「今期は想定より利益が出ているものの、決算日までに実行でき、資金負担の少ない対策は限られている」と悩む経営者もいるでしょう。
社内には、稼働を止めた設備、閉じた店舗の造作、使わなくなった業務システム、更新後に残った車両など、撤去費用や手間がネックとなり、帳簿に残ったままの固定資産がある場合があります。
こうした固定資産のうち、使用を廃止し、今後通常の方法で事業に使う可能性がないものは、現物を残したまま除却損を計上できる場合があります。この税務上の取扱いが有姿除却です。
工場の機械や金型が代表例ですが、要件を満たせば、店舗設備、事務機器、建物附属設備なども検討対象になります。ソフトウェアについても、今後事業に使わないことが明らかな場合には、別の通達により除却が認められています。
この記事では、有姿除却の要件や資産別の判定、除却損の計算と仕訳、決算前の手順と必要書類までを整理します。判断のよりどころとなるのは、事業年度末までに生じた事実と、それを裏づける客観的な資料です。
有姿除却とは?
有姿除却とは、稼働・使用を停止した固定資産について、解体や廃棄をせず、現物を残したまま除却損を計上して損金に算入する税務処理です。計上できる金額は、帳簿価額から処分見込価額(スクラップとして売れる見込額など)を差し引いた残額になります。
申請すれば適用できる制度ではなく、資産の使用状況や将来の使用可能性などの事実関係から個別に判断します。似た処理との違いは次のとおりです。
| 有姿除却 | 通常の除却 | 売却 | 減損処理 | |
| 現物 | 手元に残る | 撤去・廃棄する | 手元から離れる | 手元に残る |
| 将来の使用 | 見込みがない | 見込みがない | 買主が使用できる | 使い続ける場合もある |
| 損失額 | 帳簿価額-処分見込価額 | 帳簿価額から廃材等の価額を控除した額など | 売却価額と帳簿価額との差額 | 帳簿価額-回収可能価額 |
| 税務上の取扱い | 要件を満たせば損金算入 | 原則として損金算入 | 売却損益を計上 | 原則としてそのまま損金算入されない |
減価償却についてはこちらの記事で解説しています。
有姿除却による損金算入の判断基準
法人税基本通達7-7-2(有姿除却)は、対象になり得る固定資産を2つの型で示しています。両方を満たす必要はなく、資産ごとに判断します。なお、どちらの型でも、決算書に除却損を計上する損金経理が前提です。
- 使用廃止後の再利用の可能性で判断する
- 専用金型等は将来の使用見込みで判断する
使用廃止後の再利用の可能性で判断する
1つ目の型は、すでに使用を廃止した固定資産のうち、今後通常の方法で事業に使う可能性がないものです。ポイントは、単に稼働を止めているかではなく、再び事業に使う可能性がないかです。
判定では、最後に稼働した日、再稼働に必要な整備費用、後継設備の導入状況、他部門への転用の可能性、中期の設備計画などを確認します。
たとえば旧ラインから新ラインへ切り替え、電源や配管を切り離し、後継機がすでに量産に使われている場合は、旧ラインを今後事業に使う可能性がないことを客観的に示す材料になります。
専用金型等は将来の使用見込みで判断する
2つ目の型は、特定の製品の生産だけに使われていた金型・治具・専用機です。対象製品の生産をすでに中止しており、将来使用される可能性がほとんどないことが、その後の状況などから明らかな場合は、有姿除却の候補になります。
判定では、類似品への転用可否、補修部品の生産予定、発注元からの再発注の可能性などを確認します。生産中止を決定した稟議書や最終ロットの生産・出荷記録などは、生産を中止した時期や経緯を客観的に示す資料になるのです。
有姿除却の対象を資産別に判定
対象になりやすい固定資産の具体例と税務調査で論点になる判断基準、必要書類を一覧にまとめました。
| 資産 | 主な判断基準 | 必要資料 | 適用が難しい状態 |
| 機械設備 | 使用停止と将来の使用可能性 | 稼働履歴、決裁書、写真 | 予備機として使用予定がある |
| 専用金型 | 対象製品の生産中止 | 生産中止の通知、最終出荷記録 | 補修部品などの生産予定がある |
| 汎用設備 | 他ラインへの転用可能性 | 設備配置図、転用検討の記録 | 他の用途で使用する予定がある |
| 車両 | 使用停止と将来の使用可能性 | 運行記録、車検・登録の資料 | 業務で再使用する予定がある |
