「そろそろ後継者を決めなければ…」と思いながらも、着手できずに数年が経過している経営者は少なくありません。
事業承継とは、単に代表者を変更することではなく、経営を担う人材、自社株式や事業用資産、取引先との関係やノウハウなど、事業の継続に必要な経営資源を後継者へ引き継ぐ取組です。
特に非上場会社では、業績や純資産の蓄積などによって自社株式の相続税・贈与税上の評価額が高くなる場合があり、親族内承継では株式をどのように後継者へ移すかが重要な税務上の論点になります。
この記事では、「事業承継とは何か」という基本的な意味から、混同されやすい言葉との違い、主な承継方法、手順、メリットと注意点まで税理士の視点から分かりやすく解説します。
事業承継とは?
事業承継で引き継ぐ対象は「人(経営)」「資産」「知的資産」の3つに整理できます。事業承継とは具体的に何を引き継ぐ取組なのかを確認したうえで、親族内承継だけでなく、従業員承継やM&Aなどの選択肢も見ていきましょう。
事業承継とは経営資源を後継者へ引き継ぐ取組
事業承継とは、現経営者が培ってきた事業を後継者へ引き継ぎ、事業を継続・発展させていくための取組です。承継するものは社長の地位や自社株式だけではありません。中小企業庁の「事業承継ガイドライン」では、後継者へ引き継ぐ経営資源を「人(経営)」「資産」「知的資産」の3つに整理しています。
「人(経営)」には経営権や後継者の育成、「資産」には自社株式や事業用資産などが含まれます。「知的資産」には、経営理念、従業員の技術・ノウハウ、取引先との関係、顧客からの信用など、貸借対照表には表れにくい事業の強みも含まれます。経営者保証についても、後継者へ当然に引き継ぐことを前提とするのではなく、事業承継を機に解除や見直しが可能か金融機関と協議することが考えられます。
自社株式を後継者へ移すだけで、事業承継が完了するわけではありません。後継者の育成、自社株式・事業用資産の承継、取引先や従業員との関係づくりなどを含め、早い段階から計画的に準備することが重要です。
第三者へ会社を売却するM&Aも含めて事業承継を検討する
事業承継の方法は、子どもなどの親族へ引き継ぐ「親族内承継」だけではありません。役員や従業員へ引き継ぐ「従業員承継」のほか、M&Aによって社外の第三者へ事業を引き継ぐ方法もあります。後継者候補の有無や会社の経営状況、株式・事業用資産の承継方法などを踏まえ、それぞれの選択肢を比較することが重要です。
帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」では、調査対象となった全国全業種約27万社のうち、後継者が「いない」または「未定」の企業は13.8万社で、後継者不在率は50.1%でした。
企業規模別では、中小企業が51.2%、そのうち小規模企業が57.3%となっており、小規模企業ほど後継者不在率が高い結果となっています。
親族内に後継者候補がいない場合でも、M&Aによる第三者承継を検討する余地があります。自社の事業を継続できる相手がいるか、株式や事業用資産をどのような方法で引き継ぐか、税負担や経営者保証をどのように整理するかなどを含め、早い段階から複数の選択肢を検討しましょう。
参照: 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」
事業承継と事業継承との違い
「事業継承」という表現が使われることもありますが、事業の引き継ぎに関する公的制度や実務では、一般に「事業承継」という用語が使われています。
例えば、中小企業庁では「事業承継・M&A補助金」、国税庁では「法人版事業承継税制」という名称が用いられています。そのため、後継者への経営の引き継ぎを説明する場合は、「事業承継」と表記するのが一般的です。
「事業継承」でも意味が通じないわけではありませんが、本記事では公的制度の表記に合わせて「事業承継」に統一します。
事業承継と事業譲渡との違い
