「カナダに住む親が亡くなった。日本では、どの財産を申告すればよいのだろうか」
一方、親が日本に住んでいても、カナダに不動産や銀行口座などの財産を持っていた場合は、両国の税金や手続きについて確認が必要です。また、カナダでの遺産分配を待つ間に、日本の相続税の申告・納税期限が近づくこともあります。
この記事では、親がカナダに住んでいた場合と、日本に住んでいてカナダに財産を持っていた場合の2つのケースを取り上げます。日本の相続税の計算例を交え、カナダで確認すべき税金や控除の扱い、申告期限と納税資金の注意点を解説します。
ご自身の状況と照らし合わせ、相続の準備にお役立てください。
カナダに相続税はある?
カナダには、日本のように遺産や相続人に課す相続税はありません。
ただし、亡くなった方の最終の所得税申告で、納税が必要になることがあります。州によっては、プロベート(裁判所による遺言や遺産管理人の権限などの確認手続き)に伴う税や手数料にも注意が必要です。
カナダに相続税がなくても、日本の相続税は別に判定する必要があります。日本に住所がある日本国籍の相続人の場合、原則として、相続で取得した国内外のすべての財産が課税対象です。親がカナダに長く住んでいても、この範囲は変わりません。
ただし、課税対象であっても、必ず納税が必要になるわけではない点に注意が必要です。債務の控除や生前贈与の加算などを反映した正味の遺産額が、基礎控除額以内であれば、相続税はかかりません。
カナダの死亡時における「みなし譲渡」とは
カナダの税務上の居住者が亡くなった場合、原則として、不動産や株式などの資産を死亡直前の時価で売却したものとみなします。これを「みなし譲渡」といいます。実際に売却していなくても、時価が税務上の取得費を上回っていれば、その差額が譲渡益になります。なお、カナダの非居住者の場合は、カナダの不動産など一定の資産が課税対象になります。
たとえば、税務上の取得費が60万カナダドルの不動産で、死亡直前の時価が100万カナダドルなら、譲渡益は40万カナダドルです。
この譲渡益のうち、所得に算入するのは原則として半分の20万カナダドルになります。「税率が50%」という意味ではありません。なお、賃貸用の建物で減価償却費を控除していた場合は、その一部などが別途所得に加算されることがあります。
譲渡益は、亡くなった方の最終申告(Final Return)で申告します。一定の要件を満たす配偶者への引継ぎでは課税の繰延べが、主たる住居では譲渡益の全部または一部の非課税が認められる場合があるのです。
2024年には、個人の年間譲渡益のうち25万カナダドルを超える部分などについて、所得への算入割合を3分の2に引き上げる案が示されました。しかし、2025年3月にこの引上げ案を実施しない方針が発表され、2026年10月時点では原則として2分の1となっています。
また、カナダでは、死亡日までの所得を申告する最終申告(Final Return)とは別に、死亡後に遺産から生じた所得について、信託所得税申告書(T3 Return)が必要になる場合があります。たとえば、遺産管理中に生じた賃貸収入や配当収入、資産の売却益などです。申告の要否は、所得の帰属や遺産の分配状況などによって異なります。
カナダ財産の相続税|親がカナダ在住の場合
親がカナダの税務上の居住者で、日本在住の子が財産を相続する場合、日本の相続税とカナダの死亡時の所得税を両方確認する必要があります。今回のケースでは、子が取得する国内外の財産が日本の相続税の対象になります。
- 日本で相続税の対象になる財産
- カナダで死亡時にかかる所得税
【ケース①の前提】
トロントに30年以上住み、カナダの税務上の居住者だった父が亡くなったとします。母は先に他界しており、相続人は日本に住所がある日本国籍の子2人です。子2人は、カナダの財産を半分ずつ受け取ります。財産は、日本の相続税評価額で預金5,000万円と上場株式5,000万円です。
日本で相続税の対象になる財産
ケース①で子2人が受け取るカナダの預金と株式は、日本の相続税の対象です。親が長くカナダに住んでいても、日本での申告が必要になる場合があります。
ケース①の相続税を簡単に計算すると、次のとおりです。
| 項目 | 金額 |
| 遺産の合計(日本の相続税評価額) | 1億円 |
| 基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 2人) | 4,200万円 |
| 課税遺産総額 | 5,800万円 |
| 子1人あたりの法定相続分に応ずる取得金額 | 2,900万円 |
| 子1人あたりの税額(2,900万円 × 15% − 50万円) | 385万円 |
| 相続税の総額 | 770万円 |
