「毎年欠かさず贈与しているのに、資産の移転が進んでいる実感がない」と感じている方は少なくありません。「贈与のために保険に入ってはどうか」と勧められ、判断に迷う場合もあります。
現金をそのまま渡す方法と贈与した資金で保険料を支払ってもらう方法では、家族に残る財産の形が変わります。
この記事では、生前贈与に生命保険を組み合わせる5つの理由と現金贈与より保険が向いているケースを整理しました。
契約者・被保険者・受取人の組み合わせで変わる税金の考え方や年間の贈与額の決め方も具体的な数字で確認できます。現金・保険・有価証券にどう配分するか、判断軸がわかるでしょう。
生前贈与に保険を使う5つの理由
生前贈与に生命保険を組み合わせる手法(保険料贈与プラン等)とは、親から子へ現金を贈与し、その資金を原資として子が契約者・受取人となり、保険料を支払う仕組みのことです。現金贈与単体にはない主な5つのメリット・機能を解説します。
- 贈与開始直後から死亡保障を準備できる
- 贈与資金の目的外利用を抑えやすい
- 相続税の納税資金を準備しやすい
- 資産運用的な効果が期待できる保険も多い
- 生前贈与を成立させることに寄与する
1. 贈与開始直後から死亡保障を準備できる
保険なら、契約が成立した時点からまとまった保障を用意できます。現金贈与は、毎年の積み重ねで少しずつしか移転が進みません。年110万円であれば、10年かけても1,100万円です。
途中で相続が起きれば、移転はそこで止まります。一方、贈与した資金を保険料に充て、被保険者を親にした保険に加入すれば、保険金額の設定次第で契約の直後から多額の保障を準備できます。万が一の場合の備えになる点が、現金贈与との大きな違いです。
2. 贈与資金の目的外利用を抑えやすい
贈与した現金は、受け取った側が自由に使えます(自由に使えなければ、原則、生前贈与は成立していないとみなされます)。贈与を受けた方が無駄遣いをしてしまえば、将来の資産としては残りません。保険料に充てれば、資金は保険契約の中にとどまります。
また、贈与したお金が預金残高に蓄積すると、どうしても気が緩んで、仕事に身が入らなくなってしまうのが人間です。保険会社に保険料として支払えば、預金残高の中に贈与した資金がとどまるのはわずかな期間のため、気のゆるみが起こりにくいです。
3. 相続税の納税資金を準備しやすい
相続税は、原則として申告期限までに現金で納めます。財産が不動産や自社株に偏っていると、売却や借入れの検討が必要です。死亡保険金なら、受取人の請求により比較的早く現金を用意できます。被保険者を親にした保険加入で、納税に必要な資金を遺産分割の話し合いと切り離して準備できる点が利点です。
4. 資産運用的な効果が期待できる保険も多い
生命保険の中には、支払った保険料を保険会社が運用し、保険金や解約返戻金の額を掛金以上に増やしてくれるタイプのものがあります。贈与したお金について、受け取った子どもや孫が何十年にもわたり保険契約として運用を行えば、子どもの資産形成を実現するということにもつながります。
贈与資金を預金として眠らせておくのではなく、保険という形で運用をするということも選択肢の一つです。
5. 生前贈与を成立させることに寄与する
もし、贈与を受けた人がその贈与を受けたことを知らなければ、生前贈与は成立せず、相続財産に足し戻されてしまいます。そのような状況を回避するために、贈与契約書を作るとともに、贈与を受けた人が自らの意思で資金を動かしたり、使ったりすることが望ましいとされています。
ただ、それで無駄遣いにつながってしまっては本末転倒です。保険料贈与において、生命保険の契約は、贈与を受けた人が自らの意思で行います(保険契約を親が代わりにすることはできません)。
つまり保険を契約し保険料を支払うということが、贈与を受けた資金を自らの意思で動かしているという、客観的な証拠になるのです。贈与資金を生命保険に入れることで、生前贈与が成立していることの証拠を一つ増やす効果があると考えられます。
生前贈与で保険が向いているケース
保険は誰にでも向く方法ではありません。まず現金・保険・有価証券の性格を比べ、続いて向いている家庭の条件を確認します。
| 贈与の方法 | 主な目的 | 流動性 | 死亡保障 | 主な注意点 |
| 現金贈与 | 自由に使える資金の移転 | 高い | なし | 目的外に使われる可能性、使途の証跡管理 |
| 保険料贈与 | 保障を伴う資金準備 | 低い | あり | 早期解約による元本割れ、契約形態による課税の違い |
| 有価証券の贈与 | 運用を続けたまま移転 | 中程度 | なし | 値下がりや贈与時の評価 |
相続税がかからない見込みであれば、保険を使う理由は小さくなります。まず財産を洗い出し、相続税の概算を確認してください。
基礎控除の計算は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」です。財産が基礎控除の範囲内なら、現金での贈与を中心に考える選択肢もありますし、少なくとも生前贈与を相続税対策のために行う必要性は薄れます。