事業譲渡は、M&Aによって第三者へ事業を引き継ぐ際に用いられる手法の一つです。会社そのものを譲渡するのではなく、会社が営む事業の全部または一部について、対象となる資産・負債や契約関係などを選定し、譲受側へ移転します。
株式譲渡では株主が保有する株式を譲渡することで会社の支配権を移しますが、事業譲渡では譲渡会社の法人格や株主構成はそのまま残り、契約で定めた事業の構成要素を個別に移転する点が大きな違いです。
事業譲渡では、譲渡対象となる権利義務が自動的にすべて譲受側へ移るわけではありません。例えば、譲渡する事業に従事する従業員の労働契約を譲受側へ承継する場合は、原則として対象となる従業員本人の個別の承諾が必要です。
取引先との契約についても、契約上の地位を譲受側へ移す際に相手方の同意や所定の手続が必要になる場合があるため、契約内容を個別に確認する必要があります。
許認可の取扱いは、業種や根拠法令によって異なります。譲受側で新たな許認可の取得が必要なケースがある一方、一定の承継手続や特例を利用できる許認可もあるため、「事業譲渡では必ず許認可を取り直す」とは限りません。
税務上の取扱いも、株式譲渡と事業譲渡では異なります。株式の譲渡は、消費税法上、有価証券等の譲渡として非課税取引に該当します。
一方、事業譲渡では、譲渡対価の全額に一律で消費税がかかるのではなく、譲渡する資産ごとに課税・非課税を判定します。例えば、棚卸資産、建物・機械などの事業用資産、営業権(のれん)などは原則として消費税の課税対象となる一方、土地などは非課税です。
そのため、事業承継で株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶか検討する際は、手続の負担だけでなく、譲渡する資産の内容や売り手・買い手双方の税負担なども比較する必要があります。
事業承継の方法は3種類
事業承継の主な方法は、「親族内承継」「従業員承継」「M&A(第三者承継)」の3つに整理できます。誰に引き継ぐかだけでなく、自社株式を贈与・相続・売買のどの方法で移すかによって、必要な資金や税務上の取扱いが異なります。それぞれの特徴を比較して、自社に適した方法を検討しましょう。
| 承継方法 | 引き継ぐ相手 | 主に関係する税金 | 押さえるべき論点 |
| 親族内承継 | 子などの親族 | 贈与税 相続税 (売買なら所得税・住民税) |
自社株評価 納税資金 他の相続人との財産配分 |
| 従業員承継 | 役員・従業員 | 贈与税 相続税 所得税 住民税 |
株式取得資金 後継者育成 経営者保証 |
| M&A(第三者承継) | 社外の第三者 | 所得税 住民税 |
譲受先探し 企業・事業価値 譲渡条件 従業員・取引先 経営者保証 |
親族内承継
親族内承継は、子などの親族を後継者として経営を引き継ぐ方法です。親族内に適任の後継者がいる場合は、早い段階から後継者教育や株式移転の準備を進めやすく、所有と経営を一体的に承継しやすい点が特徴です。
一方、親族であることだけを理由に後継者を決めるのではなく、本人の意思や経営者としての適性、従業員・取引先との関係なども踏まえて判断する必要があります。
自社株式を後継者へ移す方法としては、生前贈与、相続、売買などが考えられます。贈与や相続によって非上場株式を取得すると、株式そのものを取得する一方で、贈与税・相続税の納税資金が必要になる場合があります。
一定の要件を満たす場合には、非上場株式に係る贈与税・相続税の納税を猶予・免除する法人版事業承継税制を利用できる可能性もあります。ただし、適用には会社・先代経営者・後継者等に関する要件や所定の手続があるため、早めの確認が必要です。
また、相続財産に占める自社株式の割合が大きい場合は、後継者に株式を集中させることと、他の相続人への財産配分とのバランスも重要です。遺産分割や遺留分への影響を含め、相続全体を見据えて承継方法を検討しましょう。
親族外承継
従業員承継は、自社の役員や従業員を後継者として経営を引き継ぐ方法です。既に事業内容や社内事情を理解している人材を後継者にできることはメリットですが、経営者として必要な能力や社内外との関係づくりなど、計画的な後継者育成も必要です。
