「役員報酬は十分に受け取っているのに、個人の金融資産は増えず、会社の決算書には役員貸付金が残っている。」このような悩みを抱える経営者の方は少なくありません。
役員貸付金を残したままにすると、融資や税務上の取扱い、将来の相続・自社株評価などに影響する可能性があります。
この記事では、役員貸付金の消し方8選を比較し、会社の現預金、個人の税金と手残り、実行期間、仕訳や必要書類まで解説します。返済原資の有無に加え、会社の資金繰りと個人の手残りをあわせて確認することが、適切な方法を選ぶうえで重要です。
役員貸付金の消し方8選
役員貸付金とは、会社が役員個人に対して資金を貸し付けた際に生じる会社側の債権(貸付金)のことです。役員貸付金を解消する代表的な8つの手法について、会社の資金繰りや個人の税負担等の観点から比較・解説します。
役員報酬や配当金、退職金などを役員貸付金の返済に充てる場合、税金や社会保険料等を控除した後の会社から役員等への支払額と、役員貸付金を相殺する方法があります。相殺する部分について役員本人との現金の受け渡しは通常生じませんが、会社には源泉所得税や社会保険料等を納付するための資金が必要です。
| 方法 | 会社の現預金への影響 | 役員等の主な税・社会保険負担 | 向いている場面 |
| 自己資金で返済 | 増える | 元本返済自体には原則なし | 個人に預貯金がある |
| 役員借入金と相殺 | 動かない | 真実の債権・債務であれば原則なし | 貸付金と借入金が両方ある |
| 役員報酬から返済 | 原則動かない(相殺時) | 所得税・住民税・社会保険料 | 時間をかけて減らす |
| 配当金を充てる | 原則動かない(相殺時)が、源泉税の納付は必要 | 配当所得への課税 | 分配可能額に余裕がある |
| 退職金を充てる | 原則動かない(相殺時)が、税の納付は必要 | 退職所得への課税 | 実際の退任等が近い |
| 個人資産を会社へ売却 | 売買代金との相殺部分は原則動かない | 譲渡所得等が生じる場合がある | 会社が取得する合理性のある資産がある |
| 自己株式の譲渡代金 | 相殺部分は原則動かないが、みなし配当の源泉税等の支出が生じる場合がある | みなし配当・株式譲渡所得等が生じる場合がある | 株主構成も整理したい |
| 個人借入で返済 | 増える | 借入れ自体には原則なし | 個人で返済可能な融資を受けられる |
1. 自己資金で返済する
役員個人の預貯金から会社へ返済する方法です。会社には現金が入り、元本の返済自体には原則として新たな税負担は生じません。
一方、個人の手元資金は減ります。日常の生活資金や将来の運用資金、所得税・住民税等の納税資金を十分に確保したうえで、無理のない返済計画を策定しましょう。一括返済が難しい場合は、返済予定表を作成し、返済期限や毎回の返済額を明確にしたうえで分割返済する方法もあります。
なお、会社が役員へ無利息または通常より低い利率で貸し付けている場合は、通常取得すべき利息と実際に受け取った利息との差額が、役員への給与として課税されることがあります。そのため、役員貸付金を長期間残す場合は、返済計画だけでなく貸付利率も確認しておきましょう。
2. 役員借入金を相殺に使う
同じ会社と役員の間に役員貸付金と役員借入金がある場合は、相殺を検討できます。過去に役員が会社の経費や資金を立て替え、役員借入金が残っている例もあります。現金を動かさずに双方の残高を減らせる点が特徴です。
一方の意思表示で相殺する場合は、双方の債務が弁済期にあることなど、民法上の要件を確認します。実務上は、対象となる債権・債務、相殺額、相殺日を相殺通知書や合意書などに記録しておくとよいでしょう。
また、役員と会社との貸し付けなどは、取締役と会社との直接取引として会社法上の利益相反取引に該当する場合があります。自社の機関設計に応じて、必要な承認手続きが行われているかも確認しておきましょう。
3. 役員報酬から返済する
毎月の役員報酬から、所得税・住民税・社会保険料などを控除した後の手取り額を役員貸付金の返済に充てる方法です。既存の役員報酬を使えば、時間をかけて計画的に残高を減らせます。
ただし、役員報酬の額面金額の全額をそのまま貸付金と相殺できるわけではありません。源泉所得税や社会保険料等を控除した後の支払額を基準に相殺し、会社は源泉税や社会保険料等を別途納付する必要があります。
また、役員貸付金の返済を早める目的で役員報酬を増額する場合は、法人税法上の定期同額給与などの要件に注意が必要です。通常の改定時期や臨時改定事由などに該当しない事業年度途中の増額では、役員給与の一部が損金不算入となる可能性があります。
