フランスで暮らしていた親が亡くなった場合や、家族がフランスに不動産や預金を所有している場合、相続税がいくらかかるのか、日本でも申告が必要なのか、不安に感じる方も多いでしょう。
フランスの相続税は、財産を取得する人と亡くなった人の続柄によって税率が異なり、最高税率は60%です。日本でも相続税が課される場合があり、申告期限も国によって異なるため注意が必要です。
この記事では、フランスの相続税の税率や基礎控除、日本での課税関係、現地の相続手続きについて解説します。
フランスに相続税はある?
フランスには相続税があり、遺産全体ではなく、相続人や受遺者がそれぞれ取得した財産の額をもとに計算します。
フランスでは、婚姻とは別に、PACSと呼ばれる法的なパートナー制度が設けられています。配偶者やPACSのパートナーは相続税が免除されますが、子や兄弟姉妹などには、続柄に応じた基礎控除や税率が適用される仕組みです。
また、日本に住んでいる相続人でも、亡くなった方の居住地や財産の所在地などによっては、フランスで相続税の申告が必要になる場合があります。
フランスと日本の相続税に関するルールの違い
フランスと日本では、相続に適用する法律や公証人の役割、夫婦の財産の取扱いが異なります。相続する財産の範囲や分け方にも関わるため、主な違いを確認しておきましょう。
- 相続に適用する法律の決め方が異なる
- 公証人が相続手続きに広く関与する
- 夫婦財産制により遺産の範囲が変わる
相続に適用する法律の決め方が異なる
日本では、原則として亡くなった人の国籍国の法律(本国法)が相続に適用されます。
一方、フランスでは「EU相続規則」により、原則として亡くなった人の常居所地(生活の本拠がある国)の法律が適用されます。そのため、フランスに居住していた日本人の相続では、フランス法が適用される場合があるのです。
ただし、遺言などで国籍国の法律を選択している場合や、国際私法上の例外に該当する場合は、取扱いが異なります。相続財産の分け方に適用される法律と、相続税が課される国の判定は別の問題です。
公証人が相続手続きに広く関与する
フランスでは、公証人(ノテール)が相続手続きの中心的な役割を担います。亡くなった方の財産や相続人を確認し、必要な証書の作成から不動産の名義変更まで対応するほか、相続税の申告に関する手続きも支援します。特に、遺産に不動産が含まれる場合は、公証人による手続きが必要です。
フランス側の手続きは現地の公証人に、日本の相続税申告は日本の税理士に相談し、それぞれの手続きを進めましょう。
夫婦財産制により遺産の範囲が変わる
フランスには、夫婦の財産の所有関係を定める「夫婦財産制」があり、複数の種類があります。
フランス法の「法定財産制」は、原則として婚姻契約で別の取り決めをしていない場合に適用されます。この制度では、婚姻期間中に取得した財産は原則として夫婦の共通財産となり、結婚前から所有していた財産や、相続・贈与で取得した財産は、それぞれの固有財産として扱われます。
ただし、国際結婚や海外居住の場合は、夫婦財産制に適用される法律がフランス法とは限らないため、個別の確認が必要です。
相続の対象となるのは、亡くなった方の固有財産と、共有財産のうち亡くなった方に帰属する部分です。適用される夫婦財産制によって遺産の範囲が変わるため、相続時には夫婦の財産関係を確認することが重要です。
フランスの相続税の計算方法
フランスでは、配偶者とPACSのパートナーは原則として相続税がかかりません。
それ以外の相続人は、原則として取得した財産から基礎控除を差し引き、続柄に応じた税率を適用して計算します。ただし、生命保険金については、契約内容や保険料の払込時期などにより、通常の相続税とは異なる課税制度が適用される場合があります。
- 相続人別の基礎控除
- 続柄に応じた相続税率
相続人別の基礎控除
フランスの相続税の基礎控除額は、亡くなった人との続柄によって異なります。
| 続柄 | 基礎控除額(ユーロ) |
| 配偶者・PACSのパートナー | 原則として全額非課税 |
| 子・父母 | 100,000 |
| 兄弟姉妹 | 15,932 |
| 甥・姪 | 7,967 |
| 孫(代襲相続でない場合) | 1,594 |
| 上記以外 | 1,594 |
※一定の条件を満たす障害者には、15万9,325ユーロの追加控除があります。
また、孫が親に代わって相続する場合は、親に適用される控除を引き継ぎできます。
過去15年以内に同じ人から贈与を受け、基礎控除を利用している場合は、相続時に使える控除額が減ることがあります。たとえば、子が過去の贈与で5万ユーロの控除を利用していれば、相続時に利用できる控除額は原則として残り5万ユーロです。
続柄に応じた相続税率
フランスの相続税率は、亡くなった方との続柄によって異なります。累進税率とは、基礎控除後の金額を一定の範囲ごとに区切り、それぞれに異なる税率を適用する仕組みです。課税対象額の全額に同じ税率をかけるわけではありません。
| 続柄 | 基礎控除後の課税対象額(ユーロ) | 税率 |
| 直系親族(子・父母など) | 8,072以下の部分 | 5% |