役員や従業員が株式を有償で取得して承継する方法として、MBO(Management Buyout)やEBO(Employee Buyout)があります。ただし、従業員承継では必ず株式を買い取るとは限らず、贈与などによって株式を移す方法が検討される場合もあります。
従業員承継では、後継者の株式取得資金が大きな課題となる場合があります。役員や従業員が現経営者から自社株式を買い取る場合、株式の取得に必要な資金を後継者側で準備しなければなりません。
自己資金だけでは不足する場合には、金融機関からの借入れや、経営承継円滑化法に基づく金融支援などを検討できる場合があります。承継する株式数や取得価格、返済可能性を踏まえて資金計画を立てることが重要です。
帝国データバンクの2025年調査では、同年に代表者交代が行われた企業のうち、血縁関係によらない役員・社員を登用した「内部昇格」が36.1%、同族承継が32.3%となり、速報値では内部昇格が同族承継を上回りました。親族以外の役員・従業員を後継者とする承継も、重要な選択肢となっています。
M&A
M&A(第三者承継)は、親族や社内に適任の後継者がいない場合などに、社外の第三者へ株式や事業を引き継ぐ方法です。株式譲渡や事業譲渡など複数の手法があり、譲渡方法によって手続や税務上の取扱いが異なります。中小企業庁も、M&Aを後継者不在企業における事業承継の選択肢の一つとして位置付けています。
また、売却代金を誰が受け取るかはM&Aの手法によって異なります。現経営者個人が保有する株式を譲渡する場合は原則として株主が譲渡対価を受け取りますが、会社が事業を譲渡する場合は譲渡対価を会社が受け取ります。そのため、「M&Aをすれば現経営者個人の引退資金を必ず確保できる」とは限りません。
一方、希望する条件に合う譲受先が見つかるとは限らず、候補先の探索や条件交渉、デュー・ディリジェンス(DD)などに一定の期間を要する場合があります。また、株式譲渡によって経営権を移す場合は、原則として譲渡後の経営に対する現経営者の権限は小さくなるため、譲渡後の関与方法も事前に確認しておくことが重要です。
株式譲渡の具体的な進め方や税金については、以下の記事で詳しく解説しています。
事業承継のメリット
事業承継には、事業そのものを次世代へ引き継ぐだけでなく、従業員の雇用や取引関係の維持、現経営者の引退後の資金確保、相続時の自社株をめぐるトラブルの予防につながる可能性があります。ここでは、事業承継の主なメリットを3つの視点から解説します。
- 会社を存続させて従業員の雇用を守る
- 自社株の譲渡対価を活用して引退生活を送る
- 計画的な資産の移行で親族間のトラブルを回避する
会社を存続させて従業員の雇用を守る
事業承継のメリットの一つは、後継者への承継やM&Aによって、廃業以外の選択肢を検討できる点です。
帝国データバンクの「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2025年)」によると、2025年に休廃業・解散した企業は6万7,949件で、過去10年では2024年に次いで2番目に多い水準でした。休廃業・解散時の経営者年齢は平均71.5歳となっています。なお、この調査の休廃業・解散件数には個人事業主も含まれます。
また、同調査では、2025年に休廃業した企業の直前期の損益が黒字だった割合は49.1%、資産超過だった割合は63.4%でした。経営状況が一定程度保たれている段階でも、休廃業を選択する企業が存在することが分かります。
会社や事業を廃止すると、従業員の転退職や取引関係の終了につながる可能性があります。一方、親族内承継や従業員承継、M&Aなどによって事業を引き継げれば、雇用や取引関係を維持できる可能性があります。事業の継続を希望する場合は、経営者が引退時期を迎える前から承継方法を検討しておくことが重要です。
参照: 帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2025年)」
