海外不動産投資は、近年富裕層を中心に人気を集めています。
しかし、不動産を保有する際は税金に注意しなくてはいけません。
とくに、海外不動産にかかる税金は日本の不動産とは異なる部分が多く、課税の仕組みや時期も異なり、事前に把握しておかないと後悔する可能性があります。
そこで本記事では、海外不動産にかかる税金について詳しく解説します。
申告の方法や節税のポイントもあわせて解説するため、海外不動産投資を検討している方だけではなく、すでに海外不動産を保有している方もぜひ参考にしてください。
海外不動産の保有で日本の課税対象になる?
日本は全世界所得課税を採用しているため、海外不動産を保有すると日本の課税対象になります。
全世界所得課税とは、その国に住んでいる方がその国で稼いだ所得だけではなく、その国以外で稼いだ所得も含めて課税される方式のことです。
たとえば、日本の場合、国内外で稼いだ所得にも税金がかかるため、海外不動産で所得を得たときは課税の対象になるのです。
海外不動産だからといって日本の課税対象にならないわけではないため、注意しましょう。
海外不動産の取得時にかかる税金一覧
海外不動産の取得時にかかる税金は、次のとおりです。
- 不動産取得税
- 印紙税
- 登録免許税
- 付加価値税
いずれの税金も、日本ではなく不動産を取得した国に納めます。どのような税金を納める必要があるのか、確認していきましょう。
不動産取得税
不動産取得税は、その名のとおり不動産を取得したときにかかる税金です。
たとえば日本でいえば、一部例外はありますが、土地あるいは建物の価格の3%、居住用以外のものには4%の税金がかかります。
ただし、上記はあくまで日本の例であり、アメリカやヨーロッパの国々では不動産取得税が設けられていない国もあります。
海外不動産を購入する際は、その国では不動産取得税が制定されているのかどうか事前に確認してください。
印紙税
印紙税は、不動産の売買契約書を作成したり、工夫したりするときに課税されます。
たとえば、日本の印紙税は契約内容によって価格が変動します。
記載された契約金額 | 印紙税額 |
---|---|
1,000万円超え5,000万円以下 | 2万円 |
5,000万円超え1億円以下 | 6万円 |
1億円超え5億円以下 | 10万円 |
5億円超え10億円以下 | 20万円 |
10億円超え50億円以下 | 40万円 |
参照:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁
こちらも不動産取得税同様、不動産を取得した国で決められたルールに従いましょう。
登録免許税
登録免許税は、不動産を登記するときに課税されます。
そもそも登記とは、権利関係などを明らかにするために設けられている制度のこと。不動産登記は、不動産に関係するさまざまな権利などが確認できるものです。
不動産売買や相続の際に必要となるもので、日本では基本土地の場合課税標準額などの2%、建物であれば課税標準額などの0.4〜2%かかります。
不動産を取得した国ごとに制度が異なる場合があるため、あらかじめルールを確認しておく必要があります。
付加価値税(VAT)
付加価値税は、EUやアジアなどの国で商品やサービスを購入した際に課税される間接税のことで、日本でいうと消費税のようなものです。
たとえば、ベトナムであれば8%、インドネシアでは11%(2025年1月からは12%)の付加価値税がかかります。
アジアの国々でかかることが多い傾向にあるため、アジアの不動産の購入を検討している方は気をつけておきましょう。
海外不動産の保有時にかかる税金一覧
海外不動産の保有時にかかる主な税金は、次のとおりです。
- 賃金収入の所得税
- 固定資産税
それぞれの詳細をみていきましょう。
賃金収入の所得税
海外不動産を保有しているときに賃料収入を得ていると、日本において所得税がかかります。
日本の不動産収入と同様に不動産所得として計上され、給与収入などとあわせて計算します。
税率は、課税される所得金額により異なります。
課税される所得金額(平成27年分以降) | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から194万9,000円まで | 5% | 0円 |
195万円から329万9,000円まで | 10% | 97,500円 |
330万円から694万9,000円まで | 20% | 42万7,000円 |
695万円から899万9,000円まで | 23% | 63万6,000円 |
900万円から1,799万9,000円まで | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円から3,399万9,000円まで | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
所得税の税率は最大45%です。不動産所得からは不動産の賃貸管理費、ローンの支払金利といった不動産にかかる経費は差し引けます。
固定資産税
不動産を保有していると、固定資産税がかかります。
固定資産税とは、土地や家屋などの不動産または事業用の償却資産などに課税されます。
ただし、賃料収入とは異なり、不動産を保有している国で課税されるため注意が必要です。