※債務や葬式費用の控除、生前贈与の加算、各種の税額控除などを考慮しない簡易計算です。
この前提では、遺産が基礎控除を上回るため、日本で相続税の申告・納税が必要になります。カナダの預金や株式などは、日本の相続税の評価ルールに基づいて評価します。
外国の証券取引所に上場する株式は、原則として死亡日の終値と、死亡月・前月・前々月の各月の終値平均額のうち、最も低い価額で評価できます。
カナダドル建ての財産を日本円に換算する際は、原則として相続人の取引金融機関が公表する相続開始日のTTB(対顧客直物電信買相場)を使用します。その日に為替相場がない場合は、相続開始日前の最も近い日の相場を使用します。
カナダで死亡時にかかる所得税
カナダでは、父の最終申告でみなし譲渡による損益を申告します。カナダドル建ての普通預金の元本には、通常、譲渡益は生じません。亡くなるまでの利息は、最終申告の所得に含めます。
上場株式は、死亡直前の時価から税務上の取得費などを差し引いて譲渡益を計算します。たとえば、時価50万カナダドル、税務上の取得費30万カナダドルなら、譲渡益は20万カナダドルです。原則として、その半分の10万カナダドルが父の所得に加わります。
RRSP(登録退職貯蓄制度)やRRIF(登録退職所得基金)は、株式などのみなし譲渡とは異なる課税ルールが適用されます。原則として、死亡時の口座内資産などの時価相当額が、亡くなった方の所得に含まれます。
ただし、RRSPの給付開始状況や、配偶者への承継、扶養されていた子・孫への引継ぎなどにより、所得への算入額や課税時期が異なる場合があります。
一方、カナダのTFSA(非課税貯蓄口座)は、RRSP・RRIFとは死亡時の課税関係が異なります。原則として、死亡日時点の口座内資産の時価相当額を受取人が受け取っても、カナダの所得税は課されません。ただし、死亡後の運用益には課税される場合があり、配偶者が後継保有者となる場合などは取扱いが異なります。日本の相続税・所得税については、カナダでの非課税措置とは別に確認する必要があります。
日本側での扱いは、契約内容や受取人などによって異なるため、個別に確認が必要です。
カナダ財産の相続税|親が日本在住の場合
親が日本に住み、カナダの税務上の非居住者だった場合、死亡時のみなし譲渡によってカナダで課税対象となる財産は、原則としてカナダの不動産など一定の資産に限られます。
ただし、カナダの不動産は対象になるため、注意が必要です。
- 日本で相続税の対象になる財産
- カナダの課税対象になる資産
【ケース②の前提】
東京に住む父が亡くなったとします。父はカナダの税務上の非居住者で、財産にはカナダの賃貸マンション・銀行預金・上場株式が含まれます。相続人は、日本に住所がある日本国籍の子2人です。
日本で相続税の対象になる財産
カナダの財産も、日本の相続税の対象です。日本の自宅や自社株などがあれば、カナダの財産と合わせて申告の要否を判断します。
カナダの財産の相続税評価額が合計1億円で、ほかに財産がなく、債務や葬式費用の控除、生前贈与の加算などの条件もケース①と同じなら、相続税の総額は770万円です。
ただし、カナダで課される所得税を日本の相続税の計算上、債務として控除できるかは、別途確認が必要です。
カナダの課税対象になる資産
カナダの税務上の非居住者は、一定の資産の譲渡益について、カナダで課税されます。これらは「課税対象カナダ資産」と呼ばれ、代表例がカナダの不動産です。
親が日本在住でも、カナダの不動産は死亡時に現地で申告・納税が必要になる場合があります。
| 資産の種類 | 親がカナダに住んでいた場合 | 親が日本に住んでいた場合 |
| カナダドル建ての普通預金 | 元本に譲渡益は通常生じない。死亡までの利息は所得に含める | 元本は通常、死亡時のみなし譲渡による課税の対象外 |
| 上場株式 | 原則として、死亡直前の時価を基にみなし譲渡の損益を計算 | 通常の少額保有は原則として対象外。ただし、過去60か月以内に本人と一定の関係者等が合計25%以上を保有し、株式価値の50%超がカナダの不動産等に由来する場合などは対象となることがある。 |
| カナダの不動産 | みなし譲渡の対象。主たる住居は要件により譲渡益の全部または一部が非課税 | 課税対象カナダ資産として、みなし譲渡による課税を確認 |
※親がカナダに住んでいた場合はカナダの税務上の居住者、日本に住んでいた場合は非居住者を前提とした、死亡時の課税に関する比較です。
カナダでの課税の有無については、カナダ国内法に加えて、日加租税条約の適用も確認する必要があります。なお、日加租税条約は所得税等に関する条約であり、日本の相続税そのものを免除するものではありません。
カナダの税金は相続税から差し引ける?