自社株の譲渡対価を活用して引退生活を送る
M&Aや役員への売却で株式を譲渡すれば、現経営者は対価を受け取ることが可能です。対価は現金が中心ですが、支払方法は契約によって異なります。自社株には取引市場がなく、換金する機会は限られます。株式の譲渡は、資産を現金に換える数少ない場面です。
受け取った資金は、引退後の生活費や次の投資に充てられます。役員退職金と組み合わせる方法もありますが、退職金の額は在任期間や職責などから相当と認められる範囲で判断されます。手元に残る金額は選ぶ方法で変わるため、契約前に手残りを試算してください。
引退後に必要な生活資金も確認しながら、会社の企業価値や相手方との交渉条件を踏まえて承継計画を立てましょう。
計画的な資産の移行で親族間のトラブルを回避する
親族内承継では、生前から自社株式を誰に引き継ぐのかを検討し、その他の財産との配分も整理しておくことで、相続開始後のトラブルを防ぎやすくなります。
相続人が複数いる場合、遺言等によって自社株式の承継先が定められていないなどの事情があると、遺産分割が成立するまで自社株式が共同相続人の共有となることがあります。民法では、相続人が複数いる場合、相続財産は共有に属すると定められています。
自社株が共有状態になると、権利行使者を1名指定して会社に通知しなければ議決権を行使できません。相続人間で権利行使者を決められない状態が続くと、その自社株式について議決権を円滑に行使できず、代表者の選任をはじめとする会社の意思決定に影響する可能性があります。
特に現経営者が多くの議決権を保有している会社では、相続後の株式の分散や共有が経営の安定性に影響することもあるため、生前から自社株式の承継方法を検討しておくことが重要です。
そのため、後継者へ自社株式を集中させたい場合は、遺言、生前贈与などの方法を検討するとともに、他の相続人への財産配分や遺留分への影響も含めて相続全体を設計することが重要です。
事業承継を行うときの注意点
事業承継では、後継者の育成に必要な期間、自社株式の評価と納税資金、税務・法務を含む各種手続など、早めに検討しておきたい論点があります。準備が遅れると選択できる承継方法が限られる場合もあるため、注意点をあらかじめ確認しておきましょう。
- 後継者の育成を含め、早い段階から準備を始める
- 黒字の蓄積で高騰した自社株の税金負担に備える
- 自社株評価や事業承継税制は専門家に相談して進める
後継者の育成を含め、早い段階から準備を始める
事業承継は、後継者を決めて自社株式を移転すれば終わるものではありません。中小企業庁は、後継者の育成も考慮すると、事業承継の準備には5年~10年ほどかかると案内しています。
親族内承継や従業員承継では、後継者が経営に必要な知識や経験を身につける期間に加え、取引先や金融機関との関係の引継ぎ、自社株式の承継方法や税負担の検討などにも時間が必要です。そのため、現経営者が元気なうちから承継時期を想定し、計画的に準備を進めることが重要です。
【想定事例】
例えば、70代の経営者が体調を崩したことをきっかけに、急いで子へ経営を引き継ぐケースを考えてみましょう。後継者が営業部門での経験は豊富でも、財務管理や資金繰り、金融機関との交渉経験が十分でなければ、承継後の経営に負担が生じる可能性があります。
早い段階から決算書や資金繰りの確認、金融機関との面談、重要な取引先との関係づくりなどに後継者を関与させておけば、承継後の経営へ移行しやすくなります。
黒字の蓄積で高騰した自社株の税金負担に備える
長年黒字を続けてきた会社では、経営者が想定する以上に自社株の評価額が高くなっている場合があります。利益が内部に積み上がり、純資産が増えるためです。そのため、親族内承継を検討する際は、現在の自社株評価額を早い段階で確認しておくことが重要です。
自社株は不動産などと同様にすぐには現金化できない資産です。そのため、株価が高騰しているほど、後継者は「手元に現金がないのに多額の贈与税・相続税を納めなければならない」という納税資金難に陥るリスクが高まります。