| 直系親族(子・父母など) | 8,072超〜12,109以下の部分 | 10% |
| 直系親族(子・父母など) | 12,109超〜15,932以下の部分 | 15% |
| 直系親族(子・父母など) | 15,932超〜552,324以下の部分 | 20% |
| 直系親族(子・父母など) | 552,324超〜902,838以下の部分 | 30% |
| 直系親族(子・父母など) | 902,838超〜1,805,677以下の部分 | 40% |
| 直系親族(子・父母など) | 1,805,677超の部分 | 45% |
| 兄弟姉妹 | 24,430以下の部分 | 35% |
| 兄弟姉妹 | 24,430超の部分 | 45% |
| 甥・姪など、直系親族・兄弟姉妹を除く4親等以内の親族(代襲相続等の例外を除く) | 金額にかかわらず | 55% |
| 5親等以上の親族・親族以外 | 金額にかかわらず | 60% |
※兄弟姉妹は、一定の条件を満たす場合、相続税が免除されます。また、代襲相続などでは控除や税率の取扱いが異なる場合があります。
たとえば、過去に贈与を受けていない子が100万ユーロを相続した場合、基礎控除10万ユーロを差し引いた90万ユーロが課税対象となります。この90万ユーロに5〜30%の累進税率を適用すると、相続税額は約21万3,000ユーロとなり、相続した財産の約21%相当です。
一方、同じ100万ユーロを甥や姪が相続した場合は、基礎控除後の金額に55%の税率が適用され、相続税額は約54万6,000ユーロとなります。
フランスの相続税の課税対象
フランスの相続税は、亡くなった方と相続人の税務上の居住地によって、課税対象となる財産の範囲が異なります。
亡くなった方がフランスの税務上の居住者であれば、相続人の居住地にかかわらず、日本の預金や不動産を含む全世界の財産が原則として課税対象となります。
一方、亡くなった方と相続人がともにフランスの税務上の非居住者である場合は、原則としてフランス国内に所在する財産のみが課税対象となります。フランス国内財産には、不動産だけでなく、フランス法人の株式や一定の債権なども含まれます。
ただし、亡くなった方が日本在住でも、相続人がフランスの税務上の居住者であり、財産を取得した年の前年までの10年間のうち、通算6年以上フランスに税務上の住所を有していた場合は、その相続人が取得する日本の財産も課税対象となります。
フランスの相続税は、財産の所在地だけでなく、亡くなった方と相続人双方の居住状況を確認する必要があります。
フランス財産に日本の相続税はかかる?
フランスにある財産を相続した場合でも、日本の相続税がかかることがあります。日本国内に住所がある相続人は、原則として海外の財産も課税対象です。ただし、相続人が一定の在留資格を有する「一時居住者」で、亡くなった方が「外国人被相続人」または「非居住被相続人」に該当する場合は、日本国内の財産のみが課税対象となることがあります。
また、海外在住の日本国籍の相続人でも、相続開始前10年以内に日本に住所があった場合は、原則として国外財産まで課税されます。
さらに、亡くなった方の住所や国籍、過去の居住歴などによっては、長期間海外に住んでいる相続人にも日本の相続税がかかる場合があります。フランスの財産が日仏双方で課税対象となる可能性があるため、日本の相続税の申告要否も確認することが重要です。
フランスの相続税の二重課税への対応
日本とフランスの間には、相続税の二重課税を調整する条約がありません。そのため、同じ財産に両国の相続税がかかる場合は、それぞれの国内法に基づいて税負担を調整します。
フランスにある不動産や預金などに両国で相続税が課された場合、日本では一定の要件のもと、フランスで課された税額を日本の相続税から控除できます。ただし、フランスで課税された税額であっても、日本の外国税額控除の対象となるのは、原則としてフランスに所在する財産に対応する部分です。
反対に、日本に所在する財産が日仏双方で相続税の課税対象となった場合、一定の要件を満たせば、日本で納付した相続税をフランスの相続税から控除できることがあります。具体的には、亡くなった方がフランスの税務上の居住者であった場合や、相続人がフランスの税務上の居住者で所定の6年居住要件を満たす場合などが対象となります。
ただし、控除には対象となる財産や税額について条件があり、外国で納めた税金がすべて差し引かれるとは限りません。外国での申告内容や納税額がわかる資料を保管し、両国での税負担を確認することが重要です。
フランスの相続手続きの流れ
フランスの相続では、公証人(ノテール)が相続人の確認や不動産の承継などに関わります。
日本とフランスの両方で手続きが必要な場合は、現地での対応と日本の相続税申告を並行して進めることになります。
- 相続手続きの必要書類をそろえる
- フランスの相続税を申告する
- 相続財産の名義変更を進める
相続手続きの必要書類をそろえる
フランスでの相続手続きでは、まず亡くなった方と相続人の関係を確認できる資料の準備が必要です。死亡証明書のほか、日本の戸籍謄本や婚姻証明書、遺言書などが必要になる場合があります。
