国際相続において、「手続きの煩雑さを避けたい」「負債があるかもしれない」という理由で安易に相続放棄を選択することは、慎重な検討が必要です。
正規の相続放棄であれば、日本の税法上は最初から相続人ではなかったと扱われ、贈与税はかかりません。しかし、ここが落とし穴です。日本では問題なくとも、アメリカの税法(IRS)上では、その放棄が財産の贈与とみなされ、アメリカで高額な贈与税を課税されるリスクがあるのです。特に海外に資産を持つ富裕層にとって、この日米の取扱いのズレ(アメリカ側のみなし贈与)は致命的なリスクとなり得ます。
この記事では、国際税務のプロとして、あなたが相続放棄を検討すべき真の理由、そしてその裏に潜む税務リスクを完全に排除するための具体的な戦略を解説します。
相続放棄を検討する2つの理由と3つの期限
相続放棄は、相続人としての権利を一切行使しないという強い意思表示であり、以下の2つの理由から検討されることがほとんどです。
理由1:アメリカの負債や担保付不動産を回避したい
被相続人がアメリカに負債(借金)、または担保が設定された不動産を残した場合、相続放棄をすることで、これらのマイナス財産を引き継ぐ責任から完全に解放されます。これが相続放棄の本来の目的です。
理由2:他の相続人へ財産を集中させたい
手続きの煩雑さを避けたい、または配偶者や特定の相続人(例:事業を継ぐ長男など)に資産を集中させたいという目的で相続放棄を選択するケースです。しかし、この財産の集中こそが、後述するみなし贈与の最大のトリガーとなります。
申述期限:相続開始を知ってから3ヶ月の壁と期間伸長
日本の民法上、相続放棄の申述期限は自己のために相続が開始したことを知ったときから3ヶ月以内と、非常に短く厳格に定められています。
【国際相続の壁】
アメリカ資産の調査には時間がかかり、3ヶ月の期限内に資産と負債の全体像を把握するのは困難なことが多いです。
【実務上の対応】
3ヶ月以内に調査が終わらない場合、家庭裁判所に対して相続の承認又は放棄の期間の伸長を申し立てることが可能です。この申立てを確実に実行するためにも、早急に専門家にご相談ください。
【富裕層最大の落とし穴】相続放棄によるみなし贈与のリスク
日本の税法と民法の最大の違いは、民法上の相続放棄をしても、税法上では別の判断がされることがあるという点です。
みなし贈与とは?税務署が意図的な贈与とみなすケース
相続放棄によって、あなたの財産が次の順位の相続人に移らず、同順位の他の相続人(特に兄弟姉妹)の相続分が増加したとします。
この際、税務当局(特にアメリカのIRS)は、「あなたは一度財産を受け取る権利を得て、それを意図的に他の相続人(兄弟など)に譲渡したのではないか?」と判断される可能性があります。
この場合、増加した分は放棄した人から、財産が増えた人への贈与とみなされ、高額な贈与税(Gift Tax)が課税されるのです。贈与税の基礎控除額は相続税より枠が小さく、税率も高いため、資産家にとっては致命的な負担となります。
ケーススタディ:兄弟姉妹への集中で高額な贈与税が発生
【事例概要】
被相続人Aさんの資産2億円。相続人は長男(B)と次男(C)の2名。次男(C)が「兄貴に全部任せる」と、長男(B)に財産を集中させるため、家庭裁判所で相続放棄を申述した。
【民法上の結果】
Cの放棄により、Cは初めから相続人ではなかったことになり2億円全額をBが相続。(Bの取り分が1億円 ⇒ 2億円に増加)
【税法上のリスク(アメリカ資産がある場合)】
IRS(アメリカ内国歳入庁)はCの放棄手続きが米国の要件を満たしていない場合、以下のように課税します。
- みなす行為:Cが自分の持分(1億円)をBに贈与したとみなす。
- 課税結果:放棄したはずのCに対し、アメリカ連邦贈与税が課される可能性がある。
特定の相続人に財産を集中させたい場合、リスクのある相続放棄ではなく、遺産分割協議を選んでください。
- 相続放棄:贈与とみなされるリスクがある。
- 遺産分割協議:相続人全員との話し合いで長男が全て取得すると決める方法。
遺産分割協議であれば、日米ともに相続として扱われ、贈与税は一切かかりません。
アメリカ資産・負債の相続放棄の実務上の注意点
日本の家庭裁判所での手続きはアメリカの州法で通用するのか?
原則として、日本の居住者が日本の家庭裁判所で日本の民法に基づいて相続放棄をすれば、アメリカにある資産・負債に対してもその効力が及ぶと解されています。
しかし、アメリカでは相続に関する法制度が州法によって異なり、現地の金融機関や登記機関が日本の手続きをそのまま受け入れてくれるかという実務上の問題が残るでしょう。そのため、現地の弁護士(アトーニー)との連携による、現地の法的な対応が必要となる場合があります。
相続放棄 vs. 限定承認:負債がある場合の最適な選択肢
「借金があるかもしれないが、アメリカ不動産の価値が高いとプラスになるかも」といったように、プラスかマイナスか判断がつかない場合、相続放棄をすると、本来得られたはずの資産まで捨てることになります。
そこで検討すべきなのが、限定承認という第3の選択肢です。
限定承認とは、相続したプラスの財産の限度内でのみ、マイナスの財産(負債)を返済する手続きです。もし負債の方が多かったとしても、不足分を固有財産(貯金など)から支払う必要はありません。
資産と負債の全容把握が難しい国際相続において限定承認はリスクヘッジ手段となります。
【ケースA(資産 > 負債)の場合】
負債を返済し、残った利益はすべて受け取れます。(放棄していたらゼロでした)
【ケースB(資産 < 負債)の場合】
資産の範囲で返済し、残りの負債は切り捨てられます。(借金を背負うことはありません)
つまり、負債を背負うリスクをゼロにしつつ、資産超過だった場合におけるメリットだけを享受できるという非常に優れた防衛策なのです。
まとめ:国際相続の税務リスクを完全に排除する
アメリカ資産の相続放棄という選択肢は、借金から逃れるには有効ですが、一歩間違えるとアメリカでのみなし贈与税と3ヶ月という短い期限という二重の落とし穴にはまります。
国際相続で税務リスクを完全に排除するために、今すぐ取るべき行動は以下の3つです。
【まず3ヶ月の壁を突破する(期間伸長)】
資産調査に時間がかかるのが国際相続の常です。「3ヶ月以内に決めるのは無理だ」と感じたら、期限切れになる前に、家庭裁判所へ期間伸長の申立てを行ってください。まずは時間を確保することが最優先です。
【放棄ではなく遺産分割協議を選ぶ】
もし、あなたの目的が長男への資産集中などであれば、リスクの高い相続放棄を選んではいけません。日米双方で安全確実な遺産分割協議を基本戦略にしてください。これで贈与税リスクはゼロになります。
【日米を横断できる専門家を味方につける】
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