それぞれの国で固定資産税の利率は変わるため、海外不動産を保有したいのであれば保有する国の税率をあらかじめ確認する必要があります。
海外不動産の売却時は譲渡所得税がかかる
海外不動産は取得時や保有時だけではなく、売却時にも譲渡所得税という税金がかかります。
譲渡所得税とは不動産を譲渡したときに得られる利益に課される税金で、国内にある不動産を売却したときと同様に日本で課税されます。
具体的には、「収入金額-(取得費用+譲渡費用)-特別控除額」という計算式で課税譲渡所得金額が算出可能です。
税率については、不動産の保有期間によって変わります。
保有期間 | 税率 |
---|---|
短期譲渡所得(保有期間:5年以下) | 30.63% |
長期譲渡所得(保有期間:5年以上) | 15.315% |
譲渡所得税は不動産を保有している国に納めるわけではなく、日本で納める税金です。混同しないように気をつけてください。また、上記税率に加え、住民税も課されます。
海外不動産の相続・贈与時にかかる税金一覧
海外不動産の相続および贈与時にかかる税金は、次のとおりです。
- 相続税
- 贈与税
相続税や贈与税はかからないと思っていた、知らなかったでは済まされないため、しっかり把握しておきましょう。
相続税
海外不動産は、一般的に相続した方が、相続時に日本に住所があると、相続税がかかります。ただし、どのような場合に相続税がかかるかは、相続した方と亡くなった方の国籍や滞在状況などにより異なりますので、ケース毎に確認が必要です。
相続税とは、亡くなった親などからお金や土地といった財産を相続したときにかかる税金で、「相続する財産の評価額-3,000万円-(法定相続人の人数×600万円)」という計算式でおよその課税対象額を算出できます。
相続税の税率は、次の表のとおりです。
法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ー |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
海外不動産を相続する側も相続を受ける側も税金がかかることを把握しておかないと、思わぬ支払いに驚いてしまうかもしれません。
贈与税
贈与税とは人から財産を受け取ったときにかかる税金で、海外不動産にも贈与税はかかります。
贈与税は誰が贈与したかにより税率が異なりますが、具体的な例として兄弟や夫婦、親から子などの一般贈与の税率を紹介します。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ー |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
参照:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
一般贈与に該当しない場合は、上記の税率とは異なります。贈与される際は、私たちのような専門家に確認するか、国税庁のページから詳細を確認してください。
海外不動産で得た収益は申告漏れでどうなる?
海外不動産で得た収益は、日本に住んでいるのであれば日本で申告しなければいけません。
申告が漏れていた場合のペナルティは、大きく4つあります。
ペナルティ | 内容 |
---|---|
無申告加算税 | 申告を忘れていた場合のペナルティで、50万円までは15%、50万円を超える場合は20%の税金がかかる。 |
延滞税 | 法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて利息がかかる。 |
重加算税 | 短期間に繰り返し申告しない、隠ぺいしたと判断されるとかかる税金。 本来の納税額の35%を納める必要がある。 |
刑罰 | 1年以下の懲役あるいは50万円以下の罰金が科される。 |
意図的かどうかは関係なく、申告が漏れるとペナルティが発生します。
また、故意に申告しなかった場合は、刑罰の対象になる可能性があります。
いずれも正しく申告していれば発生しないペナルティであり、不要な支出です。海外不動産で得た収益は、必ず申告するようにしましょう。
海外不動産の確定申告をする手順
海外不動産の確定申告をする手順は、大きく4つのステップに分けられます。
- 必要書類を準備する
- 貸借対照表及び損益計算書(収支内訳書)を作成する
- 外国税額控除明細書を作成する
- 確定申告書を作成して提出する
必要書類を準備する
まずは、確定申告に必要な書類を準備します。
必要となる主な書類は、次のとおりです。
- 源泉徴収票(給与所得を得ている場合)
- 購入した物件の売買契約書
- 物件購入に関する精算書(クロージングステートメント)
- 入居者との賃貸借契約書
- 賃料収入などを確認できる書類(管理レポートなど)
- 海外で発生した税金の納付書
- ローンの返済予定表
たとえば、臨時で修繕などが必要になったときは、修繕費の支払いがわかる資料も用意しておくとよいでしょう。
貸借対照表及び損益計算書を作成する
必要な書類が整ったら、貸借対照表及び損益計算書を作成します。
海外不動産の確定申告をする際は不動産所得用の様式を利用します。
損益計算書には、海外不動産から生じた収益および経費を記載してください。
物件を売却し、譲渡益が発生したときは貸借対照表及び損益計算書に加えて、譲渡所得の申告書が必要になるため、忘れないように注意しましょう。
