法人保険の損金算入ルールが見直されるなか、自社にとって最適な保険の活用方法を探してはいませんか。年間30万円以下となる場合の取扱いを知っていても、2つの30万円基準の違いや、基準を超えた場合の経理処理まで把握している方は多くありません。
法人保険には「30万円」を基準とする取扱いがありますが、その判定方法は契約内容によって異なります。「年換算保険料相当額」が30万円以下かを判定するケースと、その事業年度に実際に支払った保険料が30万円以下かを判定するケースがあるため、それぞれの違いを理解しておくことが重要です。
この記事では、税理士法人ネイチャーが法人保険に関する2つの30万円基準と、その適用条件を解説します。法人の経理処理や資金繰り、役員給与課税への影響を踏まえ、契約前に確認すべきポイントを把握できます。
法人保険で損金算入できる30万円特例の適用条件
法人保険に関する30万円基準には、判定方法の異なる2つの取扱いがあります。一般に30万円特例と呼ばれることがありますが、法令上の制度名ではなく、法人税基本通達に定められた取扱いです。ここでは、法人保険に関する2つの30万円基準について、資産計上の要否や損金算入の時期を含め、それぞれの適用条件を解説します。
2019年の法人税基本通達改正の背景や損金算入ルールの全体像については下記をご参照ください。
30万円特例の全体像は以下のとおりです。
| 特例の種類 | 対象となる保険契約 | 30万円の判定基準 | 税務上の取扱い |
| 最高解約返戻率に関する30万円基準 | 保険期間が3年以上で、最高解約返戻率が50%超70%以下の定期保険または第三分野保険 | 一の被保険者につき、対象契約の年換算保険料相当額の合計が30万円以下 | 最高解約返戻率に応じた資産計上ルールの対象外となり、原則として期間の経過に応じて損金算入する |
| 解約返戻金相当額のない短期払契約に関する30万円基準 | 保険期間を通じて解約返戻金相当額がなく、保険料の払込期間が保険期間より短い定期保険または第三分野保険 | 一の被保険者につき、その事業年度に支払った対象保険料の合計が30万円以下 | 支払った日の属する事業年度に全額を損金算入する処理が認められる |
最高解約返戻率50%超~70%以下の定期保険・第三分野保険を契約する
法人保険の損金算入における30万円特例の1つ目は、最高解約返戻率が50%超70%以下の定期保険または第三分野保険を活用する枠です。原則として保険料の一部を前払保険料として資産計上しなければなりません。
ただし、一の被保険者につき、対象となる保険の年換算保険料相当額の合計が30万円以下であれば、最高解約返戻率に応じた資産計上ルールの対象外となります。年換算保険料相当額とは、保険料の総額を保険期間の年数で割った金額です。
この場合も、保険料は原則として期間の経過に応じて損金算入します。一定期間分を前納した保険料まで、支払った事業年度に全額損金算入できるという意味ではありません。
解約返戻金相当額のない短期払の定期保険・第三分野保険を契約する
2つ目の30万円基準は、保険期間を通じて解約返戻金相当額がなく、保険料の払込期間が保険期間より短い定期保険または第三分野保険に適用されます。医療保険、がん保険、介護保険などは対象となり得ますが、単に保険料の払込期間が短いだけでは要件を満たしません。
一の被保険者につき、その事業年度に支払った対象契約の保険料の合計が30万円以下であれば、支払った日の属する事業年度に全額を損金算入する処理が認められます。ただし、保険金・給付金の受取人や加入対象者によって保険料が給与となる場合には、この取扱いは適用されません。
被保険者1人につき30万円以下の基準を正しく判定する
2つの30万円基準はいずれも「一の被保険者につき合計30万円以下」であることがポイントですが、30万円の計算方法はそれぞれ異なります。
最高解約返戻率が50%超70%以下の定期保険・第三分野保険については、一の被保険者につき、対象となる保険契約の「年換算保険料相当額」の合計が30万円以下かを判定します。年換算保険料相当額は、保険料の総額を保険期間の年数で割って計算するため、単純にその年に支払った保険料が30万円以下かどうかを判定するものではありません。
一方、解約返戻金相当額のない短期払の定期保険・第三分野保険については、一の被保険者につき、その事業年度に支払った対象契約の保険料の合計額が30万円以下かを判定します。