後継者が自社株式を取得しても、納税に充てられる現金を同時に取得できるとは限りません。そのため、親族内承継では、自社株評価額だけでなく、贈与税・相続税が発生する場合の納税資金まで含めて確認しておくことが重要です。
なお、一定の要件を満たす場合には、法人版事業承継税制により、非上場株式に係る贈与税・相続税の納税猶予・免除を受けられる可能性があります。制度を利用できるかも含めて、早めに承継方法を検討しましょう。
自社株評価額の把握や納税資金対策については、以下の記事でも詳しく解説しています。
自社株評価や事業承継税制は専門家に相談して進める
非上場株式の評価は、会社規模や利益、配当、資産内容によって適用する方法が変わり、決算書の純資産額だけでは算定できません。
税制の期限も動きます。法人版事業承継税制(特例措置)の特例承継計画は、令和8年度税制改正により提出期限が2027年9月30日まで延長されました。
ただし、贈与を実行する適用期限は2027年12月31日のままです。制度の期限と自社の承継時期がかみ合うかは、専門家と確認しながら判断してください。
事業承継の手続きや完了までの流れを解説
事業承継は現状の把握から始まります。自社株の評価額、株主構成、後継者候補、個人資産を整理し、そのうえで方法と時期を決める順序です。
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」では、事業承継に向けた準備の必要性を認識したうえで、経営状況・経営課題等の把握(見える化)、事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)を行い、親族内・従業員承継の場合は事業承継計画を策定し、M&Aの場合は譲受先の探索や交渉などの工程を進め、その後に承継を実行する流れが示されています。
そのため、税負担の軽減だけを目的に贈与や株式売買などの手法を先に決めるのではなく、会社の経営状況や後継者、株式・資産の状況を整理してから承継方法を選ぶことが重要です。
事業承継で検討すべき高騰した自社株の対策
自社株の評価額の対策は複数あります。代表的な3つの方向性を解説します。
- 自社株評価の仕組みを把握し、承継前に対策を検討する
- 持株会社への移行で将来の評価上昇に備える
- 事業承継税制を利用して納税を猶予する
自社株評価の仕組みを把握し、承継前に対策を検討する
非上場株式の相続税・贈与税上の評価方法は、会社規模や株主区分などによって異なります。原則的評価方式では、大会社は主に類似業種比準方式、小会社は主に純資産価額方式、中会社は両方式を併用して評価します。
類似業種比準方式では、類似業種の株価を基に、評価会社の配当・利益・純資産を比準して評価します。純資産価額方式では、会社の資産・負債を原則として相続税評価に洗い替えたうえで株価を計算します。そのため、決算書上の純資産額だけで自社株評価額を判断することはできません。
自社株評価に影響する要素を踏まえ、事業承継の時期に合わせて役員退職金や資産構成などを検討するケースがあります。
例えば、適正な役員退職金を支給することで、会社の利益や純資産が減少し、その結果、自社株評価額に影響する場合があります。ただし、不相当に高額な役員退職給与の部分は法人税上、損金算入が認められません。
また、会社が事業上の必要性から不動産を取得した場合、現預金とは異なる相続税評価となることがあります。ただし、「不動産を購入すれば自社株評価が下がる」と一律に考えることはできません。購入代金による資金流出や借入金返済、物件価格の変動、維持管理費なども含めて検討する必要があります。
対策方法の具体的な内容と注意点は、以下の記事で解説しています。
持株会社への移行で将来の評価上昇に備える
持株会社を活用する事業承継では、オーナーが事業会社の株式を直接保有する形から、持株会社が事業会社株式を保有し、オーナーや後継者が持株会社の株式を保有する形へ組み替える方法があります。
持株会社化の方法には、株式移転、株式交換、現物出資、株式の売買など複数の方法があり、どの方法を選ぶかによってオーナー個人や法人の課税関係、資金調達、必要な手続が異なります。
