「企業型DCの掛金は全額損金になります」と金融機関から提案され、導入を迷っている経営者もいるでしょう。福利厚生を充実させたい一方で、会社の負担がどの程度になるのか気になるところです。
企業型DCの事業主掛金は損金に算入できますが、掛金と同額だけ法人税等が減るわけではありません。導入を判断する際は、税負担の軽減額を差し引いた実質負担まで確認することが重要です。
この記事では、企業型DCのメリット・デメリットを会社側と加入者側に分けて解説します。掛金の実質負担を事例で計算し、2026年に施行される制度改正についても整理します。
自社に合う掛金設計や法人税等への影響を確認し、企業型DCを導入する際の判断材料としてお役立てください。
企業型DCとは?
企業型DC(企業型確定拠出年金)は、会社が掛金を出し、加入者が運用商品を選ぶ年金制度です。
会社が拠出する掛金を「事業主掛金」といいます。受取額は運用結果で変わり、受け取りは原則60歳以降です。iDeCo、DB(確定給付企業年金)との違いを表にまとめました。
| 項目 | 企業型DC | iDeCo | DB |
| 掛金の負担者 | 主に会社 | 主に加入者本人 | 主に会社 |
| 運用の意思決定 | 加入者本人 | 加入者本人 | 事業主・企業年金基金など |
| 将来の給付額 | 運用結果で変わる | 運用結果で変わる | 給付の算定方法があらかじめ決まっている |
| 主な税務上の取扱い | 事業主掛金は損金算入 | 掛金は所得控除の対象 | 事業主掛金は損金算入 |
企業型DCは掛金設計で影響が変わる
企業型DCは、掛金の拠出方法や給与との関係によって、会社の資金負担や加入者の社会保険への影響が変わります。主な掛金設計は、次の3つです。
| 掛金設計 | 掛金の負担方法 | 主な影響 |
| 給与とは別枠で拠出 | 会社が給与とは別に掛金を負担する | 会社の資金支出が増える |
| 選択制DC | 給与等として受け取るか、事業主掛金として拠出するかを従業員が選ぶ | 標準報酬月額や社会保険給付に影響する場合がある |
| マッチング拠出 | 会社の掛金に、加入者が自分の掛金を上乗せする | 加入者の所得控除や拠出限度額に影響する |
給与とは別枠で拠出する場合は、会社が従来の給与に加えて事業主掛金を負担します。
一方、選択制DCでは、給与等として受け取れる金額の一部について、従業員が給与等として受け取るか、事業主掛金として拠出するかを選択します。事業主掛金として拠出した部分は社会保険料の算定対象とならず、標準報酬月額や将来の厚生年金、傷病手当金などに影響する場合があります。
マッチング拠出は、会社が負担する事業主掛金に、加入者本人が掛金を上乗せする仕組みです。
企業型DCの会社側のメリット
企業型DCを取り入れる会社側の主なメリットは、掛金を損金に算入できる点と運用結果による追加負担が原則ない点です。
- 事業主掛金を損金に算入できる
- 運用結果による追加拠出が原則生じない
事業主掛金を損金に算入できる
企業型年金規約に基づく事業主掛金は、法人の損金に算入されます。
損金とは、法人税の計算で利益から差し引ける費用です。掛金を損金に算入しても、法人税等の負担が減るかどうかは会社の所得状況によって異なります。
課税所得が十分にある場合、税負担の軽減額の目安は「掛金 × 実効税率」で、後半の事例で計算します。
運用結果による追加拠出が原則生じない
企業型DCでは、運用成績が悪くても、会社が運用による不足分を補う必要はありません。DBでは、積立不足が一定の基準に該当すると、会社に追加の掛金負担が生じる場合があります。
企業型DCの会社側のデメリット
会社には掛金のほかに、運営費用や投資教育の実施などの負担も発生します。法人税等への影響とあわせて、導入を検討しましょう。
- 掛金支出で手元資金が減る
- 制度運営費用が継続する
- 継続的な投資教育が必要になる
掛金支出で手元資金が減る
損金に算入しても、支出した掛金がそのまま会社に戻るわけではありません。法人税等が減る分を除いた残りは、会社の負担です。
