設備投資を控え、経営力向上計画の申請を勧められた方も多いのではないでしょうか。「手間に見合うメリットがあるのか」と迷う方も少なくありません。
経営力向上計画には、税制措置以外にもさまざまな支援があります。ただし、認定を受けるだけで、すべての支援を利用できるわけではありません。税制措置を利用する場合は、設備の取得前から証明書などの準備が必要になる場合があります。
この記事では、経営力向上計画のメリット・デメリットに加え、申請を検討したい会社の特徴や2026年時点の要件、申請方法を解説します。
経営力向上計画とは?
経営力向上計画とは、中小企業などが作成した経営力向上のための計画を国が認定する制度です。認定を受けると、税制措置や金融支援などを利用できる場合があります。
計画には、人材育成や設備投資、業務の見直しなど、経営力の向上につながる具体的な取組を記載します。計画書は、事業分野別指針が定められている場合はその指針に、定められていない場合は基本方針に沿って作成します。
経営力向上計画のメリット4つ
経営力向上計画の主なメリットは、税制・金融・補助金・法的支援の4つです。
- 取得設備の税制措置を利用できる
- 金融支援に申し込める
- 補助金審査で加点される場合がある
- 事業承継の法的支援を利用できる
1. 取得設備の税制措置を利用できる
認定された経営力向上計画に基づき、対象設備を取得して事業に使用するなどの要件を満たせば、中小企業経営強化税制により、原則として即時償却か税額控除を選べます。
即時償却とは、設備を事業に使い始めた年度に、取得価額の全額を償却する方法です。ただし、E類型の建物・建物附属設備は即時償却の対象ではなく、一定の特別償却または税額控除の対象となります。
税額控除とは、取得価額の一定割合を法人税額から差し引く方法です。通常の対象設備では控除率は10%(資本金3,000万円超の法人は7%)ですが、E類型の建物・建物附属設備には1%または2%の控除率が適用されます。
控除上限は、中小企業投資促進税制と合わせて調整前法人税額の20%です。この上限により控除しきれなかった金額は、翌事業年度に繰り越せます。
どの措置を使えるかは、企業規模や設備、類型、法人税額などによって異なります。
2. 金融支援に申し込める
経営力向上計画の認定を受けると、日本政策金融公庫による融資などの金融支援を利用できる場合があります。一定の要件を満たせば、信用保証協会による信用保証の特例も利用できます。
認定を受けても、融資や信用保証を受けられるとは限りません。経営力向上計画を申請する前に、金融機関や信用保証協会へ相談しておきましょう。
3. 補助金審査で加点される場合がある
補助金によっては、経営力向上計画の認定が審査上の加点などにつながる場合があります。
ただし、対象となる補助金や要件は、公募時期によって異なります。補助金を申請する際は、その公募回の最新の公募要領を確認しましょう。
4. 事業承継の法的支援を利用できる
合併や会社分割、事業譲渡などで事業を引き継ぐ際、一定の許認可を承継できる特例があります。許認可とは、事業を行うために行政機関から受ける許可や認可などです。
経営力向上計画に事業承継等を記載して認定を受け、要件を満たせば、対象となる許認可の地位を引き継ぎます。
対象は、建設業や旅館業、一般貨物自動車運送事業など一部の許認可です。すべての事業承継やM&Aで利用できる特例ではないため、対象となる許認可を事前に確認する必要があります。
経営力向上計画のメリットと合わせて把握したいデメリット3つ
経営力向上計画には、手間や制約も伴います。認定後の手続きや、支援を使えない場合も含めた3つのデメリットは次のとおりです。
- 認定だけでは支援を利用できない
- 申請書類の準備に時間がかかる
- 計画変更で追加の手続きが必要になる場合がある
1. 認定だけでは支援を利用できない
経営力向上計画の認定を受けても、中小企業経営強化税制を利用するには、設備や事業者が税法上の要件を満たす必要があります。
たとえば、中古設備や原則として貸付用の設備は対象外です。また、資本金1億円以下の法人でも、株主構成や過去の所得水準によって対象外となる場合があります。
2. 申請書類の準備に時間がかかる
税制措置を使う場合は、計画書のほかに設備関係の書類も必要です。A類型では工業会などの証明書、B・D・E類型では経済産業局の確認書を取得します。