役員報酬の決め方は下記で詳しく解説しています。
4. 配当金を返済原資にする
会社から株主である役員へ支払う配当金を、役員貸付金の返済に充てる方法です。配当は労働の対価として支給される役員報酬とは性質が異なるため、通常は健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額を構成する「報酬」とは扱われません。社会保険上の報酬は、原則として労働の対償として経常的・実質的に受けるものを対象としています。
ただし、配当は法人税の計算上、会社の損金にはなりません。また、分配可能額の範囲内で、株主総会等の決議と株式の内容に従って実施する必要があります。非上場株式の配当には、支払時に原則20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収され、最終的には原則として総合課税の対象になります。
役員貸付金と相殺して現金を渡さない場合でも、会社には源泉徴収税額を納付するための現金が必要です。
5. 退職金を返済原資にする
実際の退任や実質的に退職したと同様と認められる分掌変更の際に支給される役員退職金を返済に充てる方法です。退職所得は原則として他の所得と分離して計算され、退職所得控除があるため、給与より手取りを確保しやすい場合があります。
確認すべき点は、退職の事実や支給額の妥当性、株主総会等の決議、源泉徴収後に返済へ充てられる金額です。役員等としての勤続年数が5年以下の期間に対応する特定役員退職手当等には、退職所得の2分の1課税が適用されません。
形式上退任しても経営上主要な地位に残る場合は、税務上の退職金と認められない可能性があります。
役員退職金の適正額の決め方についてはこちらもご参考ください。
6. 個人資産を会社へ売却する
役員が持つ不動産や車両などを会社へ売却し、その売買代金と役員貸付金を相殺する方法です。会社が取得する合理的な目的があり、取得後の管理・利用方針を説明できることを確認しましょう。
売買価格は時価を基準とし、不動産鑑定、査定書、近隣の取引事例などの根拠資料を残します。会社が役員から時価よりも著しく高額で資産を買い取った場合、時価を超える部分が役員に対する経済的利益(賞与等の役員給与)と認定され、損金不算入や源泉所得税の追徴対象となるリスクがある点に注意が必要です。
役員側では、資産の種類や利用状況により譲渡所得等が生じる場合があります。法人へ時価の2分の1未満で資産を譲渡した場合などは、時価で譲渡したものとして所得税が計算されることもあります。
この方法は取引価格の妥当性という観点からリスクがあるため、事前に価格の妥当性を顧問税理士に相談しましょう。
7. 自社株を会社へ譲渡し、自己株式の譲渡代金で返済する
役員が持つ自社株を会社へ譲渡し、その代金と役員貸付金を相殺する方法です。株主構成や事業承継を整理したい場合の選択肢になります。
ただし、自己株式を取得する際には、会社法上必要となる株主総会等の手続きや分配可能額の制限を確認するとともに、取得価格が適正かを検討する必要があります。会社法では、自己株式の取得も一定の場合に分配可能額による制限の対象となります。
個人株主が非上場株式をその発行会社へ譲渡した場合、原則として、会社から交付を受ける金銭等のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は「みなし配当」とされます。みなし配当部分を除いた金額は、株式等の譲渡所得等の収入金額として扱われます。
したがって、会社が支払う自己株式取得代金の全額を、そのまま役員貸付金と相殺できるとは限りません。みなし配当について源泉徴収が必要となる場合は、源泉税を控除した後の支払額を相殺し、会社は源泉税を別途納付する必要があります。
また、自己株式の取得により会社の純資産や残存株主の持株割合、非上場株式の評価額などが変化する可能性があります。事業承継や将来の相続まで含めて検討する場合は、自己株式取得前後の株価を試算してから実行することが重要です。
なお、相続により取得した非上場株式を一定期間内にその発行会社へ譲渡する場合には、一定の要件の下で、通常はみなし配当となる部分についてみなし配当課税を行わない特例があります。相続後の自己株式取得では、この特例の適用可否も確認するとよいでしょう。
税金の取扱いはこちらの記事で解説しています。
8. 個人借入で返済する
役員個人が金融機関から借り入れ、その資金で会社へ返済する方法です。会社に現金が入り、決算書上の役員貸付金を減らせます。
ただし、債務が会社から個人の金融機関借入れへ移るため、個人全体の債務は減りません。金利、返済期間、担保・保証、繰上返済条件を確認してください。