いずれも、一の被保険者について対象となる保険契約が複数ある場合には、それぞれの基準の対象となる契約を合算して判定します。そのため、複数の保険会社と契約している場合も含め、法人が加入している対象契約を正確に把握しておくことが重要です。
複数の保険を組み合わせる場合には、どの契約がどちらの30万円基準の対象となるのかを整理したうえで、それぞれの判定額が30万円を超えないか確認しましょう。事前に保険に精通した税務の専門家へ相談することも有効です。
法人保険の損金算入30万円特例を活用するメリット
30万円特例の適用により、一定の要件のもとで保険料の資産計上が不要となったり、支払った事業年度に損金算入する処理が認められたりします。
ただし、30万円基準を満たせば法人のキャッシュアウトそのものが減るわけではなく、法人が保険料を負担することで必ず役員個人の可処分所得が増えるわけでもありません。契約形態や受取人、被保険者の範囲などを確認したうえで活用する必要があります。
- 役員個人の保険料負担をなくし手元資金を残せる
- キャッシュアウトを抑えて保障を持てる
役員個人の保険料負担をなくし手元資金を残せる
役員が個人で医療保険やがん保険などに加入している場合、その保険料は原則として個人の手元資金から支払うことになります。
一方、法人が役員・従業員を被保険者とする医療保険などの第三分野保険に加入し、一定の要件のもとで法人が保険料を負担するケースもあります。適切な契約形態であれば、役員個人が負担する保険料を見直せる場合があります。
仮に、現在個人で加入している医療保険を法人が契約者となる第三分野保険(福利厚生目的等)へ適切に切り替えたとします(※個人から法人への単なる名義変更や過度な役員限定契約は給与認定リスクがあるため手続きに注意が必要です)。
法人が適切な契約形態で法人が保険料を負担すれば、役員個人の保険料負担を軽減できる場合があります。ただし、法人が保険料を支払えば、必ず役員個人の可処分所得が増えるわけではありません。保険金・給付金の受取人が法人であれば、原則として保険金・給付金は法人に帰属します。
また、受取人や被保険者の範囲によっては、法人が負担した保険料が役員給与として取り扱われる場合があります。
そのため、法人契約を検討する際には、保険料の損金算入だけでなく、契約者・被保険者・受取人の関係や役員給与課税への影響まで確認することが重要です。
キャッシュアウトを抑えて保障を持てる
法人保険は、保障内容と保険料のバランスを適切に設計することで、資金繰りへの影響を抑えながら必要な保障を確保できる場合があります。
ただし、30万円基準はあくまで法人税上の保険料の取扱いに関する基準であり、基準を満たすこと自体によって法人からのキャッシュアウトが減少するわけではありません。
また、「30万円」の判定方法は契約によって異なります。最高解約返戻率が50%超70%以下の一定の保険では、一の被保険者につき「年換算保険料相当額」の合計が30万円以下かを判定します。一方、解約返戻金相当額のない一定の短期払契約では、一の被保険者につき「その事業年度に支払った保険料」の合計が30万円以下かを判定します。
そのため、法人の資金繰りや必要保障額を踏まえて無理のない保険料を設定するとともに、契約する保険がどちらの30万円基準に該当するのかを確認することが重要です。
死亡保障のある定期保険で法人を保険金受取人とする契約であれば、経営者に万が一のことがあった際の事業継続資金や死亡退職金の原資などに活用することも考えられます。
法人保険の損金算入で30万円基準を超えた場合の注意点
30万円基準を超えた場合の処理は、対象となる契約によって異なります。また、役員給与として取り扱われるかどうかは30万円基準とは別の問題であり、保険金・給付金の受取人や被保険者の範囲などによって判断されます。
主な注意点は以下のとおりです。
- 30万円基準を超えると資産計上や期間按分が必要になる場合がある
- 役員給与として認定されるリスクがある
30万円基準を超えると資産計上や期間按分が必要になる場合がある
30万円基準を超えた場合の処理は、どちらの30万円基準に該当する契約なのかによって異なります。
最高解約返戻率が50%超70%以下の定期保険・第三分野保険について、一の被保険者に係る年換算保険料相当額の合計が30万円を超える場合には、最高解約返戻率に応じた資産計上ルールが適用されます。
例えば、最高解約返戻率が60%で年換算保険料相当額が40万円の定期保険の場合、原則として保険期間の開始から保険期間の40%相当期間を経過する日までの間、当期分支払保険料の40%を資産計上し、残りの60%を損金算入します。