B・D・E類型では、経済産業局への確認申請にあたり、公認会計士または税理士による事前確認も必要です。
証明書や確認書の取得には時間がかかる場合があります。設備の取得時期にも要件があるため、設備投資を決めた段階で準備を始めましょう。
3. 計画変更で追加の手続きが必要になる場合がある
認定後に設備を追加するなど、計画内容を変更する場合は、原則として変更認定を受ける必要があります。追加する設備について税制措置を利用する場合は、新たに証明書や確認書などの準備も必要になります。
ただし、計画の趣旨を変えない軽微な変更であれば、変更申請は不要です。
経営力向上計画申請のメリットが大きい会社の特徴
申請を検討したいのは、利用する予定の支援がはっきりしている会社です。利用目的ごとに、確認したい点を表にまとめました。
| 利用目的 | 申請を検討したい状況 | 先に確認する事項 |
| 税制措置 | 対象となる設備の取得を予定している | 課税所得、法人税額、対象設備・類型の要件 |
| 金融支援 | 借入れを使った投資を予定している | 必要な資金、返済計画、融資の審査 |
| 補助金 | 認定が加点項目になる補助金へ申請する | 公募要領、認定の期限 |
| 事業承継 | 許認可を含む事業の承継を予定している | 承継の方法、対象となる許認可 |
3,000万円の機械を導入予定のX社を想定します(資本金5,000万円の製造業)。
| 確認項目 | X社の状況 | 判断のポイント |
| 投資額 | 機械1台で3,000万円 | 取得価額の要件を満たすが、その他の設備要件も確認する |
| 利益見込み | 経常利益は約4,000万円 | 課税所得や法人税額の見込みを確認する |
| 税額控除(試算) | 税額控除の計算額は210万円(3,000万円×7%)。課税所得を4,000万円と仮定すると、調整前法人税額は約860万円、当期の控除上限は約170万円 | 当期に控除しきれない約40万円は、翌事業年度への繰越しを確認する |
| 借入れ | 2,000万円を借りる予定 | 計画の申請前に金融機関へ相談する |
| 取得日 | 約4か月後に納品予定 | 原則となる設備取得前の認定に向けて手続きを進める |
X社は、税制措置と金融支援の両方を検討できる状況です。申請にかかる手間と利用できる支援の効果を比較し、自社にとって申請するメリットがあるか判断しましょう。
経営力向上計画の申請要件
経営力向上計画の認定を受けるには、対象事業者や経営指標などの要件を満たす必要があります。さらに、税制措置を利用する場合は、対象設備や税制類型の要件も確認が必要です。
まず、2026年時点の中小企業経営強化税制の主なポイントを表で整理します。
| 確認項目 | 2026年時点の内容 |
| B類型 | 投資利益率は年平均7%以上(2025年度改正で5%から引上げ) |
| E類型 | 売上高10億円超90億円未満の法人が、売上高100億円超を目指して行う大規模投資(2025年度改正で新設) |
| C類型 | 2025年度改正で廃止 |
| 工具・器具備品 | 2026年度改正で30万円以上から40万円以上に引上げ(2026年4月1日以後の取得) |
| 税制措置の期限 | 2027年3月31日までの取得・事業供用(期限後の取扱いは今後の税制改正で決まるため、最新情報を確認) |
参照:
中小企業庁「経営力向上計画 策定の手引き」
中小企業庁「支援措置活用の手引き」
国税庁「No.5434 中小企業経営強化税制」
対象事業者の範囲に該当する
経営力向上計画を申請できる「特定事業者等」には、常時使用する従業員数2,000人以下の会社や個人事業主などが含まれます。
ただし、計画の申請要件と税制措置の要件は異なります。中小企業経営強化税制の対象は、青色申告を行う資本金1億円以下の法人などです。
資本金1億円以下でも、同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける場合などは対象外です。また、過去3年間の所得金額の年平均額が15億円を超える法人も、原則として対象外となります。
労働生産性の目標を設定する