また、課税所得がない事業年度では、掛金を損金に算入しても当期の法人税等が減らない場合があります。
制度運営費用が継続する
企業型DCには、掛金とは別に導入費用や運営手数料がかかります。金額や料金体系は利用する事業者などによって異なるため、導入前に見積もりを確認しておきましょう。
継続的な投資教育が必要になる
事業主には、加入時だけでなく加入後も、継続的に投資教育を行う努力義務があります。
投資教育は、運営管理機関などへの委託も可能です。ただし、外部委託した場合でも、加入者への案内や日程調整など会社側の対応は残ります。制度運営に必要な担当者の作業時間も見込んでおきましょう。
企業型DCの加入者側のメリット
加入者側の主なメリットは、税制上の取扱いです。拠出時・運用時・受取時の3つの場面ごとに見ていきましょう。
- 事業主掛金は拠出時に給与課税されない
- 運用益には原則課税されない
- 受取方法に応じた控除を適用できる
事業主掛金は拠出時に給与課税されない
企業型年金規約に基づく事業主掛金は、拠出時に加入者の給与として課税されません。マッチング拠出で加入者が負担する掛金は、全額が小規模企業共済等掛金控除の対象となり、所得税・住民税の負担が軽減されます。
運用益には原則課税されない
企業型DCの口座内で生じた運用益には、運用中は原則として税金がかかりません。年金の積立金にかかる「特別法人税」は、現在、課税が停止されています。
受取方法に応じた控除を適用できる
老齢給付金を受け取る場合は、受取方法に応じた控除を適用できます。一時金で受け取る場合は退職所得として退職所得控除、年金で受け取る場合は雑所得(公的年金等)として公的年金等控除が適用されます。
控除があっても、必ず無税になるわけではありません。会社の退職金なども受け取る場合は、受け取る順番や時期によって退職所得控除の計算が調整される場合があります。
企業型DCの加入者側のデメリット
加入者には、資金を引き出せない期間や運用のリスクがあります。選択制DCでは、社会保険への影響にも注意が必要です。
- 原則60歳まで引き出せない
- 運用商品によって元本割れが生じる
- 選択制DCでは社会保険給付が減る場合がある
- 退職後は資産移換の手続きが必要になる
原則60歳まで引き出せない
企業型DCの資産は、原則として60歳になるまで引き出せません。教育資金や住宅資金、急な出費には充てられない仕組みです。60歳時点の通算加入者等期間が10年未満の場合は、その期間に応じて受給開始可能年齢が61〜65歳になります。
企業型DCとは別に、生活予備資金を確保しておきましょう。
運用商品によって元本割れが生じる
企業型DCは、元本が保証される制度ではありません。投資信託などで運用すると、受取額が掛金の合計を下回る場合があります。定期預金などの元本確保型商品でも、物価上昇率が金利を上回れば、資産の実質的な価値が下がる可能性があります。
選択制DCでは社会保険給付が減る場合がある
選択制DCで標準報酬月額が下がると、社会保険の給付も減る場合があります。
選択制DCでは、DCへの拠出によって標準報酬月額が下がると、社会保険料が減る一方、将来の厚生年金や傷病手当金、出産手当金などが減る場合があります。
一方、給与等とは別枠で事業主掛金を拠出する場合は、掛金の拠出自体によって標準報酬月額が下がることは通常ありません。
退職後は資産移換の手続きが必要になる
60歳未満で転職や退職によって企業型DCの加入資格を失った場合は、原則として6か月以内に転職先の企業型DCやiDeCoなどへの資産移換等の手続きが必要です。所定の手続きをしないと、自動移換される場合があります。
自動移換されると、資産は国民年金基金連合会へ移され、運用されないうえ、手数料がかかります。また、自動移換中の期間は、老齢給付金の受給要件となる通算加入者等期間に算入されません。
企業型DCの実質負担を事例で確認
年間240万円の掛金でも、法人税等の減少は約72万円が目安です。
| 項目 | 金額 |
| 事業主掛金 | 月2万円 |
