動物病院の事業承継とは?親族や勤務医への引き継ぎ方法や税金を解説

「長年続けてきた動物病院を子どもや副院長へ引き継ぎたい」と考えていても、何から手をつけるべきか分からない方は多いのではないでしょうか。

動物病院の事業承継について調べると、売却やM&Aに関する情報は多く見つかります。一方で、親族や勤務獣医師など、すでに後継者が決まっている場合の進め方は分かりにくいことがあります。

動物病院の事業承継では、院長を交代するだけでなく、診療体制、スタッフとの関係、飼い主との信頼関係、医療機器、不動産、法人の株式などを計画的に引き継ぐ必要があります。

この記事では、動物病院を親族や勤務獣医師へ事業承継する方法、経営形態による違い、贈与・相続・売買にかかる税金、必要な資金の目安を整理します。自院の状況に応じて、何をどの順番で進めるべきか確認していきましょう。

事業承継の方法は、税負担だけでなく、後継者や現経営者の資金負担、ほかの相続人との関係、承継後の経営体制まで踏まえて検討することが大切です。

相続税

動物病院の事業承継をする方法とは?

動物病院の事業承継とは、院長交代に伴う診療体制の引き継ぎに加え、医療機器、不動産、自社株式などの事業用資産や経営権を後継者へ移転する一連の手続きです。

誰を後継者とするかによって、主に次の3つの承継方法に分けられます。

承継方法主な後継者向いているケース主な課題
親族内承継子ども・親族親族に承継の意思がある財産の移転・相続
院内承継副院長・勤務獣医師院内に候補者がいる取得資金・経営経験
M&A外部の個人・法人親族や院内に後継者がいない相手探し・条件交渉

M&Aは、第三者へ事業を引き継ぐ事業承継の一つです。ただし、本記事では主に、親族や勤務獣医師など、後継者がすでにいる場合の事業承継を中心に解説します。

親族内で承継する

子どもや親族へ動物病院を引き継ぐ方法です。診療方針や飼い主との関係を引き継ぎやすく、早くから準備を進められます。一方で、事業用財産の移転や相続への対応が課題になります。

医療機器や病院不動産、自社株などを後継者へ集中させる場合、ほかの相続人とのバランスも考えなくてはなりません。親族内承継においては、後継者以外の相続人に対する遺留分侵害リスクを考慮し、後継者以外の親族へ承継させる資産の配分計画も同時に策定しておくことが重要です。そのため、早い段階で個人・法人の保有資産全体の棚卸しを進めておくことが望まれます。

院内で承継する

副院長や勤務獣医師など、親族以外の院内人材へ引き継ぐ方法です。長く勤務している獣医師であれば、診療方針や病院の状況を理解している点がメリットです。

一方、事業用資産や自社株を買い取る場合、後継者の資金確保が課題になることがあります。院内承継では、承継方法と後継者の資金計画を早めに検討しましょう。金融機関からの借入なども含め、後継者が負担できる方法を検討します。

M&Aで承継する

親族や院内に適切な後継者がいない場合には、M&Aによる第三者承継も選択肢になります。株式譲渡や事業譲渡などによって、外部の個人・法人へ動物病院の事業を引き継ぐ方法です。親族や勤務獣医師への承継とは、相手探しや条件交渉など必要な準備が異なります。

動物病院の事業承継で引き継ぐ3項目

動物病院の事業承継では、引き継ぐ内容を「診療体制」「経営判断」「財産」の3項目に分けると整理しやすくなります。

すべてを同時に引き継ぐ必要はありません。後継者の経験、現院長の関与方針、資金計画、税負担などを踏まえ、段階的に進めることが重要です。

  • 診療体制
  • 経営判断
  • 財産

診療体制

診療体制は、早い段階から引き継ぎを進めます。現院長と後継者が一定期間ともに診療し、診療方針や飼い主への説明方法、紹介元の病院との関係などを共有します。

後継者を早めに飼い主へ紹介し、担当する診療を段階的に増やす方法があります。 獣医師や愛玩動物看護師など、院内スタッフへ承継を伝える時期も決めておきましょう。

経営判断

診療だけでなく、経営に関する判断も引き継ぎます。採用や設備投資、資金繰り、診療料金の設定、取引先との交渉などです。副院長や勤務獣医師が後継者になる場合、経営経験が十分でないこともあります。