財産の調査には、預金残高がわかる資料、不動産関係書類、借入金の記録などが必要です。また、夫婦の財産関係を確認するため、婚姻契約書や過去の贈与に関する資料を求められることもあります。
日本で発行された書類は、フランス語への翻訳やアポスティーユによる証明が必要になる場合があります。必要書類や翻訳の形式は、現地の公証人に確認してから準備するとよいでしょう。
フランスの相続税を申告する
フランスでは、相続人の続柄や財産の規模、生前贈与の状況などによって、相続税申告が必要かどうかを判断します。申告が必要な場合は、亡くなった方の財産と債務を調べ、各相続人が取得する財産を整理します。
相続税は原則として申告書の提出時に納付するため、財産の調査とあわせて納税資金の準備も必要です。
特に、不動産が遺産の大部分を占める場合は、現金が不足することも考えられます。一定の条件を満たせば、分割払いなどの制度を利用できる場合もあります。相続財産の内容を早めに把握し、納税方法まで検討しておくことが大切です。
相続財産の名義変更を進める
フランスの不動産を相続する場合は、公証人が必要な証書を作成し、登記に関する手続きを進めます。銀行預金や証券などの金融資産については、相続人であることを証明する書類を提出し、各金融機関の手続きに従った承継が必要です。
相続人の中に日本などフランス国外に住んでいる人がいる場合、フランスの銀行預金を払い戻す際には、原則としてフランス税務当局が発行する相続税の納付済証明書または非課税証明書が必要です。ただし、一定の少額預金については例外があります。財産の承継に時間がかかっても、原則として相続税の申告期限は変わりません。
名義変更の進捗にかかわらず、申告・納税の準備を進めておきましょう。
フランスの相続税手続きで日本人が注意すべきこと
フランスの相続では、遺言の効力やパートナーの相続権など、日本とは異なる制度が関係します。特に、財産の分け方と申告期限には注意が必要です。
- 遺言があっても子の取り分が保護される
- PACSだけでは相続権が生じない
- フランスの申告期限が先に来る場合がある
遺言があっても子の取り分が保護される
フランス法が適用される相続では、子のために一定割合の遺産を確保する「留保分」という制度があります。子が1人なら遺産の2分の1、2人なら3分の2、3人以上なら4分の3が、子全体に保障される割合です。
たとえば、子が2人いる場合、遺言で自由に配分できる部分は原則として遺産の3分の1となります。日本にも遺留分制度がありますが、保障される割合や請求の仕組みは異なります。遺言によって特定の人に財産を多く残したい場合は、適用される相続法と留保分の関係を確認する必要があります。
PACSだけでは相続権が生じない
PACSのパートナーは、相続によって財産を取得した場合、原則としてフランスの相続税が免除されます。しかし、PACSの契約だけでは法定相続人にはならないため、遺言がなければ原則として遺産を引き継ぎできません。
なお、一定の条件を満たす場合には、共同生活をしていた住居に1年間無償で住み続けられる権利などが認められます。PACSのパートナーに財産を残す予定がある場合は、生前に遺言を準備しておくことが重要です。
フランスの申告期限が先に来る場合がある
日本とフランスでは、相続税の申告期限を数える基準が異なります。フランス本土で亡くなった場合、フランスの相続税申告期限は原則として死亡日から6か月以内です。日本などフランス国外で亡くなった場合は、原則12か月以内となります。一方、日本では相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内が原則です。
たとえば、2026年3月にパリで父が亡くなり、Aさんが同月中にその事実を知ったケースを考えます。日本の相続税の申告期限は原則2027年1月ですが、フランスの申告・納税期限は2026年9月に到来するのが原則です。
申告や納税が遅れた場合、月0.2%の延滞利息が発生するほか、一定の条件に該当すると加算税も課されます。日本の申告期限だけを基準にせず、相続発生時から日仏双方のスケジュールを確認しましょう。
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まとめ:フランスの相続税は続柄で異なるため、日仏の期限を確認して手続きを進めよう
フランスでは、財産を受け取る人の続柄によって相続税の控除額や税率が変わります。子の場合は原則として10万ユーロの基礎控除があり、控除後の金額に5〜45%の税率が段階的に適用されます。
また、日本に住む日本国籍の相続人がフランスの財産を取得した場合、その財産は原則として日本の相続税の課税対象にもなります。
日仏それぞれの申告期限を把握し、現地の公証人との手続きや日本の税務申告を計画的に進めることが重要です。フランスの財産が絡む場合など、国際相続にお悩みの場合はぜひ税理士法人ネイチャーにご相談ください。
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