| 建物附属設備 | 使用停止と将来の使用可能性 | 図面、工事記録、写真 | 対象設備を引き続き使用している |
| ソフトウェア | 業務での利用停止 | 移行計画、停止の決裁書 | 業務で利用を続けている |
利用実態や将来の使用可能性を客観的に検証したうえで、除却処理の可否を慎重に判断することが推奨されます。
なお、ソフトウェアの除却は、法人税基本通達7-7-2の2が根拠です。自社利用のソフトウェアでは、対象業務の廃止やハードウェア・OSの変更などにより、従来のソフトウェアを今後事業に使用しないことが明らかな場合に、除却処理を検討できます。
有姿除却による除却損の計算
計算式は「帳簿価額 – 処分見込価額 = 除却損」です。取得価額2,000万円、減価償却累計額1,400万円の機械を例にします。帳簿価額は600万円です。スクラップ(金属くず)として50万円で売れる見込みなら、除却損は550万円になります。
注意したいのは、除却損の金額と税負担の軽減額は一致しない点です。実効税率(法人の所得にかかる税負担の割合)を仮に30%※とすると、単純計算では税負担の軽減額は約165万円です。※実効税率は法人の所得金額、資本金、所在地などによって異なります。
将来かかる解体費用の見積額は、この時点の除却損には含めません。実際に解体・撤去したときの費用は、原則としてその支出をした事業年度の損金になります。ただし、土地を利用する目的で取得した建物を取り壊した場合など、土地の取得価額に含めて処理する場面もあります。
有姿除却の仕訳
先ほどの例で仕訳を示します。処分見込価額は、「貯蔵品」という勘定科目で資産に残す方法が一般的です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 減価償却累計額 | 14,000,000円 | 機械装置 | 20,000,000円 |
| 貯蔵品 | 500,000円 | ||
| 固定資産除却損 | 5,500,000円 |
会計上の金額と、税務上の損金算入額が一致しない場合もあります。処分見込価額の見積もりに客観的根拠が乏しいと、その分が損金として認められず、確定申告(別表調整)において加算調整が必要になることがあります。見積もりの根拠を示せるかどうかが重要です。
有姿除却を決算前に進める3つの手順
有姿除却は、決算後に書類をそろえるだけで適用できるものではありません。損金算入する事業年度末までに、有姿除却の要件を満たしている必要があります。
- 手順1. 固定資産台帳から候補を洗い出す
- 手順2. 使用廃止の事実を決算日までに確認する
- 手順3. 必要書類を根拠別にそろえる
手順1. 固定資産台帳から候補を洗い出す
固定資産台帳と現物を照らし合わせます。帳簿上の情報だけで対象資産を決めないことが出発点です。
固定資産台帳の資産を稼働状況に応じて分類し、工場長や現場責任者へのヒアリングで実態を把握します。各資産を「廃棄済み」「使用中」「休止中」「使用廃止」「生産終了」「転用可能」の6つに分けると、候補を絞り込めます。現地確認では、すでに廃棄したのに台帳上に残ったままの資産が見つかることも少なくありません。この場合は有姿除却ではなく、通常の除却として処理を検討します。
手順2. 使用廃止の事実を決算日までに確認する
稼働を止めた日、生産を中止した日、後継設備が動き始めた日を確認します。対象となる事業年度末までに使用を廃止し、今後通常の方法で事業に使う可能性がないと認められる状態であることが重要です。
有姿除却を行う理由や再び使う可能性がないと判断した根拠も記録に残します。事実関係を十分に確認できない場合は、損金算入の可否について慎重な判断が必要です。
手順3. 必要書類を根拠別にそろえる
資料は役割ごとに分けると、不足を確認しやすくなります。「使用廃止」「再使用の可能性」「処分見込価額」「判断した時期」の4区分で整理しましょう。
使用廃止は稟議書、議事録、日付入りの写真、稼働履歴などが参考になります。再使用の可能性は、生産中止の資料、後継設備の導入資料、事業計画などで確認します。
処分見込価額は業者の見積書など、判断した時期は決裁書や取締役会議事録などで記録しておくと、事実関係を説明しやすくなるでしょう。
有姿除却の注意点
適用を検討する段階で、判断を誤りやすい点が2つあります。いずれも決算日までに確認しておきたい内容です。
- 一時的な使用停止では適用が難しい
- 処分見込価額を根拠なくゼロにしない
一時的な使用停止では適用が難しい