その後、保険期間の75%相当期間を経過するまでは、原則としてそれまでに計上した資産の取崩しは行いません。保険期間の75%相当期間を経過した後から保険期間終了までの間に、累積した資産計上額を期間の経過に応じて均等に取り崩し、損金に算入します。
一方、保険期間を通じて解約返戻金相当額のない一定の短期払の定期保険・第三分野保険について、一の被保険者につきその事業年度に支払った保険料の合計額が30万円を超える場合には、支払った事業年度に全額を損金算入する簡便的な取扱いは利用できません。原則として、保険期間の経過に応じて損金算入することになります。
このように、30万円基準を超えた場合には、契約内容によって資産計上や期間按分などの処理が必要となるため、継続的な管理が重要です。
役員給与として認定されるリスクがある
法人契約の定期保険や第三分野保険では、保険金・給付金の受取人が被保険者またはその遺族であり、役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合、法人が負担した保険料はその役員または使用人に対する給与として扱われます。
この給与認定は、30万円基準を超えたことによって生じるものではありません。30万円以下の契約であっても、受取人や被保険者の範囲などの要件によっては給与として取り扱われるため注意が必要です。
一方、保険金・給付金の受取人が法人である場合には、役員のみを被保険者としていることだけを理由として直ちに役員給与となるわけではありません。
法人が福利厚生目的などで保険を導入する場合には、被保険者の範囲や受取人、契約内容などを確認し、実態に応じて税務上の取扱いを判断する必要があります。社内規程や加入基準を整備している場合であっても、それだけを理由に給与課税を回避できるとは限りません。
また、法人が負担した保険料が役員給与として取り扱われる場合、その保険料は役員個人の給与所得として課税対象となります。法人側の損金算入については役員給与に関する法人税法上の要件を確認する必要があります。
福利厚生目的で導入する場合は、すべての従業員を対象とする方法のほか、勤続年数などの客観的かつ合理的な基準を設ける方法が考えられます。具体的な取扱いは、受取人や加入対象者などの契約内容に基づいて判断することが必要です。
法人保険の損金算入30万円特例など財務改善なら税理士法人ネイチャー
法人保険の30万円特例は、適用条件を満たせば全額を今期に損金算入できるため法人決算対策の有望な選択肢です。しかし、契約内容や対象者の設定を少しでも誤ると、複雑な資産計上や給与認定などの予期せぬ事態に直面します。
税理士法人ネイチャーは、企業経営者の皆様へ向けて、決算対策や法人保険活用のご提案を行うプロフェッショナル集団です。単なる法人保険の導入にとどまらず、法人の財務状況や経営リスクの改善に貢献できる提案を行います。
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まとめ:法人保険の損金算入30万円特例を活用しよう
本記事では、法人保険における損金算入の30万円特例について、正確な適用条件や超過した場合の実務的な注意点を解説しました。
おさえておくべき重要なポイントは以下の通りです。
- 最高解約返戻率が50%超70%以下の保険
一の被保険者につき、年換算保険料相当額の合計が30万円以下であれば、最高解約返戻率に応じた資産計上は不要です。ただし、前払いした保険料まで支払年度に全額損金算入できるわけではなく、原則として期間の経過に応じて損金算入します。 - 解約返戻金相当額のない短期払保険
保険期間を通じて解約返戻金相当額がなく、保険料の払込期間が保険期間より短い定期保険・第三分野保険について、 一の被保険者につき、その事業年度に支払った対象保険料の合計が30万円以下であれば、支払年度に全額を損金算入できます。
30万円を超えた場合の処理も異なります。最高解約返戻率が50%超70%以下の保険では、保険料の一部を資産計上します。一方、解約返戻金相当額のない短期払保険では、支払年度に全額を損金算入する取扱いが認められず、原則として保険期間の経過に応じて損金算入します。
また、保険金・給付金の受取人や加入対象者によっては、法人が支払った保険料が役員給与として課税されます。 法人保険を契約する際は、30万円以下かどうかだけで判断せず、契約内容、受取人、加入対象者、資金繰り、将来の保険金や解約返戻金の課税まで確認することが重要です。
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