株価対策としては、持株会社が保有する事業会社株式の含み益から法人税額等相当額を控除できる制度を活用します(※控除割合は2026年4月1日以降の相続・贈与より38%)。これにより、個人で直接所有するよりも相続税評価額を圧縮することが可能です。
一方、法人が増えれば決算や申告の手間と費用も増えます。設立方法や借入金の返済負担によって、想定した効果が得られない場合もあります。
事業承継税制を利用して納税を猶予する
法人版事業承継税制は、一定の要件を満たす非上場会社の株式等を後継者が贈与または相続等により取得した場合に、その株式等に対応する贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の事由が生じた場合には猶予税額が免除される制度です。
一般措置と特例措置があり、特例措置では、一般措置にある「総株式数の最大3分の2」という対象株数の上限が撤廃され、納税猶予割合も100%となっています。ただし、後継者が取得すべき株数などの要件がなくなるわけではありません。
制度の適用時点で税額そのものを減額するのではなく、まず納税を猶予する仕組みです。その後、後継者の死亡など法令で定められた一定の事由が生じた場合には、猶予されている税額の全部または一部が免除されます。
特例措置には期限があります。特例承継計画の提出期限は2027年9月30日までで、特例措置の対象となる贈与・相続等の期間は2027年12月31日までです。
適用後も、代表者を続ける、株式を保有し続けるといった要件を満たす必要があり、報告や届出を怠れば猶予は取り消されます。取消時には猶予税額と利子税を一括で納めなくてはなりません。
事業承継における業種・事業形態ごとの注意点を把握する
業種によって、株式以外の資産や許認可が論点になります。個人事業、農業、クリニック、動物病院の4分野を解説します。
- 個人事業では事業用資産や契約を個別に引き継ぐ
- 農業では農地法と納税猶予の要件を確認する
- クリニックでは医療法人の出資持分や開設手続を確認する
- 営業権の評価を伴う動物病院を引き継ぐ
個人事業では事業用資産や契約を個別に引き継ぐ
個人事業には法人のような株式がないため、株式譲渡によって事業全体を承継することはできません。生前に承継する場合は、先代事業者の廃業と後継者の開業に関する税務手続を行うとともに、事業用の土地・建物、設備、在庫、契約などを個別に引き継ぎます。許認可が必要な事業では、承継の可否や必要な手続も個別に確認する必要があります。
一定の要件を満たす場合には、「個人版事業承継税制」により、事業用資産に係る贈与税・相続税の納税猶予・免除を受けられる可能性があります。対象となる特定事業用資産には、事業に使用していた宅地等(400平方メートルまで)、建物(床面積800平方メートルまで)、一定の減価償却資産などが含まれます。なお、不動産貸付事業等は原則として対象となる事業から除かれています。
個人事業主が事業承継をする方法は以下で解説しています。
農業では農地法と納税猶予の要件を確認する
農業の事業承継では、農地をどのような方法で引き継ぐかによって必要な手続が異なります。農地を売買・貸借する場合は、原則として農地法に基づく農業委員会の許可等が必要ですが、相続によって農地を取得する場合には農地法上の許可は不要で、農業委員会への届出が必要です。
農地を宅地などへ転用する場合には、原則として別途、転用許可等の手続が問題となります。農地の区分によって転用の可否が異なり、資産価値の見積もりも左右されます。
農地等の納税猶予は、途中で農業をやめると猶予税額の納付が必要です。原則として、納税猶予の対象となっている農地等について、一定の譲渡・転用等をした面積が20%を超えると、猶予税額の全額について納税猶予が打ち切られる場合があります。
20%以下の場合には、その譲渡等をした部分に対応する税額等の納付が必要となるのが基本です。ただし、収用や一定の買換えなど例外的な取扱いもあるため、農地を処分する前に適用関係を確認する必要があります。