| 加入者数 | 10人 |
| 年間掛金(2万円 × 10人 × 12か月) | 240万円 |
| 法人税等の実効税率 | 仮に30% |
| 法人税等への概算影響(240万円 × 30%) | 約72万円 |
| 税額への影響を反映した掛金負担 | 約168万円 |
| 導入費用・運営費用 | 事業者の見積額を加算 |
前提は「法人税等の実効税率を30%と仮定」「掛金の全額について当期の税負担を軽減できるだけの課税所得がある」「給与とは別枠で拠出」の3つです。実際の税額への影響は、会社の所得や適用税率などによって異なります。
課税所得がない場合、掛金を損金に算入しても当期の税負担が減らないことがあります。ただし、一定の要件を満たせば欠損金を翌期以降に繰り越せるため、将来の利益見込みも踏まえて検討しましょう。
企業型DCの2026年改正について
2026年は、1月に退職所得控除の調整規定が、4月にマッチング拠出の制限が見直され、12月には拠出限度額の引上げが予定されています。
| 項目 | 適用時期 | 主な内容 |
| マッチング拠出 | 2026年4月1日(施行済み) | 拠出限度額の範囲内で、加入者掛金が事業主掛金を超えられない制限を撤廃 |
| 拠出限度額 | 2026年12月1日 | 企業型DCの拠出限度額(事業主掛金とマッチング拠出の加入者掛金の合計)を月5万5,000円から月6万2,000円へ引き上げ |
| 特別法人税 | 延長済み | 2029年3月31日までに開始する事業年度まで課税停止 |
| 退職所得控除の調整規定 | 2026年1月1日(施行済み) | DCの老齢一時金を先に受け取り、その後に退職金を受け取る場合の調整対象期間を、前年以前4年内から9年内に拡大(勤続期間等が重複する場合) |
DBなどほかの企業年金がある場合、2026年12月以降の企業型DCの拠出限度額は、月6万2,000円から他制度掛金相当額(DBなど、ほかの企業年金の掛金を一定の方法で評価した額)を差し引いた金額です。
経過措置の適用を受ける他制度加入者は、一定の場合を除き、引き続き月2万7,500円が限度となります。
企業型DCの導入判断チェック
導入前に、次の7項目を確認しましょう。
- 年間掛金を継続して支出できるか
- 導入費用や運営費用を把握しているか
- 給与とは別枠の拠出か選択制DCかを区別しているか
- 既存の退職金制度(役員退職金を含む)との関係を整理しているか
- 加入対象者の範囲を規約で確認しているか
- 継続投資教育の実施体制を確保できるか
- 課税所得を踏まえて法人税等への影響を試算したか
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企業型DCを導入する際は、掛金の損金算入だけでなく、役員報酬や役員退職金などの選択肢と比較し、法人税等への影響や経営者個人の資産形成まで含めて検討することが重要です。
税理士法人ネイチャーでは、現在の顧問税理士との関係を維持したまま、法人税対策や経営者個人の所得税対策についてスポットでご相談いただけます。顧問契約の切り替えを前提とせず、必要な分野についてセカンドオピニオンを受けられる点が特徴です。
税務だけでなく資産運用も扱っているため、企業型DCを含む制度の活用について、法人と経営者個人の税負担や資産形成を一体的に検討できます。また、企業型DCについては中小企業への導入に特化した法人とも提携をしており、導入の検討までサポートが可能です。
企業型DCの導入を検討したい方や、企業型DC以外の自社に適した法人税対策を検討したい方は、無料相談をご利用ください。
まとめ:企業型DCは実質負担を確認して導入を判断しよう
企業型DCには、会社と加入者の双方に税制上のメリットがあります。
一方、会社には掛金や運営費用がかかり、加入者は原則60歳まで資産を引き出せません。掛金設計による違いや法人税等への影響を確認したうえで導入を判断しましょう。
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