そのため、承継前の段階から、決算書、借入残高、資金繰りの実績、設備更新の予定、固定費の内訳などを共有しておくことが重要です。あわせて、重要な経営判断に後継者を関与させ、承継後に自分で判断できる状態を整えていきます。

たとえば、医療機器の更新、院内改装、人員採用、借入金の借換えなどは、承継後の資金繰りにも影響します。現院長がすべてを決めるのではなく、後継者と一緒に検討することで、承継後の経営移行を進めやすくなります。

財産

財産の引き継ぎも重要です。個人経営では医療機器や病院不動産などの事業用資産、法人経営では自社株などが対象になります。承継方法には贈与、相続、売買などがあり、方法によって課税関係が異なるので注意が必要です。

財産の種類や承継方法によって、現院長と後継者に生じる税負担は変わります。財産の評価額や税負担、必要な資金を確認したうえで、承継方法と時期を検討しましょう。

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動物病院の事業承継は経営形態で異なる

動物病院の事業承継は、個人経営か法人経営かで主な承継対象や必要な手続きが変わります。違いを先に押さえておくと、必要な準備や後継者の負担を整理しやすくなります。

個人経営法人経営
主な承継対象事業用資産自社株・経営権
移転方法贈与・相続・売買など株式の贈与・相続・売買など
後継者の負担資産の取得資金・税負担株式の取得資金・税負担
確認事項資産の所有者、契約名義、借入金・リース契約株価、株主構成、議決権、個人保証
行政上の確認開設者等に関する届出代表者等に関する届出

個人経営

個人経営では、事業用資産や契約ごとに承継の方法を確認します。医療機器や薬品、備品、病院不動産、賃貸借契約などについて、所有者や契約名義を確認し、後継者へ引き継ぐ対象を整理します。

金融機関からの借入金や医療機器等のリース契約は、代表者の交代により自動的に承継されるわけではありません。各契約書上の条項を確認したうえで、債務引受や新規契約の締結、個人保証の差し替えなど、取引先金融機関やリース会社との個別協議を計画的に進める必要があります。

個人経営では、事業用資産を贈与するのか、相続で引き継ぐのか、売買するのかによって、現院長と後継者に生じる税負担や資金負担が変わります。承継前に、資産の評価額、契約関係、借入金、保証関係を整理しておきましょう。

詳しい手続きはこちらをご覧ください。

法人経営

法人経営の動物病院では、医療機器や病院不動産、取引先との契約などは、原則として法人に帰属します。そのため、株主や代表者が変わっても、法人が所有している資産や契約は法人に残ります。

ただし、代表者の変更と株式の承継は別の手続きです。代表者を後継者へ変更しただけでは、法人の株式や経営権が移転するわけではありません。

後継者へ経営権を承継するには、議決権の割合を踏まえて、株式をどのように移転するかを検討する必要があります。株式を贈与するのか、相続で引き継ぐのか、売買するのかによって、贈与税、相続税、譲渡所得税などの課税関係が変わります。

法人の資産や契約は法人に残る一方で、株式の評価額が高くなっている場合は、後継者が株式を取得するための資金や税負担が課題になることがあります。早めに株価を試算し、承継方法と時期を検討しましょう。

株価についてはこちらで解説しています。

動物病院の事業承継で移転方法ごとの税金

贈与・相続・売買では、資金の動きや税負担が変わります。税額だけでなく、事業承継後の資金繰りまで確認して方法を選ぶことが大切です。

移転方法現院長の受取資金後継者の主な負担主な確認事項
贈与原則なし贈与税等評価額、事業承継税制の適用可否、贈与後の継続要件
相続なし相続税等遺言、財産配分、遺留分、経営権の確保 
売買売却代金取得資金・借入の返済取引価格、現院長側の税金、後継者の返済能力 

贈与

生前贈与は、現院長が生前に財産を移す方法です。承継時期を計画しやすい一方、後継者に贈与税がかかる場合があります。一定の要件を満たせば、事業承継税制による納税猶予・免除を受けられる場合があります。

