュレーションをしない人
- 売上が不安定で、法人の維持コストを計算に入れていない人
- 設立だけが目的で、設立後の税務運営を軽視している人
会社設立は、税金から逃げるゴールではありません。
法律的に認められた法人という器を使い、より賢く、より大きく事業を発展させていくためのスタートラインです。
あなたの事業と資産を本気で守りたいなら、まずは「自分は法人化すべきか?」を、信頼できる税務のプロに相談することから始めてください。
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