繁忙期だけ使う設備、予備として保管している設備、事業再開後に使う予定の設備は、有姿除却の対象になりにくい資産です。「今は使っていない」という事実だけでは判断できません。
【事例】ある食品製造業では、季節商品用のラインを2年間止めていました。決算前に除却損の計上を検討しましたが、受注が戻れば再稼働する計画が社内に残っていました。この場合、今後事業に使用する可能性がないとは判断しにくくなります。
処分見込価額を根拠なくゼロにしない
スクラップや中古品として売却価値が見込まれる資産は、その処分見込価額を帳簿価額から差し引きます。処分見込価額を根拠なくゼロとすることは避けてください。
金属相場や中古市場の価格、業者の見積書などを参考に、資産の状態も踏まえて見積もります。売却価値がないと判断した場合も、業者への照会内容や回答など、判断の根拠を記録に残しておくと説明しやすくなります。
有姿除却後に必要な処理
損金に算入したあとも、現物は手元に残ります。税目ごとの判定と、資産の管理を続ける必要があります。
- 償却資産税は別に判定する
- 除却後の状態を継続して記録する
償却資産税は別に判定する
法人税で有姿除却の処理をしても、償却資産税の対象から自動的に外れるとは限りません。償却資産税は、1月1日現在に事業の用に供することができる資産かどうかを個別に判定します。
東京都主税局も、遊休資産や未稼働資産でも、事業の用に供することができる状態であれば申告対象になると案内しています。したがって、有姿除却を行った資産について償却資産税の申告対象から除外できるか否かは、保守点検の状況や即時再稼働できる状態かどうかで判断が分かれます。解体を待つだけの状態や、部品を外して動かせない状態であれば、対象から外れる余地があります。判断に迷う場合は、所轄の都税事務所や市区町村の税務窓口へ事前に照会しておきましょう。
制度の全体像はこちらをご覧ください。
除却後の状態を継続して記録する
保管場所と現物の状態は、その後も記録を続けます。有姿除却時の判断とその後の実際の取扱いに食い違いがないかを確認するためです。
再び使用する場合は、有姿除却時の判断との整合性を確認する必要があります。売却した場合は売却代金を適切に処理し、実際に廃棄した場合は処分費用や廃棄を示す資料を整理します。
有姿除却が財務に与える影響
除却損は、法人税だけの問題ではありません。当期の利益や純資産にも影響します。先ほどの機械の例で確認します。除却損550万円を計上し、実効税率を30%と仮定すると、税負担の軽減額は単純計算で約165万円です。税引後の当期純利益への影響は約385万円となります。
有姿除却は現金の支出を直接伴わない一方、利益や純資産が減少し、自己資本比率などの財務指標に影響する可能性があります。金融機関との取引への影響も踏まえて検討することが重要です。
会社に残る資金を経営者個人の税引後の資産形成へどうつなげるかも、あわせて検討したいポイントです。
ほかの選択肢はこちらで整理しています。
有姿除却の相談なら税理士法人ネイチャー
有姿除却は、要件の判定だけでなく、処分見込価額や除却損が利益・純資産に与える影響も含めて検討する必要があります。財務指標や資金調達への影響も考慮し、決算日前に必要な資料をそろえることが重要です。
決算対策として有姿除却を検討される場合、要件を満たしているかどうかは非常に重要となりますので、慎重に判断を行いましょう。また、もし有姿除却以外の決算対策の方法をお知りになりたい場合は、ぜひ税理士法人ネイチャーにご相談ください。
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まとめ:有姿除却は決算日時点の事実で判断しよう
有姿除却を検討する際の確認点は、次の4つに整理できます。
- 決算日までに使用を廃止しているか
- 今後も通常の方法で事業に使う可能性がないか
- 処分見込価額を根拠のある方法で見積もったか
- 判断を裏付ける客観的な資料がそろっているか
有姿除却では、損金算入する事業年度末までに要件を満たしていた事実を確認できることが重要です。決算期末までに現物確認と台帳照合を完了させ、使用廃止の客観的証拠や将来の事業供用見込みがない旨の稟議書・議事録等を確実に整備しておきましょう。あわせて、法人税の損金算入効果だけでなく、償却資産税の課税関係や決算書上の自己資本比率への影響まで見通して判断しましょう。
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