「役員貸付金を決算書から消すこと」だけを目的に借入れを増やすのではなく、借換え後の利息負担を含め、役員個人が継続して返済できるかを確認してから判断しましょう。
役員貸付金の消し方を決める基準
役員貸付金の消し方を選ぶ前に、まず現在の貸付金残高と、契約上の返済期限を確認します。総勘定元帳、金銭消費貸借契約書、入出金履歴、これまでの返済実績などを照合し、帳簿残高と実際の貸付残高が一致しているか確認しましょう。契約上利息を受け取ることになっている場合は、未収となっている利息の有無も確認します(なお契約上利息の設定がない場合も、役員認定利息についても確認が必要です)。
役員借入金がある場合は、相殺できる金額も確認します。
次に、銀行融資の申込み、決算、役員の退任、事業承継・相続対策などの予定から逆算して、役員貸付金をいつまでにどの程度減らすかという社内の目標時期を設定します。ただし、貸付契約で既に返済期限が定められている場合は、その期限との整合も確認する必要があります。
現在の残高と返済可能な期間が分かれば、自己資金による返済、役員借入金との相殺、役員報酬など、実行可能な方法と必要な返済ペースを検討しやすくなります。
役員貸付金の消し方で見落とせない影響
役員貸付金を残している場合は、金融機関からの融資への影響と、無利息・低利貸付けに関する税務上の取扱いにも注意が必要です。
融資の可否が役員貸付金の有無だけで決まるわけではありませんが、残高が大きい場合などには、なぜ会社の資金が役員個人へ流出しているのか、役員に返済能力があるのか、今後どのように回収するのかといった点を確認される可能性があります。
そのため、役員貸付金の残高や発生原因、これまでの返済実績、今後の返済計画を整理し、金融機関へ合理的に説明できるようにしておくことが重要です。
会社が役員へ無利息または通常より低い利率で金銭を貸し付けると、一定の場合には、通常受け取るべき利息相当額と実際に受け取った利息との差額が、役員への給与として課税されます。
利息相当額の計算に用いる利率は、貸付方法によって異なります。会社が他から借り入れた資金を役員へ貸し付けた場合は、原則としてその借入金の利率を用います。それ以外の場合は、貸し付けを行った日の属する年に応じた一定の利率を用います。この利率は、令和4年(2022年)から令和7年(2025年)中の貸し付けでは年0.9%、令和8年(2026年)中の貸し付けでは年1.3%です。
ただし、会社の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率によって利息を受け取っている場合などには、給与として課税しなくてもよい取扱いがあります。また、基準となる利息額と実際に受け取った利息との差額が1年間で5,000円以下の場合も、給与として課税しなくても差し支えありません。
役員貸付金3,000万円の消し方|シミュレーション比較
ここでは、役員貸付金が3,000万円ある場合を例に、主な解消方法を比較します。役員報酬や配当、退職金を利用する場合の税負担や手取り額は、既存の所得、社会保険の加入状況、持株割合、勤続年数などによって異なります。そのため、以下はあくまで方法ごとの違いを把握するための目安です。
| 方法 | 役員貸付金が減る金額 | 会社の現預金への影響 | 個人の主な追加負担 | 期間の目安 |
| 自己資金 | 3,000万円 | 3,000万円増える | 元本返済自体には原則なし | 資金があればすぐ |
| 役員借入金と相殺 | 相殺可能額まで | 動かない | 原則なし | 残高・手続き確認後 |
| 役員報酬 | 税・社会保険料控除後の返済充当額 | 原則増えないが、源泉税・社会保険料等の納付資金が必要 | 所得税・住民税・社会保険料 | 毎年の手取りによる |
| 配当金 | 源泉徴収後の返済充当額 | 相殺部分は動かないが、源泉税の納付資金が必要 | 配当所得への課税 | 分配可能額と決議時期による |
| 退職金 | 源泉徴収後の返済充当額 | 相殺部分は動かないが、源泉税等の納付資金が必要 | 退職所得への課税 | 実際の退任等の時期 |
例えば、役員報酬を年600万円増やしても、600万円全額を返済へ充てられるわけではありません。所得税、住民税、社会保険料を控除した後の金額が返済原資になります。
仮に年間の返済充当額が300万円なら、3,000万円を解消するには単純計算で10年必要です。ただし、役員報酬を増額すると、役員個人の所得税・住民税や社会保険料だけでなく、会社負担分の社会保険料も増える可能性があります。また、法人税上、役員給与を損金算入するためには定期同額給与などの要件を満たす必要があり、事業年度の途中で自由に増額できるわけではありません。