カナダで課された税金の扱いは、税額を直接差し引く「外国税額控除」と、遺産額から差し引く「債務控除」に分けて確認します。
- 外国税額控除の対象を確認する
- 債務控除の要件を確認する
外国税額控除の対象を確認する
相続税の外国税額控除は、国外財産について、現地で「日本の相続税に相当する税」が課された場合に使える制度です。一定の限度額まで、日本の相続税から差し引けます。
カナダのみなし譲渡によって課されるのは、亡くなった方の資産の譲渡益に対する所得税です。相続財産の取得に対して課される税金ではないため、日本の相続税の外国税額控除の対象外と解されています。
この点については、税務大学校の研究論文(2008年)でも同様の見解が示されています。ただし、研究上の見解であり、個別事案に対する課税当局の判断を示すものではありません。
参照:税務大学校論叢第59号「相続・贈与に係る国際的二重課税―外国税額控除の在り方を中心として―」(小林尚志、2008年)
債務控除の要件を確認する
債務控除は、亡くなった方の借金や未払いの税金などを、遺産額から差し引く仕組みです。原則として、死亡時に存在し、確実と認められる債務が対象です。
日本の準確定申告で納める被相続人の所得税などは、死亡時に税額が確定していなくても、一定の要件のもとで債務控除の対象となります。
一方、カナダのみなし譲渡に伴う所得税については、債務控除の対象となるか慎重な判断が必要です。相続税法では、死亡時に確実と認められる債務を控除できますが、死亡時に税額が確定していない外国の所得税については、同様に控除できるか明確ではありません。
税務大学校の研究論文(2008年)でも、相続税法施行令に列挙されている税金が日本の国内税であることなどから、債務控除の可否に疑義があると指摘されています。
また、カナダで所得税が差し引かれた後の遺産分配額を、そのまま日本の相続税評価額とすることはできません。相続財産は原則として相続開始時の価額で評価し、カナダで課される所得税については、債務控除の可否を別途判断する必要があります。
カナダ財産の相続税申告の注意点
カナダの手続きは、長引く場合があります。日本の申告期限に間に合うよう、資料と納税資金の準備を並行して進めましょう。
- 現地の手続き完了を待たずに準備する
- 遺産分配前の納税資金を確保する
現地の手続き完了を待たずに準備する
日本の相続税の申告・納税期限は、原則として、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。カナダの手続きが長引いても、日本の期限は自動では延びません。
カナダの最終所得税申告(Final Return)の期限は、原則として、1月から10月に亡くなった場合は翌年4月30日、11月または12月に亡くなった場合は死亡から6か月後です。ただし、亡くなった方や同居の配偶者などが自営業を営んでいた場合は、死亡日によって申告期限が異なり、翌年6月15日または死亡から6か月後となります。なお、自営業者に認められる申告期限の延長は納税期限には適用されないため、それぞれ確認が必要です。
早めに集めたい資料には、次のものがあります。
- 亡くなった日の預金残高がわかる書類
- 上場株式の保有数や相続税評価に必要な株価資料
- 不動産の評価に使う資料
- カナダの最終申告書や税額に関する資料(作成・入手でき次第)
現地の申告書などがまだそろっていなくても、手元にある資料をもとに、日本の相続税の申告準備を進めましょう。カナダでの遺産分割が完了していない場合でも、日本の相続税の申告期限は延長されません。未分割の場合は、法定相続分などに基づいて期限内に申告し、その後の分割内容に応じて修正申告や更正の請求を検討する必要があります。
なお、未分割財産については、原則として配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できないため、注意が必要です。遺産分割が確定してから、税額軽減や特例を適用したものを出しなおし、一度納めた相続税の還付を受ける手続き(更正の請求)が必要になる場合があります。
遺産分配前の納税資金を確保する
Clearance Certificate(納税確認証明書)は、カナダ歳入庁(CRA)が、対象となる税金などの納付や担保の提供を確認して発行する書類です。遺言執行人などが証明書を取得せずに遺産を分配すると、分配した財産の価額を限度に、未納税額について個人で責任を負うことがあります。
ただし、税金の支払いに必要な財産を十分に確保している場合などは、証明書の取得前でも一部の遺産を分配できることがあります。分配の時期や金額は、現地の遺言執行人などに確認しましょう。
ケース①で、証明書の取得に時間がかかり、カナダからの入金前に日本の納税期限を迎えたとしましょう。簡易計算どおりの税額なら、子2人はそれぞれ385万円の納税資金を期限までに確保する必要があります。自己資金で不足する場合は、一部分配の可否や借入れなども検討しましょう。
日本で納める税額の見込みと、期限までに使える資金を、早めに確認しましょう。相続税額が10万円を超え、金銭での一括納付が困難な場合は、一定の要件のもとで延納を申請できます。原則として担保の提供が必要で、延納期間中は利子税がかかります。期限内申告の場合は、相続税の申告期限までに申請する必要があります。
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相続したカナダの不動産は、日本とカナダで売却時の譲渡益の計算が異なる場合があるため、両国の税負担を踏まえた判断が必要です。
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まとめ:カナダに相続税がなくても日本で課税される場合がある
カナダには、日本のような相続税はありません。ただし、日本に住所がある日本国籍の子が相続する場合は、親の居住地にかかわらず、原則として国内外の相続財産が日本の相続税の対象になります。
カナダの死亡時の課税は、親の税務上の居住者区分と資産の種類によって異なります。カナダの税務上の居住者なら、原則として国内外の株式・不動産などのみなし譲渡を、非居住者ならカナダの不動産などの課税対象カナダ資産を確認しましょう。
カナダのみなし譲渡による所得税は、日本の相続税の外国税額控除の対象外と解されています。債務控除の可否は個別に確認し、現地の手続きと並行して、日本の申告期限と納税資金の準備を進めましょう。
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