農業の事業承継についてはこちらで詳しく解説しています。
クリニックでは医療法人の出資持分や開設手続を確認する
クリニックが医療法人で運営されている場合は、その医療法人に「出資持分の定めがあるか」を確認することが重要です。持分の定めのある医療法人では、出資持分が相続税・贈与税上の評価対象となり、国税庁の財産評価基本通達194-2に基づいて評価します。
出資者が死亡した場合の取扱いは定款等によっても異なり、出資持分を承継する場合のほか、払戻請求権が問題となる場合もあります。そのため、医療法人の承継では、出資持分の評価額だけでなく、定款、社員・出資者の構成、後継者への承継方法をあわせて確認する必要があります。
個人開設のクリニックを別の医師へ承継する場合、単なる開設者の変更届ではなく、従前の診療所の廃止と後継者による新規開設の手続が必要となります。東京都の案内でも、個人開設診療所の開設者変更については、廃止・新規開設の手続が必要とされています。
保険診療を続ける場合には、保険医療機関の指定についても地方厚生局への手続が必要です。開設者変更等では新たな指定申請が必要となるケースがあり、一定の場合には遡及指定の取扱いもあるため、承継日を決める前に管轄の保健所や地方厚生局と手続日程を確認しておくことが重要です。
営業権の評価を伴う動物病院を引き継ぐ
動物病院の承継では、土地・建物や診療設備などの資産に加え、事業譲渡の対価に営業権(のれん)が含まれるかどうかも税務上の論点になる場合があります。
また、動物病院の開設者が必ず獣医師本人でなければならないわけではありません。獣医療法では、診療施設の開設者が自ら獣医師として管理する場合を除き、獣医師を管理者として置くことが求められています。そのため、承継時には、実際に診療を担当する獣医師や施設管理者を確保できるかを確認する必要があります。
動物病院の事業承継では、「個人か法人か」だけでなく、何を誰が譲渡するかによって課税関係が異なります。
個人事業として動物病院を事業譲渡する場合、土地・建物、医療機器、棚卸資産、営業権など、譲渡する資産の種類ごとに所得区分や課税方法を確認する必要があります。例えば、土地・建物や株式等以外の資産の譲渡所得は、原則として総合課税の対象となります。
一方、法人化している動物病院について、オーナー個人が保有する非上場株式を譲渡する場合、その株式の譲渡益は一般株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象となります。所得税15%・住民税5%に加え、所得税額に対する復興特別所得税が課されるため、通常の実効税率は20.315%です。
ただし、法人が病院事業そのものを譲渡する場合は、譲渡主体は法人となり、法人側の課税関係が問題となります。したがって、「法人なら20.315%」と一律に考えず、株式譲渡か事業譲渡かを含めて承継方法を比較することが重要です。
事業承継を成功させるための専門家の選び方
事業承継では、後継者を決めるだけでなく、自社株式の評価や株式の移転方法、贈与税・相続税、事業承継税制などの税務上の検討が必要になる場合があります。
特に親族内承継や従業員承継では、「誰に会社を引き継ぐか」とあわせて、「自社株をいつ、どのような方法で移すか」を検討することが重要です。税負担や納税資金まで含めて具体的な承継計画を立てたい場合は、事業承継に詳しい税理士への相談を検討しましょう。
- 自社株評価や税負担を確認したいときは税理士に相談する
- コンサルティングの業務内容を比較する
自社株評価や税負担を確認したいときは税理士に相談する
事業承継で税理士への相談を検討したいのは、自社株式の評価額や承継に伴う税負担を具体的に把握したい場合です。
例えば、親族へ自社株式を贈与・相続する場合には、非上場株式の相続税・贈与税上の評価が必要になります。また、後継者へ株式を売却する場合には、売主側の株式譲渡に伴う税負担や、後継者側の株式取得資金も検討しなければなりません。