「3,000万円を何年で消せるか」だけでなく、そのために会社と個人が負担する税金・社会保険料と、解消後に残る手元資金まで含めて比較することが重要です。
役員貸付金の消し方に必要な実務手続き
役員貸付金の解消方法を決めた後は、実際の取引内容に沿って会計処理を行い、必要な決議や契約書などの証拠資料を残しておくことが重要です。仕訳、必要書類、再発防止のための社内ルールという3つの観点から実務を整理しておきましょう。
- 取引別の仕訳を整理する
- 必要書類を方法別にそろえる
- 再発防止ルールを整える
取引別の仕訳を整理する
役員から現金・預金で返済を受けた場合は、会社の現預金を増加させ、同額の役員貸付金を減少させます。例えば、100万円の返済を受けた場合の基本的な仕訳は「現金預金100万円/役員貸付金100万円」です。
同じ役員に対する役員貸付金と役員借入金を相殺する場合は、相殺可能な金額について双方の残高を減少させます。ただし、帳簿上残高があるだけでなく、実際に債権・債務が存在することや、相殺の要件を満たしていることを確認してから処理しましょう。
役員報酬、配当金、退職金を役員貸付金の返済に充てる場合は、額面の支給額と、税金・社会保険料等の控除額、実際に役員貸付金との相殺に充てる金額を分けて記録します。
例えば役員報酬であれば、所得税・住民税・社会保険料などを控除した後に役員へ支払うべき金額を、役員貸付金との相殺に充てるのが基本です。役員本人へ現金を渡さない場合でも、会社が源泉所得税や社会保険料等を納付する義務までなくなるわけではありません。
配当や退職金についても、源泉徴収等が必要な場合は、その税額を考慮して仕訳を行います。
役員から不動産や車両などの個人資産を取得し、その売買代金と役員貸付金を相殺する場合は、資産の取得と貸付金の消込みを区分して会計処理します。消費税、不動産取得税、登録免許税など、取得する資産に応じて別の税務・諸費用が生じる場合もあります。
また、自社株を役員から取得する場合は、通常の固定資産などの取得とは会計上の扱いが異なるため注意が必要です。自己株式については、会計上、原則として純資産の部から控除する形で表示します。
また、個人株主から自己株式を取得すると、取得対価の一部がみなし配当となり、源泉徴収が必要になる場合があります。自己株式の取得代金、みなし配当、源泉徴収税額、役員貸付金との相殺額をそれぞれ整理して処理することが重要です。
必要書類を方法別にそろえる
用意する書類は、金銭消費貸借契約書、返済予定表、相殺合意書、株主総会・取締役会等の議事録、売買契約書、株価や資産の評価資料などです。
書類には、取引日、金額、利率、返済条件、相殺対象となる債権・債務を記載します。取締役と会社との取引については、会社法上の利益相反取引の承認が必要になる場合があります。価格の根拠、議事録、契約書、会計処理が一致しているかも確認してください。
再発防止ルールを整える
役員貸付金を解消した後は、同じ原因で再び残高が積み上がらないよう、社内の資金管理ルールを見直しましょう。会社の銀行口座・法人カードと、役員個人の銀行口座・カードを明確に分け、会社資金を私的支出に使用しない運用を徹底することが基本です。
仮払金や立替金は長期間残さず、毎月など一定の頻度で内容を確認・精算する仕組みを整えます。新たに役員への貸し付けを行う場合は、必要な社内・会社法上の承認手続きを確認したうえで、貸付額、資金使途、返済期限、返済方法、利率などを契約書等で明確にしておきましょう。
また、返済状況や利息の計上・回収についても決算時だけ確認するのではなく、定期的に残高をチェックすることが、役員貸付金の再発防止につながります。
役員貸付金の消し方が相続へ及ぼす影響
役員貸付金は、相続時の自社株評価と役員個人の債務に影響します。純資産価額方式では、貸付金債権も原則として会社の資産として評価されます。役員が現金で返済しても、貸付金が現預金に変わるため、返済だけで自社株評価額が下がるとは限りません。
役員本人が亡くなった場合は、会社への返済債務は原則として法定相続分に応じて相続人へ承継されます。相続税では、一定の要件を満たす債務は債務控除の対象です。
したがって、オーナー経営者の相続では、会社側にある役員貸付金だけを見るのではなく、自社株の評価額、本人が会社に負っている返済債務、その他の個人資産・債務を一体として確認することが重要です。相続発生後に役員貸付金の存在や金額をめぐって混乱しないよう、契約書や返済履歴を生前から整理しておくことも有効です。
役員貸付金の消し方に関するよくある質問
- 役員貸付金が返済できない場合はどうする?