法人版の特例措置は、2027年9月30日までに特例承継計画を提出し、2027年12月31日までに承継しなくてはなりません。個人版は、2028年9月30日までに個人事業承継計画を提出し、2028年12月31日までの承継が対象です。

計画には認定経営革新等支援機関の指導・助言が必要なため、早めに準備しましょう。適用後も継続して満たすべき要件や届出があります。

制度の中身はこちらをご覧ください。

相続

現院長が亡くなった後に財産を引き継ぐ方法です。生前に遺言書を作成していない場合、病院に必要な財産が複数の相続人へ分かれる可能性があります。

自社株が分散すると、後継者が経営権を確保しにくくなる場合があります。後継者へ病院関係の財産を集める場合は、遺留分にも配慮し、ほかの相続人へ残す預貯金や不動産なども含めて財産配分を検討しなくてはなりません。

売買

副院長や勤務獣医師などが、事業用資産や自社株を買い取る方法です。現院長は売却代金を受け取れますが、後継者には取得資金の負担が生じます。借入を利用する場合は、承継後の返済負担も確認が必要です。

経営形態や売買する資産によって、課税関係が異なる点に注意してください。

経営形態売買の対象主に確認する課税関係
個人経営医療機器・在庫・不動産等所得税、消費税、不動産取得税・登録免許税など
法人経営非上場株式株主側の株式譲渡所得、株価の妥当性など
法人の事業譲渡法人が所有する資産法人税、消費税、不動産取得税・登録免許税など

個人経営の動物病院で医療機器や不動産を売買する場合は、現院長側に譲渡所得や事業所得、消費税などの課税関係が生じる可能性があります。不動産を移転する場合は、後継者側で不動産取得税や登録免許税なども確認が必要です。

法人経営で株式を売買する場合は、現院長など株主側に株式譲渡所得が生じる可能性があります。また、取引価格が時価と大きく異なる場合は、贈与税や法人税の問題が生じることもあるため、株価の算定根拠を整理しておきましょう。

売買は、現院長の引退資金を確保しやすい一方で、後継者の資金負担が大きくなりやすい方法です。税負担だけでなく、取得資金、借入返済、承継後の運転資金まで含めて検討しましょう。

動物病院の事業承継では3者の資金を試算する

動物病院の事業承継では、現院長・後継者・動物病院の3者について、必要な資金を確認します。いずれかの資金が不足すると、承継後の経営や生活に影響する可能性があるためです。

確認対象確認項目
現院長税引後の受取額、役員退職金、引退後の生活資金
後継者取得資金、納税資金、年間の返済額
動物病院運転資金、借入金、医療機器の更新費用

たとえば、法人に現預金が8,000万円あるとします。役員退職金として3,000万円を支給すると、単純計算で5,000万円が残ります。数年以内にCTなどの設備更新で2,000万円の支出を見込む場合、さらに資金が必要です。

役員退職金は、法人にとって損金算入できる可能性がある一方で、不相当に高額と判断される部分は損金に算入できません。そのため、役員の在任期間、職務内容、会社の収益状況、同業類似法人の支給水準などを踏まえて、金額の妥当性を確認する必要があります。

また、役員退職金を多く支給しすぎると、承継後の病院に残る資金が不足する可能性があります。支給額を検討する際は、法人税への影響だけでなく、病院の運転資金、設備投資、借入返済、後継者の経営計画もあわせて確認しましょう。なお個人事業主の場合は、退職金を支給することは難しいため、引退後の生活資金の確保にも注意が必要です。

高い収益を上げてきた院長でも、財産が病院の設備や自社株に偏っている場合があります。承継後の生活資金や資産運用まで含めて検討することが大切です。

動物病院の事業承継で必要な行政手続き

動物病院の事業承継では、行政への届出も確認します。必要な手続きは、承継方法や変更する内容によって異なります。

確認項目確認内容
診療獣医師氏名等の変更
開設者承継前後の名義
管理者氏名・住所等の変更
診療施設開設・変更・廃止届等の要否
設備エックス線装置等に関する届出
確認先所在地を管轄する行政窓口