一方で、相続税がかかる家庭にとっては、生前贈与は強力な相続税対策です。生命保険はある種、生前贈与に対する補助ツールとして上述した5つの効果が期待できるものとして整理していただければと思います。
生前贈与に保険を使う2つの方法
保険の使い方は大きく2つです。誰が保険料を負担するかで課税関係が変わるため、仕組みの違いを押さえます。
- 保険料贈与では受贈者を契約者にする
- 親が契約者の保険で、生存給付金を子や孫が受け取る
1. 保険料贈与では受贈者を契約者にする
ここまで解説してきた方法です。
基本の形は、子が契約者・受取人、親が被保険者となり、子が保険料を支払う方法です。親から子の口座へ資金を移し、同じ口座から保険料を引き落とします。贈与額が年110万円の基礎控除の範囲内であれば贈与税はかかりません。
毎年の贈与契約書を作り、振込の記録を残し、口座の通帳と印鑑は子本人が管理します。書類と資金の流れが実態と一致していることが前提で、実質的な負担者が親のままと判断されれば、親の財産として扱われる場合があります。
また、被保険者を子として、受取人を親や配偶者とするパターンもあります。このようにすると保険契約の加入期間が長くとれるので、結果的にトータルリターンが大きくなる傾向にあります。親の相続発生時に必要な資金が別に準備できており、特段の追加での保障が必要ない場合などではこの形での加入も一般的です。
なお、結果的に贈与を受けた子ども側に保障がつくことになるので、本来子どもが自分のお金で保障を準備するはずだった部分を肩代わりできる効果もあります。
2. 親が契約者の保険で、生存給付金を子や孫が受け取る
ここまでに解説させていただいた方法とはまた異なる手法です。
親が契約者、被保険者となる生存給付金が定期的に出てくるタイプの生命保険に加入し、その生存給付金を子どもが受け取るパターンです。
保険料を負担していない人が給付金を受け取れば、税務上、給付のたびに保険料負担者からの贈与として扱われるのが原則です。そのため、贈与契約書を締結することなく生前贈与を実施することができます。受取額が年110万円以下なら贈与税はかかりませんが、課税の時期と金額は必ず事前に確認してください。
生前贈与の保険にかかる税金
保険金の税金は、契約書の名義だけでは決まりません。判断の考え方と年間の贈与額を決める基準を確認します。
保険金の税金は三者の関係で決まる
判断の中心は、実際に保険料を負担した人が誰かという点です。加えて被保険者と受取人の関係を見ます。
「保険料負担者 = 被保険者」で死亡保険金が支払われた場合は相続税が原則
保険料を負担していた本人の死亡で保険金が支払われた場合、死亡保険金は相続税の対象です。一般的な保険加入であれば、通常この形になっていることが多いです。
「保険料負担者 = 受取人」は所得税が原則
受取人自身が保険料を負担していた場合は所得税の対象で、一時金なら一時所得、年金形式なら雑所得として扱われます。生前贈与を受けた資金で子が保険に加入し、親を被保険者、子が受取人となっていれば、受け取った保険金については一時所得で計算されます。
一時所得は年間50万円の特別控除を差し引いたうえで、所得の額が1/2になるため、比較的少ない税負担で税引後の手取りを生み出すことができます。
ただし、年金形式で受け取る場合は雑所得になる、外貨建ての保険では為替が雑所得を生じさせることもあるなど、保険ごとに取扱いには注意が必要です。
三者が異なる場合は贈与税が原則
負担者・被保険者・受取人がすべて異なる場合、保険金は負担者から受取人への贈与として贈与税の対象となり、他の形態に比べ税負担が重くなりやすい点に注意が必要です。そのため、生命保険の受け取りは、上記の相続税か所得税の課税対象となるように加入することが一般的です。
契約者の名義よりも、保険料を実際に負担した人が重視されます。契約形態ごとの詳しい課税関係は、生命保険と贈与税の解説記事をご覧ください。
年110万円超は税引後の手取りで比べる
110万円は贈与額の上限ではなく、暦年課税の基礎控除です。贈与税を負担しても、移転を速めた方が合計の負担が軽くなる場合があります。
前提条件: 相続財産2億円/法定相続人は子2人/受贈者は18歳以上の子
基礎控除は4,200万円、相続税の総額は3,340万円です。法定相続分に応じた取得金額は1人7,900万円で、財産がこの水準から増える部分には30%の税率(限界税率)がかかります。
| 年間の贈与額 | 贈与税額 | 贈与額に対する税負担の割合 |
| 贈与なし | 0円 | ― |
| 110万円 | 0円 | 0% |
| 310万円 | 20万円 | 約6.5% |
| 510万円 | 50万円 | 約9.8% |
※直系尊属から18歳以上の子への贈与に適用される特例税率で計算。他に贈与はないものとします。
上記例では贈与税の負担割合が相続税の限界税率30%を下回る間は、110万円を超え、510万円ずつ贈与をしたとしても、相続税の対策効果30%に対して、贈与により生じる贈与税の負担が約9.8%のためメリットが出る可能性があります。