- 役員貸付金は債権放棄で消せる?
- 役員貸付金は時効で消える?
役員貸付金が返済できない場合はどうする?
まずは、役員借入金との相殺、分割返済、役員報酬・退職金の手取り額の充当、保有資産の売却など、実行可能な返済方法を検討します。役員個人の生活資金や納税資金も確保したうえで、無理のない返済額と期間を設定することが重要です。
返済が難しいからといって、役員貸付金を安易に帳簿から消すことはできません。役員の資産状況や支払能力などから実際に回収不能となっている場合には、法人税上、貸倒損失として処理できるかを個別に検討します。
なお、「取引停止後1年以上弁済がない」といった形式的な貸倒れの取扱いは、貸付金には適用されません。役員貸付金について貸倒損失を計上する場合は、単に返済が滞っているというだけではなく、役員の資産・収入・返済能力や回収努力などを踏まえて、回収不能であることを客観的に説明できる必要があります。
役員貸付金は債権放棄で消せる?
会社が役員に対する貸付金を有効に債権放棄すれば、法律上の債権が消滅し、役員貸付金の残高を解消できる場合があります。ただし、単に役員貸付金を消すことを目的として安易に債権放棄するのは税務上大きなリスクがあります。
会社が役員に対する債権を放棄・免除した場合、その債務免除による経済的利益は、原則として役員への給与として扱われます。役員給与として法人税上の損金算入要件を満たさなければ、会社側では損金不算入となる可能性があります。
一方、役員が債務超過の状態にあり、資産状況や支払能力からみて実際に返済を受けることができないなど、税務上の貸倒れの要件を満たす場合には取扱いが異なることがあります。例えば、債務超過の状態が相当期間継続し、弁済を受けられないと認められる場合に書面で債務免除した金額は、一定の要件のもとで貸倒損失として損金算入できる場合があります。
そのため、債権放棄を検討する場合は、役員の預貯金、不動産その他の資産、収入、他の債務、これまでの返済状況などを確認し、本当に回収不能なのか、単なる利益供与ではないのかを慎重に判断する必要があります。
役員貸付金は時効で消える?
単に長期間返済がないからといって、役員貸付金を自動的に帳簿から消せるわけではありません。
2020年4月1日施行の改正民法が適用される債権については、原則として、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間行使しない場合に消滅時効が完成します。また、時効を裁判上主張するには、時効の利益を受ける当事者による「援用」が必要です。
ただし、役員貸付金の一部を返済したり、返済猶予を求めるなど債務の存在を認める行為が「権利の承認」に該当すると、時効はその時から新たに進行することがあります。民法152条では、権利の承認があった場合、時効はその時から新たに進行すると定めています。
さらに、2020年4月1日より前に生じた役員貸付金や、その原因となる契約が同日前に締結されている場合には、改正前の民法による消滅時効が適用されることがあります。古くから残っている役員貸付金では、貸付日、契約内容、返済期限、過去の返済・債務承認の有無などを確認し、個別に時効期間を判断する必要があります。
したがって、「5年経ったから役員貸付金を消す」といった処理は避けるべきです。時効を理由に帳簿から除く場合は、民法上本当に時効が完成しているか、援用が行われているか、税務上どのように処理するかまで確認してから対応しましょう。
役員貸付金の消し方の相談なら税理士法人ネイチャー
役員貸付金の解消は、残高だけでなく、個人の手取りや保有資産、会社の資金繰り、自社株評価、相続への影響まで含めて検討する必要があります。
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まとめ:役員貸付金は返済の可能性から消し方を選ぼう
まずは、自己資金で返済できるか、役員借入金と相殺できるかを確認します。役員報酬、配当金、退職金を使う場合は、税金・社会保険料、会社の資金繰り、法人税上の取扱いまで含めて比較が必要です。
役員貸付金の解消方法によって、個人の手残りや会社に残る資金は変わります。さまざまな方法から最適な方法をご検討ください。
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