事業承継に伴う手続きが、変更届だけで済むとは限りません。開設者が変わる場合は、旧開設者の廃止届と新開設者の開設届が必要になることがあります。

また、管理者や診療獣医師、診療施設の名称・所在地、エックス線装置などに変更がある場合も、別途届出が必要になる可能性があります。

獣医療法では、診療施設の開設、届出事項の変更、休止、廃止、再開について、事由が生じた日から10日以内に届け出ることとされています。

ただし、実際に必要となる書類や提出先は、診療施設の所在地や承継内容によって異なります。事業承継を進める前に、所在地を管轄する都道府県や保健所などの行政窓口へ確認し、必要な届出と提出期限を整理しておきましょう。

動物病院の事業承継でよくある質問

後継者の資格、準備を始める時期、税理士への相談方法について、動物病院の事業承継でよくある3つの疑問にお答えします。

  • 動物病院の事業承継で後継者本人に獣医師免許は必要?
  • 動物病院の事業承継は何年前から始める?
  • 動物病院の事業承継で顧問税理士がいても別の税理士へ相談できる?

動物病院の事業承継で後継者本人に獣医師免許は必要?

動物の診療を行うには獣医師免許が必要です。

獣医療法上、動物病院の「開設者(経営主体)」と診療を担当する「管理獣医師(診療責任者)」は必ずしも同一人物である必要はありません。したがって、後継者が非獣医師であっても経営者として承継すること自体は法的に可能ですが、実際に院内で診療行為に携わる場合には獣医師免許が不可欠です。承継後の役割分担や組織形態に応じて、適切な体制を設計することが望まれます。

後継者が獣医師かどうかによって、承継後の組織体制や現院長の関与期間も変わるため、早めに体制を整理しておきましょう。

動物病院の事業承継は何年前から始める?

動物病院の事業承継を始める時期に、一律の決まりはありません。ただし、できるだけ早めに準備を始めることが重要です。

事業承継では、後継者を決めるだけでなく、診療体制の引き継ぎ、スタッフや飼い主への説明、経営判断の共有、財産や株式の移転、税金や資金計画の検討などが必要になります。

特に、親族内承継では相続対策や遺留分への配慮、院内承継では後継者の取得資金や経営経験の準備が課題になります。これらは短期間で完了するものではないため、数年単位で準備を進めることが望ましいでしょう。

中小企業庁の調査でも、後継者を決めてから事業承継が完了するまでに3年以上かかる企業が多いとされています。動物病院でも、診療・経営・財産の引き継ぎを段階的に進めるため、早めに現状整理を始めましょう。

詳しくはこちらをご覧ください。

動物病院の事業承継で顧問税理士がいても別の税理士へ相談できる?

相談できます。顧問契約を継続しながら、自社株の評価、贈与・相続、役員退職金、承継後の資産設計など、事業承継に関する分野を別の税理士へ相談する方法もあります。

こちらの記事もあわせてご覧ください。

動物病院の事業承継の相談なら税理士法人ネイチャー

動物病院の事業承継では、自社株や事業用資産をどのように移すかによって、現院長と後継者の税負担や必要資金が変わります。贈与・相続・売買を比較する際は、後継者の取得資金だけでなく、役員退職金の支給額、病院に残す運転資金や設備更新費、現院長の引退後の生活資金まで含めた試算が必要です。

税理士法人ネイチャーは、原則として法人の顧問契約を承っておらず、経営者の事業承継や相続、個人資産の運用などをスポットで支援するセカンドオピニオン専門の税理士法人です。現在の顧問税理士との契約を継続したまま、自社株の評価や対策方法など、動物病院の事業承継に関する税務をご相談いただけます。

親族や勤務獣医師への承継方法を比較し、病院と現院長の双方に必要な資金を整理したい方は、初回無料相談をご利用ください。

まとめ:動物病院の事業承継は資金計画まで確認しよう

動物病院の事業承継では、院長の交代に加えて、診療体制や経営、財産の引き継ぎを進めます。個人経営では事業用資産、法人経営では自社株などが主な承継対象です。贈与・相続・売買のどの方法を選ぶかによって、資金の動きや課税関係も異なります。

現院長・後継者・病院の3者に必要な資金を試算し、税負担や承継後の資金繰りも踏まえて、承継方法と時期を検討することが大切です。ぜひ一度ご相談ください。

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