特に次のような場合は、早めに税理士へ相談するとよいでしょう。
- 自社株式の現在の評価額を把握したい
- 贈与・相続・売買のどの方法で株式を移すべきか比較したい
- 贈与税・相続税の概算額や納税資金を確認したい
- 法人版事業承継税制を利用できるか確認したい
- 役員退職金などを含めて承継前後の税負担を試算したい
- M&Aや株式譲渡を行った場合の手取り額を確認したい
- 自社株だけでなく、経営者個人の相続財産も含めて承継計画を立てたい
事業承継では、会社側の税金だけを確認すればよいわけではありません。例えば親族内承継では、自社株式が経営者個人の相続財産となるため、後継者への株式集中と他の相続人への財産配分をあわせて検討する必要があります。
税理士に相談することで、自社株評価や贈与税・相続税、法人税などの税務上の影響を整理しながら、承継方法ごとの税負担や資金繰りを比較しやすくなります。
事業承継の実績や支援範囲を確認して税理士を選ぶ
税理士であれば、すべての事業承継案件を同じように扱っているとは限りません。事業承継では、通常の法人税申告に加えて、非上場株式の評価、相続税・贈与税、事業承継税制、組織再編、M&Aなど幅広い知識が必要になる場合があります。
そのため、税理士を選ぶ際は、料金だけでなく、次のような点を確認することが重要です。
- 非上場株式の評価や事業承継の支援実績があるか
- 相続税・贈与税まで含めて相談できるか
- 株式の贈与・売買・相続など複数の方法を比較してもらえるか
- 承継前後の法人税・所得税・相続税等を含めた税額試算ができるか
- 弁護士や司法書士、M&A支援機関など他の専門家と連携できるか
- 事業承継後のライフプランや収入確保の構築に向けた支援が出来るか
特に事業承継は、税務だけで完結しないケースがあります。株式譲渡契約などの法務は弁護士、会社や不動産の登記は司法書士、M&Aの相手先探索や交渉についてはM&A支援機関などとの連携が必要になる場合があります。
そのため、税理士を選ぶ際は「すべてを一人で対応できるか」ではなく、自社株評価や税務を中心に事業承継全体を整理し、必要に応じて他の専門家と連携できるかという視点で確認するとよいでしょう。
また、事業承継に関する報酬は、通常の税務顧問料とは別に設定されることがあります。自社株評価、事業承継税制の申請、税額シミュレーション、組織再編など、どこまでが支援範囲に含まれるのかを契約前に確認しておくことが重要です。
事業承継のコンサルティングについては、以下の記事で詳しく解説しています。
事業承継の相談なら税理士法人ネイチャー
事業承継では、会社の税務と経営者個人の資産の両方を同時に見る必要があります。自社株の評価額や後継者の納税資金、他の相続人への配分、引退後の生活資金は互いに影響し合うためです。
税理士法人ネイチャーは、法人と個人を合わせた資金の流れを踏まえて、事業承継に向けて今何をするべきか検討し、無料でご提案します。ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ:事業承継とは企業資産を次世代へ守る活動である
事業承継は、経営権と会社の資産、そして目に見えない信用や技能を次の世代へ移す活動です。方法は親族内承継、従業員承継、M&Aの3つで、選ぶ相手によって関係する税金も準備期間も変わります。
黒字を続けてきた会社では、自社株の評価額が想定を超えている場合があります。まず着手すべきは、現在の自社株の評価額と株主構成の把握です。数字がわかれば、どの承継方法が現実的かを比べられます。
税理士法人ネイチャーでは、事業承継に関するご相談を無料で承っています。「自社株が今いくらになっているか知りたい」「承継方法ごとの手残りを比べたい」という段階からでも構いません。現状の整理をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。
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