生前贈与には110円万以下というイメージがありますが、将来の相続税率が高い場合は110万円を超える贈与にも検討の余地があります。
ただし相続開始前の一定期間の贈与は加算の対象のため、財産額や贈与の時期で結論は変わります(ご高齢の方が贈与する場合は、110万円以下で相続時精算課税制度を適用した贈与を行った方がメリットが出やすいです)。実際の判断には個別の試算が欠かせません。
生前贈与の課税方式は個別に選ぶ
年齢、想定される期間、贈与額、財産の見込みによって適した方式は変わります。暦年課税と相続時精算課税のどちらを使うかで、相続財産への加算のされ方が変わるため、それぞれの改正点から確認しましょう。
暦年課税は7年加算を確認する
相続や遺贈で財産を取得した方が加算の対象です。2024年1月1日以後の贈与から、加算の対象期間が3年から7年へ延長されました。そのため、生前贈与をしてから7年以内に相続が発生した場合、その贈与財産は相続財産に加えて、相続税を計算することになります(贈与してから4年目から7年目の財産については合計100万円までは加算されません)。
そのため、暦年課税で贈与をする場合は、早い段階で贈与を進めることが有効です。また相続財産やみなし相続財産を受け取らない方に対する贈与は上記の加算の対象外になります。相続財産や相続税の課税対象となる生命保険金などを一切受け取らない孫への贈与が加算対象外となるので、贈与先を調整することも有効です。
相続時精算課税は110万円控除を確認する
2024年1月1日以後の贈与から、年110万円の基礎控除が設けられました。基礎控除の範囲内の贈与は、相続財産への加算もありません。贈与税の計算では、基礎控除を超えた部分から累計2,500万円の特別控除を差し引けます。
対象は、原則として60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与です。ただし一度選ぶと、同じ贈与者からの贈与について暦年課税へは戻せません。また年110万円を超える部分については、何年経過しても相続財産に加算されるため注意が必要です。
高齢になってから、110万以下の贈与を将来の相続人にするなどの活用法が考えられます。
制度の全体像はこちらの記事で解説しています。
生前贈与の保険で注意したい2点
保険は長く続ける前提の契約です。途中でやめれば損失が出るうえ、契約時の判断が数十年先の受取額まで縛るため、資金繰りと課税の両面から確認しておく必要があります。始める前に次の2点を確認しましょう。
- 早期解約では受取額が保険料を下回る
- 収入減で保険料贈与を続けにくくなる
1. 早期解約では受取額が保険料を下回る
契約からの経過年数が短いうちは、解約返戻金が払込保険料の累計を下回ります。近い将来に使用目的が決まっている生活資金や予備資金については、長期固定化される保険料への充当を避けることをおすすめします。
2. 収入減で保険料贈与を続けにくくなる
退職や事業収入の減少で、贈与を続けられなくなる場合があります。贈与が止まれば保険料の支払いも滞り、契約そのものが失効する可能性があるでしょう。無理のない金額から始め、余裕があれば増額する進め方が向いています。
生前贈与の保険を始める4つの手順
生前贈与の保険は以下の4つの手順で始めます。
- 財産を洗い出し、相続税額を試算する
- 税引後の移転額から、年間の贈与額を決める
- 必要保障額から、保険料と保険期間を決める
- 贈与契約書と資金移動の記録を、毎年保存する
保険商品を先に選ぶ進め方は避けてください。相続税額、年間の贈与額、必要保障額の順に決めると、保険料の払い過ぎを防ぎやすくなります。
生前贈与の保険活用なら税理士法人ネイチャー
生命保険を使った生前贈与は、現金の贈与の欠点を補う効果があり、多くの富裕層の方が実施しています。年間110万円以内で贈与する方法が常に有利とは限らず、年齢や資産状況によって対策な贈与額は異なります。
税理士法人ネイチャーでは、財産構成や家族構成をお伺いし、相続税の試算を行います。計算した相続税の額を基に、効果のある年間生前贈与額や生前贈与の方法を検討し、生前贈与の効果を最大化するためのサポートを行います。
また生前贈与と組み合わせる生命保険にもさまざまな選択肢があり、最新情報に精通した担当が情報提供をさせて頂きます。相続税対策を検討したい方は、無料相談をご利用ください。
まとめ:生前贈与の保険はメリット・デメリットを踏まえて検討しよう
生前贈与で保険を活用する場合は、現金での生前贈与を補うその効果と、保険加入によるメリット・デメリットを把握したうえで実施することが重要です。また生命保険の加入は贈与を受けた方が自分の意思で行うため、事前に説明を行い、理解をそれぞれが深めることも必要になります。
自分に生前贈与と生命保険の組み合わせが向いているのか、あるいは他の対策が有効なのかお知りになりたい場合は、税理士法人ネイチャーへぜひお問い合わせください。
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