外国税額控除明細書を作成する
貸借対照表及び損益計算書の作成が終わったら、外国税金控除に関する明細書を作成します。
外国税額控除に関する明細書の主な記載項目は次の通りです。
- 国名、所得の種類、税種目、源泉および申告の区分を記入
- 相手国での課税標準の欄(外貨)に配当金などの金額を記入
- 左に係る外国所得税額の欄(外貨)に外国源泉徴収税額を記入
- 相手国での課税標準の欄(外貨)直下に配当金などの金額を日本円で記入
- 左に係る外国所得税額の欄(外貨)直下に外国源泉徴収税額を日本円で記入
その他、多くの記載項目がありますので、漏れなく記載の必要があります。
確定申告書を作成して提出する
必要書類が整い、貸借対照表及び損益計算書と外国税額控除に関する明細書の作成が終わったら、最後に確定申告書を作成して提出します。
確定申告書には、海外不動産に関する収益だけではなく、給与所得や医療費控除といった項目も記載する必要があります。
必要な項目を記載、最終的な税額を算出し、納税地を管轄する税務署に提出してください。
アメリカの確定申告は日本より複雑!期限や申告義務者の条件を解説の記事はこちら
海外不動産で得た収益の確定申告する際の注意点
海外不動産で得た収益の確定申告をする際の注意点は、大きく2つあります。
- 減価償却費の計上に注意する
- 外国税額控除を活用して二重課税を防ぐ
減価償却費の計上に注意する
海外不動産投資は、減価償却費の計上が100%できません。
「令和2年税制改正大綱」により、2021年以降の減価償却の計上ルールが変更され、2021年以降は赤字が発生した場合、海外不動産投資の減価償却費
の全額を経費として計上することはできません。
海外不動産で損失が発生した場合、給与所得等と損益通算ができましたが、税制改正により海外不動産から生じた所得の損失のうち、減価償却費に相当する金額は損益通算できなくなりました。
海外不動産の所得を計算する際は、改正を考慮する必要がありますので、専門家に相談して正しく申告するようにしましょう。
外国税額控除を活用して二重課税を防ぐ
海外不動産投資で得た収益の確定申告をする際は、外国税額控除をうまく活用して二重課税を防ぎましょう。
外国税額控除は、日本に住んでいる方が外国の所得税に相当する税金を納めたときに、二重で課税されることを調整するための制度です。
たとえば、米国では日本とは異なった方法により所得を計算しますが、仮に米国で所得が生じると、日本と米国の両方で二重に課税される状態になります。
外国税額控除は、上記のような状態を是正する目的で設けられた制度です。
外国税額控除をうまく活用し、二重課税を回避しましょう。
海外不動産にかかる税金を1円でも減らす節税のポイント
海外不動産にかかる税金を1円でも減らす節税のポイントは、大きく2つあります。
- 必要経費をしっかりと計上する
- 損益通算する
それぞれの詳細をみていきましょう。
必要経費をしっかりと計上する
海外不動産にかかる税金を1円でも減らしたいのであれば、必要経費をしっかりと計上しましょう。
必要経費の計上には、あくまでも不動産事業に直接関係する経費しか計上することはできません。経費の範囲は、専門家に相談の上、計上できる領収書は必ず大切に保管しましょう。
損益通算する
損益通算することも、節税するためのポイントの一つです。
損益通算は同一年分の利益と損失を相殺することで、損益通算すれば課税対象になる所得を減らせます。
つまり、損益通算しないと、利益がそのまま課税対象となるので損益通算しなかったときよりも、納めなければならない税金が多くなってしまいます。
但し、損益通算する際は、先程説明した、減価償却費の税制改正のルールを十分に理解した上で、適用しましょう。
海外不動産にかかる税金を1円でも減らしたい場合は、損益通算を適切に行うことが重要です。
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海外不動産に関する税金は多い上に複雑で、税金の制度は国によって異なるといった注意点もあります。
加えて、二重課税を防ぐためには、外国税額控除の活用や節税するための必要経費、損益通算などを正しく判断しなければいけません。
このような専門的な知識が必要なため、自らで調べて適切に手続きをしていくのは容易ではないでしょう。
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まとめ:海外不動産の税金は複雑!プロに相談で申告を乗り越えよう
海外不動産の税金は、数が多く非常に複雑です。
どの税金をどこに納めればいいのか、税率はどの程度なのかなど、わからないことも多いでしょう。
もちろん、自ら確定申告を提出することも可能ですが、ミスをすると虚偽の申告だとみなされペナルティが科される可能性もあります。
最悪の場合、刑罰といった大きなトラブルにも発展しかねません。
手続きに不安を感じている方やしっかりと節税をしたい方は、税務に関するプロである税理士に相談しましょう。
(本記事掲載内容は2024年8月時点の内容です。最新の情報については、公式サイトや最新のニュースをご確認ください。)
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