計画書には、業種ごとの事業分野別指針などに沿って選んだ経営指標の現状値と目標値を記載します。代表的な指標である労働生産性は、営業利益、人件費、減価償却費の合計を労働投入量で割って算定します。
基本方針では、労働生産性の目標伸び率は3年計画で1%以上、4年計画で1.5%以上、5年計画で2%以上です。ただし、業種によっては異なる指標や目標が定められているため、事業分野別指針も確認しましょう。
利用する税制類型の要件を満たす
税制措置を使うには、A・B・D・E類型のいずれかの要件を満たす必要があります。A類型は、生産性が旧モデルと比較して年平均1%以上向上する設備が対象です。
D類型は、事業承継等の後に取得し、修正ROAまたは有形固定資産回転率の改善が見込まれる設備が対象となります。
対象設備の取得価額を確認する
対象設備には、種類ごとに最低取得価額が決められています。
| 設備の種類 | 最低取得価額 |
| 機械装置 | 1台(1基)160万円以上 |
| 工具・器具備品 | 1台(1基)40万円以上(2026年4月以後の取得) |
| 建物附属設備 | 1つあたり60万円以上(A・B・D類型) |
| ソフトウエア | 1つあたり70万円以上 |
A類型の工具は、測定工具と検査工具のみが対象です。なお、E類型では建物も対象となり、建物及びその附属設備の取得価額の合計額が1,000万円以上などの要件があります。
経営力向上計画の申請方法
申請は、書類の準備、電子申請、認定後の手続きの順に進めます。税制措置を使う場合、原則として設備の取得前に認定を受けます。
- 証明書などの必要書類を集める
- 経営力向上計画の認定を申請する
- 認定後に支援別の手続きを行う
証明書などの必要書類を集める
まず、経営力向上計画を作成します。税制措置を利用する場合は、設備の見積書や対象類型を確認し、計画の申請前に必要な証明書や確認書を取得しましょう。
電子申請には、GビズIDプライム(行政の電子申請に使う共通アカウント)が必要です。GビズIDプライムを書類郵送で申請する場合は、発行までに日数がかかります。書類とIDの準備は、設備の導入を決めた時点で始めましょう。
経営力向上計画の認定を申請する
申請は、経営力向上計画申請プラットフォームから電子申請できます。ただし、一部の申請は電子申請に対応しておらず、郵送等での提出が必要です。提出先は事業分野を所管する省庁です。標準処理期間は通常約30日ですが、経済産業部局宛てのみの電子申請では約14日(休日等を除く)、複数の省庁にまたがる場合は約45日となります。
A・B類型では、一定の要件を満たせば設備取得後の計画申請も認められます。この場合、設備取得日から60日以内に申請書が行政庁へ到達し、設備を取得・事業供用した事業年度内に認定を受ける必要があります。
ただし、証明書や確認書は設備取得前に申請する必要があります。なお、D・E類型では設備取得後の計画申請の例外は認められません。
たとえば、3月決算の会社で、3月10日に機械を取得し、4月に経営力向上計画を申請したとします。取得日から60日以内でも、認定が翌事業年度になるため、この設備について税制措置は受けられません。
認定後に支援別の手続きを行う
税制措置を利用する場合は、法人税の申告書に計算明細書や認定申請書・認定書の写しなどを添付します。B・D・E類型では、一定期間、計画の実施状況などの報告が必要です。
金融支援は融資などの審査、補助金は制度ごとの申請を行います。法的支援を利用する場合も、必要な手続きを確認しましょう。
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経営力向上計画を活用した設備投資では、認定の可否だけでなく、税制措置による法人税額や手元資金への影響まで確認することが重要です。
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まとめ:経営力向上計画のメリットは4つの支援から判断しよう
経営力向上計画のメリットは、税制措置、金融支援、補助金審査での加点、事業承継の法的支援の4つに整理できます。
ただし、認定だけで各支援を利用できるとは限りません。
申請前に利用したい支援と追加の要件を確認し、税制措置を利用する場合は設備の取得時期も確認しましょう。
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